在宅の軽度認知障害やアルツハイマー型認知症患者の家族介護者で、介護負担感が増減する原因と対策を紹介!(前編)
国立長寿医療研究センター リハビリテーション科の神谷正樹先生方の研究グループは、在宅の軽度認知障害の方とアルツハイマー型認知症の患者さんを介護なさっている家族介護者が感じる介護負担感の原因について研究なさいました(*1)。この論文から介護負担感を増加させる原因と対策を2回に分けて紹介します。
1.介護負担感の原因についての研究の対象と調査方法
対象:①2014 年 1 月から 2019 年 4 月の期間に、国立長寿医療研究センター(*2)の外来にて約 1 年間継続的に外来リハビリテーションを受けた軽度認知障害(MCI) 患者 12 名と アルツハイマー型認知症患者 37 名の計 49 名(男性 25 名、女性 24 名)
②その家族介護者 49 名(男性 14 名、女性 35 名)
患者さんの年齢:中央値 74.6歳(61~86歳)
患者さんの認知症スクリーニング検査の得点:中央値24点、範囲は19ー27点。(24 点以上 27 点以下ならば アルツハイマー病による健忘型 MCI と、28 点以上なら健常者と判定。精神状態短時間検査 改訂日本語版(MiniMental State ExaminationJapanese : MMSEJ)(*3)
家族介護者の年齢:中央値 67.6歳
家族介護者の続柄:妻 25 名、夫 13 名、娘 8 名、息子 1 名、嫁 2 名
外来リハビリテーションの内容:包括的な治療を1年間行った。
①患者さんへは定期的な認知症専門医及びリハビリテーション専門医の診察と、 運動療法と認知訓練を組み合わせた訓練を週 1 回 60 分実施。
②家族介護者にも参加を促し、個別での対応や集団での家族教室を通して、認知症の症状などの理解を深め、対応技術のコツなどを伝授。また、介護サービスを含む社会制度の利用などに関する情報や介護指導を行った。
評価方法:外来リハビリテーションの開始時と開始1年後に以下の評価方法で、患者さんとその家族介護者の状況を測定。(詳細は論文をご覧ください)
- 認知症の重症度評価
- 認知機能の評価
- BPSD の評価
- 生活機能の評価
- 家族介護者の介護負担感の評価
- 家族介護者の精神機能の評価
- 家族介護者のQuality of Life(QOL)の評価など
2.家族が感じる介護負担感の特徴
①外来リハビリテーションを開始前の場合
☆患者さんの認知症重症度評価別に比較した介護負担感評価の結果では、軽度の「認知症の疑い」と比較して「中等度認知症」や「高度認知症」の患者さん家族は、介護負担感が高かった。
☆患者さんの介護度別の介護負担感評価では、「要介護 2」 の場合「介護度なし」や「要介護 1 」と比較すると、介護負担感が高かった。
☆患者さんの生活機能評価で、完全自立である 100 点と介助が必要となる 100 点未満の患者さんで、介護負担感を比較した場合、介護負担感に差はなかった。
☆介護者の続柄による介護負担感も調べたが、負担感に差はなかった。

在宅の軽度認知障害やアルツハイマー型認知症患者の家族介護者で、介護負担感が増減する原因と対策を紹介!(前編)(Mabel Amber, who will one dayによるPixabayからの画像)
②外来リハビリテーションを開始1年後の場合
☆1 年間の経過で、介護負担減少・維持群は 20 名、介護負担増加群は 29 名。
☆認知症の重症度評価、認知症スクリーニング検査、BPSDの評価、生活機能の評価、手段的日常生活動作の評価など、どの項目でも両群間に差はなかった。
☆介護負担減少・維持群と介護負担増加群の両群間で患者さんの年齢、性別、教育年数、疾患割合、罹病日数、介護保険の有無などの条件による差は、無かった。
☆介護負担減少・維持群と介護負担増加群の両群間で、介護者の年齢・性別・続柄などによる差もなかった。
3.介護負担減少・維持群と介護負担増加群の違いは何か?
☆介護負担感減少・維持群では、患者さんの認知症重症度は悪化した。しかし、その他の認知機能、BPSD、生活機能などに関して変化はなく、介護サービスの利用状況も変わらなかった。
☆介護負担増加群は、患者さんの認知症スクリーニング評価が低下し、前頭葉機能検査(*4)の数値も低下し、生活機能の評価(*5)も手段的日常生活動作の評価(*6)も低下した。しかし、BPSD に関する変化は認められず、介護サービスの利用状況も一年前と比較して差はなかった。
☆両方の群においても、うつ性自己評価尺度、不安レベルがわかる心理検査、神経症状把握・評価および発見を行うスクリーニング検査 に変化はなかった。
☆介護負担増加群の手段的日常生活動作の評価 では、男女で差が表れた。男性では外出頻度が増加し、女性では食事後片付けや買い物が減少した。
☆介護負担増加群では、「友人を呼べない」の項目以外の全ての介護負担感が増加していた。
これらの条件から、神谷正樹先生がたは以下のように考察しています。
『記憶障害に対して介護者は介護負担を感じ,繰り返し予定を伝えたり,声かけをしたりするといった援助の必要性が苛立ちやストレスにつながるものと考えられる.
すなわち,患者の認知機能の低下が介護者は精神的負担につながるため,なるべく中核症状を進行させないようなリハが必要となると考えられる.』
前編は、ここまでです。次週5月9日の後編では、介護負担感を軽減できる具体的な対策・方法を解説し、さらに専門医や交流会を見つけるための検索方法もご紹介します。

在宅の軽度認知障害やアルツハイマー型認知症患者の家族介護者で、介護負担感が増減する原因と対策を紹介!(前編)(Mabel Amber, who will one dayによるPixabayからの画像)
謝辞:神谷正樹先生、大沢愛子先生、村田璃聖先生、植田郁恵先生, 前島伸一郎先生、櫻井孝先生、近藤和泉先生をはじめとして、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
補注
*1:論文「軽度認知障害と認知症患者の介護負担感の 1 年の経過と変化の要因に関する探索的検討」神谷 正樹,大沢 愛子,村田 璃聖,植田 郁恵, 前島伸一郎,櫻井 孝,近藤 和泉、日本認知症学会誌Dementia Japan Vol36-1; 142-151ページ, 2022年, https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2023/11/p142-151.pdf
*2: 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター https://www.ncgg.go.jp/
*3:精神状態短時間検査 改訂日本語版(MiniMental State ExaminationJapanese : MMSEJ)認知症スクリーニング検査のグローバルスタンダードMMSEの正規日本版です。 11のカテゴリーに分けられる一連の質問と課題から構成され、10分程度で簡便に18歳〜85歳の認知機能を測定します。 18歳~85歳を対象とした、認知症スクリーニング検査です。https://www.saccess55.co.jp/kobetu/detail/mmse_j.html
*4:「前頭葉機能検査:脳の中の、前頭葉の機能を中心に評価する検査です。言葉の概念化(類似の把握)、言語流暢性、運動プログラミング、干渉への感受性、抑制性制御、理解行動を調べる6つの項目からなっています。得点が低下するほど、前頭葉の機能障害の可能性が上がります。前頭側頭型認知症の鑑別などに用いられます。」認知機能検査について – 和歌山県立医科大学 https://www.wakayama-med.ac.jp/med/bun-in/dementia/shindan/shinri.html#:~:text=4%20FAB%EF%BC%88Frontal%20Assessment%20Battery,%E3%81%AB%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
*5:「生活機能の評価:この論文では、Barthel Index(BI)とFrenchay Activities Index (FAI)を用いて測定しています。日常生活動作(ADL)を評価するのが、Barthel Index(BI)です。
BI(バーセルインデックス)は、米国の医師Mahoneyと理学療法士Barthelによって作られた、日常生活動作(ADL)を評価する指標のひとつです。 食事や移乗、トイレなどの全10項目で構成され、検査や訓練を通してできたことを15点、10点、5点、0点の4段階で評価します。https://www.ekaigotenshoku.com/ekaigowith/2022/09/30/bi/#:、~:text=%E8%AA%AC%E6%98%8E%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82-,BI%EF%BC%88%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%EF%BC%89%E3%81%AE%E6%84%8F%E5%91%B3,%E6%AE%B5%E9%9A%8E%E3%81%A7%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
*6:手段的日常生活動作の評価:買い物や食事の準備、服薬管理、金銭管理、交通機関を使っての外出など、複雑な動作や判断が求められる活動がIADLです。手段的日常生活動作(IADL)は、Frenchay Activities Index (FAI)を用いて測定しています。
FAI は、日常生活の中でも応用動作や社会生活における活動の全 15 項目を評価します。 面接調査で、最近の 3 か月間または 6 か月間の行動を評価するものです。 住み慣れた地域で生活できているご高齢者の IADL を評価するために用いられます。https://rehabilikunblog.com/iadl_frenchay-activities-index/#:~:text=IADL%20%E3%82%92%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%99%E3%82%8B%20FAI,%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB%E7%94%A8%E3%81%84%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
IADLとは、買い物や食事の準備、服薬管理、金銭管理、交通機関を使っての外出など、複雑な動作や判断が求められる活動のことです。 IADLは、患者さんが自立して生活を送れるかの判断材料として、介護現場に取り入れられています。https://job.kiracare.jp/note/article/27016/#:~:text=%E5%85%B7%E4%BD%93%E7%9A%84%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%80%81%E8%B2%B7%E3%81%84%E7%89%A9,%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%8D%E3%82%92%E3%81%94%E8%A6%A7%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84%E3%80%82
以上