養護・介護施設に入居・入所している家族への虐待を防ぐには、どうすれば良いですか?(前編)
前回2月14日のブログでは、入所・入居してサービスを受ける養護・介護施設や自宅で生活しながら介護サービスが受けられる事業所などで発生する虐待の傾向を厚生労働省の報告書(*1)から紹介しました。そこで今回は、虐待を受けにくくする、未然に防ぐ方法と虐待を疑う時の解決方法を前編・後編にわけて紹介します。
1.定期的に訪問して介護職員と信頼関係を築き、入居・入所している家族の異変に気が付けるようにする
最初に強調するのは、介護に携わるプロの方々は、献身的で共感力に優れた素晴らしい方が多い点です。介護は重労働で平均給与も低いから、慢性的な人手不足です。その仕事を選ぶのですから、目標や働く目的がはっきりしていて、思わず頭が下がります。
でも現実には、利用者さんが認知症であれば病状だから仕方ないとしても罵倒されたり、「物を盗んだ」と疑われたり、暴力やセクシャルハラスメントを受けることさえあります。
とても厳しい労働環境だからこそ、「教育・知識・介護技術など」が不足していたり、「職員のストレスや感情コントロール」ができず暴走すれば、虐待に繋がってしまうと想像できます。だからこそ、ポイント①。
①定期的に施設を訪問し、介護職員さんと信頼関係を築き、家族に代わって介護してくださる感謝と信頼をこまめに伝える。
担当スタッフはもちろん、すべての職員さんの目を見ながら笑顔で「いつもありがとうございます」と感謝を伝えます。職員さんのストレスを溶かす気持ちで、飛び切り良い笑顔と感謝を贈ります。
- 真夜中、ウチの家族が不安症状からナースコールボタンを連打してしまった時
- ウチの家族や他の入居・入所者さんのおもらしが連発し、シーツ交換と着替えと洗濯と掃除に職員さんが追い回される時
- 気圧の変動に苛立ったウチの家族が暴言を吐いたり、職員さんや他の入居・入所者さんに手をあげてしまった時
このような状況が積み重なっても職員さんが暴走してしまうことを防げるように、家族に代わって介護してくださる感謝を心から伝えます。
「身体的虐待」や「心理的虐待」や「介護放棄」に踏み出す前に、家族の笑顔と感謝と信頼を思い出していただけるように、定期的に訪問して感謝と信頼を伝えます。
同時に、ポイント②。
②定期的に通って、預けている家族と雑談をしながら毎日の様子を聞き出し、落ち込んだり、ふさぎ込んだりする様子がないか、確かめる。
認知症は理屈や因果関係は理解できなくても、感情は分かります。無視されれば、嫌われていると感じ取ります。暴言は、意味を理解できないとしても暴言を吐いている相手の悪意を感じ取れます。
だから、「おかあさん(おとうさん)をいじめる悪い人はいない?」と聞き続けて確認します。
自分に対する悪意を感じて落ち込むか、反撃にでて暴力を振るうかは症状やご本人の性格によって異なります。「他の職員さんから叩かれた」、「暴言を吐かれた」、「食事を取り上げられた」、などと訴える方もいらっしゃいます。
2月14日ブログ(*2)で説明したように、85歳以上の女性で介護度の高い方が虐待のターゲットになりやすいです。身体が弱くて反撃できない方が、「身体的虐待」や「心理的虐待」や「介護放棄」を受けやすいです。
だからこそ85歳以上で、気が弱い女性や我慢強い女性は特に注意が必要です。
2.施設を訪問した時には足湯や手湯で「身体的虐待」の跡がないか確認する
施設では、利用者の入浴や着替えなどを介助している時に、原因がわからない痣が見つかり、そこから「身体的虐待」が発覚することもあります。
そこで、ポイント③。
③面会の際に「足湯」や「手湯」をしてあげて、痣や打撲痕などの有無を調べる
乾燥しないうちに保湿クリームをたっぷりとすり込めば、弱くなっている皮膚の保護もできるから、一石二鳥です。
「足湯」のやり方は「最期まで自分でトイレに行けるように、フットケアや体操を身に付けよう!」https://kizuna-iyashi.com/2023/01/06/homemade-196/ をご覧ください。
「手湯」は、「ハンドバスとは?ご自宅でできるハンドバスの方法」https://www.prinature.jp/contents/handbath をご覧ください。
「手湯」はあまり聞いたことがないと思いますが、「足湯」よりも簡単でいろいろな効果が期待できます。
たとえば、手首には脈をはかる時に触れる動脈の他、いろいろな静脈が体表に近い部分に集中しており、その手首を温めることは手だけでなく体全体も温めてくれます。
「手湯」は首こりや肩こりなど上半身の緊張を和らげる効果もあります。リラックスできれば、入居・入所しているご家族も笑顔になります。
3.訪問時に「介護記録」を閲覧し、毎日のご家族の様子と受けているケアを確認する
次に、施設を訪問した時のポイント④。
④施設を訪問した時には「介護記録」を閲覧し、入居・入所しているご家族がどんな様子で、どのようなケアを受けているか把握します
「介護記録」とは、介護事業者が介護サービスをご利用者に提供した時に、提供したサービスの内容、ご利用者の健康状態や反応などを記録した日誌のようなものです。ご家族であれば、閲覧できます。
「介護記録」から毎日の食事量や排泄の様子などが分かります。そして以下の場合には注意が必要です。
- 暴言・暴力がある
- ケアの拒否(介護拒否)がある
- 食事の拒否がある
- 失禁で着替えやシーツ交換が多い
- 常に見守りや介助が必要
これらの場合は職員さんの負担が重くなっているはずです。追い詰められた職員さんが虐待に走らない為にどうすれば良いでしょうか?
4.ご家族が虐待されないための対策と心構え
定期的に施設を訪問し、職員さんに感謝を伝えるのは当然ですが、提案したい具体的な虐待防止対策は3つです。
- 認知症の薬の変更をかかりつけ医に相談します
- なるべく多く施設を訪問し、入居・入所しているご家族の食事の介助や着替えなどを手伝いながら、職員さんに感謝を伝えます。間接的に介護を丸投げしていないことを職員さんにアピールします。
- 入居・入所しているご家族を定期的に外出や外泊に連れだして、家族が入居・入所している家族を大切にしていることを職員さんにアピールします。
みなさんそれぞれご事情があり、日中に施設を訪問したり、外出や外泊に連れ出すことは難しいと思います。けれど、自宅介護なさっていた時の泣きそうだった毎日を思い出してください。
介護は心を削る仕事です。
職員さんたちが、毎日、心を削りながらあなたのご家族を介護してくださるから、お食事を頂き、清潔に体を保ち、命を長らえることが出来ています。
ところが施設は、慢性的に人手不足です。私の父が入居した老人ホームでは、新設時に入居しましたが、たった1年で施設長以外のスタッフ全員が入れ替わりました。スタッフがどんどん辞めてしまうような過酷な労働環境だからこそ、虐待も犯しかねないのでしょう。
大切なご家族を虐待されないためには、介護を施設に任せっきりにしない意識が必要です。
心を削って毎日介護をしてくださる職員さんに尊敬と感謝をいだきながら、少しでも職員さんと協力してご家族の介護を最期まで成し遂げられれば最高です。
次回2月28日の後編では、「虐待の芽チェックリスト(入所施設版) 」(*3)からチェック項目のご紹介とご家族が「職員から叩かれた」、「暴言を吐かれた」、「食事を取り上げられた」と訴えた時の解決策をお届けします。
補注
*1:「令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果 」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/000708459.pdf
*2:2月14日ブログ「高齢者への虐待が増えているそうですが、お世話になっている介護施設でも危ないですか?」https://kizuna-iyashi.com/2025/02/14/homemade-310/
*3:「養介護施設従事者等による高齢者虐待防止に役立つ資料等のリンク集 ー 4.高齢者虐待防止等に関わる虐待防止、予防のチェックリストの活用」公益財団法人 東京都福祉保健財団 https://www.fukushizaidan.jp/105kenriyougo/link/
以上