「小学校から離れて住む高齢女性はうつになりやすい」という論文をご紹介します

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「小学校から離れて住む高齢女性はうつになりやすい」という論文をご紹介します(えいこりんによる写真ACからの画像)

あなたのお住まいは400m以内に小学校がありますか? 千葉大学予防医学センターの研究チームは、65歳以上の高齢者131,871人を対象に、居住地から最寄りの小学校までの距離とうつとの関連を分析しました。この驚きの内容を分かりやすくご紹介します。

西田恵客員研究員らの研究チームは、131,871人の参加者(男性は63,430人で平均73.7歳、女性は68,441人で平均73.8歳)を対象とした、日本老年学評価研究(JAGES)2016の調査を分析。その結果、以下の点が判明しました。

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男性は、居住地から最寄りの小学校までの距離とうつには関連がみられない
●女性は、居住地から最寄りの小学校までの距離が400m以内に住んでいる参加者と比較して、距離が400m以上800m未満の参加者は1.06倍、800m以上である参加者は1.07倍うつのリスクが高い

この結論に実感はありますか?あなたのお住まいは、最寄りの小学校からどのくらい離れていらっしゃいますか?

私は全く知りませんでしたが、「小学校」は単に子どもたちが学ぶ場所だけではなく、近隣コミュニティの中核施設の1つなのだそうです。そのため、お住まいと小学校との距離の近さは、近隣の社会的結束と生活の質に積極的に関連するのだそうです。また、小学校の近くに住む高齢者は、社会的交流や集団活動が多く、幸福度や生活の質が高いというが報告もあるそうです。

このような観点から、この研究では小学校への近さと高齢者のメンタルヘルスとの関連を分析なさったそうです。131,871人の参加者のうち、うつ傾向にある高齢者は29,781人(全体の22.6%、男性14,534人、女性15,247人)でした。この方々を解析した結論が上にあげた2点です。

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では、なぜ小学校の近くに居住する高齢女性は、うつ病にかかるリスクが低いのでしょうか?

その要因として、次の3点があげられています。

  1. 女性は小学校関連の社会参加の頻度が高く、ソーシャル・キャピタル(人々が持つ信頼関係や人間関係(社会的ネットワーク)のこと)が高い可能がある
  2. 小学校近隣環境では、小学生との接触頻度が高く、女性のGenerativity(世代継承性)が高い可能性がある
  3. 小学校近隣環境の安全性が、近隣の安全リスクに敏感な女性のストレスを軽減している可能性がある

1.の要因は「小学校」という施設が果たす役割が、近隣コミュニティの中核施設の1つで、選挙の会場や運動イベントなど地域イベントによく使用されることにあるのでしょう。「小学校」が近隣コミュニティの施設だからこそ、個人やコミュニティの活動に関わり易く、近いからこそ近所にお住いの女性は参加しやすいので、信頼関係や社会的ネットワークを築き易いのではないでしょうか。

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2.で挙げられた「Generativity(世代継承性)」という考え方は、アメリカ合衆国の発達心理学者で、精神分析家のエリク・H・エリクソン( Erik H Erikson)が提唱した概念です。エリクソンは自我の発達を8つの段階に区分し、中年期以降になると、家庭内での子育てや職場での部下の指導などを通して、次世代を担う若い世代への関心が高まると考えました。こうした関心を、エリクソンは「Generativity」と名付け、中年期の心理社会的発達課題としました。

そして長寿化や晩婚化等の社会的背景の変化により、「Generativity」は中年期のみならず、高齢期においても重要な発達課題となっていることが指摘されています。

つまり、小学校の近くに住んでいると、学校への行き帰りの小学生を見たり、聞いたり、話したりするなど、子供たちと日常的に接触する機会が多く、世代間の交流を促進する可能性が高いので、高齢期にも高まる若い世代への関心を満たしやすいのでしょう。

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3.の要因の背景には内閣府の政策があります。住民、学校、教育委員会、地方自治体、警察の協力により、地域に根ざした監督、警察のパトロール、交通規制など、通学路の交通安全が推進されています。また通学区域は、子どもたちを交通事故から守るための交通安全政策の重要な地域として指定されており、通学路の小学校から半径500m以内に設定されています。スクールゾーンでは、新しい横断歩道や縁石ミラーの設置、歩道の拡幅、一方通行と速度制限、授業時間中の通行禁止など、さまざまな交通規制も課せられています。

そして近隣の安全リスクに関する認識は男性よりも女性の方が高いされ、女性は近所の交通安全度が低いことに関してより敏感で、ストレスを感じるかもしれません。この研究の結果は、小学校から遠く離れた場所に住む女性のうつ病の発生率が高いという以前の研究の結果と一致しています。

交通安全が推進され、警察のパトロールなども行われている「小学校」の近所は、より不安を感じにくく住み心地が良いからうつ病のリスクが低いのではないでしょうか。

小学校から800m以上離れた場所に住んでいる私の場合、1.コミュニティ活動になるべく参加して友人や社会的ネットワークの構築と、2.世代間の交流に励んで若い世代への関心を満たすことを心がけたとしても、3.近隣の安全性はどう高めれば良いのでしょうか? 終の棲家を、小学校までの距離が400m以内に探さないとダメかしら?

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謝辞:千葉大学予防医学センターの西田恵客員研究員、花里真道准教授、古賀千絵特任研究員、近藤克則教授の研究チームと関わったすべての研究者のみならず、ボランティアの方々、ご協力なさった全ての皆様に感謝するとともに、この研究の進展・発展を祈念します。

《参考》

☆論文「小学校の近接性と日本人の高齢者のうつ病との関連:JAGES2016調査からの横断的研究」https://www.mdpi.com/1660-4601/18/2/500/htm

☆プレスリリース「女性高齢者のうつリスクに関わる新たな環境要因が明らかに-小学校から離れた距離に住む高齢女性者は1.07倍うつが多いー 」https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2021/20210416school.pdf

☆千葉大学 ニュース「女性高齢者のうつリスクに関わる新たな環境要因が明らかにー小学校から離れた距離に住む高齢女性者は1.07倍うつが多いー」https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/107.html

☆千葉大学予防医学センターにある健康都市・空間デザインラボのウェブサイト https://hpd.cpms.chiba-u.jp/

☆フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』エリク・H・エリクソン https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%BBH%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%83%B3

以上

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