年間2万人を突破しそうな認知症シニアの行方不明はとても身近だから、予防対策を紹介します!
2023年度に認知症で行方不明になられたシニアは、過去最多の1万9,039人!このうち、警察が死亡を確認した人数は553人(*1)。2024年度の人数はまだ未発表ですが、今年には2万人を突破しそうです。暖かい季節を迎え、あなたのご家族が行方不明にならないための予防対策を紹介します。
1.薬の服用をかかりつけ医に相談する
認知症の周辺症状、BPSDの1つに「徘徊」があります。この症状は、訳も分からずに歩き回っているのではありません。大別すると、迷子型と時空迷子型があります。
迷子型は、見当識と短期記憶の衰えから散歩の途中やお使いの道などで訳がわからなくなったりします。見慣れた道が突然知らない風景に一転し、さっき見た建物を思い出すこともできなくなったりします。
時空迷子型はなにかの拍子に意識が過去に戻ってしまい、過去の自分として生家に帰ろうとしたり、昔勤めていた会社や工場に行こうとします。
愛知県警の458件のデータ(*5)によると、発見された時に自分の名前と住所を「言えた」人は153件、「言えなかった」人は305件。約2/3は自分の住所・氏名が言えない状態です。
迷子になると本人も強いショックを受けるので、自分から「迷子になった」と話すことが多いと思います。この時点で、かかりつけ医によい薬があるかどうかご相談なさることをお勧めします。
自分1人で歩ける体力・脚力があり、認知症も軽度の方が、行方不明になりやすいです。
2.知らぬ間に出られないような対策を玄関・勝手口・窓に施す
掃除機をかけている間や洗濯物を干している間に、1人で外出してしまったという話をよく聞きます。そこで、玄関や勝手口、あるいは大きな窓に次のような工夫をしてはいかがでしょうか?
①玄関のカギを、暗証番号など新しいタイプに交換する
②玄関や勝手口や窓には、手の届かない場所に補助のカギを取り付ける
③玄関や勝手口や窓が開くと警報音がなるセンサーを取り付ける
「徘徊防止」で検索すると、いろいろな商品がでてきます。知らない間に1人で外出してしまい、大騒ぎになる前に一度調べてみてください。
3.徘徊防止用GPSを身に着けてもらう
子ども用のGPSもありますが、「徘徊防止GPS」で検索すれば色々な商品が出てきます。
NTTドコモが製造している商品を扱っているホームページでは以下の説明があります。
『靴を履いて徘徊される方が多いということや、履かずに出られた場合、不審であることから保護されやすいということで、普段履きの靴の甲に取り付ける事を推奨しております。
しかし、その方のライフスタイルに合わせて、杖に取り付ける・お守り袋、携帯ケース等に入れる事も可能です』(*2)
更に、自治体によってはこの徘徊防止用GPSを介護保険でレンタルできる自治体もあります。お住いの自治体の介護保険担当か、地域包括支援センターにお問い合わせください。
4.衣類や靴やバッグなどにQRコードを貼り付ける
迷子になってしまったり、パニックに陥って帰る場所も自分の名前を分からなくなってしまう場合を考えて、衣類や靴や日頃良く持っている持ち物などに、個人情報を保護できて、多くの情報を伝えられるQRコードを貼り付けます。
QRコードなら、幼稚園児のような名札シールと違って自尊心を傷つけないで使えます。
QRコードなら、持病や服薬の情報も伝えることができます。インスリン注射をもたずに行方不明になっても昏睡状態に陥ることを防げるかもしれません。
「認知症見守りシール」で検索すれば、色々な商品がでてきます。
また、東京の荒川区や墨田区では「認知症高齢者見守りシールの交付」を行っています。早期に発見・保護することを目的とした「見守りシール」は、二次元コードを読み取ると、個人情報を知らせることなくご家族等とインターネット上の伝言板でやり取りができる仕組みを備えています。(*3)
あなたのお住いの自治体にも同じような「見守りシール」があるかどうかは、お住いの自治体の介護保険担当か、地域包括支援センターにお問い合わせください。
5.地域の認知症高齢者等SOSネットワークに登録しておく
横浜市では、地域の関係者や関係機関等の協力のもと、行方不明になった認知症の人の早期発見・保護を目的とした「認知症高齢者等SOSネットワーク」を運用しています。
行方不明となるおそれのある認知症の人の情報(身体的特徴など)を区役所や地域包括支援センターなどで事前に登録しておくと、よりスムーズにSOSネットワークで行方不明者が発見につながるそうです。(*4)
ネットで検索すると、独居老人や高齢者世帯の生活見守りのネットワーク情報も混在します。お住いの自治体に認知症の人の早期発見・保護を目的としたネットワークがあるかどうかお尋ねください。
また地域性にもよりますが、お住まいの地域の民生委員や自治会の役員、近所の方々に、あらかじめ徘徊の可能性がある家族がいることを伝えてはいかがでしょうか。万が一の際にもすぐに見つかる可能性が高くなります。
本人が立ち寄りそうなお店や駅、交番などにも同様のことを伝えておくと声をかけてもらいやすくなります。
6.ラジオ体操や簡単な仕事などでよく動くようにする
体調が悪くなったり、夜眠れないことが続いたりすると、徘徊の症状が出ることがあります。そのため、食事時間や起床・就寝時間を毎日規則正しく保ち、体調や生活のリズムを整えることが大切です。
軽めの散歩やストレッチ、ラジオ体操を一緒に楽しめれば、身体に刺激を与えることでほどよく疲れ、夜はぐっすり眠れます。熟睡で徘徊の症状が収まることもあります。
またデイサービスや認知症カフェに通ったり、簡単な仕事や掃除など、目的を持って体を動かせると効果的です。
同じ病気の仲間と交流したり、誰かの役に立つことや必要とされていることが、認知症による不安を解消し精神的な安定をもたらします。
7.徘徊症状が頻発しても、叱ったり閉じ込めたりしない
もしも徘徊を繰り返すようになったら、家族は動揺し、悲しみ、𠮟りつけるかもしれません。けれど、本人も真剣に「子どもをお迎えにいかなくてはならない」と思い込んでいたり、「早く会社にいかなくてはならない」と必死だからこそ繰り返します。
説得したり激怒しても高熱が下がらないように、BPSDの症状の1つに過ぎない「徘徊」も止みません。
「徘徊」が脳の病気である「認知症」の症状の1つであることを踏まえて、冷静に対応することが必要です。
①早急に認知症専門医を受診する
②目的や義務感で外出しようとしていることを理解し、叱責したり、無理やり止めたり、閉じ込めたりしない
③何のためにどうしたいのかを傾聴し、他のことで気をそらせて外出しようとする気分を紛らわせる
④一緒に外出し、気分が落ち着くまで歩き回る。頃合いを見て、違う道を通って戻る
⑤こっそり後をついて歩き、どこに行くのか?どこに寄りやすいのか?などを調べておく
⑥3~5月と6~8月が行方不明になりやすく、午前8時~午後4時の時間帯が行方不明になりやすいので、特に気を付ける(*5)
8.「認知症のある生活に備える手引き」を読んで認知症を理解する
認知症の人と家族の会は、「【報告書】認知症の人の家族の思いと受けている支援に関する実態調査(2022年3月発行)」をもとに、「自分や家族が認知症を疑い、診断された方のために、心を軽くできるかもしれないヒント」を盛り込んだ、冊子を作成なさいました。(*6)
ホームページからPDFをダウンロードするか、1冊につき300円(送料込)で郵送していただけます。支払いはクレジット払いのみで、おひとりの上限が10部です。
ある日突然徘徊して警察に保護されて・・・と聞きますが、きっと何か兆候があったはずです。「認知症のある生活に備える手引き」を読んで、脳の病気である「認知症」のことを理解なさってください。(https://www.alzheimer.or.jp/?p=48252&fbclid=IwAR2hFHOOCy-GrBSxYxBW1T2lv8nTs9QsTEcbFz6jwHEpwtddk74BK_9OZcs)
公益社団法人 認知症の人と家族の会
〒602-8222 京都市上京区晴明町811-3 岡部ビル2F
TEL:(050)5358-6580
<時間>平日9:00~17:00
FAX:(075)205-5104
E-mail:office@alzheimer.or.jp
徘徊するからと部屋に閉じ込めてしまえば、ご本人のストレスが更に溜まり、BPSDがもっと激しく悪化します。「認知症」という脳の病気への無理解は、泥沼の介護を招きかねません。「見守りシール」や徘徊防止用GPSなども活用しつつ、ご本人も家族もストレスの少ない、安全で楽しい日々を過ごせますよう祈っています。
来週4月11日ブログでは、万が一、認知症の家族が行方不明になってしまったときの対処方法を紹介します。
補注
*1:「令和5年における行方不明者の状況」警察庁生活安全局人身安全・少年課 令和6年7月 https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/fumei/R05yukuefumeisha.pdf
*2:「認知症徘徊感知機器 iTSUMO(いつも)とは」https://itsumono-gps.jp/aboutistumo/
*3:「認知症高齢者見守りシール事業」墨田区ホームページ https://www.city.sumida.lg.jp/kenko_fukushi/koureisya_kaigohoken/ninchisyo/mimamori-st.html
*4:「認知症高齢者等SOSネットワーク」横浜市 https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/fukushi-kaigo/koreisha-kaigo/ninchisyo/ninchisyo-sodan/sos.html
*5:「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル改訂版(自治体向け)」https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikihoukatu/ninchisho-pamphlet.html
*6:「認知症のある生活に備える手引き」 公益社団法人 認知症の人と家族の会 https://www.alzheimer.or.jp/?p=48252&fbclid=IwAR2hFHOOCy-GrBSxYxBW1T2lv8nTs9QsTEcbFz6jwHEpwtddk74BK_9OZcs
以上