在宅の軽度認知障害やアルツハイマー型認知症患者の家族介護者で、介護負担感が増減する原因と対策を紹介!(後編)
5月2日の前編では、 国立長寿医療研究センター 神谷正樹先生方の研究(*1)から、在宅の軽度認知障害の方とアルツハイマー型認知症の患者さんを介護なさっているご家族が感じる介護負担感の原因について紹介しました。この後編では、介護負担感を増加させない対策と調べる方法を紹介します。
1.介護負担感を軽減するための対策・方法
この論文のまとめで、神谷正樹先生はこう記されています。
『介護負担感の増加には,認知症の中核症状(*2)の悪化と 日常生活動作(ADL)(*3),手段的日常生活動作(IADL)(*4) の低下が影響していた.
また生活機能においては,男性患者は外出機会の増加,女性患者は家事動作能力の低下が介護負担の増加と関係している可能性が示唆された.
この結果から,介護負担感を軽減するには,認知症者の認知機能や生活機能を保つ介入を続けながら,介護者の疾患理解を進め,社会的なサービスの利用も併用しながら,介護者への依存をなるべく減らす必要があると考えられた.』
つまり、介護負担感を軽減できる対策・方法は以下の通りです。
①軽度認知障害・アルツハイマー型認知症の患者さんの認知機能を維持し、機能低下を防ぐリハビリテーションを受ける。
②軽度認知障害・アルツハイマー型認知症の患者さんの日常生活動作(ADL)、手段的日常生活動作(IADL) の低下を防ぎ、現状維持を目指すリハビリテーションを受ける。
(参考:排泄・入浴・更衣が主に介護負担感と関連します。全面介助の場合は自立よりも負担感が高く、日常生活動作(ADL) が中等度介助の場合には、低い場合に比べて介護負担感が高くなるという報告があります)
③BPSD(*5)の悪化を防ぐための、認知症患者さん個人に合わせた作業療法(*6)を受ける。
(参考:在宅認知症高齢者では、79% に何らかの BPSD が認められ、特に中等度認知症での BPSD の発現率は 89.7% という東京都福祉局の報告もあります。
BPSD に対する薬を使わない非薬物療法(*7)では、認知症の方と認知症の方を取り巻く全ての環境を評価し、行動・心理症状の原因を取り除くためのアプローチを行う方法や、介護に携わる方がBPSDの対応技術を学ぶ方法が有効です。)
④生活機能が衰えた男性患者さんの外出機会を増やすために、ケアマネジャーに相談して、介護保険サービスや地域のボランティアなどを活用する。
(参考:高齢男性は家事などを行わないことが多く、日中にすることがないので、外出を希望する場合が多いです。そのため、男性患者さんの家族は見守りを目的として共に外出することを余儀なくされ、時間的負担や精神的負担を感じやすくなります。)
⑤家事動作能力が低下した女性患者さんを介護する場合は、特に家事に不慣れな男性介護者の場合は、食洗機の利用や、弁当やスーパーの宅配サービスなどを利用する。
(参考:女性の認知症患者さんを介護する男性の場合、介護の他に新たに家事を行わなければならなくなり、時間的、身体的負担が増加します。
また、認知症患者さんは、近時記憶障害(*8)や遂行機能障害(*9)、失行症(*10)などの影響により、皿洗いの手順がわからなかったり、皿を片付ける場所を間違えたり、買う物を忘れたり、同じものを何度も買ったりします。
そのような失敗に対して、家事に不慣れな男性介護者がやり直しを行うので、介護負担感がいっそう増大してしまう原因と考えられます。)
⑥家族介護者も認知症の仕組みと症状などを学び、対応技術のコツなどを習得する。
(参考:認知症疾患診療ガイドライン 2017 (*11)によると、認知症患者さんを介護する人たちが認知症を学ぶことは、介護負担感を軽減するために中等度の効果があるとされています。
この研究を行った国立長寿医療研究センターリハビリテーション科では、介護者への教育を実施しているので、患者さんが依存的になっても、その対応に関する知識と技術を習得していたことで介護負担感が軽減されたと考えられます。)
⑦介護保険サービスを積極的に利用して介護者の休息時間を確保し、ケアマネジャーから情報を得て助成制度などを活用する。
(参考:訪問医療などの介護サービスを利用している在宅介護者は、介護負担感が軽減するとの報告があります。また、介護負担維持・減少群は介護サービスを有効活用できていた可能性があります。
介護サービスの有効活用で、介護者自身が休息の時間を確保できたのでしょう。また介護保険制度による助成やケアマネジャーからのアドバイスも受けることができるため、介護者の体調面、金銭面の負担感軽減に繋がったと考えられます。)
⑧家族参加型グループリハビリテーションに参加したり、認知症患者さんとともに家族介護者が参加し、交流できる場所を見つける。
(参考:家族参加型グループリハビリテーションでは、家族が他の患者さんや家族の中で協業作業を行うことで家族間の交流が成立し、連帯感が生まれます。家族の絆を確かめながら介護を行えるようになり、在宅ケアを継続する家族が多いとの報告があります。
国立長寿医療研究センターリハビリテーション科でも介護者が患者さんのリハビリテーションに参加することで、同じ立場の介護者が相互に支援するピアサポートの場を提供しています。
介護者の精神的安定や QOL の維持のために、軽度認知障害(MCI) および認知症患者とともに介護者が参加できる憩いの場を得ることは重要です。)
2.専門的な事柄は、地域包括支援センターや認知症専門医へ相談
A. 医療関係の問題は、認知症専門医に相談
「BPSDの悪化を防ぐための、認知症患者さん個人に合わせた作業療法」とか「認知機能を維持し、機能低下を防ぐリハビリテーション」などと言われても、どこで受診できるのか?、その療法が良いのか?別の何かが必要なのか?と分からないことだらけだと思います。
特に認知症は最新の治療法が頻繁に更新されるので、認知症専門医に診察していただくことが最善です。
認知症専門医、あるいは認知症専門医がいらっしゃる医療機関は、下のホームページで検索できます。
『日本認知症学会 専門医・施設を検索 https://dementia-japan.org/doctors/?tab=0&keyword=&prefecture=0&address=』
B. 介護保険サービスや地域サービスなどの情報は、地域包括支援センターに尋ねる
例えば、認知症の父の外出に付き添ってくれるボランティアとか、お住いの自治体が運営している配食サービスを知りたい場合は地域包括支援センターに相談するのが一番です。
もしも担当の地域包括支援センターがどこにあるのかわからない場合は、市区町村のWebサイトを確認したり、市区町村の介護保険担当の窓口に電話でお問い合わせください。
3.認知症患者さんとともに家族介護者が参加し、交流できる場所なら、「認知症の人と家族の会」か「認知症カフェ」!
「家族参加型グループリハビリテーション」をおこなっていらっしゃる医療施設を探すことはとても難しいと思います。国立長寿医療研究センターのリハビリテーション科だから実施できる訓練でしょう。
でも、仲間探しや交流の場所ならあります。
A.「公益社団法人 認知症の人と家族の会」
この会なら仲間を探し、交流できます。介護家族が集まり、介護の相談、情報交換、勉強会などを行っていらっしゃいます。「一人だけじゃない」「仲間がいる」と多くの方が参加されています。
認知症の人と家族の会副代表理事で、医師の杉山孝博先生による、認知症に関する医学知識のページもあり、経験者による無料電話相談も行っています。
まずはホームページをご覧ください。
『公益社団法人 認知症の人と家族の会 https://www.alzheimer.or.jp/』
B. お近くの「認知症カフェ」
「認知症カフェ」は、公民館や地域のコミュニティセンターなどの一室を利用して月に1回程度開かれる「憩いの場」です。介護施設や地域包括支援センターが運営しており、認知症のある方やそのご家族、地域住民など、誰もが気軽に集える場所です。
一般のカフェを訪れる感覚で、お茶やコーヒーなどの飲み物の提供を受けながら、認知症に関する講義を聞いたり、利用目的に合わせて思い思いの時間を過ごせます。
また、介護・福祉の専門家がいらっしゃるので、日頃の介護についての相談だけでなく、認知症のある方を支援するために必要な情報を得ることができます。
もちろん誰でも利用できます。原則予約は不要ですが、カフェによっては予約が必要なところもあるため、事前の確認をお願いします。予約が不要な「認知症カフェ」の場合は、飛び入りで参加することができます。
「認知症カフェ」は、全国で7,000か所以上あり、各自治体のウェブサイトに掲載されています。また、多くの認知症カフェがSNSやWebサイトなどでも情報発信を行っているので検索なさってみてください。
以上の情報が介護なさっているあなたの助けになると嬉しいです。あなたの負担感が少しでも軽減できることを祈っています。
謝辞:神谷正樹先生、大沢愛子先生、村田璃聖先生、植田郁恵先生, 前島伸一郎先生、櫻井孝先生、近藤和泉先生をはじめとして、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
補注
*1:論文「軽度認知障害と認知症患者の介護負担感の 1 年の経過と変化の要因に関する探索的検討」神谷 正樹,大沢 愛子,村田 璃聖,植田 郁恵, 前島伸一郎,櫻井 孝,近藤 和泉、日本認知症学会誌Dementia Japan Vol36-1; 142-151ページ, 2022年, https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2023/11/p142-151.pdf
*2: 認知症の中核症状:認知症で、脳の細胞が死ぬ、脳の働きが低下することによって直接的に起こる記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認などの認知機能の障害を中核症状と言います。健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/chukaku.html
*3:日常生活動作(ADL):日常生活動作(ADL)とはActivities of Daily Livingのことで、ADLのAはアクティビティー(動作)、DLはデイリーリビング(日常生活)を指します3)。日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のことです。健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenkou-undou/jiritu.html
*4:手段的日常生活動作(IADL): 手段的日常生活動作(IADL)は、基本的日常生活動作(BADL)の次の段階を指します。「掃除・料理・洗濯・買い物などの家事や交通機関の利用、電話対応などのコミュニケーション、スケジュール調整、服薬管理、金銭管理、趣味」などの複雑な日常生活動作のことを指します。健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenkou-undou/jiritu.html
*5:BPSD:認知症の方に見られる、落ち着きのなさや攻撃性、妄想、幻覚など、いろいろな行動や心理の変化を総称して、「認知症の行動・心理症状(BPSD)」と呼びます。認知症に伴う脳の機能低下が、これらの症状を引き起こす主な原因と考えられています。医療法人社団 明寿会 https://meijukai.com/2025/03/26/1366/
*6:「作業療法:認知症患者向けにおこなわれるリハビリによる非薬物療法は、作業療法と呼ばれています。ここで言う「作業」とは入浴、食事、排泄、家事など日常生活にかかわる活動のことを指します。
作業療法はこういった日常生活における活動を通して心身機能の維持や強化を図ります。自立した生活だけではなく社会との繋がりの回復なども目的としています。
また主に上肢筋力や手指の精密な動きなどの身体機能と判断能力などの心理機能を統合的に活用しておこなわれるので、非常に高いリハビリ効果を得ることが可能です。」日刊介護新聞 https://e-nursingcare.com/guide/dementia/rehabilitation/
*7:「非薬物療法:非薬物的療法とは、薬物を用いない治療的なアプローチのことで、リハビリテーションや心理療法などがあります。認知症の方と家族の方を支援する関わりや環境を整えることも大切な治療要素です。」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/hi-yakubutsu.html
*8「近時記憶障害:近時記憶とは、数分~数日ほど保持される記憶のことです。 思い出そうとした際にさまざまな記憶の干渉が入りますが、一度忘れたことでも記憶をたどることで思い出せるという特徴があります。」近時記憶とは? https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/activity/ninchisho/column2/16/#:~:text=%E8%BF%91%E6%99%82%E8%A8%98%E6%86%B6%E3%81%A8%E3%81%AF,%E6%80%9D%E3%81%84%E5%87%BA%E3%81%9B%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
*9:「遂行機能障害: 遂行機能障害(実行機能障害)とは、物事を倫理的に考え、計画を立て、効率的に実行することが困難になる障害です」遂行機能障害(実行機能障害)とは https://www.sompo-egaoclub.com/articles/topic/1610
*10:「失行症:認知症における失行とは①食事の時に箸やスプーンを使うことができない。②椅子から立ったり座ったりが分からない ③服を着たり脱いだりするときに、歯ブラシや電気カミソリを持つことができない。④電話やテレビのリモコン操作ができない」認知所の中核症状「失行」とは? https://www.minnanokaigo.com/news/kaigo-text/dementia/no286/
*11:認知症疾患診療ガイドライン 2017: 認知症に関する情報を網羅した診療ガイドラインに待望の改訂版。定義や疫学、診断、治療、社会資源などの総論的な内容から、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など原因疾患ごとの具体的な特徴や診断・治療法といった各論的な内容までを幅広く網羅。全編クリニカル・クエスチョン形式で、読者の疑問にダイレクトかつわかりやすく答える内容となっている。医学書院 https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/91798
以上