高齢者虐待の相談先と行政の動き|家族介護の4つの実例から学ぶ支援の受け方【中編】

🌿― 地域包括支援センターに相談しましょう(中編)―

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Nicky /Pixabay)

🔎この中編で伝えたいこと

前編では、

  • わが家で起きていた「母による父への虐待」

  • 市区町村の虐待窓口や地域包括支援センターには守秘義務があること

  • 養護者による「介護放棄・放任」の事例

を紹介しました。

この中編では、都道府県の虐待対応事例集に掲載された実例 をもとに、
「虐待が疑われるとき、現場ではどのように動いているのか」
を、できるだけわかりやすくお伝えします。


1.虐待対応事例から見える“家族の苦しさ”

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Bruno/Pixabay)

自宅介護で起こる高齢者虐待には、

  • 長年の家族のいきさつ

  • 恨みやわだかまり

  • 経済的な不安・借金

  • 夫婦・親子の依存関係

など、たくさんの要素が絡み合っています。

それでも、地域包括支援センターやケアマネジャー、医療・福祉・行政の専門職がチームで支えることで、家族全員が「少しでもマシな状態」に近づいた事例 がたくさんあります。

ここからは、代表的なケースを4つご紹介します。


2.ケース①:骨折やあざを繰り返すBさん(70代女性)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Ilona Ilyés/Pixabay)

●状況

  • 70代女性Bさん(要介護1)

  • 長男家族(夫婦と息子)と同居

  • 通所リハビリを週2回利用

孫が就職して家を出た頃から、Bさんに骨折や外傷が増え始めました。
理由をたずねると、いつも「転んだだけ」と説明します。

Bさんは気丈で頑固な性格。
家族の愚痴や不満を一切話さないため、周囲からは「仲の良い家族」に見えていました。

しかし、

  • 時計の修理

  • 年金の手続き
    など、本来は家族に頼めそうなことも、すべてケアマネジャーに依頼 していたのです。

🩺ケアマネジャーが感じた違和感

自宅訪問を続けるうちに、ケアマネジャーは
「もしかして虐待を受けているのでは?」
という疑いを持つようになりました。

ところが、確実な証拠がなく、Bさんも「自分が悪い」「自分で転んだ」と言い張ります。
そのまま2年が経ち、Bさんは毎月のように“転倒による怪我”で入院するようになりました。

ケアマネジャーは主治医に、

  • 虐待の有無の確認

  • 入院時のあざや傷の記録(写真)
    を依頼しましたが、

「本人はまた自宅に戻る。ここで“虐待だ”と大きく騒ぐとかえって生活が続けにくくなる」

といった理由から、協力を得ることはできませんでした。

👀それでも、見守りを止めない

主治医の協力が得られない中でも、

  • 長男夫婦にはショートステイや施設入所の情報提供

  • 通所リハビリでは、体重・傷の状態・服装・表情などを細かく観察・記録

を続けています。

Bさんの地域は、
「一度“虐待の家”と噂が立つと住みづらくなる」
という、いわゆる“田舎の目”が厳しい地域でした。

そのため、

  • Bさん本人は虐待を否定

  • 主治医も慎重
    という事情が重なり、はっきり「虐待」と認定できないまま、関わりを続ける という選択がとられています。

ここでは、
「今すぐ解決」ではなく、
“見守りと記録を続けながら、いつでも動けるように備える” という対応が行われているのです。


3.ケース②:あざを繰り返すCさん(70代男性)

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Nicky/Pixabay)

●状況

  • 70代男性Cさん(要介護2)

  • 次男夫婦と同居

  • デイサービスを利用

デイサービスの職員が、Cさんの顔や腕に、殴られたようなあざ を見つけ、市区町村の虐待担当窓口に通報しました。

🧩最初の訪問では“問題なし”に見えたが…

ケアマネジャーがCさん宅を訪問し、次男に状況を確認しました。

  • 「転んだみたいですね」

  • 「何か困っていたら相談します」

と、次男は落ち着いて答え、受け答えもしっかりしていました。
そのため、その時点では緊急性は低い と判断され、「介護サービス継続・様子を見る」という方針になりました。

ところがその3日後、
再びデイサービスで新しいあざが見つかります。

🚨命を守るための“緊急避難”

今度は市区町村の虐待担当と地域包括支援センター職員が直接確認。
専門家会議をひらいた結果、
「危険性が高い」と判断され、特別養護老人ホームへの短期入所(緊急避難)が決定 しました。

このとき使われたのが、
老人福祉法に定められた 「やむを得ない事由による措置」 です。

これは、

  • 命にかかわる危険がある

  • 虐待により心身の状態が急激に悪化している

  • 要介護認定がまだでも、とにかく今、安全な場所に避難させる必要がある

というときに、一時的に施設入所できる“スペシャルカード” のような仕組みです(詳しくは補注*1参照)。


4.ケース③:近所の人が“異変”に気づいたDさん夫婦

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Annette Meyer/Pixabay)

●状況

  • 70代夫婦(二人暮らし、要介護認定なし)

  • 妻には認知症の疑い

地域包括支援センターに、隣人から相談が入りました。

「隣のDさんのおばあちゃんが、近所の庭に生ごみを撒いてしまい、困っています。
前から様子がおかしく、最近は声をかけてもおびえて逃げてしまいます。
おじいちゃんに受診を勧めても、『他人が口出しするな』と怒鳴られてしまいました。
この2週間、姿を見ておらず、食事もどうしているのか心配です。」

🧭訪問も“作戦会議”をしてから

市区町村の虐待担当部署と地域包括支援センターは、

  • 誰が訪問するか

  • どの時間帯に行くか

  • どういう理由で訪問するか(通報されたとは言わない)

  • どんな点を観察するか

を事前にしっかり打ち合わせしてから、訪問に向かいました。

訪問には、

  • 市の保健師

  • 地域包括支援センターの社会福祉士

がペアで向かいます。

🗣声かけのポイント

「虐待されたかどうかを問い詰める」のではなく、
まずはこう声をかけます。

「おはようございます。市役所の保健師の○○です。
75歳以上で健康診断を受けていない方には、訪問してお話を聞いているんです。」

こうすることで、

  • 「市の健康相談」という形で自然に家へ入り

  • 夫婦の暮らしぶりや健康状態、表情や言動などをさりげなく確認

できるようにしています。

このケースで印象的なのは、
「通報を受けたから来ました」と言わずに、相手のプライドを守りながら状況を把握する姿勢 です。


5.ケース④:借金に苦しむ長男と、命の危機にあったEさん

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Gerson Rodriguez/Pixabay)

●状況

  • 70代男性Eさん(要介護4)

    • 脳梗塞後遺症で右半身まひ

    • 通所リハビリ・訪問介護を利用

  • 長男と二人暮らし

Eさんは再発した脳の病気で入院後、訪問介護を利用していましたが、

  • 水道料金の滞納で水が止まる

  • 食材もオムツも灯油もない

  • 長男はヘルパーの依頼を無視

という、命の危険がある状態 に陥っていました。

一人では起き上がることもできないEさんは、
通所リハビリで「帰りたくない」と泣きながら訴えることも多かったそうです。

💸長男もまた“追い詰められていた”

長男はパチンコにのめり込み、
複数の金融業者からの取り立てに追われていました。

  • 公共料金

  • 医療費・介護保険料

  • 介護サービス料

なども滞納し、Eさんの年金を自分の借金返済と生活費に流用していました。

その結果、

  • 入院の継続も

  • 新たな介護サービスの追加も

できない状態に。

過去のトラブルから親族の協力も得られず、
ケアマネジャーは基幹型在宅介護支援センター(*2)や法務局(*3)にも相談しました。

🤝それでも、あきらめずに連携を続ける

  • 親族への繰り返しの働きかけ

  • 長男への粘り強い依頼

  • ヘルパーには「少しの変化も見逃さない観察」を依頼

こうした積み重ねの末、
ついにEさんの妹が、年金管理を引き受けることに同意してくれました。

その結果、Eさんは生活保護を受給できるようになり、

  • 介護保険サービス

  • 医療

を再び受けられるようになって、命の危機を脱することができました。


6.虐待は「家族だけの問題」ではありません

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Annette Meyer/Pixabay)

これらの事例からわかるのは、

  • 虐待する側も、経済的・精神的に追い詰められている

  • 本人や家族には虐待の自覚がないことが多い

  • 医療・福祉・行政・法務局など、複数の機関が連携して支えている

ということです。

そして、最初の一報を入れているのは、必ずしも家族ではありません。

  • 新聞配達員

  • 隣家の方

  • 美容師

  • 牛乳配達員

など、いろいろな立場の人が
「ちょっとおかしいな?」
と気づいて相談したことから、虐待が発覚している例が多くあります。


7.数字が示す“家庭内虐待”の多さ

苦しんでいる介護者と怯えてるお年寄りがより良く暮らせる方法を探すために、地域包括支援センターに相談しましょう!(中編)

(Christel/Pixabay)

 

厚生労働省の調査では、
介護や養護をしている家族・親族からの虐待のほうが、施設職員による虐待よりも10倍以上多い ことがわかっています。

  • 養護者による虐待:17,100件

  • 施設・事業所職員による虐待:1,123件
    (令和5年度、詳細は補注*4)

家の中で起きていることは、
外部の目が届きにくく、
数字に表れている以上に多くのケースが潜んでいる可能性 があります。


8.「あれ?」と思ったら、まず相談を

(Silvia/Pixabay)

(Silvia/Pixabay)

もしあなたが、

  • 近所の高齢者の様子が急に変わった

  • あざが増えている

  • いつもおびえた表情をしている

  • 介護している家族が、明らかに限界に見える

など、小さな違和感 を覚えたら——

どうか一人で抱え込まず、
市区町村の高齢者相談窓口や地域包括支援センターに、電話で相談してみてください。

  • 相談した人が特定されることはありません

  • 「虐待かどうか分からない」のまま相談して大丈夫です

  • 家族だけでは解決できない問題を、専門家チームが一緒に考えてくれます


👉 次回・後編のご案内

後編では、
虐待の「早期発見に役立つ12のサイン」 をまとめてご紹介します。

  • どんな変化に気づけばよいか

  • どのタイミングで相談・通報すればよいか

など、チェックリストとしても使える内容 にまとめる予定です。

▼前後の記事はこちら
前編:高齢者虐待かな?と思ったら|家族介護の実例と地域包括支援センターへの相談ガイド
https://kizuna-iyashi.com/2025/03/14/homemade-314/

後編:高齢者虐待のサイン12チェック|家族介護の経済的虐待と早期発見のポイント
https://kizuna-iyashi.com/2025/03/28/homemade-317/


補注(専門情報)

*1:「やむを得ない事由による措置」
老人福祉法に基づき、65歳以上の高齢者が虐待などで生命の危険にさらされている場合や、緊急に避難・保護が必要なときに、市町村が養護老人ホームや特別養護老人ホームへの一時的な入所を決定できる仕組み。要介護認定の有無にかかわらず、命を守るための“緊急避難カード”として使われます。

*2:「在宅介護支援センター」
在宅で暮らす高齢者や家族の相談窓口。介護や生活についての不安・悩みを聞き、必要な保健・医療・福祉サービスにつなぐ役割があります。身近な相談窓口となる「地域型」と、それらを支援・総括する「基幹型」があります。
出典:東京の福祉オールガイド
https://www.fukunavi.or.jp/fukunavi/eip/20kuwashiku/04k_kourei/zaitakukaigoshiensenta.html

*3:「法務局」
法務省が全国に設置している機関。登記・国籍・戸籍・供託などのほかに、人権相談や人権侵害事件の調査・救済などの人権擁護活動を行います。
出典:法務局「法務局のご案内」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/enkaku_index.html

*4:高齢者虐待の件数
令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48003.html


参考資料

以上

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