苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)(Christiane HeßlerによるPixabayからの画像)

2月21・28日と3月7日のブログで、施設やサービス事業者などによる高齢者虐待の予防方法や対応方法と連絡先を紹介しました。今回は、家族・親族や友人・知人などによる介護で虐待が疑われる場合の実例と「早期発見に役立つ12のサイン」を3回に分けてご紹介します。

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)(Mabel Amber, who will one dayによるPixabayからの画像)

1.ウチの母は認知症の父をひっぱたいていました

父はアルツハイマー型認知症で、デイサービスを利用しながら母と2人暮らし。鼻をかんだ後のティッシュをポケットにしまい込む癖が直らない父は、「何度言ったら分かるの?」と母の激怒を浴びていました。彼女も洗濯する前に父のポケット点検を忘れ、すべての洗濯物がティッシュまみれになる大惨事を度々起こしていたからです。

当時の母は70代後半でしたが、50代からリュウマチを患っているため常に痛みを抱えており、怒りの沸点が極度に低い状態でした。さらに、認知症の父に理解や記憶を求めても無駄だということを理解しようとしませんでした。母の激怒の種は、日常生活のあらゆることにありました。

あの頃、母は銀行ATMを操作できなくなったり、外出先でトイレの緊急呼び出しボタンと水洗の流すボタンを間違えたりしていたので、軽度認知障害が始まっていたのかもしれません。

激怒した母が父の頬をひっぱたく姿を見て、内緒でケアマネジャーさんに会い、母の虐待を相談。親身なケアマネジャーさんは、母のメンツを立てつつ、母へ慰労や助言などしてくださいました。

つまり、家族内の虐待なんて大事件ではありません。ありふれた出来事です。平手打ちは立派な「身体的虐待」ですが、母にすれば夫婦喧嘩か、妻の言いつけを守らない夫への体罰だったのでしょう。多くの場合と同じように、母にも虐待の自覚はありませんでした。

ただし放置して悪化させるのではなく、早めに専門家へ相談することが大切です。母は、20年以上もリュウマチを患い、常に痛みを抱えている状態だったので、介護することが無理でした。無理がたたって苦しいから攻撃的になり、面倒を起こす父を罵倒し、ひっぱたいていました。出来ないことを無理強いされる父も、キャパオーバーでヒステリックな母も可哀そうで、全員不幸でした。

虐待する人を極悪人と決めつけて、正義を振りかざしても解決方法にはなりません。虐待をする人も問題を抱えており、虐待された人も苦しんでいます。そして沼にはまった状態の当事者だけでは、解決方法が見つかりません。

だから介護を抱えた家族全員がより良く暮らせる方法を専門家に探していただくために、市区町村や地域包括支援センターに虐待の通報や相談をなさってください。

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)(Ben KerckxによるPixabayからの画像)

2.市区町村や地域包括支援センターには守秘義務があります

高齢者虐待防止法で、市区町村と高齢者虐待対応事務を委託されている地域包括支援センターは、受け付けた相談や通報について守秘義務が課せられています。

ですから、たとえばマンションの下の階の奥様が殴られていることを通報しても、ご安心ください。下の階のご主人にあなたが通報したことはわかりません。悪者扱いしたと思われたり、仕返しされることもありません。寄せられた情報の内容はもちろん、情報提供者を特定する情報は外部には決してもれません。

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)(Matthias BöckelによるPixabayからの画像)

3.虐待対応事例集から実例を紹介します

自宅介護で生まれてしまう虐待は複雑です。過去からの家族のいきさつや恨み・つらみ、あるいは依存関係がからみあっています。それでも専門家チームが、家族全員がより良く暮らせる方法を探した実例を紹介します。

①80歳代女性Aさん、(要介護認定の申請なし)1人暮らし、次女と三女が同じ市内に在住
居宅介護支援事業所に、「〇〇のAさんを助けてあげて欲しい」とお願いの電話が入りました。Aさんが行きつけの美容室で「家でお風呂に入るのが、1人暮らしだから大変なのよ」と話したことがきっかけでした。

居宅介護支援事業所から地域包括支援センターに連絡が入り、介護支援専門員(ケアマネジャー)が事情をうかがうためにAさんの自宅を訪問。

部屋にはネズミの糞が散乱し、埃やすすまみれで鼻を衝く臭気がこもり、床や畳はゴミで足の踏み場もない有様でした。Aさんご自身も何か月も入浴していない様子で、衣類も汚れ、異臭を放っています。

Aさんから日々の様子を伺い、以下の点が分かりました。「Aさんのご長女は、遠く離れた県外で働いていて忙しいこと。長男とは音信不通。同じ市内に住む次女と三女も仕事で忙しく、ほとんど誰も訪ねてこないこと。外出・買い物・通院などは、タクシーを呼んで自分でこなしている」などでした。さらに会話中に日時を間違えたり、話がかみ合わないことから認知症が疑われ、ごみ捨ての曜日を間違えるなどの日常生活上の問題も見つかりました。

Aさんは介護保険のサービス利用を中心に、ケアマネジャーが関わることとなりました。けれど、電話をかけても気が付かなかったり、受話器がはずれていたりと、Aさんは関係の維持に労力が必要な方でした。

同様に、ケアマネジャーが次女に電話連絡をとっても仕事を理由に断られ、三女にAさんの状況を説明しても仕事を理由に実家を訪問していただけません。やっと連絡がついて面談の日時を決めても、約束の日時に現れません。Aさんの状況説明も訪問のお願いも聞き流される状態。

「今までいろいろ手を尽くしましたが、母は私たちの言う事をまったく聞き入れません。本人の好きなようにさせてください」と突き放される状態でした。

それでもケアマネジャーは、Aさんがデイサービスを利用している時の様子や、督促状の件や年金の情報などをこまめに三女に電話連絡し続けました。特に重要な情報は手紙を書き、悪い情報だけでなく具体的な対処方法も添えて三女に送り続けました。

家族への働きかけを続けつつ、ケアマネジャーは民生委員と2人でAさんへの訪問を繰り返し、Aさんに拒否されていた配食サービスを利用することとなりました。Aさんの栄養状況の改善にも、ご近所の火事の不安にも対応できる一歩でした。

それでも隣近所から、火事の心配と大量発生しているネズミへの苦情が重なり、ついに民生委員と町内会の関係者から「Aさんの施設入所」を要請される事態となりました。

ケアマネジャーがこの顛末を三女に報告したところ、「他人のことなのに、いつもすみません。自分の親なのだから行ってみるようにします」と初めていわれました。これを機に、長女・次女・三女が互いに連絡を取り合うようになり、彼女たちの勧めによりAさんは次女・三女の家に近い認知症グループホームに入所することとなりました。

最初にAさんが、親のプライドから娘たちのアドバイスを否定してしまって繋がりが断たれ、娘たちは母親の劣悪な住環境や認知症の進行にも気付けなかったようです。ケアマネジャーから問題点ばかりを指摘され、いっそう頑なに拒否していた娘たちの気持ちをケアマネジャーが解きほぐした実例です。

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)(Gerson RodriguezによるPixabayからの画像)

これは「介護放棄・放任」の虐待にあたりますが、もちろん娘さんたちにその意識も自覚もありません。家族間で生じる問題は、長年のいきさつや感情が絡み合っています。

早期発見は、孤立死や介護殺人など悲惨な事故を防ぎます。対応事例でも新聞配達員や隣家の奥様、美容院や牛乳配達員からの通報や相談で、虐待が発覚しています。

そして残念なことに、介護や養護をなさっている家族・親族からの虐待のほうが、10倍以上多いです。令和5年度の調査では、市区町村が介護・養護者から虐待を受けたと判断した件数は、17,100 件。施設やサービス事業所の職員による虐待件数は 1,123 件です。(*1)

家の中での虐待は、施設やサービス事業所よりも発見されにくく、実際はもっと多いのかもしれません。

どうか何か異変を感じたら、市区町村の相談窓口や地域包括支援センターへ連絡・相談なさってください。家族・親族の虐待は長年のいきさつや感情のもつれに金銭問題まで絡み合って、とても複雑なので、家族だけでは解決できません。専門家チームにご家族全員がより良く暮らせる方法を探してもらいましょう。

次週3月21日の中編では、高齢者虐待対応事例集からいろいろな具体例を紹介します。

以上

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(前編)(ElenaによるPixabayからの画像)

補注

*1:「令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48003.html

参考資料

厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(国マニュアル)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200478_00002.html

神奈川県「養護者による高齢者虐待対応事例集」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u6s/cnt/f3673/p1082151.html

栃木県「栃木県高齢者虐待対応マニュアル」https://www.pref.tochigi.lg.jp/e03/welfare/koureisha/fukushi/1271757363316.html

青森県「高齢者虐待対応事例集(改訂版)」https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/koreihoken/jireisyuu-kaiteiban.html

以上

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