高齢者虐待はなぜ増える?介護施設で起きる事例と家族が知るべきリスクを専門データで解説
高齢者への虐待、増えているって本当?
お母さま・お父さまがお世話になっている介護施設も心配…そんな声が増えています。
▼シリーズ一覧
・前編:養護・介護施設で暮らす家族を虐待から守るには?【予防策・前編】
・後編:叩かれた?暴言?虐待の芽チェックと3つの対処法【後編】
・相談窓口編:高齢者虐待を疑ったら?相談・通報できる公的窓口と47都道府県一覧

(Penelope883/Pixabay)
最近の報道では、千葉県で2023年度の施設内虐待が過去最多の60件 にのぼったと伝えられました*1。
介護職員の多くは誠実で真面目な方ばかりですが、それでも虐待は全国で増えています。
このブログでは、厚生労働省の調査*2 をわかりやすく整理し、「どんな施設で」「どんな人が」「どんな状況で」虐待が起きやすいのか をまとめました。
1.介護施設の虐待防止は「法律で義務化」されている
2021年度の介護報酬改定で、すべての介護サービス事業所に「虐待防止の取組」が義務化 されました。
具体的には次の取り組みが必要です。
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虐待防止研修の実施
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虐待防止委員会の設置
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虐待防止の指針(マニュアル)作成
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虐待防止担当者の選任
体制は整い始めていますが、介護現場は人手不足・業務量が多く、環境が不安定になりやすいのも事実です。
厚労省調査*2 によると、虐待が起きた背景にはこんな理由がありました。
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教育や介護技術の不足…56.8%
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職員のストレスや感情コントロールの困難…26.4%
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人間関係や管理体制の問題…20.5%
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人員不足と多忙…12.6%
→ 「忙しすぎて余裕がない」「技術習得の時間がない」 という現場の悲鳴も見えてきます。
2.虐待が発生しやすい施設の種類と内容
調査では、虐待が確認された施設は次の順に多くなっていました*2。
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特別養護老人ホーム…29.5%
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有料老人ホーム…27.6%
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グループホーム…14.8%
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介護老人保健施設…11.2%
そして虐待の内容は以下の通り。
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身体的虐待…60.1%(殴る・蹴る・不必要な拘束など)
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心理的虐待…29.2%(暴言・無視)
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介護放棄…20.0%
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性的虐待…5.4%
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経済的虐待…3.9%
特に深刻なのが、26.1%の高齢者が不必要な身体拘束を受けていたこと。
本来「身体拘束は禁止」ですが、例外が誤って広く解釈されているケースもみられます。
3.虐待を受けやすい高齢者の特徴
調査から分かった傾向は次の通りです*2。
▼性別・年齢
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女性 69.9%
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85歳以上で約4割
▼要介護度
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要介護3以上が 75.8%
▼認知症の進行度
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認知症自立度Ⅱ以上が75.8%
▼寝たきり度(ADLの低下)
身体機能が低いほど「身体的虐待」が増える傾向がありました。
→ “弱い人ほど狙われやすい”という残念な現実 が数字に表れています。
4.要介護度が高いほど「身体的虐待」が増える
要介護3〜5では、身体的虐待の割合が60〜67% と高くなっています。
> 介護度が重い=手がかかる=職員の負担が大きい
という構図が、虐待の背景にあると考えられています。
同様に、寝たきり度が高いほど「身体的虐待」の割合が高くなりました。
5.施設の種類によって、虐待の傾向が違う
▼身体的虐待が多い
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介護保険施設
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グループホーム
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小規模多機能
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入所型サービス全般
▼心理的・経済的虐待が多い
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居宅系(訪問介護・デイサービス)
居宅系ではお金の管理やコミュニケーションのトラブルが起きやすい傾向があります。
6.虐待してしまった職員の傾向
調査から見える傾向は以下です*2。
▼年齢
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30歳未満が相対的に多い
(特に男性:介護職男性は全体13%→虐待者の27.7%が男性)
▼性別
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男性52.3%(介護職全体では男性は約20%)
▼職種
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介護職員が約8割
→ 若手・未経験者が教育不足のまま現場に出ざるを得ない構造も問題です。
→ また、業務の多さや時間に追われる“流れ作業のケア”が心理的負担を増やし、ミスや虐待につながっている現実も指摘されています。
7.虐待通報があったあと、市区町村はどう動く?
通報は年間で2,642件。
もっとも多いのは、同じ施設の職員による通報(628件)=全体の23.8%。
家族よりも「現場の内部告発」が多いのは、とても心強い点です。
市区町村は、通報があると以下を実施します*6。
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高齢者の安全確認
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事実確認のための訪問調査
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必要に応じて立入検査
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報告徴収、改善命令、事業停止・取り消しなどの行政処分
体制は整っていますが、
スタッフの退職や新人増加で、施設の環境はすぐに変化する
という不安材料もあります。
▼まとめ:大切なのは「施設まかせにしないこと」
調査を読むほど、
“どの施設も絶対安全とは言い切れない”
という現実が浮かび上がります。
あなたが今預けている施設が良い施設でも、
来月スタッフが3人辞めれば、雰囲気やケアの質はガラッと変わるかもしれません。
だからこそ、次の3部作へと続きます。
次回の記事では 「家族ができる予防策」 を、
続く記事で 「虐待を疑ったときの行動手順・相談窓口」 をまとめています。
介護する家族と、介護する人、そして入居者本人が、少しでも安心して過ごせますように。
▼補注(専門的資料)
*1:千葉日報(2025/2/9)
https://www.chibanippo.co.jp/news/national/1398439
*2:厚生労働省「令和元年度 高齢者虐待対応状況等調査」
https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/000708459.pdf
*3:介護老人保健施設の定義(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000174012.pdf
*4:認知症自立度の基準(健康長寿ネット)
https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/kaigo-hoken/ninchi-jiritsu.html
*5:障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)
https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/kaigo-hoken/shougai-jiritsu.html
*6:厚労省「養介護施設従事者等による虐待への対応」
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/boushi/060424/dl/05.pdf
以上









