万が一、あなたの認知症のご家族が行方不明になった場合の対処方法を紹介します!
2023年度に認知症で行方不明になられたシニアは、過去最多の1万9,039人!!!(*1)。2024年度の人数はまだ未発表ですが、今年には2万人を突破しそうです。先週4月4日のブログでは、ご家族が行方不明にならないための予防対策を紹介しました。今週は、万が一行方不明になった時の対処方法をお届けします。
1.近くの警察署に捜索依頼を出す
まず最初に警察に動いて頂けるように捜索依頼を提出します。愛知県国立長寿医療研究センターの「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル」(*2)によれば、発見者の第1位が一般市民39.9%で、第2位が警察の25.9%です。
家族・親族が発見者だった割合は、8.9%にすぎません。ですから、自分たちで探そうと考える前に警察に捜索依頼をしましょう。
またこのマニュアルによると、警察が届け出を受理してから発見されるまでの時間は平均6.6時間もかかっています。
桜美林大学老年学総合研究所の「認知症高齢者の徘徊・行方不明・死亡に関する研究」(*3)によると、行方不明から9時間以上を経過すると、発見率が徐々に下がります。
発見率を高めるためにも、一刻も早く警察に捜索依頼をしましょう!
この時、以下の情報を一緒に提供すれば、より発見しやすくなります。
①写真
②その日の衣類の特徴や持ち物など。
③身長・体重など身体的特徴
2.地域包括支援センターや市区町村の窓口に相談する
いくつかの市区町村では「徘徊SOSネットワーク」を構築しています。このネットワークは認知症の人などが行方不明になったときに素早く捜し始められるよう、行政・警察署・市民などが連携してつくった連絡網・捜索体制です。
あなたがお住いの地域にあるかどうかわかりませんので、まずは相談なさってください。
もしも徘徊SOSネットワークがあり、未登録の場合には警察署に提出したように①~③の情報が役立ちます。
また徘徊SOSネットワークがない場合でも、防災無線で行方不明者の情報を流して頂ければ、大きな助けとなります。
発見者の第1位は一般市民の39.9%ですから、通りすがりの方が偶然、発見してくださるかもしれません。
3.町内会や自治会や民生委員、よく行くコンビニやスーパー、駅の改札や警察の派出所などに相談する
「認知症高齢者の徘徊・行方不明・死亡に関する研究」(*3)によると、行方不明から9時間以上を経過すると、発見率が徐々に下がります。
行方不明から5日間経過してしまうと、生存率は0%になります。
行方不明が発生した場合、1分でも早く気付き、通報し、より多くの人手で捜索を開始することが重要です。
多くの方に捜索協力をお願い出来る町内会や自治会、民生委員はもちろん、行方不明になった家族がよく行っているコンビニやスーパー、お店などにも①~③の情報をもって、捜索協力をお願いします。
また、この研究によると行方不明になってから発見までの時間は以下の通りです。
85歳以上 12.0時間(中央値9.3時間)
75-84歳 13.3時間(中央値9.8時間)
65-74歳 16.5時間(中央値12.4時間)
64歳以下 18.3時間(中央値17.5時間)
つまり認知症の重症度よりも、比較的若く体力があるとより遠くまで行きやすく、より見つけにくくなります。
また発見までに時間がかかれば事故や怪我、死亡の可能性も高くなります。
行方不明のご家族が65~74歳の場合や75歳以上でも体力・脚力のある場合には、自転車や自家用車の有無を確認したり、バス停や駅に向かう道を探してはいかがでしょうか。
ちなみに、「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル」(*2)によると、行方不明になった時の移動手段は以下のとおりです。
*徒歩 70.4%
*自転車 9.1%
*自家用車 3.4%
*公共交通機関 2.2%
*その他 14.9%
4.行動パターンや生活歴から行きそうな場所を探してみる
「徘徊」と名付けられていますが、無意味に歩き回っているのではありません。大別すると2タイプに分かれます。
タイプAは、迷子型です。
認知症は、自分がいる場所や日時などの基本的状況を把握する能力、見当識(けんとうしき)が衰えるので、散歩の途中で訳がわからなくなります。
また、短期記憶も衰えるので、「あれ?この建物はさっき見た」と気が付くことができません。なんども同じ場所をグルグルと迷い続けます。
タイプBは、時空迷子型です。
なにかの拍子に昔の自分に戻ってしまい、昔の自分として行動しようとします。会社に行こうとしたり、子どものお迎えに行くと言い張ったりします。
意識は昔ですが、道は現在なので混乱し、迷子になります。
時空迷子の場合は、いつの時代に飛んだのか分からないので、探すことがとても難しいです。
日頃の会話から、何が気にかかっているのか、行方不明になったご家族はいつの時代の話をしていたかを、思い出してみてください。例えば、このような場所です。
*生まれ育った生家や以前住んでいた家
*若い頃に勤めていた会社や若い頃の転勤先
*子どもを預けていた保育園・幼稚園・小学校など
*以前耕していた田んぼや畑、よく行っていた公園など
*行方不明になった家族が散歩でよく行っていた場所
5.行方不明が2度目なら、以前に発見された場所を探す
「徘徊」は、繰り返す頻度が高い症状です。行方不明が2度目ならば、以前に発見された場所の付近やその経路を探してみてはいかがでしょうか?
愛知県警の458件のデータ(*2)によると、発見された時に自分の名前と住所を「言えた」人は153件、「言えなかった」人は305件。約2/3は自分の住所・氏名が言えない状態です。
いつもと同じ場所でも認知症の方には、初めての風景に見えているはずです。見覚えのない風景に、自分がどこに行こうとしていたのかも分からなくなってしまったら、途方にくれてパニックに陥るのは当然です。
時空迷子の場合は、どこに向かって歩いているか予想しにくいです。けれど迷子なら、いつもの散歩コースや煙草や新聞を買いに行く道をたどってみてはいかがでしょうか?
6.発見場所の22%は、同じ市町村内の普段の移動範囲より遠い場所
「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル」(*2)によれば、発見場所は以下の通りです。
*普段の移動範囲より遠い市町村内 22.0%
*市町村内より遠い同じ県内 21.1%
*自宅付近よりも遠い普段の移動範囲 15.9%
*不明 14.8%
*自宅付近よりは遠い近所 12.3%
*自宅敷地内 11.4%
*県外 2.4%
予想以上に遠くまで歩いて行っている状況が分かります。にもかかわらず、探す方法は限られています。
交通事故や踏切事故、骨折や用水路への転落など危険の多さに震えそうです。
残念ながら、行方不明になってからでは対応策は少ないことが現実です。
7.万が一に備えて、水辺を探す
この「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル」(*2)の第2章に、愛知県警察の認知症等による行方不明例のデータが載っています。
平成26年は951ケースのうち、16ケースが死亡発見。平成27年は1,218ケースのうち、18ケースが死亡発見でした。
平成26・27年の合計34ケースの場合、死亡発見の場所は以下の通りです。
*水場 50%
*田畑 12%
*公園・空き地 11%
*山林 9%
*線路 6%
*その他 12%
水場は、海や河川や用水路・ため池などです。万が一に備えて、水場を早めに探せば溺れる前に見つけられるかもしれません。
以上が行方不明になった時の対応方法です。
GPS(*4)も「見守りシール」(*5)もQRコード(*6)も身につけていないと、探す方法はあまりにも原始的です。
どうか行方不明になるリスクの高い、高齢者世帯や独り暮らしシニアの場合は「見守りシール」やQRコードを衣類や持ち物に貼り付けて、スマホに位置情報アプリをインストールしてください。
QRコードなら、持病や服薬の情報も伝えられます。インスリン注射がなくて昏睡状態に陥るといった事態も防げるかもしれません。
春(3-5月)が行方不明になることが最も多い季節で、特に午後から夕方にかけての時間帯に居なくなることが多いです。
くれぐれも気を付けて、美しい春の宵を楽しんでください。
補注
*1:「令和5年における行方不明者の状況」警察庁生活安全局人身安全・少年課 令和6年7月 https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/fumei/R05yukuefumeisha.pdf
*2:愛知県国立長寿医療研究センター「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル」(認知症高齢者の徘徊対応マニュアル改訂版(自治体向け)https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikihoukatu/ninchisho-pamphlet.html
*3:桜美林大学老年学総合研究所「認知症高齢者の徘徊・行方不明・死亡に関する研究」JSSP学会誌 学会講演集 https://plaza.umin.ac.jp/~safeprom/pdf/JssP10(1)SuzukiPaper.pdf
*4: GPS:らくらくホンやスマートフォンなどのGPS機能を使って、ご家族をはじめ大切な方の居場所を検索するサービス。 徘徊防止GPSで検索するといろいろな商品がでてきます。
*5:「見守りシール:行方不明になった認知症の方が早期にご自宅に戻れるよう、横浜市では、個人情報を守りながら身元を特定できる「見守りシール」を配布しています。」https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/fukushi-kaigo/koreisha-kaigo/ninchisyo/ninchisyo-sodan/sos.html
*6:QRコード:「どこシル伝言板」というQRコードを使った身元照会システム。この伝言板では、ラベルやシールに表示されたQRコードをスマホなどで読み取ってネット上の専用伝言板にアクセスし、そこで家族とやり取りができる仕組みになっている。QRコードを身に着けている本人の個人情報はいっさい開示されないが、「耳が遠い」、「糖尿病」といった症状は見ることができる。
「徘徊高齢者 QRコード」で検索すると、いろいろな商品が出てきます。
以上