ヘルパーさんが辞めたら誰が困る?訪問介護の「ハラスメント問題」と家族ができること
もしも明日、いつも来てくれるヘルパーさんが突然辞めてしまったら、あなたとご家族の生活はどうなりますか?
知人のヘルパーAさんは、いつも明るくパワフルに現場を支えている女性です。しかし最近、新しく担当になったある利用者の清拭(体を拭く介助)中に、度重なる不必要な身体接触(セクハラ行為)で悩まされるようになりました。
Aさんが拒否してもやめてもらえず、訪問の前日になると胃が痛み、精神的に追い詰められているといいます。
「嫌なら辞めればいい」と思うかもしれません。実際、人手不足の介護業界では、技術のあるヘルパーさんなら次の職場はすぐに見つかります。
しかし、彼女が辞めてしまったらどうなるでしょうか?
彼女が担当している約10軒のご家庭は、明日から必要な訪問サービスを受けられなくなるかもしれないのです。
データで見る「密室」の悲鳴
訪問介護や看護は、どうしても「利用者の自宅」という密室で行われます。そのため、ハラスメントが顕在化しにくい構造的な問題を抱えています。
実際、以下のような公的調査やメディアの報道もあります。
◆約9割がハラスメントを経験:
岡山県の調査では、訪問看護・介護スタッフの約9割が暴言や威圧などを経験し、6割が「仕事の継続意欲に影響した」と回答(2026年4月 山陽新聞)
◆約半数がセクハラ等を経験:
訪問看護師の約半数が暴力やセクハラを経験しているというデータも(2026年8月 Hokan Press)
1人で訪問することが多いため、危険を感じてもその場をすぐに離れられず、「自分が我慢するしかない」と一人で抱え込んでしまうケースが後を絶ちません。
ハラスメントが招く「介護サービスの縮小」
訪問介護では、食事や排泄、入浴の介助、体位変換など、日常生活に欠かせない身体介護を行ってくれます。体に直接触れるケアが多いからこそ、悪質なセクハラや暴言の標的になりやすいという側面があります。
一部の悪質な利用者の行為によってスタッフが離職し、事業所が撤退してしまうと、真面目に利用している私たちや家族まで必要なサービスを受けられなくなってしまいます。
「介護スタッフを守ること」は、巡り巡って「私たちの介護環境を守ること」に直結しています。
家族が知っておくべき「対策」と「制度」
介護現場でのハラスメントに対しては、厚生労働省もマニュアルを作成し、対策を強化しています。
実は、以下のようなルールや制度が存在します。
1.2人訪問への切り替え
ハラスメントのリスクがある場合、事業所は2人体制での訪問に切り替えることができます(※利用側の費用負担が増えます)。
2.契約解除と他事業所の紹介
正当な理由があれば、事業所側から契約を解除し、別の事業所を紹介することが認められています。
3.防犯・安全ツールの活用(訪問看護などで推進)
訪問看護の現場などで推奨されている、緊急呼び出し機能付き防犯ブザー・防犯ボタン付き携帯電話の導入など、テクノロジーを活用した安全確保の取り組みも始まっています。
事業者にはもともとスタッフを守る「安全配慮義務」がありますが、2026年10月からは法改正により、介護事業所を含むすべての事業主に「カスタマーハラスメント(カスハラ)対策」が義務付けられます。
現場の「個人の我慢」に任せるのではなく、事業所や国全体でスタッフを守る仕組みづくりが本格的に進んでいます。
家族ができる「予防とサポート」
自分の親が訪問介護や看護を利用している場合、読者世代である私たちが「安心できる環境づくり」のパートナーになることが大切です。
◆親の言動への目配り
高齢による変化や不調から、親が意図せず横柄な態度を取ったり、不適切な言動をしてしまうことがあります。
◆優しく現実を伝える声かけ
『お手伝いさん』や『目下の人』として接してしまう昔気質の親には、「いまはハラスメントに厳しい時代なの。スタッフさんに不快な思いをさせると契約解除になってサービスが受けられなくなっちゃうよ」と、親自身の利益を守る視点で優しく釘をさしておくのも一つの方法です。
◆感謝を言葉で伝える
訪問時には「いつも本当に助かっています」と一言添えるだけで、スタッフさんの安心感やモチベーションは大きく変わります。
おわりに
訪問介護や看護に携わってくださる方々は、自宅での生活を支えてくれる有難く尊い存在です。
自宅介護は閉鎖しやすくマイナス感情を溜めやすいですが、訪問介護の皆さんは外の風を運んできてくれます。スタッフの明るさで、清々しい気持ちを取り戻せます。
だからこそ、ハラスメントで現場から人が消えてしまう未来を防ぎたい。
まずは私たちが現場のリアルと制度を知り、感謝とリスペクトをもってスタッフの皆さんを迎え入れられる関係を作っていきたいですね。
参考:厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」
以上

