認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(Renan BrunによるPixabayからの画像)

6月20日の前編では、認知症の昼夜逆転も「認知症疾患医療センター」で専門医に診て頂くことが重要な点と、音楽療法・運動療法のエビデンスを紹介しました。今回は、昼夜逆転や認知症の不安症状などを緩和できて、家庭でも試すことができる方法を紹介します。

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(VariousPhotographyによるPixabayからの画像)

1.擬似的再現療法(SPT)を活用して、不安をなだめ安心感を与えられる動画を作ってはいかがですか?

擬似的再現療法(Simulated presence therapy)(*1)という治療方法があります。

これは、最初に家族の語りかけを動画や音声テープなどに録音・録画しておきます。患者さんが苦痛を感じたり、精神状況が不安定になった時に家族の動画や音声テープを視聴することで、存在を擬似的に再現して感情を刺激し、快適さや平穏をもたらす療法です。

田中 寛之先生(*2)の研究では、入院中に不適切な暴言が度々繰り返されていた認知症のAさんに対し、娘さんからのビデオレターを見せ、同時に音楽刺激も実施なさったそうです。

その結果、擬似的再現療法(Simulated presence therapy)を行う前と比較するとビデオレターを見せた後には、暴言の回数が軽減。音楽刺激では効果がありませんでした。

Aさんにとって、娘さんからのビデオレターによる擬似的再現療法(Simulated presence therapy)感情に対して強く働きかけAさんの心理的ニーズを満たす要因となったため、暴言が軽減したと考えられるそうです。

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認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(MatrixDiverによるPixabayからの画像)

これを応用して、夜中に度々起き出したり、「実家に帰る」と言い出すご家族にゆったりと語りかける動画を作ってはいかがでしょうか?

気持ちが落ち着くBGMを流しながら、「お母さんは大切で、家族に必要な存在です。どうか、いつまでもここに居て下さい」とか、「今は夜中なので、この週末に一緒にお母さんの実家を訪問しましょう」とかいろいろなパターンを作ってみてください。

夜中に起き出した時にその動画を繰り返し観ていただいて、どのパターンがもっとも効果が高いかを調べればよいと思います。あるいは、日によって効果のある動画が違うかもしれません。

動画のポイントは、理屈や常識を理解させようとか規則に従わせようとしないこと「好き」とか「嬉しい」などの感情を揺り動かして、安心させることです

擬似的再現療法(Simulated presence therapy)は、研究文献をまとめて分析した論文(*3)でも「認知症患者の行動障害の治療におけるこの療法は、サンプル数の少なさ等から有効性を示すには限界がある」と明言されています。

それでも、擬似的再現療法(Simulated presence therapy)を応用した動画作成をつよくお勧めします。なぜなら、以下のような利点があるからです。

  • 音楽療法や運動療法を受けられる医療機関が近所にあるかわからない
  • 動画や音声テープなら、無料で簡単に作れる
  • 深夜に起き出しても、動画などを繰り返し視聴できるようにセットすれば、家族の睡眠時間を確保できる
  • 夜中に何度も起き出した時には冷静に語りかけることなど難しいが、動画なら原稿を作り、慈愛に満ちて安心感を与えられる語りかけをしやすい
  • 昼夜逆転だけでなく、夕方になるとソワソワする夕暮れ症候群にも効果があるかもしれない

動画作成が分からない場合は、ChatGPTなどのAIに聞くか、Googleで検索するか、TikTok を見ているお孫さんに尋ねてはいかがでしょうか?

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(Ramon PeruchoによるPixabayからの画像)

2.家庭でも、すぐに取り入れられる4つの方法

最後に簡単に家庭でも試せる方法をご紹介します。

①朝の光を充分に浴びる

具体例毎朝30分以上散歩をしたり、歩けない場合は部屋のカーテンを開けて朝の日光を充分に浴びる。

理由:両目の網膜から大脳へと伸びる視神経が交わる場所のちょっと上に「視交叉上核(SCN)」(*4)と呼ばれる神経細胞の集団からなる小さな核があります。

この小さな核は、体内時計に関連する重要な働きを担っています。

  • 体内時計の中枢としての働き
  • 睡眠・覚醒リズムの制御
  • 全身の臓器にある体内時計の調整
  • 光の情報を受け取って体内時計を外界に同調させる
  • 松果体への信号を伝達し、睡眠を誘発するホルモンの分泌を調節する

認知症を患うとこの細胞が変性し、光に対する反応が鈍ります。光の情報を受け取れないために体内時計が乱れ、夕方や夜間に混乱や興奮が起きやすくなります。

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認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(Jiran ParkによるPixabayからの画像)

②日中の十分な活動量を確保する

具体例デイサービスの回数を増やしたり、趣味の活動に励んだり、軽いリハビリや散歩を取り入れる

理由:昼間の運動量が低下すると、夜になっても眠れなくなります。日中に体を動かすことで体温が上がったり、午前中に自然光を浴びることで、体内時計が調整されます。ところが、運動量が足りず体温が低いまま過ごすと、体内時計を調節できなくなります。

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認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像)

③睡眠環境の調整

快適な睡眠を得るために、寝室の温度、湿度、光、音、寝具などを整えます(*5)。具体的には以下の通りです。

温度と湿度:

  • 寝室の温度は、夏は26℃以下、冬は16℃以上が目安です。
  • 湿度は、夏・冬ともに50%〜60%が快適とされています。
  • 寝床内環境は、温度約32~34℃、湿度50%前後が理想的です。
  • 湯たんぽは、布団を温めて寝床内環境を快適にし、冷えによる不眠を防ぎます。

光:

  • 就寝前の光の照度は100~200ルクス(lx)(*6)を目安とし、色温度(*7)が低く、明るすぎない暗めの光でリラックスを促します。
  • 色温度の低い、赤みを帯びたやわらかい光で、照度(*8)は30ルクス以下の低照度の光がスムーズな入眠を促します。
  • 夜間のブルーライトには睡眠の質を下げる作用があると言われているので、就寝前のテレビやパソコン・スマホの視聴を避けます。
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    認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(Jiran ParkによるPixabayからの画像)

音:

  • 寝室は静かな環境が望ましいです。音量の目安としては図書館や木の葉の触れ合うくらいの音量です。
  • 騒音源がある場合は、耳栓や防音カーテン、ホワイトノイズマシンなどを利用しましょう。

寝具:

  • 枕やマットレスは、体格や好みに合わせて選びましょう。
  • 夏は吸湿性・放湿性の高い素材、冬は保温性の高い素材の寝具を選びましょう。

その他:

  • 寝る前にカフェインやアルコールを摂取しないようにしましょう。
  • 寝室は休息をとる場所であるため、リラックスできて居心地が良く、安心感のある空間であることが大切です。できれば、寝室は寝るだけの場所として使い、活動する空間と分けましょう。
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    認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(TommyによるPixabayからの画像)

④寝る前のルーティンを習慣づける

寝る前のルーティンを習慣づけることで、体が自然な眠りへとスムーズに移行します。これはルーティンを決めると、リラックスしやすくなると同時に「こうすれば眠れる」という自己暗示がかかり、眠りに入りやすくなるからです(*9)。

また、就寝・起床・食事の時間を一定に保ち、一日のリズムを乱さないようにします。ルーティンの具体例には下記のような方法があります。

足湯:
足湯は、足先の血行を改善し、全身の血行を促進する効果があります。特に、冷えやすい足先を温めることで、体全体が温まりやすくなります。

足湯は、副交感神経を優位にし、リラックス効果を高めることで、不眠の改善に役立つと考えられています。就寝の30分~1時間前に足湯をすると効果的です。(*10)

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(Peggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像)

ハンドマッサージ:
ハンドマッサージは、副交感神経を優位にし、体をリラックスモードに切り替えるのに役立ちます。これにより、寝つきが良くなり、深い眠りに入りやすくなります

また、手は多くの血管が集まる部位であり、マッサージによって血行が促進されると、全身の血行改善にもつながります。冷え性の方にとっては、手指を温めることで、よりリラックス効果が高まります。(*11)

アロマ:
ラベンダーやカモミールなどのアロマは、リラックス効果が高く、睡眠を促す効果が期待できます。ただし、香りが強すぎると逆効果になるため、好みの香りを少量使用しましょう。(*12)

以上ですが、試せそうな実例はありましたか?

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認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(JacquesによるPixabayからの画像)

昼夜逆転や夜中の徘徊は、睡眠時間を削られるのでとても辛い症状です。けれど、1時間おきに起きてしまうご本人も妄想や不安が入道雲のように湧きあがり、居ても立っても居られない状況なのでしょう。介護なさっているあなたが倒れる前に、昼夜逆転や不安などの症状が軽減することを祈っています。

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)

認知症の昼夜逆転や不安症状に困っているあなたに、最新の治療方法や家庭で出来る対策を紹介します!(後編)(nchasakaraによるPixabayからの画像)

謝辞:鈴木貴浩先生と田中 寛之先生および研究に携わった皆さまをはじめ、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。

補注

*1:「Simulated presence therapy for dementia」Version published: 20 April 2020 https://doi.org/10.1002/14651858.CD011882.pub3 Cochrane Library

*2:「◆実践報告 家族からのビデオレターによるSimulated Presence Therapyが言語的混乱行動を軽減させた認知症高齢者の一症例」田中 寛之、永田 優馬、石丸 大貴、小城 遼太、西川 隆、作業療法 36巻2号 (2017年4月発行) 医学専門雑誌・書籍の電子配信サービス ishop.jp https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.6003200210

*3:「Simulated presence therapy for dementia: a systematic review protocol」PMCID: PMC4874154  PMID: 27169742 2016 May 11;6(5):e011007. doi: 10.1136/bmjopen-2015-011007 National Library of Medicin

*4:「視交叉上核(しこうさじょうかく): 視交叉の直上の視床下部にある神経細胞の集団からなる小さな核。概日リズムを刻む体内時計の機能をもっている。」不眠・眠りの情報サイト スイミンネット https://www.suimin.net/words/sa/sikousajyoukaku.html

*5:「快眠のための環境作り:快眠のためには寝具とともに寝室の環境も整えることが大切です。睡眠をとる空間、光、音、温度・湿度の条件は睡眠に影響を与えます。」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-suimin/kaimin-kankyo-zukuri.html

*6:「ルクス(lx)は、照度の単位。照度とは光を受ける面の明るさのことで、光源から出た光がある面にどの程度降り注いでいるかを表します。」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-suimin/kaimin-kankyo-zukuri.html

*7:「色温度の単位はK(ケルビン)で表され、色温度が低いほどオレンジ色に近い暖色系の明かりで、色温度が高いほど白色~青色の寒色系の明かりとなります。」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-suimin/kaimin-kankyo-zukuri.html

*8:「照度(しょうど、英: illuminance)とは、物体の表面を照らす光の明るさを表す物理量である。 照度は人間の感じる量を表す心理物理量のひとつである。」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%85%A7%E5%BA%A6

*9:「快眠のコツ:ルーティンを決めると、リラックスしやすくなると同時に「こうすれば眠れる」という自己暗示がかかり、眠りに入りやすくなります。」大正健康ナビ https://www.taisho-kenko.com/column/128/

*10:「足浴のすすめ:おすすめは就寝時間の30分前​ 冷えやすい足先は、お湯で温めると心地良いものです。 服を着たままでも行えるので、眠れないときには、お試しください。」医療法人社団 西宮回生病院 https://kaiseihp.jp › news

*11:「ハンドマッサージがもたらす効果は?:寝る前にマッサージを受けると体の緊張がほぐれて入眠しやすい状態になるため、深い眠りに入りやすくなるでしょう。眠りが浅い、ぐっすり寝た気がしない、夜中何度も目が覚めてしまう、という方は、ハンドマッサージが良質な睡眠の助けとなるかもしれません。」生活リハビリデイサービス りふり https://rifuri.jp › blog › handmassage-kouka

*12:「睡眠時に使ってほしいおすすめアロマ!選び方や使い方:ラベンダーは、最もポピュラーなアロマ精油の一つで、「穏やかな眠りを誘う香り」としてとても有名な香りです。 心を落ち着かせたいとき、睡眠前に使用 します。」アロマと暮らす https://www.flavorlife.com/blog/sleep-duration/

以上

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