認知症のBPSD改善に効果のある介護サービスを紹介します!(後編)
數井 裕光先生がたの研究グループは2014年に、大阪府社会福祉協議会に属する事業所で認知症の介護に従事されている職員の皆様のご協力のもとアンケート調査を行いました。ケアマネジャー・介護職員・施設管理者・ソーシャルワーカー等の皆さんが「効果あり」と感じた介護サービスとその理由を、6月14日の中編に続くこの後編で紹介します。
1.資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」より抜粋(異常行動~食行動異常まで)
■異常行動に対して有効と思われる介護サービス
1位:認知症対応型共同生活介護(地域密着型サービス)
≪サービス内容:グループホームなどで比較的安定状態にある認知症要介護者を対象に、共同生活の中で入浴・食事の提供とその介助、日常生活の世話を行う。 ≫
理由:☆スタッフ数が多いので十分傾聴出来る。
☆24時間のサポートが可能。
2位:介護老人福祉施設(施設サービス)
≪サービス内容:常時介護が必要で居宅での生活がむずかしい要介護者を対象に、介護サービスと日常生活の場を提供する。≫
理由:☆行動が観察できる。
☆ある程度広い空間があるため、行動が妨げられない。
3位:通所介護(デイサービス)
≪サービス内容:デイサービスセンター等において、日帰りで入浴・食事の提供とその介助、日常生活の世話と機能訓練を行う。≫
理由 :☆行動には意味があると考え、環境や生活リズムを整える。
☆生活環境の大きな変化をさけることができる。
補足:異常行動とはー多くみられる行動異常としては、「妄想」と「幻覚」、「徘徊」、「不潔行為」(尿をまき散らす、便をいじって壁などになすりつける等)、「暴力」、「性的逸脱」(卑猥なことを言ったり、自身の性器を見せたり、性行為を迫る等)などがあります。
ここで注意して頂きたいのは、これらの「異常」は介護・看護するサイドからみたレッテルにすぎないという点です。それぞれの行動には、意味や願望が潜んでいます。(*10)
■睡眠障害に対して有効と思われる介護サービス
1位:認知症対応型共同生活介護(地域密着型サービス)
理由: ☆同様の症状の方が多くいる。
☆スタッフの観察下で日中に活動してもらい、夜間に疲れて眠れる様にできる。
2位: 通所介護(デイサービス)
理由:☆生活リズムを維持するため。
☆レクリエーションやアクティビティで身体や頭をつかう。
補足:睡眠障害とはー高齢になると、睡眠時間が短く眠りが浅くなりやすいほか、夜間にトイレが近くなって何度も起きるなど、熟睡しにくくなります。さらに認知症になると、ベッド上で過ごす時間が長くなり、体内時計の調節がうまくいかずに睡眠のリズムが崩れやすくなります。
その結果、不眠や昼夜逆転といった睡眠障害が現われる場合があります。(*11)
■食行動異常に対して有効と思われる介護サービス
1位:通所介護(デイサービス)
理由:☆専門職として状態を把握する事が出来る。
☆周りの方と同じ物を食べる事で、普段は食べない物でも食べる可能性がある。
2位:訪問介護
理由:☆食生活が乱れないように訪問介護で調理をしてもらう。
☆個別対応ができる様に訪問サービスを利用する。
3位:訪問看護
≪サービス内容:看護師等が訪問し、療養の世話や診療補助を行う(医療依存度が高い場合には、医療保険の対象)。≫
理由:☆食生活指導
☆医療面から原因をみつける事が出来る。
☆定期的な訪問看護で経過観察する。
補足:食行動異常とはー満腹中枢の機能が働かなくなり、いくら食べても満腹にならず、摂食中枢が刺激され、どんどん食べたくなることが考えられます。また、食べたことも忘れてしまうエピソード記憶の障害も加わり、「食べてない」と訴えるようです。
異常な食欲で大量に食べる「過食」や、家族の目を盗んで食べる「盗食」などの食行動の異常につながることがあります。「異食」は、食欲の異常で、土、砂、石、洗剤、糞など、通常は食欲の対象にならいものを摂食することです。
口に入れ、飲み込んでも身体に影響がないものであれば特に心配はありませんが、農薬や紙タバコ、ボタン型の小さなアルカリ電池などは、場合によっては死につながります。(*12)
以下のBPSDに対して有効と思われる介護サービスは、「認知症のBPSD改善に効果のある介護サービスを紹介します!」の前編あるいは、「認知症のBPSD改善に効果のある介護サービスを紹介します!」の中編をご覧ください。
前編 ■妄想
■幻覚
■興奮
■うつ・不快
中編 ■不安
■無為・無関心
■脱抑制
■易刺激性・不安定性
2.數井 裕光先生からの留意事項と「補足」について
この資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」をダウンロードすると、2ページ目に「本ファイルをご使用になる皆様へ」と題した文章が掲げられています。この文章の最後に、こう書かれています。
『本ファイルの情報をご利用する際に、1点だけご留意いただきたいことがあります。それは、2014年の秋に大阪府でどんな介護サービスが利用可能であったかという、そのときの現状が本調査の結果に影響しているということです。提供が少ない介護サービスは、実際にはBPSDに有効であったとしても、本調査では低得点になっている恐れがあります。本調査結果が皆様のBPSD治療や予防にお役に立てばと思います。 平成28年1月25日 作者一同』
10年前の調査ですから、対象とした介護サービスもすでに終了したり、新しくてもっと効果の高い介護サービスが提供されているかもしれません。
そこでこのブログでは、抜粋版をこのような方針で作りました。
①「BPSD治療に役立つ介護サービス」から、該当するサービスがなくても、似たような効能を備えた介護サービスを選べるように理由が明記されている高順位の回答のみを引用しました。
②11項目のBPSDが掲げられていますが、私たち素人には聞きなれない言葉も多いので、「補足」の項目を付け足しました。「補足」は資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」にはありません。「補足」の内容は、補注(*1~*12)から引用しています。
もっと詳しく知りたい方は、ホームページ「~笑顔で穏やかな生活を支える~認知症の方へのポジティブケア」から「家族介護者向け BPSD 予防・治療包括指針」ページの「6.介護サービスを利用しよう」をクリックなさってください。
謝辞:數井 裕光先生をはじめ、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
本ファイル「BPSD治療に役立つ介護サービス」は、平成25-26年度 厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業及び 平成27年度 日本医療研究開発機構(AMED)研究費 認知症研究開発事業「 B P S D の 予 防 法 と 発 現 機 序 に 基 づ い た 治 療 法 ・ 対 応 法 の 開 発 研 究(研究代表者:数井裕光) 」により作成された。
☆資料「BPSD治療に役立つ介護サービス」https://www.bpsd-web.com/html/document1-06.html#contents
☆ホームページ「~笑顔で穏やかな生活を支える~認知症の方へのポジティブケア」https://www.bpsd-web.com/index.html
補注
*1:「妄想」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*2:「幻覚・錯覚」認知症の周辺症状を知ろう 太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/011.html
*3:「興奮・怒り・暴力・暴言」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*4:「うつ・アパシー」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*5:「不安・抑うつ」認知症の周辺症状を知ろう 太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/011.html
*6:「アパシー(無関心)」BPSDの代表的な症状 ディアケア 現場で使える実践ケアの情報サイト https://www.almediaweb.jp/dementia-top/dementia-002/part1/03.html
*7:「脱抑制」非専門医が診る認知症現場の“ドロドロ”に向き合う 日経メディカル https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/fujitani/202404/583431.html
*8:「易刺激性とは」メンタルヘルス情報 仙台市 https://www.city.sendai.jp/seshin-kanri/kurashi/kenkotofukushi/kenkoiryo/sodan/seshinhoken/heartport/mental/shitchosho.html
*9:「不安定性」レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の症状の違いとは 医師と患者をつなぐ医療・ヘルスケアプラットフォーム Medical Note https://medicalnote.jp/contents/200909-001-AQ
*10:「行動異常の起こる仕組み」認知症を理解する 公益財団法人健康・体力作り財団 健康ネット https://www.health-net.or.jp/tairyoku_up/chishiki/ninchisyou/t03_08_06_01.html
*11:「睡眠障害」認知症の周辺症状を知ろう 太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/011.html
*12:「認知症の人の対応~ごはん食べていない~」認知症ねっと https://info.ninchisho.net/column/psychiatry_060
以上