自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』(Tien NguyenによるPixabayからの画像)

今回は、介護現場で働くプロのために書かれた本です。著者の尾渡順子さんは、家族で渡米した際にオレゴン州のコミュニティカレッジで「認知症ケア」を学び、帰国後も認知症ケアの現場で働き続けられたそうです。この現場経験の中で「有効だった言葉かけ」をまとめられたのが、この本です。その中から、自宅介護でも使えそうなノウハウをご紹介します!

『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』尾渡順子(おわたり・じゅんこ)著、2022年4月発行、発行所:中央法規出版、定価1,800円+税、ISBN978-4-8058-8455-3

本の大きさは、縦は約21㎝、横は約15㎝、厚みは約1.4㎝。ページ数は169ページで横書き。字も新聞の文章の大きさ位あり、イラストもあり、重要事項が赤字に色分けされていて読みやすいです。

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』(CouleurによるPixabayからの画像)

内容は、4章に分かれ、特に第4章の場面別の言葉かけの方法がとても分かりやすいです。

  • 第1章 コミュニケーションのきほん
  • 第2章 コミュニケーションに活かす!認知症のキソ知識
  • 第3章 認知症の人への言葉かけ
  • 第4章 場面別 認知症の人が元気になる言葉かけ

 1.介助の場面

   1.起き上がりの介助/5.排泄の介助/6.入浴の介助/7.歯磨きの介助 etc

 2.認知症の症状の出現場面

   1.帰宅願望/2.徘徊/3.物盗られ妄想/5.異食/7.暴言・暴力/9.弄便・便失禁 etc

 3.軽度認知症の人の困った行動

「あら、この場面ではどうすれば良いの?」と興味が湧いてきましたか?一部の内容を詳しく紹介いたします。

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』(Sơn Nguyễn ĐìnhによるPixabayからの画像)

☆「叱る」ことについて

『(前略)また、中でも「叱る」という行為が一番悪影響を与えているように思います。排泄の失敗や異食、徘徊などは家族としては強く叱ったり、罵倒してしまいがちですが、叱ることで委縮させたり、うつ症状を招いたり、怒りに結びつくことがあります。

排泄に失敗した親を「くさいな。トイレができなくなったのか」と罵倒した家族の例では、それを聞いた親は叱られるのを恐れて失敗した下着をタンスに隠すようになったそうです。(中略)

こういうときに、家族に認知症の知識があれば、叱るのではなく、他の方法でアプローチできたのでしょうそして上手に公的支援を利用することで親をなじったり叱ったりすることを軽減できたかもしれません。

「くさいな。トイレができなくなったのか」あなたが、こんな言葉を援助者から言われたらどう感じるでしょうか。そう言われないために、なんとかしようとする高齢者の気持ちもわかります。その結果としてBPSD(*)が出現すること、さらには叱られることでの孤独感、疎外感、嫌な感情がBPSD(*)を増長させる原因であることを理解しておきましょう。』(第2章 7.認知症の人への誤解 48ページより引用)

      *BPSDとは:脳の器質的変化によって起きる障害や環境によって引き起こされる周辺症状。環境によりBPSDが軽減されたり、症状が出ない人もいる。症状としては、不眠・徘徊・暴力/暴言・不潔行為・異食・不安・抑うつ状態・妄想・誤嚥・幻覚・介護拒否など。

我が家でも、アルツハイマーだった父を母がしょっちゅう叱っていました。30年以上リュウマチを患っている母に精神的余裕がなく、母にも私にも知識が欠けていました。父は母のガミガミ怒鳴る声にストレスを感じていたのでしょう、介護付き老人ホームに入居してから、かなり穏やかな性格に戻りました。父が他界した今も、あの時は父に申し訳なかったと感じます。

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』(Jo SpargoによるPixabayからの画像)

☆トイレ誘導の工夫「トイレの神様に呼ばれましたよ」

『同じようなドアが並んでいたりすると、どこがトイレなのかわからなくなり、その結果トイレに間に合わないこともでてきます。例えば、利用者の居室から矢印の看板でトイレまでの案内板を作ったりするなど、トイレの場所をわかりやすくしましょう。

お腹の調子が悪いので、トイレに向かったけれど間に合わず、お尻についた便を「何だろう?」と思い触ってしまう方もいます。利用者の排便コントロール記録をチェックして「食後、排便がある」「午前中に下剤を飲んだ」等の情報を職員間で共有します。ソワソワしているときはトイレに誘導するようにします。

尿意や便意が少なくて、トイレに自ら行こうとしない方は、定時で誘導するようになりますが、その際、拒否をする人が多く、「さっき行ったばかりだよ」などと言われます。衣類や座っているクッションまで濡れているとわかっているときは困りますよね。そういうとき、私は「呼ばれましたよ」と言葉をかけています。人は「呼ばれた」と言われると、何となく淡い期待感を抱きますし、「呼ばれたなら行ったほうがよいのかな」と判断する人が多いからです。「トイレ」という言葉を使うと拒否反応が出る人に試してみてください。トイレに着いた時点で「呼ばれた」ことは忘れてしまう人が多いのですが、呼ばれたことを覚えている人には、「トイレの神様に呼ばれた」と伝えています。』(第4章 5.排泄の介助 95~96ページより引用)

リハビリのため病院へ移動した15分間で、父がタクシーの座席に漏らしてしまい、運転手さんに激怒されたことがあります。歩道の端に車椅子を固定し、ズボンも濡れたままの父を座らせ、私は持参のお尻ふきでタクシーの座席を清め、お詫びの言葉と共に1万円を別途包んで渡しました。それ以来、移動する前には必ず、父をトイレに誘導しましたが、私の意図通りには動いてくれませんでした。あの時に「お父さん、トイレの神様に呼ばれてるよ」と言葉をかけることが出来たら、どんなに良かったことでしょうか・・・

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』(S. Hermann & F. RichterによるPixabayからの画像)

☆もしも異食に遭遇しても、冷静に!

『[NG事例]Mさん(男性)が、口をくちゃくちゃ動かしていました。職員が、おやつも提供していないのに、どうして口を動かしているのだろうといぶかしげに、口を開けてもらったところ、口のなかからおしぼりの袋が出てきました。職員が驚いて「あ!これを口の中にいれちゃったのですか?」と聞くと、Mさんは「ばれちゃいましたか。すまん、すまん」と赤面して笑っています。

Q なぜ、Mさんは赤面して笑っているのでしょうか?

1.考えられる原因 ⇒ 食べられない物を口に入れたという認識がない

  認知機能の低下で、食べられる物と食べられない物の区別や判断がつかなくなることがあります。この事例の場合は、食べられる物を食べていると思っているので、「つまみ食いをしたことを指摘された」と捉えているようです。(中略)

異食の原因の1つに口が寂しくて、ついつい目に見えた(食べられると思った)ものを口に入れてしまうことがありますので、お茶やゼリーやおやつを適宜、提供します。また、不安や寂しさからつい口に物を入れたくなることもあります。集中できる仕事や趣味、楽しい会話などでメリハリのある生活が送れるように心がけましょう

2.この場合、どういう言葉かけや対応がよいか ⇒ ①速やかに口から食べられない物を取り出す ②空腹なのであれば代替のおやつを提供する (中略)

言葉かけでは、まず相手を驚かせないよう、冷静に「お口のなかを見せてください」と話しかけています。慌てて口から引っ張り出すようなことをすると口のなかを傷つけ、誤嚥のリスクも大きくなってしまいますから、落ち着いて口のなかから異物を取り出すようにします。

本人は食べられない物を食べていたと思っていませんから、「もっと美味しい物を持ってくる」という表現で、代替のものを提供します。施設ではあまりないのですが、在宅の場合は、電池、洗剤、先がとがった物などを異食してしまう可能性があります。一刻を争うこともありますので、異食は要注意です。』(第4章 5.異食 130~131ページより引用)

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』(manseok KimによるPixabayからの画像)

我が家の場合、異食はありませんでした。反対に食べなくなり、どんどん体重が減り、やせ衰える父をこの世に繋ぎとめようと必死でした。けれど、ある日突然、どのような症状が現れるか誰にもわかりません。もしも認知症と診断がついていらっしゃるなら、この本は論理的で具体的で理解しやすく、活用しやすいので、お勧めです。

介護は本当に難しいです。特に認知症の場合は、その方の性格や今までの人生が反映されるのでとても複雑です。長谷川和夫先生の『認知症でも心は豊かに生きている - 認知症になった認知症専門医 長谷川和夫100の言葉』によれば、認知症とわかってから平均8年が介護期間となるそうです。あなたが倒れないためにも、「認知症の知識」と「公的支援の利用」を強くお勧めします。

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』

自宅介護でも使えるヒントが満載!『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』(Zhu BingによるPixabayからの画像)

☆『認知症の人を元気にする言葉かけ・不安にさせる言葉かけ』https://www.chuohoki.jp/category/C02/8455.html

☆尾渡順子(おわたり・じゅんこ)のホームページ https://zunasea39.weebly.com/

☆3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』https://kizuna-iyashi.com/2022/05/13/homemade-162/

以上

Follow me!