認知症の妄想・不安・興奮などが「重度認知症デイケア」なら「認知症リハビリ」で改善できます!(第1回)
せっかく居心地のよさそうな施設に入居できたのに、他の入居者さんに暴力をふるうBPSDが止まらず、入居しているご家族が退居させられるのではと心配なさっていませんか?アルツハイマー型認知症が中期になると、徘徊やせん妄、妄想や幻覚、暴言や暴力等のBPSD(行動・心理症状)(*1)が現れやすくなります。
リハビリテーションによる改善や現状維持を示すエビデンスは、証明方法がまだ確立していません。けれど、「認知症リハビリ」によるもの忘れの改善やBPSD(行動・心理症状)が改善された症例が蓄積されつつあります。
BPSDなどで苦しんでいる患者さんを専門にケアする「重度認知症デイケア」(*3)とそこで実施されている「認知症リハビリ」(*2)を今回と次週12月20日と12月27日の3回に分けてご紹介します。
1.「デイケア」は「デイサービス」とは違います
送迎つきで、食事の提供や入浴をしてくださる「デイサービス」は、自宅で介護している方々にとってはとても有難い存在です。送り出した後の静けさと安堵の気持ちは、かけがえのない一瞬です。
介護を助けてくださる有難い「デイサービス」ですが、「デイケア」との違いをご存じですか?
デイサービス:利用者が自宅で自立した日常生活を送れるよう、食事や入浴などの支援を目的とした施設。
デイケア:身体機能や認知機能の改善のために、リハビリや医療的ケアの実施を目的とした施設。「通所リハビリテーション」とも言います。(*4)
2021年の報告書によると、「デイサービス」は全国に24,428施設ですが「デイケア」は全国で8,308施設と数が少ないのでいっそう混同し易いのかもしれません。
「デイケア」(通所リハビリテーション)の特徴は、以下の5点です。
①要支援1・2の認定を受けた方と要介護1~5の認定を受けた方が、利用できます。
②「デイケア」では専門的なリハビリを受けるため、医師の指示書など(主治医が作成する「診療情報提供書」や「健康診断書」)が必要です。
③「デイケア」では医師が常駐し、理学療法士や作業療法士など、リハビリの専門職による本格的なリハビリが受けられます。
④「デイケア」は「デイサービス」よりも、サービス費用が高いです。
「デイケア」(通所リハビリテーション)は事業所の規模や所要時間によって費用が設定されています。さらに、お住まいの地域がどの地域区分(1級地~7級地、その他)に属しているかによって金額が異なります。このように複雑なので、詳しい金額はケアマネジャーか役所の介護保険の担当窓口などにお尋ねください。
⑤リハビリによって病状が改善できた場合、「デイケア」から費用の安い「デイサービス」に移行したり、「デイサービス」と「デイケア」を併用することもできます。
2.激しいBPSDや進行した認知症状の方が利用できる「重度認知症デイケア」をご存じですか?
リハビリや医療的ケアを目的とした「デイケア」の中でも、認知症の患者さんに特化した「デイケア」があります。進行した認知症を抱え、特に妄想・不安・興奮・易怒性などのBPSDが激しい患者さんのリハビリや医療的ケアとそのご家族のサポートに特化したデイケアが「重度認知症デイケア」(*3)です。
あまり聞いたことのない「重度認知症デイケア」について、尾嵜 遠見先生と前田潔先生の論文からご紹介します。(*5)
☆「重度認知症デイケア」(「重度認知症患者デイケア」あるいは「認知症デイケア」)(*6)の特徴
①精神科のある病院及び診療所に設置される認知症専門で、通所型の医療施設です。
②介護保険適用のサービスではなく、BPSDの激しい認知症患者さんを対象として精神科専門療法をおこないます。医療保険適用ですが、介護保険との併用も可能です。
③スタッフは、精神科医・作業療法士(*7)・精神保健福祉士(*8)・公認心理師(*9)・看護師等の医療専門職なので、より多くの視点から認知症の医療・ケアが行えます。
④「重度認知症デイケア」を実施している医療機関は、全国で295施設(2020年6月1日現在)ととても限られています。
⑤厚生労働省の資料によると、「精神症状及び行動異常が著しい認知症患者(「認知症である老人の日常生活度判定基準」がランクMに該当するもの)」さんが対象とされています。(*10)
では、実際に運営されている「重度認知症デイケア」の平均的な様子をこの論文中で紹介されているアンケートから抜粋します。
- 精神科病院が運営し、1日25人の利用者さんが通い、週6回「重度認知症デイケア」を実施。
- 25人の利用者に対して配置されている専門職は7~8人で、内訳は精神科医1人、看護師2人、作業療法士1~2人、精神保健福祉士1人、介護職3人。
- 利用者数は、1施設に平均51人が登録し、1日平均26人が利用。
- 半年の間に、ほぼ10人が入れ替わる。
- 利用者の2/3は女性で、年齢は80歳前後。週4日間利用し、平均で2年半通っている。
- 自宅から通っている方が8割、グループホームなど施設から通っている方が2割。
- 利用者の介護度は、要介護1~3で全体の7割を占める。
これがとても貴重な「重度認知症デイケア」の様子です。
3.アンケートに現れた「重度認知症デイケア」の効果
尾嵜遠見先生方は、2013年に全国の「重度認知症デイケア」を実施している病院・診療所などにアンケートを送って運営の様子を調べていらっしゃいます。この論文(*5)から、わたしたちに興味・関心の高い項目を紹介します。
☆実施しているリハビリテーションプログラム
- 活動療法 75.5%
- 音楽療法 56.9%
- リアリティオリエンテーション 51.0%
- 身体機能訓練 40.2%
- 学習療法 37.3%
- 家族への指導・相談 33.3%
- ADL(*11)訓練 32.4%
- 訪問・自宅環境調整 6.9%
アルツハイマー型認知症の場合、抗認知症薬で症状の進行を遅らせる治療は不可欠ですが、薬の投与開始から5~6か月後頃から効果が少しずつ落ちます。
ところが薬に併用してリハビリを行うと、進行を遅らせる効果が半年~1年程度続きます。
さらに継続的にリハビリを行うと、進行を緩やかにする効果が期待できます。(*12)
☆利用者さんが発症しているBPSDの種類
- 妄想 41.1%
- 不安 41.1%
- 興奮 37.8%
- 易怒性(*13) 27.8%
- 幻覚 21.1%
☆利用者さんのBPSDの重症度
- 中程度 50.5%
- 重度 31.5%
- 軽度 18.0%
☆BPSDの症状が出る頻度
- 1日1回以上 36.4%
- 1週間に数回 30.7%
- 1週間に1回未満 28.4%
- ほぼ1週間に1回 4.5%
☆利用開始からもっとも改善されたこと
- BPSD 46.9%
- 介護者の負担感 32.4%
- 認知機能 18.7%
- ADL(*11) 6.9%
☆「重度認知症デイケア」を利用する理由
- 認知機能の維持・改善 84.3%
- 生活リズムを整えるため 74.5%
- BPSDの予防・改善のため 65.7%
- 身体的リハビリのため 40.2%
- 身体合併症の管理・治療のため 26.5%
☆「重度認知症デイケア」で働いている作業療法士がもっとも効果を実感すること
- 介護者の負担軽減 38.8%
- BPSDの予防・改善 23.9%
- 認知機能の維持・改善 13.4%
- ADLの維持・改善 10.4%
- QOL(*14)の維持・向上 6.0%
- 身体合併症の管理・治療 6.0%
☆介護者の負担軽減のために行っていること
- 家族等の個別相談 75.9%
- ご家族へ対応技術指導 48.3%
- 家族等の情報交換会を開催 44.8%
- 訪問支援 37.9%
☆作業療法士が考える、利用者のBPSDを悪化させる原因
- 介護者の態度 32.8%
- 認知機能の低下 25.4%
- 身体機能の不調 16.4%
- 環境の変化 10.4%
- 不適切な環境 9.0%
- 季節などの変化 4.5%
- 不適切な薬剤 1.5%
また、『認知症plus院内デイケア』の中で精神科医 旭 俊臣先生はこう書かれています。(*12)
『当院でも、認知症に対して病院内でデイケアを行うと、行動・心理症状(BPSD)がある程度改善されるとの結果を得ています。このような検証は少しずつ積みあがっていますが、認知症のリハビリによる確実な改善・維持効果を示すエビデンスの確立には至っていません。
ですがむしろ、薬物治療をベースにしつつ、治療にリハビリを加える重要性が注目されています。(後略)』
ほとんど知られていない「重度認知症デイケア」ですが、専門職のスタッフに囲まれて患者さん個人に合わせた医療的ケアと個別の家族指導・支援が期待できます。
「夜中に父が暴れた(せん妄)」と介護付き有料老人ホームから呼び出されたあの時、「重度認知症デイケア」を知っていればどんなに良かったでしょう。専門家から父への対応方法について技術指導を受けたかったです。
私も、あの老人ホームの若いスタッフも、何も分かっていませんでした。尾嵜遠見先生方が行ったアンケートによれば、作業療法士があげるBPSDを悪化させる原因の1位は「介護者の態度」なのに。
「重度認知症デイケア」は、医師による”デイケアの利用が必要”との診断が必要です。けれど認知症の初期でも、BPSDなど様々な症状が現れることもあります。利用条件が厳しそうに感じますが病状は個人差が大きいので、精神科医に診て頂かないと分かりません。
施設から追い出されそうとか、家族が疲れ果てていらっしゃるなら、精神科の先生かケアマネジャーに「重度認知症デイケア」への通所について相談なさってみてください。次週12月20日の第2回では、「認知症リハビリ」をざっくり説明します。
補注
*1:「認知症の BPSD」日本老年医学会雑誌 48巻 3 号(2011:5)https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_48_3_195.pdf
*2:「認知症plus院内デイケアー生活機能の維持・回復を目指す」旭 俊臣・坂本昌子・賀曽利 裕 編集、2019年9月発行、日本看護協会出版会、定価2,300円+税、ISBN978-4-8180-2210-2、https://www.jnapc.co.jp/products/detail/3713
*3:「「重度認知症患者デイケア」について」受託事業「認知症重症化予防(三次予防)に関する調査研究事業」日本精神科病院協会ホームページ https://www.nisseikyo.or.jp/news/topic/detail.php?@DB_ID@=563
*4:「通所リハビリテーション(デイケア)」介護事業所・生活関連情報検索 厚生労働省 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group8.html
*5:「全国の重度認知症患者デイケアの実態調査 」尾嵜遠見, 前田潔 Dementia Japan 29(4) 605-614 2015年10月 https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2023/11/605-614.pdf
*6:「重度認知症患者デイケア」と「重度認知症デイケア」について
日本精神科病院協会や尾嵜遠見先生の論文では、「重度認知症患者デイケア」と表記されていますが、『おれんじねっと』(https://orangenet.osaka/article/11050)では「重度認知症デイケア」と表記されています。また、論文などでは名称が長いため短縮して「認知症デイケア」とも称しています。
ここでは、医師の視点からの名称ではなく利用者や介護者の立場に近い「重度認知症デイケア」を使っています。
*7:「作業療法士とは」関西福祉科学大学ふっかライブラリー https://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/fukkalibrary/article/OT07.html
*8:「精神保健福祉士とは」福祉の資格 社会福祉法人ふれあいネットワーク 全国社会福祉協議会 https://www.shakyo.or.jp/guide/shikaku/setsumei/03.html#:~:text=%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E4%BF%9D%E5%81%A5%E7%A6%8F%E7%A5%89%E5%A3%AB%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B&text=%E5%85%B7%E4%BD%93%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%80%81%E7%97%85%E9%99%A2,%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
*9:「公認心理師とは」福祉・介護 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html
*10:「新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第2R (認知症と精神科医療)」平成23年6月15日資料 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001fp2g-att/2r9852000001fp88.pdf
*11「自立生活の指標:日常生活動作(ADL)とは日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のことです。」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenkou-undou/jiritu.html
*12:「認知症ケアにおけるリハビリテーションの重要性」2~6頁、『認知症plus院内デイケア』編集:旭 俊臣・坂本昌子・賀曽利 裕、2019年発行、日本看護協会出版会、定価2,300円+税、ISBN:978-4-8180-2210-2 https://www.jnapc.co.jp/products/detail/3713
*13:「易怒性とは:急に怒り出すことが増え、遅れたり待たされたりする状況を受 け入れることが難しくなります。 このように、些細な刺激で不機嫌になっ たり、怒りっぽくなることは、易怒性と呼ばれています。 易怒性は、認知 症の記憶障害や見当識障害、遂行機能障害(実行機能障害)などから二次 的に生じる、行動・心理症状の一つです。」認知症の行動・心理症状とは https://www.koubundou.co.jp/files/65191.pdf
*14:「QOLとは:QOLは「Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)」の略称で、「キュー・オー・エル」と読みます。
「生活の質」と訳されることが多いですが、「生命の質」や「人生の質」などと訳されることもあります。一般的に、生活や生命、人生における「幸福」「満足」などを意味しています。
かつて医療の分野では治療が重点的に行われ、リハビリテーションや福祉の分野ではADL(日常生活動作)の自立が重視されていました。しかし、現在は治療やADLの自立とともに、QOLも考慮されるようになってきています。」あずみ苑 https://www.azumien.jp/contents/industry/00064.html
以上