愚痴話の正しい聴き方とは?3ー未解決の感情が噴出している場合と自分を正しく評価されたい場合
お待たせいたしました。8月23日のブログ「愚痴話の正しい聴き方とは?2」の続きをお届けします。
改めて、おさらいです。わたくしは、インタビューや女性史の聞き書き、あるいはゴーストライトなどの経験から、何度も繰り返される女性のお話を3つに大別しています。
1.その方の人生で一番楽しかった思い出で、その頃に戻りたいという願望の話
2.その方にとって納得できない、あるいは許せない事柄で、未解決の感情が噴出している話
3.その方の能力や実績などが正しく評価されていないと感じていることによる、承認欲求の話
そして、8月10日の「愚痴話の正しい聴き方とは?」では、2番のタイプの話の聴き方について説明し、8月23日の「愚痴話の正しい聴き方とは?2」で、1番のタイプと3番のタイプの話を何度も繰り返している自覚がある場合の聴き方について説明いたしました。
今回は、3番のタイプと2番のタイプの話を何度も繰り返している自覚の無い場合について、説明します。
歳を重ねると楽観的で寛容な感情が増え、幸福感を味わいやすくなるのが本来の姿です
25~74歳を対象としたある研究によると、ポジティブな感情は年齢とともに増大し、ネガティブな感情には年齢差がないことが判明したそうです。さらに70歳以上を対象とした研究では、怒りや不機嫌、苛立ち感は、加齢とともに減少。ネガティブな感情には加齢による変化は認められず、ポジティブな感情は80歳以降に低下傾向が認められたそうです。
つまり、歳を重ねると楽観的で寛容な感情が増えて、幸福感を味わいやすくなります。このような傾向があるにもかかわらず、同じ昔の話を、それもご自身を認めてほしいという話、あるいは理不尽を許せないという話を繰り返さざるを得ない気持ちには、必ず理由があります。
ある東京大学出身の女性は、何度も繰り返される昔話にうんざりして、その話の結末を先回りして話した途端、「わたしだってそのチャンスさえあれば、東大くらい卒業できたわよ」とお母様から言われ、絶句なさったそうです。
さらに、このような3番や2番の話を何度も繰り返していることを自覚なさっていないとしたら・・・
人生で味わった出来事に意味を見出し、ご自分の人生と折り合いをつける方が多い
もちろん、その方の性格や今までのご経験、体力の衰え方や喪失体験の多寡などによっても異なりますが、その話が意識の一番上にあって、自然とこぼれ出てしまうのかもしれません。無意識のうちに溢れ出てしまうほど、お母様はその記憶に苛まれていらっしゃるのではないでしょうか?
死を意識する年齢になると、これまでの人生を振り返り、人生で味わった悲しみや苦しみや不条理などにご自身なりの意味を見出し、ご自分の人生と折り合いをつける方が多いそうです。
しかし、この作業にも体力や気力が必要です。このご自身の人生と折り合いをつけるために必要な条件や状況が、もしもお母様にないとすれば・・・若くて元気な娘世代のわたくしたちが諦めるしかありません。しかし、一方的な犠牲は長続きしません。
では、どうすれば良いのでしょうか?
母娘の相性や、お母様のご性格などによって受け止め方が異なりますので、一概には申せませんが、以下のような方法はいかがでしょうか?
☆お母様の愚痴話の聞き手を複数人に増やす
とにかく、その話をお母様が吐き出したい場合は、あなた1人だけでなく、その話の聴き手を増やし、あなたの負担を減らす(特にお母様と同世代のお友だちの場合、気持ちを共有しやすいようです)
☆お母様にスポーツクラブや趣味サークルなどに参加してもらう
高齢者向けアクティビティやスポーツクラブなどを利用して、あなたが愚痴話を聴く回数や時間を物理的に減らす
☆お母様の得意な料理や裁縫などをおしえてもらう
我が家の定番料理の作り方を教えて頂いたり、昔家族で遊んだゲームで一緒に遊んだりなど、お母様が楽しく過ごせる時間を増やし、愚痴話に使える時間を減らす
☆お母様に相談したり、助言を求めてご自身の価値を再認識していただく
お母様に何かを相談したり、家の中の仕事や役割をお願いして、お母様の存在感を引き立てる
ポイントは、物理的に愚痴話に使う時間を減らした上で、温かく支えることです。
先日、東京多摩いのちの電話研修委員で、臨床心理学がご専門の先生からこう教えていただきました。ご高齢の方でも、その方に役割や安心して寛げるような支えがあれば、いくつになっても人は変われます、と。この言葉を信じたいと思います。
ですから、お母様の心の健康な部分を生かし、幸福感を感じやすい心を活性化させる聴き方や対応を続けていれば、いつか彼女の中で理不尽な仕打ちや自己実現できなかった悔しさとも折り合いがつき、愚痴話も薄れていくに違いないと信じています。
どうしてもウンザリしがちですが、何度も同じ昔の話を繰り返さざるを得ない背景や理由に思いをはせ、愚痴話だけではない、お母様の明るく寛容な心にスポットをあてて、温かい気持ちで支えられればと思います。
お母様のポジティブな感情を増やして、少しでも充実した日々を過ごして頂けたらと希望します。
それは、同じ女性の先達への思いやりであり、お母様へのいたわりです。そしてこの経験は、ご両親が逝去なさった後、あなたご自身が自分の死と向き合い、自分の人生と折り合いをつけるための予習となるのではないでしょうか。
以上が、わたくしが考える「愚痴話の正しい聴き方」です。最後に、何度も繰り返される昔の話に辟易なさっていらっしゃるすべての皆様に、心からエールを送ります。
これまで、より分かりやすく説明するために、母と娘の間の「愚痴話の正しい聴き方」に絞ってまいりました。たとえば、「父の場合は?」や「3分類に当てはまらない場合は?」など、頂きましたご質問に9月27日のブログでお答えする予定です。ご質問やご意見・ご感想を、ホームページのお問い合わせフォームでお待ちしております。
参考図書
「よくわかる高齢者心理学」佐藤眞一/権藤恭之 編著 ミネルヴァ書房 2016年
「ワンダフル・エイジング」日下菜穂子著 ナカニシヤ出版 2011年 以上