歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!(前編)

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(drwrenchddsによるPixabayからの画像)

世紀の大発見!なんと、歯周炎の原因はプラーク(歯垢・細菌)ではなかった!!歯のまわりの歯茎や骨が溶けてしまう歯周炎は、プラークを取り除いただけでは治らないそうです。必死の歯磨きや口腔ケアは無駄だったのでしょうか?「歯界展望 2020年5月号」に掲載された『特別寄稿 歯周炎のプレシジョン・メディシンに向けて』(*1)を2回に分けてご紹介します。(以下、*は最下段の参考を参照)

私事ですが、両親ともに歯槽膿漏でほとんどの歯を失っていました。ですから、毎食後の歯磨きとマウスウォッシュを励行していたのに、奥歯の歯茎がジクジクし始めてしまいました。そこで、歯槽膿漏もとい、現在は歯周炎と称する病気について原因と治療法を調べました。

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(Anke DahmenによるPixabayからの画像)

まず誤解していたのが、歯周病。歯周病は、歯肉炎と歯周炎に分かれ、この歯周炎が歯槽膿漏でした。歯肉炎は、歯磨きを一生懸命してプラーク(歯垢・細菌)を取り除けば治るので、怖くないそうです。ところが歯周炎(歯槽膿漏)はどんどん歯周ポケットが深くなっていき、やがて歯のまわりの歯茎や骨を溶かしてしまう病気。この歯周炎は、プラーク(歯垢・細菌)を除去しただけでは治らない!!

歯周炎の原因を解明した 『特別寄稿 歯周炎のプレシジョン・メディシンに向けて』をかみ砕いてご紹介します。

結論:治りにくい歯周炎は、プラーク(歯垢・細菌)の除去だけで治すことはほぼ困難。悪玉細胞が分泌する悪玉因子(HGF)(*2)が歯を支える歯茎や骨を壊すように命令するので、これを抑える抗体医薬品や分子標的治療(*8)の併用が必要。そこで現在、研究開発中!

何故プラーク(歯垢)除去だけでは治らないのでしょうか?何故、抗体医薬品や分子標的治療が必要なのでしょうか?

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(Juli ReichelによるPixabayからの画像)

1.歯を磨いても、磨かなくても罹患率は同じ

CMでもネットで調べても、歯周炎はプラーク(歯垢)の細菌が原因とされています。ところがこの論文によると、重度歯周炎の罹患率は成人の約8~11%で、歯を磨く集団でも磨かない集団でも差はないそうです。(*3)

また、1990年と2010年の世界中の重度歯周炎罹患率にも変化がないそうです。(*4)つまり、有効な治療法が確立されていないから、20年経っても罹患率に変化がない訳です。また、50年以上治療方針も変わっていないそうで、これでは罹患率が変わらないのも納得です。

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!(前編)

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(Olga OginskayaによるPixabayからの画像)

これも誤解していたのですが、歯肉に炎症が起きて、骨が溶けたとしても歯肉の炎症が治まれば、歯肉も骨も元に戻るんだそうです!でも歯周ポケットが深くなってしまい、歯を支える歯茎や骨が消えてしまったら、歯は戻りたくても戻れません

その証明として、M カントール氏の研究によれば、歯を支える骨(歯槽骨)が炎症を起こしても炎症が治まれば回復するケースもあるそうです。つまり、激しい炎症が歯の抜け落ちる原因ではありません。(*5)

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(Manfred RichterによるPixabayからの画像)

2.歯周炎による歯の脱落は、歯肉の治癒反応

そこで大島教授は、こう考えました。歯は体の中で唯一、体の表面を覆う表皮や粘膜など上皮組織(*6)を突き破って飛び出している特殊な器官。だから歯の周りは、ばい菌がいつでも狙っている。傷を負った体は、自分で治そうと働く。同じように、歯周炎による出血を体が傷と誤解したら、飛び出ている歯の周りから(出血箇所から)ばい菌が体に侵入しそうだと錯覚してしまう。

その結果、急いで歯の根の周りに上皮バリアを作るために活発化する。これが歯周ポケットが深くなる原因であり、歯の根の先端まで上皮組織が覆いつくし、上皮のバリアが出来上がったら、身体は安心するけど、歯が脱落するという仕組みです。

さらに、上皮性(*6)がん細胞の浸潤パターンにヒントを得て、歯根のまわりに上皮バリアを築く悪玉因子を大島教授は探しました。

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!(前編)

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(liubomirtchoによるPixabayからの画像)

そして、歯科でおなじみの歯周ポケット、あの溝から歯周炎に罹った場合に現れる悪玉因子(肝細胞増殖因子HGF)が発見されます。(*7)

この悪玉因子HGFは、骨の再構成のために骨を溶かす酵素を放出したり、骨と接する部分を酸性にして骨を溶かして壊す細胞に働くよう命令します悪玉因子HGFが歯周炎で悪さを働いていることを裏付けるように、上記の研究では、歯周炎の患者さんが口内を濯いだ液から検出された悪玉因子HGFの濃度と、その患者さんの歯を支える骨の状況に相関関係が認められました。(*7)

悪玉因子HGFを発見できたことで、大島教授の研究は治療薬探しへと展開していきます。

後編に続く(http://kizuna-iyashi.com/2020/12/11/homemade-85/)

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(MammiyaによるPixabayからの画像)

謝辞:奥羽大学薬学部生化学分野・大島光宏教授、共同研究に関わったすべての研究者のみならず、患者さんを含むボランティアの方々、ご協力なさった全ての皆様と、特にこの原稿の校正にご協力くださった日本大学歯学部生化学講座・山口洋子様に感謝するとともに、この研究と歯周治療の向上・発展を祈念します。

《参考》

*1:歯界展望 https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/tenbo/

   なお、『特別寄稿 歯周炎のプレシジョン・メディシンに向けて~歯周炎病因論のパラダイムシフト~ 奥羽大学薬学部生化学分野教授 大島光宏』はネット公開されていません。

論文をお読みになりたい方には、浅海直二郎商店から別刷りを郵送いたします。このホームページのお問い合わせから、「別刷り希望の旨、お名前、アドレス、送付先住所」を明記の上、お申し込みください。「歯界展望 2020年5月号」に掲載された論文の別刷りを郵送いたします。

*2:悪玉因子(HGF)は肝細胞増殖因子HGFといい、歯周炎やがん細胞の浸潤においては悪さをしますが、一方肝臓の再生も担う重要な因子です。この稿では歯周炎が悪化する仕組みを分かりやすく理解していただくために、悪役になっています。

*3:「Natural history of periodontal disease in man. Rapid, moderate and no loss of attachment in Sri Lankan laborers 14 to 46 years of age」https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3487557/ 

*4:「Global burden of severe periodontitis in 1990-2010: a systematic review and meta-regression」 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25261053/

*5:「The behavior of angular bony defects following reduction of inflammation」https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6772755/

*6:上皮組織とは-体表面や体腔などの内面を“覆う”役割のある組織であり、保護、吸収、ろ過、分泌などに関わっています。上皮組織は、それぞれの働きをするにあたり、最も適した組織の形態を取っています。https://sgs.liranet.jp/sgs-blog/5676#:~:text=%E3%80%8C%E4%B8%8A%E7%9A%AE%E7%B5%84%E7%B9%94%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81,%E5%BD%A2%E6%85%8B%E3%82%92%E5%8F%96%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

上皮性-体の表面や管腔臓器(消化器、呼吸器、泌尿器・生殖 器、乳房など)の表面

*7:「歯周病の診断のために水を使用した経口リンスにおける肝細胞増殖因子の検出」https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32418927/ 

*8:抗体医薬品ー私たちは、体内に無い異物を排除する抗体というたんぱく質をつくり出して病気を防いでいます。この仕組みを利用して、病気の原因となっている物質に対する抗体をつくり、体内に入れ、病気の予防や治療をおこなう薬。http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q49.html

分子標的治療ーある特定の分子を標的として、その機能を制御することにより治療する療法。正常な体と病気の体の違い、あるいは癌細胞と正常細胞の違いをゲノムレベル・分子レベルで解明し、がんの増殖や転移に必要な分子を特異的に抑えたり、関節リウマチなどの炎症性疾患で炎症に関わる分子を特異的に抑えたりすることで治療する。分子標的治療は創薬や治療法設計の段階から分子レベルの標的を定めている点で異なる。また、この分子標的治療に使用する医薬品を分子標的治療薬と呼ぶ。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E5%AD%90%E6%A8%99%E7%9A%84%E6%B2%BB%E7%99%82

以上

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!(前編)

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(前編)(Daniel AlbanyによるPixabayからの画像)

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