軽度認知障害(MCI)と判明した今がチャンス!普通に戻るための対策・方法をご紹介します!(第1回)
日常生活に問題はないけれど、認知機能が年齢以上に衰えている状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。これを放置すると、1年間で10~15%の人が認知症を発症します。けれど、治療や運動を行えば1年間で約16~41%の方が年齢相当の普通の状態に戻れます。厚生労働省の「あたまとからだをげんきにする MCIハンドブック」(*1)と松本正人先生の漢方臨床レポート(*9)から年齢相当の普通の状態に戻るための対策や治療方法を4回にわけてご紹介します。
1.よくわかっていない「軽度認知障害(MCI)」
認知症の原因が解明されていないように、「軽度認知障害(MCI)」もよくわかっていません。アルツハイマー病などと同じように、何かのきっかけにより脳の老化が異常に早まることが原因と考えられています。
脳の中で、アミロイドβペプチドが排出されずに溜まってしまい、これが引き金となって、タウタンパク質が集まって塊となり、神経細胞が死んでしまう(*2)という仮説が今は有力です。この異常が「軽度認知障害(MCI)」でも起こっていますが、認知症よりも程度が軽いことが特徴です。
また、「軽度認知障害(MCI)」と思われていた場合でも、同じような症状の別の病気ということもあります。たとえば、「うつ病」や「甲状腺機能低下症」(*3)などです。
現在のところ「軽度認知障害(MCI)」の原因は、確定していません。「軽度認知障害(MCI)」の人の中でも、より重篤な認知症に進行する人がいる一方、症状が数年間も安定し続ける人もいます。さらには「軽度認知障害(MCI)」が改善する人もいます。こうした経過の違いがなぜ生じるのかも、解明されていません。
けれど、対策を講じれば1年間で「軽度認知障害(MCI)」の約16~41%の方が年齢相当の普通の状態に戻れます!
2.「軽度認知障害(MCI)」の検査・診断はどこで受けられる?
「軽度認知障害(MCI)」の診断は、アメリカ精神医学会が作成したマニュアルや世界保健機関(WHO)が作成した診断基準を用いながら、患者さんの症状を詳しく検討します。
また「軽度認知障害(MCI)」では、「うつ病」や薬の影響、「ビタミンB12」の欠乏や、「甲状腺機能低下症」(*3)、頭蓋内の出血など同じような症状の病気かどうかを判定することも重要です。血液検査で甲状腺機能を確認したり、頭部CTやMRIなどの画像検査で、出血などを調べます。
では、具体的にどこで検査をうけられるのでしょうか?2つあります。
① 認知症疾患医療センター
② 「もの忘れ外来」を開設している医療機関
認知症疾患医療センター(*15)は、認知症の医療相談や診察に応じる専門の医療機関です。 都道府県知事または政令指定都市市長が指定する病院に設置され、もの忘れ相談から、認知症の診断、治療、介護保険申請の相談まで、認知症に関する支援をひとまとめに提供してくれます。何もかも初めての場合は、認知症疾患医療センターがお勧めです。
また幸運な場合には、まだ市販されていない治験薬という実験段階の最新薬を、患者さんの病状と、ご家族の同意などがある場合に、使用することができる認知症疾患医療センターもあります!
通いやすい認知症疾患医療センターを知りたい場合は、お住いの都道府県名か、政令指定都市名に認知症疾患医療センターを加えた条件で検索なさってください。
例:”東京都 認知症疾患医療センター”で検索すると⇒東京都認知症疾患医療センター https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/ninchishou_navi/torikumi/iryoucenter/index.html
3.普通に戻るための対策①:高血圧や糖尿病、肥満、脂質異常、うつ病などの病気を治療する
ここからが本題です。「軽度認知障害(MCI)」を年齢相当の普通の状態に戻すための最初の対策は、病気の治療です。
①糖尿病は、アルツハイマー型認知症の発症リスクを2.1倍にします。
認知症に罹ってしまった後も、高い血糖値が長期間つづくことで、認知機能の低下や認知症の悪化が早まる可能性があります。
血糖を良好にコントロールすることで、認知症の発症や進行を抑制できるかは不明です。けれど、緩やかな血糖管理が推奨されています。糖尿病の方は、かかりつけ医に相談してください。
②65歳以上で高血圧の方は、毎日の血圧を把握しましょう。
40~64歳の時に高血圧だった方は、65歳以降にアルツハイマー型認知症や、血管性認知症を発症しやすく、血圧が高くなるほどその危険は高くなります。
脳血管障害を予防するためにも、65歳以上で高血圧の方は、高血圧治療をおすすめします。
③65歳以上では、痩せすぎや体重の減少に注意してください。
40~64歳では、肥満の人ほど認知症になりやすいことが判明しています。
ところが65歳以上では、2年間でBMIが5%以上減少している人は、5%以内の増減に比べて認知症になりやすいことが報告されています。(BMI:体重(kg)を身長(m)の二乗で割った数値)
さらに、65歳以上の男性を対象とした研究では、BMIの変化が認知症発症の可能性を高め、特にBMIが減少した人ほど認知症発症の危険性が高まります。
体重減少は筋肉量や筋力の低下、栄養状態の悪化を引きおこし、認知症発症につながると考えられます。
④脳卒中を発症すると、10人に1人は、1年以内に認知症を発症します!
過去に脳卒中を発症した方が再度脳卒中を発症してしまうと、10人に3人が認知症を発症します。
喫煙や大量の飲酒(1日にアルコール度数7%のお酒500ml缶を2本以上)は、脳梗塞の危険性を高めます。
脳卒中の後の認知症を予防するためには、脳卒中を引き起こす原因となる病気の治療が必要です。高血圧、高脂血症、糖尿病など内科的管理に心を砕いてください。
⑤65歳以上では、脂質異常症と認知症との関係ははっきりしていません。
40~64歳の場合は総コレステロールが高いと、アルツハイマー型認知症の発症の危険性が高くなります。
ところが65歳以上では、総コレステロール、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、中性脂肪のいずれの数値も、認知症発症と関連するはっきりした証拠はありません。
けれど、総コレステロールやLDLコレステロール (悪玉)の数値が高くなると、冠動脈疾患の発症が増加するので、治療が必要です。
脂質異常症ならば内科、心臓の病気がある場合は循環器内科、脳卒中がある場合は脳神経内科や脳神経外科の受診をお勧めします。
⑥50歳代以降にうつ病を発症すると、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2.34倍になります(*4)
またある調査では、専門外来を受診した「軽度認知障害( MCI)」の患者さんで、うつ病を合併している比率は30%以上という結果もでています。
うつ病の症状の1つである「抑うつ状態」では脳の働きが鈍り、神経に栄養が届きにくくなり、記憶を司る海馬が萎縮するため、認知機能が低下しやすいことがわかってます。
認知症とうつ病は区別が難しいので、迷ったら認知症を専門とする医療機関「認知症疾患医療センター」(*15)を受診なさってください。
うつ病は、精神科や心療内科の受診をお勧めします。
今回はここまでです。次回、8月30日の第2回の内容は以下の通りです。
4.普通に戻るための対策②:喫煙・飲酒・睡眠障害・難聴を放置するのは危険です!
5.普通に戻るための対策③:65歳以上では、定期的な運動が認知症を予防し、認知機能を向上させます!
厚生労働省は、来年2025年には認知症患者数が約700万人、つまり65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると見込んでいます。介護施設やデイサービスは足りるのでしょうか?訪問介護のスタッフはあなたのご自宅にも来てくれるでしょうか?
アルツハイマー型認知症は、進行性の病気です。なだらかに進行するのではなく、「ああ、落ちついた」と安心していると、突然、階段を5~6段踏み外すみたいに悪化します。その上、進行を止める薬も完治できる薬もありません。だからこそ認知症の手前、軽度認知障害(MCI)で異常を発見できたら、チャンスです!
あなたは、軽度認知障害(MCI)から認知症を発症してしまう10~15%に入りますか?それとも、治療や運動に取り組んで年齢相当の普通の状態に戻る16~41%に入りますか?
謝辞:松本正人先生と「あたまとからだをげんきにする MCIハンドブック」制作に携わった皆さまをはじめ、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
補注
*1:「あたまとからだをげんきにする MCIハンドブック」厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/content/001272358.pdf
*2:「アルツハイマー病の悪性化に関わるタンパク質の発見-タウタンパク質の凝集と脳の萎縮を加速する-」研究成果(プレスリリース)2019 理化学研究所 https://www.riken.jp/press/2019/20190604_2/index.html
*3:「甲状腺機能低下症による症状には、一般的に、無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘などがあります。軽度の甲状腺機能低下症では症状や所見に乏しいことも多いです。」「甲状腺機能低下症」とはどのような病気ですか 一般の皆さまへ 一般社団法人 日本内分泌学会 https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=38
*4:「うつ病と認知症の関連について」藤瀬 昇、池田 学:精神神経学雑誌 114巻3号 https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140030276.pdf
*9:松本正人:漢方臨床レポート「軽度認知障害の認知機能に対する抑肝散加陳皮半夏長期投与の臨床報告-2~3年経過例での評価(第2報)-」phil漢方 No.75 2019、22~24頁、https://www.philkampo.com/pdf/phil75/phil75-09.pdf
*15:「認知症疾患医療センターは、認知症疾患に関する鑑別診断とその初期対応、身体
合併症の急性期治療を行うほか、退院する患者が必要とする介護サービスの提供、地域における見守り等の日常生活面の支援や、家族を対象とした相談支援等に適切につながるよう、地域包括支援センターや介護支援専門員等への連絡調整を含め、個々の患者に対する相談を行う機能を有しており、地域での認知症医療提供体制の拠点として、地域の関係機関と連携した支援体制の構築を図ることは重要な役割である。」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000366645.pdf
お住いの都道府県名に「認知症疾患医療センター」を加えて、ネット検索なさってください。お近くのセンターが判ると思います。
以上