熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』( Holger SchuéによるPixabayからの画像)

旧盆の話の種には、間に合わないかも知れませんが、熟年世代に懐かしい、絵本のような写真集をご紹介します。

『昭和の東京ー街角の記憶』写真・文:宮﨑 廷(みやざき・ただし)、発行:(株)フォト・パブリッシング、2018年4月刊、ISBN978-4-8021-3097-4、定価2400円(税抜き)

昭和9年、東京府西多摩郡三田村で生まれた宮﨑氏は、青梅市役所に勤めるかたわら、お下がりのカメラを片手に街を行き交う人々をずっと撮影し続けてきたそうです。

60年にも及ぶ時間の中で撮り溜めてきた作品群から、テーマごとにモノクロ写真を選び出し、キャプションをつけて纏められたB5判、144ページ。重さも大きさもちょうど眺めやすい写真集が、『昭和の東京ー街角の記憶』です。

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』(xbabsによるPixabayからの画像)

この写真集は、ページを繰るたびに、「昭和とはこういう時代」というニュアンスを伝えてくれます。

例えば、12~13ページの昭和62年1月に撮影された「皇居参賀」の1枚には、着物姿のお母さんを背負って、玉砂利の道を歩く中年男性が写っています。1987年でも、このような姿があったことに驚かされます。

24~25ページの昭和30年12月に撮影された「銀座の裏通り」には、歩道の端に靴磨きの道具を並べ、姉さんかぶりで髪を覆った女性が、歩道に正座してお客さんを待っている、後ろ姿が写っています。背筋がピンと伸びた端正な背中が、彼女の矜持を物語っているようです。

84ページの昭和51年2月に撮影された「上野駅の帰省客」では、年配のご夫妻が駅の売店で何かを求めていらっしゃる姿が写っています。

女性は、ウールの着物にウールのトッパー(洋風はおり)。白っぽい足袋に下駄で、爪掛(つめか)けと呼ばれる雨除けカバーをかけ、大きめの荷物を風呂敷に包んで背負い、胸元にかけた風呂敷の結び目とビニール傘の柄を両手でぎゅっと握って、真っすぐにこちらを見つめています。左手の薬指に光る、かまぼこと呼ばれる金の指輪が、精一杯のおしゃれを感じさせます。

男性は、鳥打帽(とりうちぼう)をかぶり、うつむき加減で売店のショウケースの前に立ち、両手で小銭入れを開いています。足元には四角い大きな荷物が置かれ、ジャンパー姿で、靴はたぶん革靴。耳をすませば、東北なまりが聞こえてきそうです。

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』(Ria AlgraによるPixabayからの画像)

街並みも、衣類も、乗り物も、みんな古くて懐かしいのですが、一番鮮烈なのは、人々の表情です。

昭和30年代はもちろん、昭和47年の銀座松屋前で信号を待つ人々や昭和58年の原宿の竹の子族の若者たちの表情でさえ、今とは全く違います。

生活や、個人を取り巻く状況や、気持ちや考え方の違いが、表情や顔つきに現れています。

是非、お祖父様やお祖母様、あるいはお父様やお母様とご一緒に、この写真集をご覧になってはいかがでしょうか?「トロリーバス」・「渡し船」・「畳替え」・「リヤカーの引き売り」・「(リヤカーの)金魚売り」などなど、この写真集を眺めながら昔のお話を伺ってはいかがですか?

熟年世代のみなさまは、この写真集に触発されて、今まで忘れていた家族のエピソードや、当時の匂いや喧噪(けんそう)を思い出せるかもしれません。幸せな世界へ私たちを誘う絵本のように。

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』

熟年世代の絵本、写真集『昭和の東京ー街角の記憶』(Erika VargaによるPixabayからの画像)

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