軽度認知障害(MCI)と判明した今がチャンス!普通に戻るための対策・方法をご紹介します! (第4回)
認知症疾患医療センター(*15)とは、認知症専門医療の提供と地域包括支援センターや介護支援専門員等への連絡調整まで行う、ここで認知症の全てをカバーできるとても優秀で頼もしい医療機関です。ただ、都道府県や指定都市から指定されるので、独立した別個の医療機関ではなく、既存の病院の中に「認知症疾患医療センター」としてあります。ここなら、軽度認知障害(MCI)を診断していただけます。(今回が普通に戻るための対策・方法編の最終回です。)
8.普通に戻るための対策⑥:認知症予防に有効な食事の摂り方は、脳の働きに必要な栄養素を補給し、五感を刺激し、食べながらコミュニケーションを楽しむことです。
認知症の進行を抑制できるといわれる食品も、まだ科学的に証明されていません。ただ、野菜や果物、魚などの抗酸化あるいは抗炎症作用をもつ食品や栄養素が、認知症発症予防に有効と考えられています。
また、1日2食以上主食と主菜、副菜を摂っていて、魚・肉・卵・豆・野菜・果物・乳製品などいろいろな食品を摂取している人ほど栄養摂取状況は良好で、認知機能低下が抑えられたことが判明しています。
65歳以上で「軽度認知障害(MCI)」の場合には栄養不足の人が多く、栄養不足が様々な症状と関連している可能性が言われています。
体格にみあった量と、種類が豊富でバランスの良い食事を心と体の栄養になる環境でいただくことが、「軽度認知障害(MCI)」の悪化予防や認知症予防につながります。
9.普通に戻るための対策⑦:漢方薬「抑肝散加陳皮半夏」の2~3年投与で、「軽度認知障害(MCI)」の悪化を長期間抑えることができた!(*9)
松本正人先生の漢方臨床レポート(*9)から分かりやすく紹介します。
対象者:「まつもと脳神経・内科クリニック」(*10)に通院中で、もの忘れに対する不安感を持ち、調査への参加を希望した「軽度認知障害(MCI)」の患者さん男性5人、女性10人
MMSE(認知機能レベルを測定する神経心理検査)(*12)の点数:24点以上
平均年齢:76.1歳
最初に罹った病気:高血圧:3人、糖尿病:3人、脂質異常症:2人、ラクナ梗塞(*11):2人、不眠症:1人、過活動膀胱:1人、てんかん:1人、なし:7人(重複あり)
継続投与期間:平均2年5ヵ月(2~3年)
調査方法:①抑肝散加陳皮半夏を1日2回、朝・夕食前に投与。
②投与前と投与6ヵ月後、さらに2〜3年後にACE-R検査(*13)とSTAI検査(*14)で評価。
検査結果:
*ACE-R検査の総合点数推移:投与前77.9点 ⇒投与6ヵ月後 82.6点 ⇒投与2〜3年後 82.5点
*ACE-R検査の「記憶」項目の得点推移:投与前 54.9点 ⇒投与6ヵ月後 68.4点 ⇒投与2〜3年後 70.8点!!!
*ACE-R検査の総合点数とACE-R検査の「記憶」項目の得点が、投与から6か月後には改善され、さらに2~3年投与した時も改善された数値を維持していた!
*ACE-R検査で測定する「注意/見当識」、「言語の流暢性」、「言語」、「視空間認知」の4項目では投与前後で変化はなかった。
*認知機能検査のMMSEの得点と「不安」を測定するSTAIの得点に変化はなかった。
結論:『軽度認知障害(MCI)の患者さんに抑肝散加陳皮半夏を2〜3年の長期投与したところ、認知機能のうち記憶が改善された。この結果から、抑肝散加陳皮半夏は軽度認知障害(MCI)から認知症への進展を長期間抑制できる薬となることが期待される。』
わずか15人を対象として調査ですが、もっと研究が進めば、漢方薬の「抑肝散加陳皮半夏」で軽度認知障害(MCI)が認知症に悪化しないよう治療できるかもしれません!以上が、松本正人先生の漢方臨床レポート(*9)の内容です。
厚生労働省は、来年2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると見込んでいます。糖尿病などの生活習慣病も、うつ病や難聴もない、健康で普通に生きてきたあなたも65歳以上なら、認知症になる確率は5分の1です。
進行性で、進行を止める薬も、完治できる薬もまだ無いアルツハイマー型認知症。発症してしまえば、もう治せません。だからこそ認知症の手前、普通に戻る可能性がある軽度認知障害(MCI)の今が、素晴らしい幸運です。
幸運を掴むためには「歳のせい」と軽く流さないで、近所の認知症疾患医療センターで、「軽度認知障害(MCI)」の検査をうけてください。認知検査を勧めれば、『普通にできる方に認知検査を受けろとは、随分失礼な話』と激怒するのが普通でしょう。けれどご本人も「頭が何か変?」と感じているはずです。幸運を掴むために、恥ずかしさや怖さを乗り越えて近所の認知症疾患医療センターで検査を受けてください。
謝辞:松本正人先生と「あたまとからだをげんきにする MCIハンドブック」制作に携わった皆さまをはじめ、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
補注
*1:「あたまとからだをげんきにする MCIハンドブック」厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/content/001272358.pdf
*9:松本正人:漢方臨床レポート「軽度認知障害の認知機能に対する抑肝散加陳皮半夏長期投与の臨床報告-2~3年経過例での評価(第2報)-」phil漢方 No.75 2019、22~24頁、https://www.philkampo.com/pdf/phil75/phil75-09.pdf
*10:まつもと脳神経・内科クリニック:院長:松本 正人、住所:〒960-0112 福島県福島市南矢野目字道下35-10、https://www.matsuclinic.com/
*11:「ラクナ梗塞とは脳梗塞の一つです。脳梗塞の中でも、心臓にできた血栓が脳の血管に流れて詰まる「脳塞栓」タイプ。このうち、脳血栓の中でも脳の深い部分を流れている細い血管が詰まってしまうことで起きる脳梗塞を「ラクナ梗塞」といいます。”ラクナ”とはラテン語で”小さなくぼみ”という意味です。」社会福祉法人 恩賜財団 済生会 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/lacunar_infarction/
*12:「ミニメンタルステート検査(MMSE)は時間の見当識、場所の見当識、3単語の即時再生と遅延再生、計算、物品呼称、文章復唱、3段階の口頭命令、書字命令、文章書字、図形模写の計11項目から構成される30点満点の認知機能検査である。
MMSEは23点以下が認知症疑いである。 27点以下は軽度認知障害(MCI)が疑われる。」一般社団法人 日本老年医学会 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_02.html#:~:text=MMSE%E3%81%AF23%E7%82%B9%E4%BB%A5%E4%B8%8B,%25%EF%BC%8918-20)%E3%80%82
*13:「ACE–Rは5つの認知領域(注意/見当識,記憶,言語流暢性, 言語, 視空間認知) を 15~20 分 で 評 価 できる. MMSEを検査内に含む.100点満点で,ACE–R日本語版で は89点以上が正常,83–88がMCI,82点以下が認知症とされる」論文「今日からできる認知機能の評価」日本神経治療学 36巻3号、 198-202頁, 2019年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/36/3/36_198/_pdf/-char/ja
*14:「英語版「STAI-Y」に改良を重ね、日本の文化的要因を考慮して開発した日本語最新版の「状態-特性不安検査」です。 日本人特有の情緒(感情)を考慮することで、状態不安の密度の測定と人格構成としての特性不安における個人差の測定をより正確なものにしています。
STAIは不安の2因子,「状態不安」と「特性不安」を測定します. 状態不安(特定の場面で一過性に感じられる不安)と特性不安(状況要因に影響されず長期的に感じている不安)を測定できます. 状態不安と特性不安の得点の相関係数は低く,各々が不安障害の異なる側面を測定できていると言えます.」心理検査出版 三京房 https://www.sankyobo.co.jp/astai.html#:~:text=%E4%B8%8D%E5%AE%89%E3%81%AE%EF%BC%92%E5%9B%A0%E5%AD%90%EF%BC%8C%EF%BD%A2%E7%8A%B6%E6%85%8B,%E3%82%92%E6%B8%AC%E5%AE%9A%E3%81%99%E3%82%8B%E5%B0%BA%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%81%99%EF%BC%8E&text=%E7%8A%B6%E6%85%8B%E4%B8%8D%E5%AE%89%EF%BC%88%E7%89%B9%E5%AE%9A%E3%81%AE%E5%A0%B4%E9%9D%A2,%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%81%88%E3%81%BE%E3%81%99%EF%BC%8E
*15:「認知症疾患医療センターは、認知症疾患に関する鑑別診断とその初期対応、身体
合併症の急性期治療を行うほか、退院する患者が必要とする介護サービスの提供、地域における見守り等の日常生活面の支援や、家族を対象とした相談支援等に適切につながるよう、地域包括支援センターや介護支援専門員等への連絡調整を含め、個々の患者に対する相談を行う機能を有しており、地域での認知症医療提供体制の拠点として、地域の関係機関と連携した支援体制の構築を図ることは重要な役割である。」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000366645.pdf
お住いの都道府県名に「認知症疾患医療センター」を加えて、ネット検索なさってください。お近くのセンターが判ると思います。
以上