3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』(DidgemanによるPixabayからの画像)

長谷川和夫(はせがわ・かずお)先生は、2021年11月13日、92歳で老衰のため逝去なさいました。認知症診断に広く使われている「長谷川式認知症スケール」を1970年代に開発なさった、認知症診療の第一人者でした。その長谷川先生が2017年に認知症と診断され、この事実を公表。『認知症になることが不安な高齢者や、高齢者を親に持つ方々に知ってほしい』と執筆された本を紹介します。

『認知症でも心は豊かに生きている - 認知症になった認知症専門医 長谷川和夫100の言葉』長谷川和夫(はせがわ・かずお)著、2020年8月発行、発行所:中央法規出版㈱、定価1,300円+税、ISBN978-4-8058-8190-3

本のサイズは、縦19㎝弱、横13㎝弱、厚さ1.5㎝弱、206ページ。そして要点が簡潔にまとまっているので、とても読みやすいです!100の言葉が、5章に分けられて並べられ、1つの言葉は見開きの右ページに要点が5ミリ四方の大文字で書かれ、左ページにも新聞記事くらいの大きさの文字が8行、250字程度にまとめられています。

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている(May_hokkaidoによるPixabayからの画像)

内容は、以下の通りです。

  • はじめに
  • 序章 認知症研究の第一人者が認知症になってわかったこと(1~14の言葉)
  • 第1章 認知症を恐れるあなたへ(15~34の言葉)
  • 第2章 身近な人が認知症になったら(35~59の言葉)
  • 第3章 認知症介護に必要なパーソン・センタード・ケアとは?(60~90の言葉)
  • 第4章 認知症700万人の時代を生きる心得(91~100の言葉)
  • あとがきにかえて

ご覧のように、100の言葉のうち第2章の認知症介護に携わるご家族への言葉が24、第3章の認知症のケアの考え方を伝える言葉が30。長谷川先生は、特に認知症介護方法に重点をおいて指針を残していらっしゃいます。

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』(NaturellによるPixabayからの画像)

「不便と不幸の違い」認知症になったのは不便なことですが不幸なことではありません。

(前略)認知症の本質は何かというと、暮らしの障害です。朝起きて、ご飯を食べて、出掛ける準備をして、後片づけや洗濯をして・・・こうした今までの暮らしがうまくいかなくなることです。確かに不便ですが、これらは周囲との関わり方によって随分違ってきます。すごい障害だと思い込まず柔軟に対処すれば、案外そうでもなくなることがありえます。』(序章 認知症研究の第一人者が認知症になってわかったこと 32~33ページ、言葉の11より引用)

このように認知症に罹ることを恐れているお年寄りに向けて、『認知症は、暮らしの障害で、不便だけど不幸じゃない』と長谷川先生は断言なさいます。そして第4章では数字を挙げて、今後は誰でも認知症になりうると説明しています。

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』(congerdesignによるPixabayからの画像)

「人生100年時代の認知症」人生100年時代。90歳以上になると認知症の人の割合は過半数となります。

年を取ると誰でも認知症になる可能性があると述べましたが、国の研究班による平成25年の推計では、年齢別の認知症発症率は、65~69歳が2.9%70~74歳は4.1%ほどですが、75~79歳では13.6%80~84歳は21.8%85~89歳は41.4%と次第に高くなっていき、90~94歳では61.0%、そして95歳以上になると79.5%にも達します。90歳以上では、むしろ認知症の人が多数派になるのです。(後略)』(第4章 認知症700万人の時代を生きる心得 186~187ページ、言葉の92より引用)

高齢化と認知症発症率を合わせると、3年後の2025年には「認知症700万人時代」が来るそうです。だからこそ、長谷川先生は認知症を恐れる高齢者へ『(認知症は)神様の恩寵』(序章 34~35ページ 言葉の12)と書き記し、次に介護を担う方々に宛てて具体的な方法を残していらっしゃいます

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』(Kapa65によるPixabayからの画像)

第2章 身近な人が認知症になったら(80~124ページ)

  • 正しい認知症の知識(80~81ページ)
  • 安心してもらうこと(94~95ページ)
  • ついつい言い返してしまうと(96~97ページ)
  • BPSD*を理解するには(98~99ページ)
  • 作話の目的を知ろう(100~101ぺージ)
  • 「盗まれた」と疑われた時には(102~103ページ)
  • 失見当と徘徊(104~105ページ)
  • 本能的行動と認知症(106~107ページ)
  • 幻視・幻聴と認知症(108~109ページ)
  • 介護環境とBPSD(110~111ページ)
  • 1人ではできない認知症ケア(118~119ページ)
  • ゆとりを持った介護とは?(120~121ページ)

第3章 認知症介護に必要なパーソン・センタード・ケアとは?の章でも、「笑顔の効果」「認知症ケアに必要な3つのスキル」「聴く重要性」など具体的な指針が詰まっています。

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』(andreasmetallerreni によるPixabayからの画像)

さらに長谷川先生も六車由実さん認知症でも生きた証を家族へ残し、半身麻痺でも自信を取り戻せる方法『驚きの介護民俗学』を紹介します!と同じように、昔話を話してもらうことを重視なさっています。

『(前略)昔話を話してもらう時間を設けることは、認知症の人の介護にとても有効です。昔話をすることで、不安や焦燥感が軽くなり、自信を取り戻し、生き生きとした表情になることもまれではありません。

自分の生活史を語ることで、自らの人生の意義づけを行えるため、これからを生きていく上でのアイデンティティの再確認にもつながります』(第2章 身近な人が認知症になったら 91ページ 言葉の40より引用)

現実の生活の中で自信をなくし、混乱しやすいお年寄りも、古い記憶を思い出す(回想する)ことで次第に落ち着いてくることがあります。また、昔話を聞くことで、介護者はより深く相手を理解できるようになります。(中略)

回想してもらう時に気をつけることは、「今ならこうだ」などと無理に現代へと引っ張ったり、「私はこう思う」などと意見をはさんだりしないことです。まずはのびのびと楽しく語ってもらいましょうね。』(第2章 身近な人が認知症になったら 93ページ 言葉の41より引用)

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』(SamuelStoneによるPixabayからの画像)

「その人らしさ、その人の物語」 その人らしさ、その人の物語とは、その人の生活の状態や役割を超えたところにある、その人のアイデンティティです。

キットウッドが挙げる認知症の人の心理的な欲求の要件の残る1つは「自分らしさ」。介護する側からみれば「その人らしさ」です。

人はみんな自分だけの物語を持っています。それは認知症の人であっても同じです。第2章で挙げたように昔話をしてもらうことは、その人の人生独自の物語を意味づける上で有効です。その人らしさが詰まった過去の物語を聴く時間を持ってみましょう。認知症の人から物語を聴くと、さらにその人の考え方や思いを理解できるので、認知症の人の尊厳を大切にし、心理的な欲求を知ることが可能になります。』(第3章 認知症介護に必要なパーソン・センタード・ケアとは? 136~137ページ、言葉の65より引用)

迷子になったり仕事や家事ができなくなって自信を失い、混乱しているお年寄りが、楽しかった時代や苦しみながら乗り越えた過去を話すことで「自分らしさ」を取り戻せたら素晴らしいと思います。

『自分が認知症になり、私もようやく本物の認知症研究者になれたのではないかと思っています。』(序章 12ページより引用)と言葉の最初に記した長谷川先生のこの本を、ご両親の介護を心配しているあなたに心から勧めます。

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』

3年後「認知症700万人時代」に備えて認知症になった認知症専門医が残した『認知症でも心は豊かに生きている』(katerinavulcova によるPixabayからの画像)

 *BPDS: 認知症の症状には、「中核症状」と、「BPSD(行動・心理症状)」があり、中核症状に付随して発生する二次的な症状を指す。不安、抑うつ、焦燥、妄想や幻覚、さらには徘徊や人格の変化(嘘をつく、反社会的な行動をする)等が現れる。BPSDは、本人の性格や生活環境をはじめ、接している人との関係などによって症状の現れ方が異なるので、個人差が大きい。(みんなの介護 「認知症の周辺症状(BPSD)とは?」より引用)

☆『認知症でも心は豊かに生きている - 認知症になった認知症専門医 長谷川和夫100の言葉』https://www.chuohoki.co.jp/products/welfare/8190/

☆「認知症界のレジェンド」長谷川和夫さんが残したもの(読売新聞オンライン)https://www.yomiuri.co.jp/column/anshin/20211130-OYT8T50006/

☆認知症でも生きた証を家族へ残し、半身麻痺でも自信を取り戻せる方法『驚きの介護民俗学』を紹介します!https://kizuna-iyashi.com/2022/04/15/homemade-158/

以上

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