愚痴話の正しい聴き方とは?4ー「具合がよくない」「身体が痛い」を繰り返す場合
お待たせいたしました、「愚痴話の正しい聴き方とは?」の最終回をお届けします。特に今回は、「認知症の場合」について、介護福祉士で、福祉用具相談員・食育指導士・調理師の資格も取得なさって、シニア向けアクティビティを提供なさっていらっしゃる金田さちこさんに、ご寄稿頂きました。
では、最初はおさらいです。わたくしは、インタビューや女性史の聞き書き、あるいはゴーストライトなどの経験から、何度も繰り返される女性のお話を3つに大別しています。
1.その方の人生で一番楽しかった思い出で、その頃に戻りたいという願望の話
2.その方にとって納得できない、あるいは許せない事柄で、未解決の感情が噴出している話
3.その方の能力や実績などが正しく評価されていないと感じていることによる、承認欲求の話
そして、「愚痴話の正しい聴き方とは?」では、2番のタイプの話の聴き方について説明し、「愚痴話の正しい聴き方とは?2」で、1番のタイプと3番のタイプの話を何度も繰り返している自覚がある場合の聴き方について説明。「愚痴話の正しい聴き方とは?3」で、3番のタイプと2番のタイプの話を何度も繰り返している自覚の無い場合について、説明しました。
最終回の今回は、お寄せいただいたご意見を参考に、以下の内容をお届けします。
A. 分類に当てはまらないお話
- 「具合がよくない」「身体が痛い」
- 「介護人さんの悪口」
- 「戦争・地震・大災害」の話
B. お父様が愚痴話を繰り返される場合
C. 認知症の場合
A. 分類に当てはまらないお話
- 「具合がよくない」「身体が痛い」
持病の話や、具合の悪さをクドクドと繰り返されると、優しく接しなくてはと理解していても、ついつい邪険な対応をとってしまいます。では、どうすれば良いでしょうか?
まず、お加減の悪さの中に重大な病気が潜んでいないか、病院で診察していただきます。重大な疾病がないと判明すれば、残る手段はスキンシップです。
ご高齢の方は、身近な方を失い、身体の機能の衰えを痛感し、死の不安を抱えて毎日を過ごしていらっしゃいます。楽しみや目標・予定などが無ければ、意識はずっと不安や痛みに焦点をあて続けたままになります。不安で寂しくて、やるせないお気持ちなのではないでしょうか?
そこで、スキンシップ、具体的には手や足のマッサージをお勧めします。(持病等をお持ちの場合は、お医者様にご相談をお願いします)
- まずスマートフォンやiPad等でヒーリングミュージックを流します。
- 温かいお湯を用意します。もしもあれば、お好みのアロマオイルをたらすと、さらに効果的です。
- お母様あるいはお父様の、手か足を浸します。
- 温まったところで、優しくさすります。ご自身が受けたマッサージの感じを思い出しながら行えば大丈夫。「どう?気持ちいい?」と声をかけながら、さすってみてください。
- 最後に乾いたタオルで手や足を拭いて、おしまい。きっと、表情が和らいでいらっしゃると思います。
子どもの頃、泣きじゃくっているあなたの背中をポンポンと軽く叩いたり、さすってもらった経験はありませんか?あるいは、泣きじゃくる幼い子どもの背中をさする気持ちで、ご両親にマッサージを行えば、きっと上手くいくと思います。
マッサージがあなたの愛情を伝え、ご両親の不安や寂しさややるせなさを癒してくれると思います。
2.「介護人さんの悪口」
度々、お母様あるいはお父様から、介護をしてくださる方の悪口を聞かされると、その話し手に怒るか、あるいは虐待を疑ったほうが良いのかと迷われると思います。わたくしの父が介護付き老人ホームに入居した当初も、職員さんの悪口をさんざん聞かされ、もしやと青あざの有無を確認したことがあります。けれど青あざも無く、いけ好かない施設長への悪口以外は、父が環境に慣れるにつれて、消えました。つまり、父の悪口は老人ホームに入居しなくてはならない状況への、不満や苛立ちでした。
もちろん虐待の有無は確認しますが、虐待がないと分かれば、介護人さんへの悪口は「そうなの?辛いね」と共感を示しつつ、聴くしかありません。論理的な説得や反論は、逆効果です。なぜなら、悪口の正体は、老人ホームに入居せざるを得ない状況や介護を受けざるを得ない状況への、苛立ちや怒りだからです。この状況を受け入れ、お母様あるいはお父様ご自身が、折り合いをつけるしか方法はありません。
生まれて初めての死への旅路の中で、初めての状況を認められず苦しんでいらっしゃるお母様あるいはお父様を見守る覚悟で、悪口に共感を示しつつ、ひたすら聴き続けてください。次は、わたくしたちの番なのですから。
3.「戦争・地震・大災害」の話
中年になるといつの間にか立場が逆転し、子どもとしては、庇護する立場で親の面倒を見ていると感じます。けれど、ご両親はいつまでも「親」としての意識を持っていらっしゃいます。いくつになっても、子どもは子ども。親として子どもの将来を考えて、重要なこと、大切なことを伝えておきたい、残しておきたいと感じられるようです。
それで、戦争体験や地震の話、あるいは大災害にあった時の話を繰り返されるのだと思います。わたくしの祖父も、関東大震災の経験から、「火事が近くで起こったら、絶対に窓を開けるな」とか、「寝る前には風呂桶に水を溜め、衣類と懐中電灯を枕元に揃えなさい」と始終言っていた記憶があります。
子どもの将来を案じて下さる、お母様やお父様の心遣いに感謝して、教訓のお話は傾聴しましょう。
B. お父様が愚痴話を繰り返される場合
まず、わたくしの経験値が低いため、男性の愚痴話がクドクド続くという状況をあまり存じません。また、詳しい状況やその方のご性格等も情報がないので、わたくしの類推となります。ご了承ください。
お話の内容が、「具合がよくない」とか「悪口」の場合は、上記の説明をご覧ください。また、3分類に当てはまる場合は、該当の説明をご覧ください。もしも、繰り返されるお話が仕事の話や苦労話であれば、3番の承認欲求のタイプと思われます。
女性の場合は、自己実現が叶わなかった承認欲求のケースが多いと思われますが、男性の場合は定年退職後の寂しさや、肩書や地位を喪失してしまった事による承認欲求ではないでしょうか?
とすれば、方法は2つ。
1.毎回、興味と関心を示しつつ、お話が盛り上がるように聴く。熱心な聴き手の存在によって、お父様は自分の価値を再確認なさいます。また、興が乗って話していると、忘れていた記憶が蘇ることも多々あります。そうすれば、新たなお父様の一面を発見できるかもしれません。
2.現在の体力・気力に応じた、お父様の居場所探しを手伝う。ボランティア活動や、自分史の執筆、大学やカルチャーセンターでの勉強など、新たなポジションを獲得できるように最初のキッカケづくりを一緒に行いましょう。恐らく、お一人で新たな居場所探しができないからこそ、愚痴話に始終なさっています。お父様のメンツを立てつつ、あれこれ企画を提案し、一緒に探し歩いてみてください。新たなポジションが見つかれば、お父様の瞳の輝きが違ってきます。
お父様と良い時間が持てますよう、お祈りします。
C. 認知症の場合
では、ここからは介護福祉士で、シニアの方へのアクティビティを提供なさっていらっしゃる「わらうかど」代表、金田さちこさんのご寄稿です。