苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(後編)
先週3月21日の中編では、都道府県の高齢者虐待対応事例集からいろいろな実例を紹介しました。この後編では、最後の実例を1つと虐待の「早期発見に役立つ12のサイン」をご紹介します。
1.虐待対応事例集から実例を紹介します
自宅介護で生まれてしまう虐待は複雑です。過去からの家族のいきさつや恨み・つらみ、あるいは依存関係がからみあっています。それでも専門家チームが、家族全員がより良く暮らせる方法を探した実例を紹介します。
①60歳代女性Fさん(要介護3、認知症あり)弟夫婦と3人暮らし
市町村担当部署に、短期入所生活介護事業所から苦情が持ち込まれました。「Fさんの弟夫婦が、私ども施設の対応が悪いと不満を訴え、半年間利用料の支払いをしてくれません。期限を明示して、督促や利用料を払わない場合の退所について通知しましたが、一度も面会に現れず連絡もありません。行政の権限で、Fさんを別の施設へ移してください」との依頼でした。
この依頼を受けて市区町村の担当部署と地域包括支援センターは、Fさんのこれまでの介護保険サービスの利用状況を確認しました。
すると、短期入所生活介護事業所を転々とし、どこの施設でも、最初の2~3か月分は利用料を払いますが、その後は施設の対応不備を理由に不払いとなるため、施設側と再三トラブルを起こしていることが判明。
市区町村の担当職員と地域包括支援センターの職員が、Fさんの弟夫婦宅を訪問しますが、玄関先で「適切な対応をしない施設側が悪いので、支払いはしない。姉のFさんは引き取らない。」、「姉の年金は自分達が管理している。施設が対応を改善すれば、いずれ利用料も支払う。」と言うだけで、それ以上は取り合おうともしませんでした。

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(後編)(Peggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像)
緊急に市区町村の担当部署と地域包括支援センターは協議をおこない、Fさんの弟夫婦はFさんの年金を管理しているにもかかわらず、利用料を適切に支払わず、必要な面会や引き取り等を行うこともないことから、「介護・世話の放棄・放任、経済的虐待」にあたると判断。
「やむを得ない事由による措置」を適用してFさんを施設入所に切り替えることを確認しました。
また、弟夫婦に対しては行政がFさんを施設入所に切り替えた費用の自己負担額を請求し、納付されない場合は、一定の猶予期間を経過した後、成年後見制度の「市長申立て」を進めていくことも確認しました。(以下省略)
「市長申立て」とは、判断能力が不十分なため成年後見制度の利用が必要で、かつ、2親等内の親族がいない方や2親等内の親族の方がいても音信不通であること、あるいは虐待等があるため2親等内の申立てが期待できない場合に、市長が行うことができる申立てのことです。(*2)
行政は、このようにして高齢者を経済的虐待からも守っています。
2.虐待の「早期発見に役立つ12のサイン」
鹿児島県はホームページで高齢者虐待を防ぐための方法を詳しく解説しています。(*3)その中から、「早期発見に役立つ12のサイン」(https://www.pref.kagoshima.jp/ae05/kenko-fukushi/koreisya/gyakutai/documents/3735_20230420145836-1.pdf)を紹介します。
①身体に不自然な傷やアザがあり、原因をたずねると高齢者自身やその介護者の説明がしどろもどろで不自然。
②皮膚の弾力が低下していて、唇・舌が乾燥していると感じる。極度にやせていて、ぼんやりとして反応が鈍い。
③部屋の中に衣類、おむつ、食べかけの食事・食べ残しが散乱。冷暖房がついてなく、異臭が漂っている。
④自分で食事の準備や食べることができない高齢者が、デイサービス等で食事するときに、一気に食べたり、他人の分まで食べたがる。冷蔵庫の中に食材がなく、ヘルパーが来るまで何も食べていない。
⑤必要な薬を飲んでいない、服薬の介助をしていない。病状や体調の悪化がみられ、病院受診した形跡がない。
⑥強い無力感、抑うつ、あきらめ、投げやりな態度が見られる。話しかけにも表情が乏しく、声かけを拒否したり、自分のことをつまらないと卑下したり泣きだす。
⑦落ち着きなく動き回ったり、異常によくしゃべり、じっとしていない。落ち着きなさがみられ、自傷行為や体の揺すり、指しゃぶり、かみつき、不定愁訴の繰り返し、言葉の連続、オーバーな表現などがある。
⑧「年金を取り上げられた」と高齢者が訴える。年金があるはずなのに、介護サービスや医療を拒否したり着の身着のままのような身なりで、現金をほとんど持っていない。介護サービス利用料や生活費の滞納がみられ、身に覚えのない借金の取立てが来る。高価な物品が処分されてしまっている。
⑨高齢者を介護している様子が乱暴にみえる。無理に起こそうと手を引っ張ったり、威勢よくおむつ・尿パットを引き抜く。高齢者に対し、大声を出したり、乱暴な言葉遣いをする。
⑩家族が福祉・保健・介護関係の担当者を避ける。民生委員や保健師・ケアマネジャーなどの自宅訪問を断ったり、居留守を使う。必要な支援を勧めても、話を聞かずにすぐ断る。
⑪家の中から、家族の怒鳴り声や高齢者の悲鳴が聞こえる。激しい物音、物が割れたり当たったりする音、怒鳴り散らしている声、泣き叫ぶ声、懇願する声がする。
⑫天気が悪くても高齢者が長時間外にたたずんでいる、又はずっと姿をみかけない・急に姿をみかけなくなった。排泄の失敗があったらしく放置されている。昼間も窓がしまったまま、でかける姿をみない。
以上の12点は、「虐待の疑い」や「虐待の可能性」を示すサインに過ぎません。けれど早期発見は悲惨な事故を防ぎます。対応事例でも新聞配達員や隣家の奥様、美容院や牛乳配達からの通報や相談で、虐待が発覚しています。
そして残念なことに、介護や養護をなさっている近親者からの虐待のほうが、10倍以上多いです。令和5年度の調査では、市町村が介護・養護者から虐待を受けたと判断した件数は、17,100 件もあります。(*4)
家の中での虐待は、施設やサービス事業所よりも発見されにくく、実際はもっと多いのかもしれません。
どうか何か異変を感じたら、市区町村の相談窓口や地域包括支援センターへ連絡・相談なさってください。家族だけでは解決できない状況を、専門家チームがご家族全員がより良く暮らせる方法を探してくださいます。信頼して託しましょう。
以上
補注
*1:「在宅介護支援センターとは:在宅でのくらしや介護について不安や悩みをもつ高齢者やその家族に対し、在宅介護などに関する総合的な相談に応じ、ニーズに対応した各種の保健・医療・福祉サービスが総合的に受けられるよう調整をしています。」 東京の福祉オールガイド https://www.fukunavi.or.jp/fukunavi/eip/20kuwashiku/04k_kourei/zaitakukaigoshiensenta.html
*2:「市長申立てについて(成年後見制度)」印西市ホームページ https://www.city.inzai.lg.jp/0000017245.html#:~:text=%E5%B8%82%E9%95%B7%E7%94%B3%E7%AB%8B%E3%81%A6%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E5%88%A4%E6%96%AD%E8%83%BD%E5%8A%9B%E3%81%8C%E4%B8%8D%E5%8D%81%E5%88%86,%E7%94%B3%E7%AB%8B%E3%81%A6%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
*3:鹿児島県ホームページ「高齢者虐待防止に向けた取組について」https://www.pref.kagoshima.jp/ae05/kenko-fukushi/koreisya/gyakutai/koureigyakutaiboushi.html
*4:「令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48003.html
参考資料
厚生労働省「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(国マニュアル)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200478_00002.html
神奈川県「養護者による高齢者虐待対応事例集」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u6s/cnt/f3673/p1082151.html
栃木県「栃木県高齢者虐待対応マニュアル」https://www.pref.tochigi.lg.jp/e03/welfare/koureisha/fukushi/1271757363316.html
青森県「高齢者虐待対応事例集(改訂版)」https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/koreihoken/jireisyuu-kaiteiban.html
以上