シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(kordula vahleによるPixabayからの画像)

2004年1月に発表された厚生労働省の報告書(*1)によると、日本人の約15人に1人が「うつ病」を経験しているにもかかわらず、「うつ病」を経験した方の4分の3は治療を受けていません。

またシニアでは、「認知症」と「うつ病」は合併することも多く、「認知症」の前触れとして「うつ病」が現れる場合もあります。(*2)

シニアに大敵な「高齢者うつ」をこの前編と次回12月6日後編に分けて解説します。

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(LeopicturesによるPixabayからの画像)

1.「うつ病」の一般的な症状

うつ病」とは、気分がひどく落ち込んだり、何事にも興味を持てなくなったりして強い苦痛を感じ、日常の生活に支障が現れるまでになった状態を言います。

こうした状態は、日常的な軽度の落ち込みから重篤なものまで関連があると考えられ、原因はまだわかっていません。

うつ病」の基本的な症状は、強い憂鬱で沈んだ気分、興味や喜びを感じない、食欲不振、眠れない、疲れやすい、気力が湧かない、考えたり集中することができない、死ぬことを考えてしまうなどがあります。

他には、身体の不調を訴える人も多く、被害妄想などの精神病症状が認められることもあります。

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(SchorschによるPixabayからの画像)

☆うつ病を疑うサイン-本人が感じる変化
1. 悲しい、憂うつな気分、沈んだ気分
2. 何事にも興味がわかず、楽しくない
3. 疲れやすく、元気がない(だるい)
4. 気力、意欲、集中力の低下を自覚する(おっくう、何もする気がしない)
5. 寝つきが悪くて、朝早く目がさめる
6. 食欲がなくなる
7. 人に会いたくなくなる
8. 夕方より朝方の方が、気分や体調が悪い
9. 心配事が頭から離れず、考えが堂々めぐりする
10. 失敗や悲しみ、失望から立ち直れない
11. 自分を責め、自分は価値がないと感じる など

☆うつ病を疑うサイン-周囲が気づく変化
1. 以前と比べて表情が暗く、元気がない
2. 体調不良の訴え(身体の痛みや倦怠感)が多くなる
3. 仕事や家事の能率が低下、ミスが増える
4. 周囲との交流を避けるようになる
5. 遅刻、早退、欠勤(欠席)が増加する
6. 趣味やスポーツ、外出をしなくなる
7. 飲酒量が増える など

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(yeon woo leeによるPixabayからの画像)

2.気分の激しい落ち込みと「うつ病」の違い

たとえば人間関係で疲れ果てたり、仕事や資格試験で失敗したり、大切な人や可愛がっていたペットとの別れから悲しくつらい気持ちになり、激しく落ち込むことがあります。

どんなに激しく落ち込んだ気分でも、原因が解消されたり、気分転換をしたり、ある程度時間が経過することで、だんだんと癒され回復していきます。

けれどうつ病」の場合は、気分が落ち込む明らかな原因が思い当たらないこともあり、たとえ原因となっていた問題が解決しても気分が回復せず、仕事や学校に行けなかったり動くことができなくなります。日常生活に大きな支障が生じ、治療が必要になります。

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(PeggychoucairによるPixabayからの画像)

3.「うつ病」になりやすい性格ときっかけ

うつ病」の原因はまだ解っていませんが、感情や意欲を生み出す脳の働きにトラブルが起きていると考えられます。具体的には、脳の神経細胞同士でやり取りされる神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン)のバランスの乱れや欠乏が考えられます。

セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど神経伝達物質のバランスの乱れや欠乏に加えて、「うつ病」になりやすい性格や「うつ病」を引き起こすきっかけが重なり、二重・三重の要因が組み合わされることで「うつ病」が起きると考えられます。

「うつ病」になりやすい性格は、生真面目、完璧主義、自分に厳しい、凝り性、気を遣うなどがあげられ、そのような性格のためにストレスを受けやすいと考えられます。

「うつ病」を引き起こすきっかけは、社内やご近所でのいじめ、受験や仕事での失敗、失恋や離婚、家族や親しい友人との死別といった悲しい出来事だけでなく、結婚や妊娠・出産、引越しなど、喜ばしい出来事も含まれます。環境が大きく変わることでストレスが生まれ、「うつ病」を引き起こすきっかけとなるからです。

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(Pixabayからの画像)

4.シニアの心の特徴

シニアの場合は、取り巻く環境や体の変化が特に「うつ病」を引き寄せやすい状況にあります。

50~60代以降は、身体だけでなく心も疲れやすくなりますストレスを発散しようとする気力も衰えがちになります。(*3)

60代から脳の前頭葉部分の萎縮や全体的な機能低下など、脳の老化が始まります。正常な老化では、認知機能が全般的に衰えますが、いくつかの例外があります。

例えば、抽象的な事柄に関しては反応の迅速さが保たれ、類推する能力は衰えません。そのため、論理的に考えるよりも「印象」や「直感」で判断することが多くなります。

新しい情報を獲得し、それをスピーディーに処理・加工・操作する能力、暗記力・計算力・直観力など(流動性知能)は衰えやすいです。流動性知能は25歳ごろにピークに達し、65歳前後で低下がみられます。

経験や学習などから獲得していく能力で言語力に強く依存する洞察力、理解力、批判や創造力など(結晶性知能)は、保たれます。結晶性知能は、経験や学習によって20歳以降も上昇をつづけ、高齢になっても安定しています。

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(István KopecznyによるPixabayからの画像)

⑤精神機能には、記憶・注意・認知・感情などがあり、これらの能力が低下する原因には様々な要素があります。その中で最も重要なものは、喪失体験です。誰でも年を重ねるごとに、両親、友人、兄弟姉妹、配偶者との死別を経験し、喪失感を味わいます。この喪失感はやがて、生きがいの喪失や孤独感を深く大きくします

特に配偶者との死別は、その後に起きる生活習慣の変化、日常生活の困難、経済的問題、家族や親戚関係の悪化、相続のいざこざ、周囲の心ない言葉や態度にさらされるなど、シニアのうつ病発症の最大リスクです。(*4)

⑥他にも、退職による「職業や社会的立場の喪失」や、身体の老化といった心理的、肉体上の喪失体験も、精神的機能の低下につながります

⑦さらに、身体的な疾患たとえば糖尿病や脳梗塞などの合併や、身体機能の低下、配偶者を失って1人暮らしなったり老人ホームに入居するなどの環境の変化も、精神機能の低下を招く原因になります

⑧これらの精神機能の低下が「高齢者うつ」を誘発する可能性も指摘されています。(*5)

⑨シニアは、「何かを失うことが当然」な状況を生きているため、ストレスをストレスと意識しないまま多くのストレスを抱えてしまい、自覚のないままに「高齢者うつ」に発展してしまう傾向も指摘されています。(*3)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(rikkerstによるPixabayからの画像)

前編は、ここまでです。次回12月6日の後編では、

  • 「高齢者うつ」の特徴
  • 「高齢者うつ」と「認知症」の関係
  • 「高齢者うつ」の注意点

をお届けします。

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)

シニアは「うつ病」にも罹りやすいお年頃だから、「高齢者うつ」を解説します(前編)(Karl EggerによるPixabayからの画像)

補注

*1:「地域におけるうつ対策検討会報告書」厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課 心の健康づくり https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5.html#1

*2:「高齢者「うつ」の原因は?」国立長寿医療研究センター 精神科 安野史彦 https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/15.html

*3:「「うつ病」の4割以上は60歳以上が占める?」『認知症ではなく「うつ」だと知るための50のこと』長谷川 洋著、16~17ページ、https://www.tokuma.jp/book/b635848.html

*4:「高齢者の社会的孤立・孤独と不安・抑うつ」新村秀人 老年精神医学雑誌 第34巻 第2号 特集:高齢者の社会的孤立・孤独とメンタルヘルス 122~128頁、2023年2月

*5:「高齢者の心理的特徴」公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/sinriteki-tokuchou.html

*6:「資料8-1 高齢者のうつについて 」地域におけるうつ対策検討会 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-siryou8-1.pdf

*7:「うつ病の男女差」中高年のうつ病とその予防 医療法人健身会 https://medical-kenshinkai.com/depression#:~:text=%E7%94%B7%E6%80%A7%E3%81%AF50%E6%AD%B3%E4%BB%A3,%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

*8:グラフ「特-40図 男女別・年代別気分障害総患者数(令和2(2020)年)」内閣府男女共同参画局ホームより引用 https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/html/zuhyo/zuhyo00-40.html

*9:「第4章 認知症の予防 3.うつ予防との関わり」国立長寿医療研究センター病院 精神科部長 服部 英幸 公益財団法人長寿科学振興財団 https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/ninchisho-yobo-care/h30-4-3.html

*10:「第2節 高齢期の暮らしの動向(4)4 生活環境 (3) 60歳以上の者の自殺者数は増加」 令和5年版高齢社会白書(全体版)内閣府 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_2_4.html

*11:「令和5年中における自殺の状況」厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課 https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R06/R5jisatsunojoukyou.pdf

*12:「認知症とうつ病の関係性は?」『認知症ではなく「うつ」だと知るための50のこと』長谷川 洋著、56~57ページ、https://www.tokuma.jp/book/b635848.html

以上

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