認知症のBPSD改善に効果のある介護サービスを紹介します!(前編)
數井 裕光先生がたの研究グループは2014年に、大阪府社会福祉協議会に属する事業所で認知症の介護に従事されている職員の皆様のご協力のもとアンケート調査を行いました。ケアマネジャー・介護職員・施設管理者・ソーシャルワーカー等の皆さんが「効果あり」と感じた介護サービスとその理由を、今回と次回6月14日中編と6月21日後編の3回に分けて紹介します。
1.資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」より抜粋(妄想~うつ・不快まで)
■妄想に対して有効と思われる介護サービス
1位:認知症対応型共同生活介護(地域密着型サービス)
≪サービス内容:グループホームなどで比較的安定状態にある認知症要介護者を対象に、共同生活の中で入浴・食事の提供とその介助、日常生活の世話を行う。 ≫
理由:☆少人数で、個別的な関わりができる。
☆専門性が高い、もしくは同じ症状の方が利用されることが多い。
2位: 通所介護(デイサービス)
≪サービス内容:デイサービスセンター等において、日帰りで入浴・食事の提供とその介助、日常生活の世話と機能訓練を行う。≫
理由:☆他者との交流。
☆環境をかえ、訴えを傾聴して対応することが有効。
補足:妄想とはー「私の財布を盗ったでしょ?」「妻が浮気している」「家族が私をのけ者にする」などの物盗られ妄想や被害妄想などです。思い違いを説明しても納得せず、強く信じ込んでいます。
妄想が生じる原因としては、認知機能の低下で状況判断が困難であることが挙げられます。また、周囲との関係が希薄であり、患者さんの心の中に不安や孤独、寂しさ、疎外感、不信感が潜んでいることが多いです。(*1)
■幻覚に対して有効と思われる介護サービス
1位:認知症対応型共同生活介護(地域密着型サービス)
理由:☆認知症専門のスタッフが常駐しており、少人数のグループで対応している。
☆人員配置が厚い。
2位: 通所介護(デイサービス)
理由:☆共感できる人、傾聴する人が居る。
☆レクリエーションやリハビリテーションで気をそらさせる事が出来る。
3位:訪問看護
≪サービス内容:看護師等が訪問し、療養の世話や診療補助を行う(医療依存度が高い場合には、医療保険の対象)。≫
理由:☆看護師の介入により、精神的な不安を軽減できる。
☆医療的サポートが必要。
補足:幻覚とはー実在しないものを実在するかのように体験します。実在するものを事実と違ったものとして認識する「錯覚」もBPSDのひとつです。幻視は「子供が遊んでいる」と話すなど、視覚上の幻覚です。ほかに実在しない音が聞こえる幻聴、実在しない味がする幻味、実在しない臭いがする幻臭、実在しないものに触れる感覚がする幻触などもあります。
これらは認知機能の低下によって起こります。(*2)
■興奮に対して有効と思われる介護サービス
1位:認知症対応型共同生活介護(地域密着型サービス)
理由:☆少人数で、より個別的な関わりができる。
☆共同生活により、その人に合った時間の過ごし方や役割を作る事ができる。
2位: 訪問介護
≪サービス内容:訪問介護員(介護福祉士、ホームヘルパー)が訪問し、身体介護や調理などの家事援助を行う。≫
理由:☆環境が変わるより馴染みのある自宅中心でサービスをうける方が良い。
☆個別性を重視し、時間をかけてもその人に合わせた介助を実現できるほうが良い。
補足:興奮とはー物を投げる、大声や暴言を吐く、暴れる、叩く、かみつく、引っかくなどの行動は、代表的な過活動性(陽性)BPSDです。点滴を抜いたり、立ち歩いて安静が保てなかったりと、患者さん本人にも危険が伴い、介護者も困ってしまう状態です。
興奮してしまう原因には、さまざまなものが考えられます。本人の気分や体調が悪いこと――例えば、痛みやかゆみ、空腹、便秘、不眠、発熱などが不快感を高めます。入院や入所による環境の変化ー周囲の騒音や機器の音、人の声、暑い・寒いことや明る過ぎる照明などが、不快感を高める要因となります。
これらに加えて、気に障ることを周囲の人から言われると、本人の怒りのスイッチが入ることになります。(*3)
■うつ・不快に対して有効と思われる介護サービス
1位:通所介護(デイサービス)
理由:☆他者との関わりを増やす。
☆自宅から出て環境をかえることが有効。
2位:訪問介護
理由:☆掃除や調理などの提供時に話し相手になることができる。
3位:認知症対応型共同生活介護(地域密着型サービス)
理由:☆24時間の見守り体制が整っている。
☆訪問系サービスの導入はリスクが高い。
補足:うつ・不快とはー「誰にも必要とされていない」「何もいいことがない」「何がなんだかわからない」などと悲観的になってしまう方がいます。低活動性(陰性)BPSDのひとつ、うつ症状です。大きなストレスや出来事が引き金となり、悲観的な態度や言動、だるさや意欲の低下が長い間続きます。
原因としては、認知症の進行に伴ってできなくなっていくことが増えること、それによって周囲から厳しく非難されたり、自信をなくしたり、疎外感を感じることが挙げられます。(*4)
以下7種類のBPSDに対して有効と思われる介護サービスは、6月14日アップの中編および6月21日アップの後編をご覧ください。
中編 ■不安
■無為・無関心
■脱抑制
■易刺激性・不安定性
後編 ■異常行動
■睡眠障害
■食行動異常
2.數井 裕光先生からの留意事項と「補足」について
この資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」をダウンロードすると、2ページ目に「本ファイルをご使用になる皆様へ」と題した文章が掲げられています。この文章の最後に、こう書かれています。
『本ファイルの情報をご利用する際に、1点だけご留意いただきたいことがあります。それは、2014年の秋に大阪府でどんな介護サービスが利用可能であったかという、そのときの現状が本調査の結果に影響しているということです。提供が少ない介護サービスは、実際にはBPSDに有効であったとしても、本調査では低得点になっている恐れがあります。本調査結果が皆様のBPSD治療や予防にお役に立てばと思います。 平成28年1月25日 作者一同』
10年前の調査ですから、対象とした介護サービスもすでに終了したり、新しくてもっと効果の高い介護サービスが提供されているかもしれません。
そこでこのブログでは、抜粋版をこのような方針で作りました。
①「BPSD治療に役立つ介護サービス」から、該当するサービスがなくても、似たような効能を備えた介護サービスを選べるように理由が明記されている高順位のみを引用しました。
②11項目のBPSDが掲げられていますが、私たち素人には聞きなれない言葉も多いので、「補足」の項目を付け足しました。「補足」は資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」にはありません。「補足」の内容は、補注(*1~*12)から引用しています。
もっと詳しく知りたい方は、ホームページ「~笑顔で穏やかな生活を支える~認知症の方へのポジティブケア」から「家族介護者向け BPSD 予防・治療包括指針」ページの「6.介護サービスを利用しよう」をクリックなさってください。
謝辞:數井 裕光先生をはじめ、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
本ファイル「BPSD治療に役立つ介護サービス」は、平成25-26年度 厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業及び 平成27年度 日本医療研究開発機構(AMED)研究費 認知症研究開発事業「 B P S D の 予 防 法 と 発 現 機 序 に 基 づ い た 治 療 法 ・ 対 応 法 の 開 発 研 究(研究代表者:数井裕光) 」により作成された。
☆資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」https://www.bpsd-web.com/html/document1-06.html#contents
☆ホームページ「~笑顔で穏やかな生活を支える~認知症の方へのポジティブケア」https://www.bpsd-web.com/index.html
補注
*1:「妄想」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*2:「幻覚・錯覚」認知症の周辺症状を知ろう 太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/011.html
*3:「興奮・怒り・暴力・暴言」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*4:「うつ・アパシー」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*5:「不安・抑うつ」認知症の周辺症状を知ろう 太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/011.html
*6:「アパシー(無関心)」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*7:「脱抑制」非専門医が診る認知症現場の“ドロドロ”に向き合う 日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/fujitani/202404/583431.html
*8:「易刺激性とは」メンタルヘルス情報 仙台市 https://www.city.sendai.jp/seshin-kanri/kurashi/kenkotofukushi/kenkoiryo/sodan/seshinhoken/heartport/mental/shitchosho.html
*9:「不安定性」レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の症状の違いとは 医師と患者をつなぐ医療・ヘルスケアプラットフォーム Medical Note https://medicalnote.jp/contents/200909-001-AQ
*10:「行動異常の起こる仕組み」認知症を理解する 公益財団法人健康・体力作り財団 健康ネット https://www.health-net.or.jp/tairyoku_up/chishiki/ninchisyou/t03_08_06_01.html
*11:「睡眠障害」認知症の周辺症状を知ろう 太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/011.html
*12:「認知症の人の対応~ごはん食べていない~」認知症ねっと https://info.ninchisho.net/column/psychiatry_060
以上