高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(ErikaWittliebによるPixabayからの画像)

11月18日「おぞましいゴミ屋敷の犯人は、ためこみ症という脳の機能障害で精神疾患の一種でした!」のブログが、予想以上に好評でした。そこで、高齢者研究45年の専門家、大阪大学名誉教授の佐藤眞一(さとう・しんいち)先生の著作から次の話題をお届けします。

あなたのまわりの「高齢さん」の本によれば、『人は生涯発達する』そうです。老人・シニア・お年寄り等の従来の捉え方と違うので、佐藤眞一先生は『高齢さん』と呼びます。ここではそのまま引用します。

1.高齢さんが詐欺とわかっているのに騙されるのはなぜ?

不特定多数から現金などをだまし取る詐欺を「特殊詐欺」といいます。2021年に起きた特殊詐欺は、全国で1万4461件。被害金額は、1件あたり平均199.8万円。1番有名なのが「オレオレ詐欺」で特殊詐欺全体の21.3%を占めています。2021年に急増した「還付金詐欺」は、特殊詐欺全体の27.7%を占めています。

特殊詐欺の被害者は、女性が81.8%、男性が18.2%。年齢別では、70~80代の高齢さんが特に被害にあっています。では、なぜ高齢さんが特殊詐欺に騙されてしまうのでしょうか?佐藤眞一先生は、3つの理由をあげています。

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(lauralatimerによるPixabayからの画像)

a. 高齢さんは子や孫の「役に立ちたい」と切望しているから

仕事や子育てが終わった高齢さんは、家族や社会の役に立っている実感がもてなくなっています。それでも、親として子どもの幸せを願い、「役に立ちたい」「頼られたい」と思っています。また、子どもに対して「親として認められている」という自尊感情も持ち続けています。

『そのような親の気持ちにつけ込むのがオレオレ詐欺です。お金を出すことでしか子どもの役に立てない」「困っている我が子を助けたい」という親の心理を悪用している犯罪です。』(P83より引用)いつまでも息子を案じている母親の気持ちを悪用されるから、特殊詐欺被害者の8割以上が女性なのでしょう。

b. 高齢さんは「得をする」という言葉や話に弱いから

高齢さんの多くは年金生活で、働いて収入を得ることは難しいです。ですから、他の方法で少しでも貯蓄を増やしたいと考えています。そのため「お金がもらえる」という話に飛びつきやすいのです。

高齢さんがなぜ騙されやすいのかというと『「これは犯罪ではない、正常の範囲内だ」と捉えてしまう思考が働くからだと考えられます。怪しい話でも「この話は問題ない。」大丈夫だ』と思って、相手を信用してしまうのです。また、ちょっと考えれば見抜けるような嘘に気がつかないのは、認知機能の低下が一因。こみ入った話を理解したり複雑な計算をしたりするのが苦手になっているのです。さらに、「今日中に」とか、「秘密にして」など、切迫性を刺激するフレーズが巧みに織り交ぜられると、焦ってしまい深く考えられなくなってしまうということも関係しています。』(P84より引用)

c. 自分はしっかりしているし、疑い深いから騙されないという過信があるから

警察庁がオレオレ詐欺の被害者へ行ったアンケート調査によると、お金を騙し取られた人の78.2%が「自分は被害にあわないと思っていた」と回答。逆に、オレオレ詐欺を途中で見破った人は、「自分は被害にあわないと思っていた」と回答した人が56.8%。自分を過信しないことが被害を防いでいると考えられます。

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(ErikaWittliebによるPixabayからの画像)

≪自尊感情関連のアドバイス≫(P86~88より引用)

自分には親としての価値があり、子どもにとってかけがえのない存在なのだと思う自尊感情を親は持ち続けます。なので、認知機能が低下しても、子どもは親の自尊感情を損なわないように接することが大切です。日常生活で簡単な仕事を任せて、その都度感謝の言葉を伝えるのも効果的です。頼られることで、親は自尊感情を高めることができます。

正常性バイアスは、多少の異常事態が起きてもそれを正常なことだと考えて、平常心を保とうとする心の働きをいいます。この正常性バイアスによって「自分は大丈夫だ」という思い込みがある高齢さんは、正しく判断ができない可能性があります。詐欺にあいやすいタイプなので注意が必要です。

*高齢さんが詐欺にあうのを防ぐには、これまでの経験や先入観に頼って性急に判断をしないように伝えましょう。「お金のことで電話があったら、内容に関係なく本人や家族に折り返し電話をする」などとルールを決めましょう。

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(pixel1によるPixabayからの画像)

2.高齢さんが怒りっぽくキレやすくなる理由とは?

ヒトは社会的な動物です。社会に所属したい、社会から認められたいという欲求は誰にでもあります。高齢さんの年代では、夫は仕事を通して社会的評価を得ることが出来ます。

けれど、会社員には定年退職があります。仕事で得られた社会的評価や生きがいは、定年の翌日から得られなくなります。定年後の趣味や生きがいを見つけられず、先のことも考えられず、仕事と一緒に社会的評価を失ってしまった人は、しかたなく過去の栄光にしがみつく訳です。

一方、専業主婦だった妻は家の外に生きがいを見いだしています。趣味やボランティアや友だちとの交流をとおして、社会的評価を得る方法を身に付けています。『こうして女性の高齢さんは、夫が定年後、「昔はよかった」とぼやくのを尻目に、活き活きとした老後を過ごすことが多くなります。』(P91~92より引用)

『スーパーのセルフレジや銀行のATMなどで高齢さんが怒りをあらわにしている光景をたまに目にします。これもまた、現役時代に企業で役職に就いていたり、学校で教職に就いていたりした人などに多く見られる、自身への「有能感」に原因があります。

『いくら自己評価が高い人であっても、程度の差こそあれ、加齢に伴い身体能力や認知機能は衰えていき、自分の思い通りにいかないケースが増えてきます。自身の有能感と、できないことへの失望感のギャップが大きいほど、ストレスを感じやすくなります。そんな小さなストレスが積み重なって知らないうちにイライラが溜まっていき、コップの水が表面張力でかろうじてこぼれないでいるような状態になっています。そこへ最後の一滴(ごく小さなストレス)が加わることで、コップから水があふれるように感情のコントロールがきかなくなって怒りが表出されるのです。高齢さんだからキレやすいということではありません。』(P93より引用)

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(Brigitte WernerによるPixabayからの画像)

≪有能感関連のアドバイス2≫(P94~103より引用)

高齢さんが有能感をもつことは、生きるために必要なこと。頭ごなしに否定するような言動をとるべきではありません。

周囲の状況に応じて、自分の感情を適切にコントロールしたり調整したりすることは、高齢さんがより良く生きるための適応手段です。ちなみに、感情調整能力が高い人は幸福感も高いという研究があります。

高齢さんの表情筋は動きが少ないので、表情だけでは感情を正しく捉えることが難しいです。特に男性の高齢さんの無表情は、機嫌が悪く見えることが多いです。表情以外からも感情を読み取れるようにしましょう。不機嫌そうに見える高齢さんに笑顔で話しかけると、笑顔を返してくれることが多いです。

*ぼやいてばかりの高齢さんには、趣味やいろんな人と交流する機会を持つように勧めてみましょう。それだけで充実した気持ちになれる可能性が十分にあります。

高齢さんは「自分が役に立っている」と実感できれば、それで十分満足します。それ以上の見返りは求めないので、ちょっとした説教や小言くらいであれば「なるほど」などと頷きながら軽く受け流しても大丈夫です。

*高齢さんが新たな環境で孤独にならないようにするには、自分と似た雰囲気を持つ人たちが集まるサークルなどに参加するのも一つの方法です。

年齢アイデンティティにこだわる高齢さんの中には、立場を軽んじられると余計に威張って不安を解消しようとする人もいます。このような場合は、高齢さんの気持ちを汲んで立場を尊重したほうが、お互いに穏やかな関係が維持できます。

*不満を抱いている高齢さんには、自分の人生を肯定的に評価できるように周囲が手を差し伸べてあげましょう。

「あの頃はよかった」と昔を回想する高齢さんは、思い出を書き換えることで、心理的な安らぎを得ようとしているので、黙って見守りましょう。

*認知症の高齢さんが回想法を受けると、情動機能の回復や、問題行動の減少、対人交流の増加などの効果が期待できます。

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(Gundula VogelによるPixabayからの画像)

3. 今まで元気だった高齢さんが、急に衰えるのはなぜ?

急にもの忘れがひどくなったり、足元や手元がおぼつかなくなったりする高齢さんがいます。そこには何が起こっているのでしょうか?

自らの老いを自覚することを「老性自覚」といいます。ようするに「ああ、自分も年を取ったなあ・・・」とはっきり悟ってしまうということです。』この老性自覚は、2つに分かれます。

a. 内からの自覚

◎「五感の能力低下」―細かい字が見えづらくなったり、耳が遠くなったりする

◎「身体的特徴」―歯が抜けたり、白髪が増えたりする

◎「精神的な減退」―物忘れが増えたり、計算が遅くなったり、根気がなくなったりする

b. 外からの自覚

◎孫が生まれた

◎定年退職した

◎配偶者や同年配の友人が亡くなった

◎乗り物で席を譲られた

◎他の人から老人扱いされた

100年前の高齢者は尊敬の対象でしたが、いまは老いをネガティブに捉え、多くの人はアンチエイジングに励みます。たしかに、70歳代後半になっても身体能力や容姿がそれほど衰えない高齢さんが目立つようになりました。

けれど、いつかはかならず衰えます。『ずっと壮年期の状態が続いていたかと思えば、最後の数年間で、いきなり要介護になるというのが、現代の高齢さんの特徴です。

いわば壮年期がずっと続いて、老年期がないまま死と向き合う時間が訪れるようなもの。それはつまり、死に対する準備の時間が十分に取れないことを意味します。』(P117より引用)

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(anncaによるPixabayからの画像)

100年前の人々は、自分が老人であることや死ぬことを時間をかけて少しずつ受け入れました。今の高齢さんは、脳梗塞や心筋梗塞などで入院して、初めて老いと死に向き合います。この突然の老性自覚のために、ガクンと衰える高齢さんが多いのも無理はないでしょう。

70~80歳代の老いは、死に直結するものとして意識されます。だから「老い」の自覚から、「恐怖」が生まれます。恐怖」が与える深刻なダメージによって、急激な老化が起きるのです。

もう一つ、高齢さんがガクンと老け込むケースがあります。それは、自信の喪失です。例えば、家族や親しい人から「最近、もの忘れがおおくなったね」と指摘されます。本人も、記憶力はあるはずなのに、実際、大切なものをどこかに置き忘れるといった事態を引き起こし、気にしています。何度かそういうやり取りを繰り返すうちに、ポジティブだった気持ちがすっかり後ろ向きになり、自信を失い、生きる意欲を失う。急激に老け込むというわけです『誰が悪いというわけではありません。家族は、高齢さんによかれと思って指摘をするのです。よい悪いではなく、これが現代の長寿社会の特徴です。』

また、アンチエイジングは悪いことではありませんが、それが用を果たさなくなる時期が必ず訪れます。『そのときになって、人は、どう老いと向き合うべきか。すべての人が考えておかなければないない問題です。』(P119より引用)

≪老性自覚関連のアドバイス≫(P120~124より引用)

*現代はアンチエイジングの意識が高まり、80歳くらいまではあまり老性自覚のない人が増えています。つまり現代の老性自覚は、脳卒中や心臓発作など重篤な病気で倒れてから、初めて湧き上がる場合が多いです。このような形で、逃げようのない老いを自覚するときに感じる恐怖は大きなものです。そうならないために、少しずつ老いていく自分と向き合うことが大切です。

*身体的な老化は、悪いことばかりではありません。体の自由がきかないからこそ、精神的な豊かさを求めるなど、人としてより創造的な部分で成長できる可能性もあります。

アイデンティティを失うと、生きる気力が衰えます。心が老化すれば、自然と動作も緩慢になり、新しいことに挑戦することもなく、結果的に体のほうも衰えていきます。その一方で、人は死ぬまで成長するという考えもあります。定年退職しても、子育てが終わっても、人の成長が止まるわけではありません。

以上

☆『あなたのまわりの「高齢さん」の本 ― 高齢者の心理がわかる112のキーワード』佐藤眞一(さとう・しんいち)著、2022年10月発行、主婦と生活社、定価1400円+税、ISBN978-4-391-15728-4 https://www.shufu.co.jp/bookmook/detail/978-4-391-15728-4/

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!

高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは、子や孫に頼られたい、役に立ちたいと切望しているから!(Jill WellingtonによるPixabayからの画像)

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