超簡単な認知症ガイダンス!認知症の平均余命と主な症状をざっくりと紹介します。(中編)
癌に罹ると、癌のステージと治療方法、さらには余命や今後の経過が知らされます。ところが認知症では、現在の病期や治療方法、あるいは余命などを説明されたと聞いたことがありません。けれど認知症も脳の神経細胞がふつうの老化よりも速く減少してしまう病気で、平均10年で死に至ります。在宅介護の限界を見極めるためにも、5月10日の前編に続き、超簡単な認知症ガイダンスの中編をお届けします。
3.認知症の症状には、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の2種類があります
認知症は、脳の神経細胞がふつうの老化よりも速く減少してしまう脳の病気です。壊れてしまった脳の細胞が担っていた役割が失われることで起こる症状を「中核症状」(*12)と言います。
「中核症状」が現れること、つまり今日の日付が分からなくなったり、迷子になったりすることで精神的に落ち込んだり、できないことに焦りを感じたり、不安になったり……このような性格や心理状況が原因となって起きる症状が「行動・心理症状(BPSD)」です。
「行動・心理症状(BPSD)」は、「中核症状」の状態、ご本人の性格、身体状況、生活環境、一緒に生活する家族や介護スタッフとの人間関係などによって大きく左右される症状です。現れ方も人によって異なります。ほとんど出ない人もいますし、ある症状が極端に強い人もいます。
★主な「中核症状」
①記憶障害:
■食事を食べたことを忘れる。
■もの忘れが激しく、さっき聞いたことが思い出せない。新しいことを覚えられない。
■昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事を忘れている。
■認知症の進行とともに、子どもの頃の記憶や昔から覚えていたことも次第に消えていく。
②見当識障害:
■時間、季節、場所、人物などがわからない。
■通い慣れた場所へ行けなくなったり、迷子になったりする。
■知っているはずの人を見ても誰だか思い出せなくなる。
③失語:
■自分の言いたいことをうまく話せない。
■相手の話が理解できない。
■物の名前などが思い出せない。
■「聞く・話す・読む・書く」ができなくなり、会話のつじつまが合わない。
④失行:
■服の着方を忘れて洋服が着替えられなくなる。
■洗濯機・電子レンジ・ウォシュレット・箸やハサミなどの使い方が分からなくなる。
■今までできていたことができなくなる。
⑤失認:
■時計の文字盤が読めない。
■知覚したものを正しく把握することができなくなり、人の顔や遠近感がわからない。そのため、物や人によくぶつかる。
■犬の鳴き声や電話の音を聞いても何の音かわからなくなる。
⑥実行機能障害:
■料理をつくる段取りや、旅行の計画が立てられない。
■買おうとしていたものが売っていない場合、他のもので代用するなどの予想外のことができなくなる。
⑦理解・判断力の低下:
■理解することに時間がかかり、情報を処理する能力も低下して、一度に2つ以上のことを言われると分からなくなる。
■いつもとは違う出来事、例えばお葬式などでは対応できず、混乱する。
■目に見えないものが理解しにくく、自動販売機や駅の自動改札機、銀行のATMなどが操作できなくなる。
★主な「行動・心理症状(BPSD)」
①行動症状:
■ 暴言、暴力
■ 焦燥
■ 奇声・叫声
■ 介護抵抗・治療拒否
■ 食行動異常(過食、異食、拒食)
■ 徘徊
■ 失禁、不潔行為
■ つきまとい
■ 仮性作業(衣類をタンスにしまっては取り出すなど、意味のない動作を繰り返す)
■ 夕暮れ症候群(夕方になると落ち着かなくなったり、何度も同じことを繰り返したり、「家に帰る」と帰り支度をする)
②心理症状:
■ 妄想(物盗られ妄想、嫉妬妄想、被害妄想など)
■ 幻覚(幻視、幻聴)
■ 不眠
■ 抑うつ、不安
■ 無為、無反応(意欲がなくなり何もしない、ボーっとしている)
■ 易怒性(ささいなことで怒りやすくなる、すぐにイライラする)など
4.認知症の進行時期によって出現しやすい「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」
認知症の60%を占めるアルツハイマー型認知症の場合、「初期」、「中期」、「末期」によって現れやすい「中核症状」や「行動・心理症状(BPSD)」が違います。(*13)
「初期」:抑うつ、不安感、物取られ妄想、記憶障害、記銘力障害(*14)、時間についての見当識障害
「中期」:妄想、幻覚、徘徊、失行、失認など
「末期」:食物以外のものを食べてしまう異食、人格変化(*15)、無言、無動、大脳の機能が失われてしまい目は動かせるが体は動かせず、何も話さない失外套症候群(*16)など
次週5月24日の後編では、代表的な4種類「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」のそれぞれの特徴と症状を説明し、「認知症は天からのギフト」という和田秀樹先生のご意見を紹介します。
謝辞:和田秀樹先生をはじめ、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
★厚生労働省「認知症介護情報ネットワーク」https://www.dcnet.gr.jp/
★公益社団法人「認知症の人と家族の会」https://www.alzheimer.or.jp/
補注
*1:「認知症の有病率」認知症と共に生きる高齢者の人口 東京都健康長寿医療センター研究所 https://www.tmghig.jp/research/topics/201703-3382/
*2:「生活習慣病と認知症」日本内科学会雑誌第108巻第4号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/4/108_701/_pdf
*3:「難聴と認知症の関連について」東京逓信病院 https://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/shinryo/jibi/hearingaid.html
*4:「歯周病と歯周病菌は認知症を悪化する?」国立長寿医療研究センター https://www.ncgg.go.jp/ri/labo/19.html
*6:「若年性認知症とは」三重大学大学院医学系研究科認知症医療学講座 https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000738957.pdf
*7:「認知症の種類とそれぞれの原因・症状を解説」太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/003.html#:~:text=%E3%81%AA%E3%81%8A%E3%80%81%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%81%AB%E3%81%AF,%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%8C%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E7%9A%84%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
*8:「軽度認知障害について」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/kibou_00007.html
*9:『ぼけの壁』和田秀樹著、2023年1月発行、幻冬舎新書677、幻冬舎、定価900円+税、ISBN978-4-344-98679-4
*10:「見当識障害:時間に関する見当識が薄らぐと、長時間待つとか、予定に合わせて準備することができなくなります。何回も念を押しておいた外出の時刻に準備ができなかったりします。
もう少し進むと、時間感覚だけでなく日付や季節、年次におよび、何回も今日は何日かと質問する、季節感のない服を着る、自分の年がわからないなどが起こります。
さらに進行すると迷子になったり、遠くに歩いて行こうとします。初めは方向感覚が薄らいでも、周囲の景色をヒントに道を間違えないで歩くことができますが、暗くてヒントがなくなったり、ヒントを理解できなくなると迷子になります。」介護保険施設等運営指導マニュアル(案)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/8994_206382_misc.pdf
*11:「行動・心理症状(BPSD):行動・心理症状は、周囲の不適切なケアや身体の不調や不快、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れる症状です。例えば、「怒りっぽくなる」「妄想がある」「意欲がなくなり元気がない」「一人でウロウロと歩き回る」「興奮したり、暴言や暴力が見られる」などの症状のことを言います。」中核症状と行動・心理症状(BPSD)〜知っておきたい認知症のこと〜 社会医療法人甲友会 https://www.nk-hospital.or.jp/friends/191206/
*12:「認知症の中核症状」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/chukaku.html
*13:「認知症の周辺症状(BPSD)の出現時期」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/shuhen.html
*14:「記銘力障害:記憶障害の一種で、新たに知覚し、体験した情報を記憶の中に取り入れ留めておくことができなくなる障害をさします。一般に脳障害の症状として現れますが、ストレス反応でも起こることがあります。」こころの耳 厚生労働省 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1538/
*15:「前頭側頭型認知症を知っていますか? 顕著な人格変化の原因であることも」なかまぁる 認知症とともにあるウェブメディア https://nakamaaru.asahi.com/article/14984981
*16:「失外套症候群(しつがいとうしょうこうぐん)とは:大脳皮質の機能障害によって、大脳皮質機能が不可逆的に失われた状態。眼は動かすが、無動で無言。睡眠と覚醒の調節は保たれている。」看護ライフ ナースプラス https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/dictionary/sagyo/shi/20230301-2159301/
*17:『80代から認知症はフツー ~ボケを明るく生きる~』和田秀樹著、第5章認知症といっしょに生きる 190~192頁、2022年10月発行、株式会社興陽館、定価1,000円+税、ISBN978-4-87723-297-9
以上