介護施設で「叩かれた」と訴えがあったら?虐待の芽チェックと3つの対応策【後編】
・前編:養護・介護施設で暮らす家族を虐待から守るには?【予防策・前編】
・後編:叩かれた?暴言?虐待の芽チェックと3つの対処法【後編】
・相談窓口編:高齢者虐待を疑ったら?相談・通報できる公的窓口と47都道府県一覧
2月21日の前編では、
「施設を訪問した時に、ご家族が虐待されにくくするためのポイント」
をお伝えしました。
後編では、
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「虐待の芽チェックリスト(入所施設版)」(*1)の一部
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ご家族が
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「職員から叩かれた」
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「暴言を吐かれた」
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「食事を取り上げられた」
と訴えた時の、3つの対応パターン
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を分かりやすく整理してお届けします。
1.「お金を払っているのだから、任せて当然?」というご意見について
まず、「施設には費用を払っているのだから、介護は任せて当然では?」というご意見をいただきました。
率直なお気持ちをお寄せいただき、ありがとうございます。
確かに、
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施設やホームに料金を支払う
→ その対価として、介護や生活支援のサービスを受ける
この考え方は正しいです。
でも、「お金を払っているから見舞いは不要」でしょうか?
例えば、病院に入院した場合を想像してみてください。
今の病院は「完全看護」で、家族が付き添う必要はありません。
それでも、
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様子が心配で見に行く
-
好物を差し入れしたくて行く
という方が多いのではないでしょうか。
認知症の介護は、「病院より過酷」な現場も多い
認知症も「病気」です。
完治が難しく、症状が進行し、最終的には命に関わる病気です。(*2 参照記事)
しかも、
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職員が慢性的に不足している
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夜勤や重度の方の介助が続く
-
暴言・暴力・セクハラを受けることもある
など、病院以上に過酷な労働環境の施設も少なくありません。
高齢者虐待の増加は、その厳しさを物語っています。
虐待は「個人の性格」だけで起こるのではない
施設で起きる虐待は、
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その職員個人の人柄だけが原因ではなく、
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「教育・知識・介護技術」の不足
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「ストレスケア・感情コントロール」の仕組みの弱さ
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人手不足など、職場全体・労働環境の問題
が重なって起こります。
そんな“危うい環境”に、私たちは大切な家族を預けています。
「任せっぱなし」ではなく、「一緒に介護を続ける」イメージで
自宅介護が限界になって施設やホームにお願いした──
だからこそ、
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可能な範囲で通って、食事介助や着替えを手伝う
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職員さんに感謝を伝えながら、虐待やいじめがないか目を配る
こうした「任せっぱなしではない姿勢」が、ご家族を守る力になります。
浅海直二郎商店としては、
介護を丸投げするのではなく、職員さんと一緒にご家族を支える
という立場を大切にしたいと考えています。
もし納得しづらい点があれば、どうぞ遠慮なくご意見をお寄せください。
2.個室・職員の様子・ご家族の言葉から「虐待の芽」をチェックする
ここからは、公益財団法人 東京都福祉保健財団の
「虐待の芽チェックリスト(入所施設版)」(*1)をもとに、
ご家族が確認しやすい形に質問形式でご紹介します。
個室や日用品の状態
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眼鏡・義歯・補聴器など、毎日必要な物が壊れたまま放置されていませんか?
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ナースコールが押しにくい位置に置かれていませんか?
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ベッド周りが危ない配置(転びやすい・物が散乱している)になっていませんか?
職員の言葉づかい・態度
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他の入居者さんへの声かけが、いつも「命令口調」や「きつい言い方」になっていませんか?
例)「早くして」「ダメ!」と強い口調ばかり -
洗濯室や配膳室などで、
入居者さんや家族の悪口・あざ笑うような会話が聞こえてきたことはありませんか? -
介助が乱暴・雑な様子を見かけたことはありませんか?
例)体を乱暴に引っ張る、ため息をつきながら投げやりに接する など
ご家族本人の「愚痴・訴え」
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「職員さんが『ちょっと待って』と言って、いつも長く待たされる」
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「呼んでもなかなか来てくれない」「ナースコールを無視される」
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「お願いしても、いつも否定的な反応ばかりされる」
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「気分が悪くても、無理やり食事をすすめられる」
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「嫌がっているのに、無理やりお風呂に入れられる」
こうした訴えが続く場合、
職員さんのストレスやケアの質に問題があるサインかもしれません。
「Yes」が多いほど要注意
これらの項目に「Yes」が多いほど、
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職員さんのストレスが高い
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ケアの質が下がっている
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虐待リスクが高まっている
と考えられます。
職員さんの「溜まったストレス」や「八つ当たり」が
本格的な虐待に進む前に、手を打つことが大切です。
次の章では、ご家族からの訴えがあった時の対応を、3つのパターンに分けて整理します。
3.「叩かれた」「暴言を吐かれた」「食事を取り上げられた」と訴えられたら
訴えを聞いた瞬間、
「それは大変!」と感情が揺さぶられて当然です。
ですが、一度深呼吸をして、
冷静に事実確認をすることが大切です。
まず、自宅介護の頃を思い出してみる
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もともと「財布を盗られた」「嫁がいじめる」「ご飯をくれない」などの妄想を訴えやすいタイプでしたか?
-
それとも、自宅ではそのような訴えはほとんどありませんでしたか?
自宅での様子を思い出すことで、
「妄想か、事実の可能性が高いのか」の見当がつきやすくなります。
パターン①:訴えが“妄想っぽい”と感じられる場合
自宅にいた時から、
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「盗られた」「いじめられた」と訴えがちだった
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今回も似た内容だと感じる
という場合は、妄想の可能性が高いかもしれません。
その場合でも、以下のように施設長や介護責任者に相談してみてください。
『家族が「職員から叩かれた」「暴言を吐かれた」「食事を取り上げられた」と言っています。
自宅介護の頃も似た訴えがあり、今回も事実ではない可能性が高いと思っています。ただ、何か不安や不満があるからそう言うのだと思います。
もっと楽しく過ごせるよう、原因と対策を一緒に考えていただけますか?』
この時に伝えたいポイント
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「訴えは事実ではないと理解している」こと
-
それでも「本人が不満や不安を抱えているサインなので、環境調整を考えてほしい」こと
を、はっきり伝えることが重要です。
また、
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職員さんの悪口・陰口
-
乱暴・雑な介助
など気になる点がある場合でも、
まず「日々の介護への感謝」を伝えてから、
「虐待にエスカレートしないよう、改善をお願いする」
という順番を意識すると、話し合いがスムーズになります。
パターン②:訴えが“事実かもしれない”と感じられ、施設への信頼もある場合
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自宅では妄想がほとんどなかった
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最近、表情が沈みがちで、いままでと違う様子がある
このような場合は、事実の可能性も視野に入れて、
早めに調査を依頼しましょう。
施設長や介護責任者には、こんなふうに伝えます。
『家族が「職員から叩かれた」「暴言を吐かれた」「食事を取り上げられた」と言っています。
自宅では、そのような妄想や訴えはほとんどありませんでした。
最近、表情も沈んでおり、とても心配です。
なにか異変がないか、調べていただけますか?』
「おかしいので調べてください」と、はっきり依頼することが大切です。
放置すると「重大事故」につながることも
2023年には、千葉県勝浦市の特別養護老人ホームで、
入所中の91歳女性が職員から複数回平手打ちされ、脳挫傷を負う事件も起きました。(*2)
そこまでエスカレートする前に、
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小さな異変の段階で気づくこと
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おかしいと思ったらすぐに調査を求めること
が、ご家族を守るうえでとても重要です。
パターン③:訴えが“事実かもしれない”うえ、施設を信頼できない場合
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以前から職員の態度に強い違和感がある
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苦情を伝えても、きちんと対応してもらえなかった
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施設側が「隠そうとしている」ように感じる
このような場合は、
施設だけに任せず、公的窓口への相談・通報を考えた方が安全です。
さらに、調査が始まるまでの間に虐待が悪化しないよう、
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個室への見守りカメラ設置
も選択肢になります。
「隠蔽する施設」が現実に存在する
朝日新聞の2024年4月22日の記事(*3)によれば、
滋賀県の特別養護老人ホームでは、
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虐待・介護放棄が15件も発生
-
それを家族に虚偽説明して隠していた
という事例が報じられています。
社会福祉法人は、本来「社会福祉事業のために設立された法人」です。(*4)
それでも、このような信じがたい法人が存在するのが現実です。
だからこそ、
「おかしい」と感じたら、外部の公的機関にも早めに助けを求める
という姿勢が、ご家族を守る大きな力になります。
4.「預けっぱなし」にしないことが、最大の予防策
最後に、どうしてもお願いしたいことがあります。
それは、
施設やホームを、定期的に訪問し続けてほしい
ということです。
足が遠のくと、見えなくなるもの
介護をお願いすると、
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肩の荷が下りた気持ちになる
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久しぶりに、自分の楽しみ(友人とのランチ・温泉など)を優先したくなる
これは当然のことですし、休息もとても大事です。
でも、訪問が減ると、
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おびえた表情
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人目を避ける様子
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服の下に隠れた痣や火傷・打撲
といった小さなサインを見逃してしまうリスクが高くなります。
虐待は、最初から「大きな暴力」では始まらない
91歳の女性に脳挫傷を負わせた特養の元職員も、
最初から全力で平手打ちしたわけではないでしょう。
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つねる
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軽く叩く
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偶然のように見せかける小さないじめ
などから始まり、
誰にも気づかれないうちに、どんどんエスカレートしていったと考えられます。
だからこそ、
「預けっぱなしにしないこと」が、虐待を防ぐ最大の予防策になります。
特に危険が高いのは…
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女性
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85歳以上
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介護度が重い
こうした条件がそろうほど、
「介護を任せきりにしやすい」
→ 「虐待されやすい」という、悲しい現実があります。
次回:全国の公的な相談窓口を紹介します
来週の3月7日ブログでは、
高齢者虐待を相談・通報できる公的窓口(全国47都道府県)
をご紹介します。
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「どこに相談すればいいのか分からない」
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「施設に言っても埒が明かない」
そんな時に、必ず役に立つ情報ですので、ぜひあわせてご覧ください。
補注
*1:「養介護施設従事者等による高齢者虐待防止に役立つ資料等のリンク集 − 4.高齢者虐待防止等に関わる虐待防止、予防のチェックリストの活用」公益財団法人 東京都福祉保健財団
https://www.fukushizaidan.jp/105kenriyougo/link/
*2:「「あと3人いれば…」 虐待で職員逮捕の特養 人手不足で届かぬ教育」朝日新聞 2023年12月8日
https://www.asahi.com/articles/ASRD67RY6RD2UDCB006.html
*3:朝日新聞 2024年4月22日記事
「特養で虐待・介護放棄15件 家族に虚偽説明、滋賀県が運営法人処分」
https://www.asahi.com/articles/ASS4Q1DZ4S4QPTJB001M.html
*4:社会福祉法人制度(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/shakai-fukushi-houjin-seido/index.html
以上











