認知症の妄想・不安・興奮などが「重度認知症デイケア」なら「認知症リハビリ」で改善できます!(第3回)
1人暮らしのお母様が、こちらの仕事中や夜中などに異常なほど電話をかけてきますか?それは認知症のBPSD(*1)の1つ、不安の症状です。
アルツハイマー型認知症の場合、抗認知症薬の投与開始から5~6か月後頃から効果が少しずつ落ちます。ところが薬に併用してリハビリを行うと、進行を遅らせる効果が半年~1年程度続きます。
さらに継続的にリハビリを行うと、症状の進行を緩やかにする効果が期待できます。(*5)第3回では、この「認知症リハビリ」を具体的に実例も含めて紹介します。
1.「認知症リハビリ」を種類ごとに詳しく説明します
認知症リハビリは、旭 俊臣先生の『認知症plus院内デイケア』(*2)によれば①~④の4種類です。それぞれの療法をくわしく説明します。
①神経心理療法
- 現実見当識訓練(リアリティ・オリエンテーション(RO)):
リアリティ・オリエンテーションとは、「今日の日付」や「今の季節」といった時間や今いる場所等が判らないなどの見当識障害(けんとうしきしょうがい)を解消するための訓練。
患者さんのお名前や生年月日に関する質問に始まり、「今居る場所は?」や「今日は何月何日?」などの質問を繰り返し、また日常生活で当たり前に行ってきた動作を通じ、対人関係・協調性を取り戻すことや、残存機能に働きかけることで認知症の進行を遅らせることを期待する療法です。(*3) - 回想法:回想法とは、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品などを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法です。
認知症を患うと、最近の記憶を保つことは難しいですが、昔の記憶は残っています。昔のことを思い出して言葉にしたり、相手の話を聞いて刺激を受けたりすることで脳が活性化し、活動性・自発性・集中力の向上や自発語の増加が促され、認知症の進行の予防となります。また、昔の思い出に浸り、お互いに語り合う時間を持つことで精神的な安定がもたらされます。
共有の話題を楽しむ仲間と過ごすと不安や孤独感が和らぎ、自分の話を聞いてもらえているという満足感も得られるので、高齢者に多いうつ症状の改善・予防にもなります。(*4)
- 音楽療法:
音楽療法は、不安や痛みの軽減、精神的な安定、自発性・活動性の促進、身体の運動性の向上、表情や感情の表出、コミュニケーションの支援、脳の活性化、リラクゼーションなどの効果をが期待できます。
シニアは、昔の歌を思い出す、音楽を聴く、歌う、楽器を鳴らすことで、脳の働きや身体の動き、発声が促されます。感情の乏しい方や自発性の低い方でも自然に笑顔が表れたり、リズムに合わせて身体を揺らしたりすることがみられます。認知症の進行の予防としては、歌いながら楽器を鳴らすなど、2つの動作を同時に行うことが有効とされています。(*6) - その他:絵画・園芸・ペット・レクリエーション・アロマテラピー・囲碁・将棋など。 ☆芸術療法:1942年にイギリスで始まったとされ、近年では認知症患者のリハビリテーションにも用いられるようになった。芸術療法の表現手段は、絵画・粘土細工・陶芸・彫刻・写真・連句・詩歌・俳句・自由画・心理劇・ダンスなどさまざま。言葉では表現しにくい情緒や願望、幻想などを自分の好きな方法を通して表現することで、不安を解消したり、感情を解放したりすることができる。完成した作品の良し悪しよりも、絵を描き、作品を作るプロセスを楽しむことを重視する。(*7)
☆アロマ療法:植物から抽出した精油を用いて行う医療の代替療法の一つとしてアロマセラピーの名で一般的には知られています。
精油そのものの香りを楽しむことや、精油でマッサージを行い、精油の香りが脳に刺激を与えることによってもたらされる効果や、皮膚を通して体に与えられる作用を期待して行われています。
副作用が少なく、誰にでも簡単に用いることができるメリットがあり、医療現場でも、ストレスの緩和や精神的なケア、リラックス効果を得るために、神経科・心療内科、小児科、産婦人科、歯科などで活用されています。
認知症へ対しても、精油の香りを嗅ぐことで脳への刺激を促し、認知症の症状の改善に役立てようと介護施設などでアロマ療法が取り入れられています。(*8)
☆アニマルセラピー:動物と触れ合うことで、ストレスの緩和、精神的な落ち着きなどの癒しの効果や活動性の向上を促すことを目的として行われます。
アニマルセラピーは、古代ローマ時代から馬を用いて負傷した兵士のリハビリが行われていた歴史があり、現在では人にとって身近な動物である犬を用いたセラピードッグの訪問が、高齢者施設や病院などで行われています。
アニマルセラピーによって犬と触れ合うことで、自然に笑顔がこぼれたり、穏やかな表情になったりなど、表情の変化や、精神的な安定をもたらす効果が有ります。昔、犬を飼ったことのある方は、昔のことを思い出して涙するなど、情動の変化が現れることもあります。(*9)☆囲碁・将棋:自分と相手の駒の動きを予測し戦略を立てることによって、脳の刺激となり、認知機能の向上および前頭葉の活性化・注意力や集中力の向上に繋がります。
また、対戦相手と対面で行われるため交流が促進され、社交性の向上が期待できます。そして、利用者様同士で交流するきっかけとなり、施設内での生活も充実していきます。(*10)
②理学療法
理学療法とは、病気やけがなどで体に障害のある人や、障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力の回復や維持、および障害の悪化の予防を目的に、運動・体操や温熱、電気などの物理的手段などを用いて治療をおこなう療法。
理学療法では、筋力の強化や、関節可動域 (関節の動く範囲)の拡大など、運動機能を維持・改善させ、基本動作の維持・改善に結びつけます。
人の体は脳からの指令で動いています。そのため、脳の障害で手足がうまく動かない場合のリハビリも、理学療法で行います。
たとえば、中等度から重度の認知症の患者さんには、
- 「無意識の動作はできるが、介助者の指示とおりに動こうとすると(企図動作)、混乱してどのように動いてよいかわからなくなる」
- 「つかんだ物から手を離せない(把握反射)」
などの症状が現れます。
理学療法士は動作場面を観察して、本人につかんでほしいところに目印を付けるなど、認知症患者さんの動作を無意識に引き出すような環境を設定し、残存能力の発揮や介助量の軽減につなげます。(*11)
③作業療法
認知症の非薬物療法の代表格が作業療法です。作業療法とは食事・入浴・家事・着替え・趣味など、日常生活に関係する活動(作業)にフォーカスした治療や援助のことをいいます。精神障害や身体障害を負う人の治療に幅広く取り入れられており、認知症の治療にも一定の効果があると考えられています。
認知症を患うと認知機能や身体機能が徐々に失われます。この状況下で、自分でできることに一生懸命取り組みながら社会とのつながりを感じることにより、「その人らしい」生活が送れるようサポートする治療法が作業療法といえるでしょう。
認知症における代表的なプログラムとしては、運動療法(有酸素運動やストレッチ)、認知刺激療法(塗り絵、習字、音楽鑑賞や絵画鑑賞のようなアートに触れること)、回想法などがあります。(*12)
④言語療法
言語療法とは、言語聴覚士が行う治療方法です。「話す・聞く」という音声機能や言語機能、聴覚に障害のある方の援助を行うことに加えて、「食べる」という生活行為に関して支援します。人間が生活を送る上で重要な機能の治療・リハビリをおこないます。
言語療法の主な練習内容:
- 話す、聴く、書く、読むなど言語力の向上と非言語(ジェスチャー)を使用したコミュニケーションの練習
- 口から安全に食べられるよう噛む、飲み込む動作の練習
- 目には見えにくい高次脳機能障害 集中力、記憶力、思考力についての練習
- 認知症の患者さんが穏やかに過ごせるような生活環境の調整を実施(*13)
上記が、「認知症リハビリ」4種類の具体的な内容です。
2.「重度認知症デイケア 和 ~なごみ~」で実際に行われている「認知症リハビリ」を紹介
精神科と高齢者医療を専門とする埼玉森林病院では、「重度認知症デイケア 和 ~なごみ~」を運営しています。こちらの「重度認知症デイケア」で実際におこなわれている「認知症リハビリ」は、地域の特色を生かしたリハビリになっています。具体例をホームページから紹介します。(*14)
☆回想法:
過去の出来事や思い出を語ることにより、精神の安定と認知機能の改善をはかる。自身のことを語ったり、それに対して反応を得たりなどのコミュニケーションを通じて、他人の役に立った、他人に喜んでもらえたなど、相手から評価されることや社会参加の感覚をもつなどの効果を期待できる。
☆散歩:
適度な運動や周囲の環境への興味、他者との自然な場での交流などを通じて、心身の活性を期待する。里山という豊かな自然環境の中で実施できていることも有効である。
☆創作活動:
縄ないをして正月飾りを作成するなど、過去の経験を活かした活動。書道、編み物、かるた作り、季節のモチーフ作成など。
☆イベント:
音楽ボランティアを招聘したり、外出をしたりなど、非日常的な出来事の体験と交流をはかる。
☆園芸:
農家や農業体験をしたことが多い世代であるため、過去の経験を活かし、社会参加の機会や活躍の場面となることが多い。
☆調理:
主に、園芸で収穫した野菜を調理する。自身で育てたものを料理する喜びの体験、他者との交流、調理経験を活かして、社会参加や活躍の場とすることができる。
☆嚥下体操:
飲み込みを失敗しないようにする体操、唾を出す練習。飲み込みには口の中や舌だけでなく、首回りなど特に上半身の体の機能も使う。(以下省略)
「認知症リハビリ」は、定義もエビデンスも確立していない発展途上の治療方法です。埼玉森林病院のプログラムには、縄ないがあったり、里山の散歩があったりと地域の特色が強く出ています。つまり「認知症リハビリ」は、各病院が独自の成果やノウハウを積み重ねている状態です。
それでも、薬+「認知症リハビリ」には効果があります。
施設から追い出されそうとか、家族が疲れ果てていらっしゃるなら、精神科の先生かケアマネジャーに「重度認知症デイケア」への通所について相談なさってみてください。ご幸運を祈っています。
謝辞:旭 俊臣先生をはじめとして、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
お詫び:2025年1月3日のブログはお休みし、次回は1月10日にお届けします。
補注
*1:「認知症の BPSD」日本老年医学会雑誌 48巻 3 号(2011:5)https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_48_3_195.pdf
*2:「認知症plus院内デイケアー生活機能の維持・回復を目指す」旭 俊臣・坂本昌子・賀曽利 裕 編集、2019年9月発行、日本看護協会出版会、定価2,300円+税、ISBN978-4-8180-2210-2、https://www.jnapc.co.jp/products/detail/3713
*3:「リアリティ・オリエンテーション」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/reality.html
*5:「認知症ケアにおけるリハビリテーションの重要性」2~6頁、『認知症plus院内デイケア』編集:旭 俊臣・坂本昌子・賀曽利 裕、2019年発行、日本看護協会出版会、定価2,300円+税、ISBN:978-4-8180-2210-2 https://www.jnapc.co.jp/products/detail/3713
*6:「音楽療法」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/music.html
*7:「芸術療法とは」認知症フォーラム.com https://www.ninchisho-forum.com/keywords/ka_10.html
*9:「認知症のアニマルセラピー」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/ninchi-pet.html
*10:「将棋を用いた認知リハビリテーション」介護老人保健施設コスモス苑 https://kaigo-cosmos.jp/activity/%E5%85%A5%E6%89%80%E3%83%AA%E3%83%8F%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3/2024/06/01/33964
*11:「認知症ケアにおける理学療法」健達ねっと https://www.mcsg.co.jp/kentatsu/interview/65893
*12:「作業療法」認知症の進行を遅らせる「作業療法」とは? 朝日生命 https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/activity/ninchisho/column13/05/2/
*13:「言語療法とは」協和会病院 https://www.kyowakai.com/kyowakai_hp/section/rehabillitation/st.php
*14:「具体的なプログラムのご紹介」重度認知症デイケア 医療法人昭友会埼玉森林病院 https://www.kokoro-gr.jp/dementia-dc.html
以上