介護の知恵袋-自宅待機中のストレス解消法は?
4月7日、緊急事態が宣言され、感染拡大の重大局面に立たされていると言われています。そこで、ご自宅で介護なさっている皆さま、特に認知症のご家族を介護なさっているあなたへ、このブログをお届けします。認知症のご家族のストレスを解消する方法と、このような状況について「わらうかど」代表で、介護福祉士の金田さちこさんに寄稿頂きました。
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、高齢者の方の自宅待機の状況が増えています。 認知症の方、介護者の方も大変苦労されているのでは無いでしょう か。
外に出る機会の制限あるいは自粛が求められ、お互いのストレスがぶつかる事もある と思われます。
今回は、自宅待機による認知症の方のストレスを介護者としてどの ように支援できたら良いか、お伝えできればと思います。まずは、 すぐに実行できる方法です。
体を動かすことでストレスを忘れる
①体操や散歩など体を動かす環境を作る(外への散歩は感染状況を 見て判断する)
②洗濯物たたみなど出来る事をしてもらう
言葉やスキンシップでストレスの解消をする
③認知症の方に「ありがとう」と伝える
④介護者はきつい言葉を控え、温かく接する
⑤認知症の方に触れる
⑥家族と簡単なゲームを行ったり、認知症の方が知っている歌を流す・ 一緒に歌う
①②についてですが、ボーッとする時間があるとつい色々な問題を考えてしまい ます。体を動かすことでストレスを感じる時間を減らしたり忘れる ことが出来ます。
③は、私が勤めていたグループホームでは認知症の方が何かをして くれた時に、介護者が 『ありがとう』と伝える事を大切にしていました。
「ありがとう」は魔法の言葉で、「 あなたのおかげで私は幸せな気持ちですよ」「 あなたが必要ですよ」「あなたがいて良かったです」 などの沢山の意味が含まれています。
「ありがとう」と伝えることで、認知症の方の「出来なくなってし まった不安」のストレスが解消されます。
④は、認知症の方に繰り返し同じ事を言われたり、今まで出来てい た事が出来ない等の場面で、介護者はついきつい言葉で注意してし まいがちです。この対応は認知症の方のストレスを助長させます。
否定されると、認知症の方は出来ない事に対して不安が高まり、イ ライラや怒ることでストレスに対処しようとすることもあります。 お互いの信頼関係が崩れてしまわないように、出来る限り認知症の 方の「出来ない」というストレスを理解して対応します。「大丈夫」や「 こうしたほうがいいかもね」と自尊心を傷つけず安心させる言葉を かけて、認知症の方のストレスを解消すると良いでしょう。
⑤の、認知症の方に触れる(体をさする・手を握る)ことは、 認知症の方の心の落ち着きを取り戻し、体の緊張を緩和します。 認知症の方が不安そうな時は、 介護者は 微笑みながら認知症の方と同じ目線位置か介護者が下になるように姿勢を下げ、真正面からではなく隣か斜め前から温かい手で優しく手や肩に 触れましょう。
しかし注意点があります。認知症の方が気がたっている、 興奮している時には攻撃的になることがあり(すべての認知症の方がそうなるとは限りません)、 お互いがケガをすることもあるので、 そのような時は様子を見て対応することが大事です。
⑥は、家族と笑ったり、ゲームなどで「楽しい」 というポジティブな感情がストレスの解消につながります。 しかし無理強いや、 難しいルールのゲームで「出来ない」 という感情が、認知症の方にはストレスになる場合もあります。
そもそもストレスとはなんでしょう?
「ストレス」とは、 ある物事に対し耐えて無理をしている状態のことです。 心理的な事だけではなく、寒さや暑さもストレスの一種です。
ストレスの原因には何があるのでしょうか。 種類別に分けてみました。
①物理的ストレス……気温、気圧など
②環境的ストレス……騒音、振動、公害、照明など
③社会的ストレス……残業、夜勤、借金など
④肉体的ストレス……病気、けが、睡眠不足など
⑤精神的ストレス……家族などの病気・死、失恋、将来の不安
⑥人間関係ストレス……友人・家族などとのトラブル、 ライフイベントなど(「心のピンチを乗り越える!女性のストレス対処法」中村延江著 新星出版社から)
①の物理的ストレスの「気温」による「寒い」「暑い」または、「 気圧」による「なんだか頭重感がある」などの症状に対して、 認知症の方は「なんだか居心地が悪い」と感じても、 「判断力の障害」により 上着の着脱や横になって休むなどの対処が出来ない事や「言語障害 」によりそのような状態を他者に上手く伝えることが出来ないこと があります。
さらに、認知症の症状により「なんだか頭がぼーっとする」「 覚える事が出来ない」「夢と現実の境目がわからない」 と自分の病気に対しての不安も④の肉体的ストレス⑤ の精神的ストレスとなります。 これらのストレスによるイライラや不安に駆られて、認知症の方が落ち着かない行動をとる場合もあります 。
自宅待機のストレス
自宅待機の場合、今まで利用していたデイサービスに通えない、 外出が出来ないことから『自分を表現する場所がなくなる』『 自分を温かく迎えてくれる人に会えなくなる』と感じ、「 自分の存在価値」を確かめる事ができないストレスが生じると思わ れます。
例えば、デイサービスでは、体操、散歩、買い物やお料理づくり、 公園の清掃活動などを実施している所もあります。人は他者と挨拶を交わす、他者と自分を比べる、励まし合う、 社会に貢献することで『自分の存在価値』 を確かめる事ができます。
デイサービスで体操をすることで自分が健康的だと感じることや、 清掃活動をして人の役に立てたと感じること、 仲間やデイサービスの職員に「元気?」 と声をかけられるということに「自分は元気だ」「 必要とされている」「嬉しい」 と実感できるのでは無いかと思います。
認知症は、脳の障害により色々なことが出来なくなり、混乱や不安 というストレスを常に抱えています。 現在のように自宅待機になると、他者と関わることや活動が減りま す。すると混乱や不安を感じる時間が多くなります。それに加え高 齢者になると体力・各種器官の衰え、病気、身近な人の死、孤独など さらに多くのストレスを認知症の高齢者は抱えています。
人はストレス状態に陥っても、その原因が取り除かれて元に戻る生 活を繰り返しています。そのストレスを取り除く対処法には「 ストレスを解消する」「ストレスを避ける」「ストレスを忘れる」 などがあります。認知症の方のストレスに対処するには「 ストレスを忘れること」 「ストレスを解消すること」 を手助けしてあげると良いと思われます。
認知症の方のストレスを緩和することは「徘徊」「暴言」 などの周辺症状を減らすことにもつながり、 介護者の方の負担も減らすことが出来ます。
介護はチーム
介護には『多くの力(チーム)が必要』です。
現在、ウイルス感染拡大により、その「チーム」 が認知症の方に接触する機会が減りました。
多くの方の協力が得られない今のような自宅待機の状況は、 認知症の方と介護者が1対1になるということです。 それは介護者にとって体力的、精神的に厳しい状況です。
介護者の方のストレスに対処することも重要で、頑張り過ぎないこ とも大切です。
まとめ
自宅待機による認知症の方のストレスの対処法は
①認知症の方がストレスを忘れることが出来る環境を作る (体操、洗濯物たたみなど体を動かす環境)。
②認知症の方がリラックスできる環境を作る(室温管理、「 あなたがいて良かった」「そのままのあなたでいい」と感じること が出来る環境)。
これから2、3か月、自宅で過ごす状態が続くかもしれません。
「多くを求めず」「頑張りすぎない」ことが乗り切るコツです。
自宅待機で「機能が低下してしまうのでは」「 認知症が進むのでは」と心配になりますが
実はストレスは認知症や様々な病気を進行させてしまいます。 ゆったりと過ごすことが一番です。
今は、春の穏やかな陽気が幸いしていますので、窓際で日を浴びる などゆったりとする時間を作ってください。
高齢者施設での集団感染の時は、 介護者が頑張りすぎないように必要のない業務を減らし
認知症の方が安心していただけるように、笑顔で声をか けることを優先していました。
介護者がつぶれてしまわないことが大切です。1番は「自分」 を大切にすることです。
緊急事態宣言に関連して特にお伝えしたいこと
★行政サービスや高齢者向け事業は、 発令後も事業継続が求められています。
不安がある時や自宅介護に無理が生じた時は、 行政の高齢者サービス課やケアマネジャーに電話でご相談してくだ さい。
過度に心配せず、マメな手洗い、飛沫感染の状況を作らない、 手の触れる所の消毒や換気などに努めましょう。
★認知症の方はご自分で水分摂取の管理が難しくなります。 水分が不足すると、血液がドロドロの状態になり、 脳卒中のリスクが高くなります。
特に脳梗塞の既往歴のある方は注意してください。こまめな水分摂取(摂取制限のある方は水分摂取量に注意)を心がけ、 体を動かし血流も良くしてください。
《認知症の方の水分摂取のコツ》
① ヤクルトの容器など利用して、水分摂取はこまめに少量ずつ
②朝食前・昼食前・ 夕食前にイライラしてきたら空腹か喉が渇いたサインです。 お茶などを提供しましょう。
③ 掃除や庭仕事を手伝っていただいた後は「ありがとう! 助かりました。疲れたでしょう」と 声をかけて休んで頂き、さっぱりとした 飲み物(ジュース)を提供してみましょう。
★何よりも大切なことは、 早くウイルス感染を収束させ認知症の方を「チーム」 で支援できる状況にすることです。
繰り返しになりますが、介護者の方も頑張りすぎず 、認知症の方のストレスを理解することでお互いがリラックスでき る環境を作りましょう。
認知症のご家族に「ありがとう」とお伝えし、 時には手をつないだり、 背中をさすったりお互いの温かさを感じる時間を大切になさってく ださい。皆さまが笑顔で日常生活に戻れるよう、心からお祈りいたします。
「超高齢社会にわたしたちができること」
シニア向けアクティビティサービス「わらうかど」 代表 金田さちこ http://waraukado-club.com/