認知症で同じ質問を繰り返すときの対応は?薬に頼りすぎない不安のやわらげ方と家族の休み方(中編)
📚 シリーズで読む:認知症の「不安」と同じ質問のくり返し
介護中のご家族に向けた、全3回の連載です。
▶ 【前編】何度も同じ質問を繰り返すのは、認知症の「不安」のサインかも?
https://kizuna-iyashi.com/2024/07/12/homemade-279/
▶ 【中編】薬に頼りすぎない不安のやわらげ方と家族の休み方
https://kizuna-iyashi.com/2024/07/19/homemade-280/
▶ 【後編】高齢者と薬の付き合い方・認知症専門医の探し方
https://kizuna-iyashi.com/2024/07/26/homemade-281/
1.この中編でお伝えしたいこと
前編では、
-
認知症のご本人が、どれほど強い「不安」におびえているか
-
認知症の脳が、不安を感じやすい状態になっていること
をお伝えしました。
この 中編 では、
🩺 薬に頼りすぎない「不安」への対応と治療方法
を、できるだけ分かりやすく紹介します。
2.なぜ「薬より先に」対応で工夫するのか
年齢を重ねると、体のいろいろな機能が弱くなり、
-
薬が効きすぎたり
-
副作用が出やすくなったり
というリスクが高まります。
そのため、認知症の「不安」への対応では、
💡 まずは薬を使わない工夫を試し、それでも難しい時に薬を検討する
という順番がすすめられています。
ここからは、水上勝義先生の論文「不安とその対応」などを参考にしながら、日常生活でできる工夫をまとめていきます。(*1)
3.「不安」に寄り添う声かけと対応のコツ
3-1.最初に「ほめ言葉」「感謝の言葉」から
ご本人が何かをしてくれた時には、まず一言、
-
「ありがとうございます」
-
「助かります」
-
「うれしいです」
と、感謝やねぎらいを先に伝える ことで、不安が和らぎやすくなります。
例:
ドライフラワーに水やりをしてしまった時
→ 「お花に水をあげてくださって、ありがとうございます。気にかけてくださってうれしいです。あとは私がやっておきますね。」
と言ってから、水やりをされたら困るドライフラワーは見えない場所に片づける など、環境を整えます。
3-2.間違っていても、まず「共感」を返す
ご本人の言っていることが事実と違っていても、
いきなり否定すると不安が強くなります。
例:
「お金がなくなった!」と騒いだ時
-
「そんなことあるはずないでしょ!」
と否定するのではなく -
「それは心配ですよね。困りますよね。一緒に探してみましょうか。」
と 困っている気持ちに共感してから行動する と、気持ちが落ち着きやすくなります。
3-3.否定や訂正よりも「いったん謝る」「話題をそらす」
「さっきご飯を食べたのに、『ご飯まだ?』が何度も続く」
という場面は、とても多いです。
ここで、
-
「さっき食べたでしょ!」
-
「忘れたの?さっき食べたばかりよ!」
と訂正すると、責められたと感じて、さらに不安と怒りが大きくなることがあります。
例:
「ご飯まだ?」と言われたときは、
-
「ごめんなさい。今ご飯を作っているところなので、もう少し待ってくださいね。」
と いったん受け止めてから、
-
タオルたたみ
-
洗濯物を渡してもらう
-
テーブルふき
など、簡単なお手伝いをお願いして気持ちをそらす のも1つの方法です。
3-4.同じ質問には「ホワイトボード」「メモ」「デジタル時計」
同じ質問を何度も受けると、家族のほうが疲れ切ってしまいます。
そこで、「何度でも一緒に確認できる道具」を用意しておくと助けになります。
-
✅ その日の予定 → ホワイトボードや大きなメモに書いておく
-
✅ お迎えの時間 → 「○時にデイサービス」「○時に病院へ」などと見やすく書く
-
✅ 時間 → 針の時計が読みにくい場合は、数字で表示されるデジタル時計 にする
質問されたときは、毎回同じように、
「一緒にここを見ましょうか」
と言って、ホワイトボードや時計を指さす習慣をつくっていきます。
「書いてある場所に答えがある」と分かってくると、不安が少しずつ小さくなります。
3-5.スマホや生成AIを「質問係」にしてみる
最近では、スマホに生成AIを設定して質問に答えてもらう方法 も紹介されています。
-
ご本人の
-
スケジュール
-
家族構成
-
好きなこと
などをあらかじめ登録し、
-
-
ご本人がスマホに向かって
「今日はどこへ行くの?」
「娘は仕事?」
と話しかけると、AIが同じように答えてくれる、という使い方です。
ご本人が スマホに話しかけることを嫌がらない場合 は、
家族の負担を減らす補助ツールとして役立つことがあります。
3-6.「傾聴ボランティア」に気持ちを受け止めてもらう
ご本人の話をじっくり聞いてくれる 傾聴ボランティア を活用する方法もあります。
-
社会福祉協議会にはボランティアセンターがあり、
「傾聴ボランティアグループ」などの情報を掲載している自治体もあります。 -
活動内容・活動日・場所などが書かれているので、
気になる団体に問い合わせ、見学や相談をしてみるのも一案です。
都道府県・指定都市社会福祉協議会の一覧は、
全国社会福祉協議会のホームページから確認できます。(*2)
「家族以外の人に話を聞いてもらう」ことが、不安の軽減につながることも多いです。
4.家族のこころと体を守る「ショートステイ」
24時間体制で認知症の家族を見守っていると、
-
眠れない
-
イライラが強くなる
-
気力が湧かない
など、介護する側の「介護うつ」「自律神経失調症」 のリスクが高まります。(*3)(*4)
とくに、
-
「お金を盗った」と言われる
-
何度も同じ質問が続く
といった場面が重なると、
「ありがとう」も
「ごめんなさい」も
とても口にできない状態
になってしまいます。
こうなる前に、
💤 ショートステイなどを利用して、いったん離れて休むこと
はとても大切です。
-
数日〜1週間ほど預けて、自分の睡眠と生活リズムを整える
-
体と心のエネルギーが戻ってくると、
「また笑顔で向き合おう」という気持ちが少しずつ戻ってきます。
利用したいときは、
-
担当ケアマネジャー
-
地域包括支援センター
に相談すれば、利用できるサービスや手続き方法を教えてくれます。
5.治療方法① 音楽療法 ― 音楽の力で不安をほぐす
音楽には、
-
リラックスさせる
-
気持ちに元気を与える
-
懐かしい記憶を呼び起こす
といった働きがあります。
国内外の研究で、
音楽療法が認知症の行動・心理症状(BPSD)の改善に役立つ ことも報告されています。(*5)
たとえば京都医療センターでは、
「音楽を通して楽しく生き生きと自分を表現し、コミュニケーションを取り合う力を引き出す」
ことを目指した音楽療法が行われています。(*5)
音楽療法を行う病院・施設を探すには
音楽之友社「音楽療法の広場」では、
-
音楽療法を実施している病院
-
音楽療法を実施している施設
の一覧(PDF)を公開しています。(*6)
地域ごとに、
-
病院名・施設名
-
対象者
-
所在地・連絡先
-
音楽療法を行うスタッフや頻度
-
見学の可否
などがまとめられているので、
「近くに音楽療法をしているところはないかな?」という時に役立ちます。
日常生活でできる「プチ音楽療法」
専門の音楽療法がなくても、日常の中でできることがあります。
-
ご本人が好きだった歌を一緒に聴く・口ずさむ
-
静かな音楽をBGMとして流し、くつろぎの時間を作る
-
可能なら、簡単な打楽器(タンバリンなど)でリズムを楽しむ
など、「気持ちがやわらぐ音楽の時間」を生活の中に取り入れてみてください。
6.治療方法② 認知行動療法(CBT)
認知行動療法(CBT) は、
「ものの受け取り方や考え方のクセに気づき、
バランスのよい考え方に整理していくことで、気持ちを楽にする」
ことを目指す心理療法です。(*7)
不安や落ち込みが強い場合に、
-
「自分を責める考え方」
-
「最悪の想像ばかりしてしまうクセ」
などに気づき、少しずつ考え方のバランスを整えていく手助けになります。
認知行動療法を受けるには
認知行動療法は、どこの病院でも必ず受けられるわけではありませんが、受ける場合は、次のような流れが一般的です。(*7)
-
まず、近くの 精神科・心療内科 を受診
-
主治医が必要と判断した場合、院内または院外の CBTの専門家 に紹介
-
医療機関以外でも、精神科・心療内科と連携して CBT を行うカウンセリング機関がある
料金・保険適用・回数・期間などは、
ホームページや問い合わせで事前に確認しておくと安心です。
ご本人だけでなく、介護をしている家族側の不安や落ち込み に対してCBTが役立つこともあります。
すでに精神科や心療内科に通院中であれば、主治医に相談してみるのも一つの方法です。
7.後編では「薬」と「専門医」についてお伝えします
ここまで、
-
不安に寄り添う声かけ・対応の工夫
-
家族の心と体を守るためのショートステイ活用
-
音楽療法・認知行動療法といった「薬以外の治療」
を紹介してきました。
後編では、
-
シニアの体で薬が効きにくく、副作用が出やすい理由
-
「不安」に対する薬物療法のポイント
-
「認知症専門医」の探し方・相談の窓口
についてお話しします。
補注(中編)
*1 論文「不安とその対応」https://mp.medicalonline.jp/products/article_list.php?magazine_code=ao1clphd&year=2020&volume=49&number=12
水上勝義「不安とその対応」(特集 BPSDとその対応)臨床精神医学 第49巻第12号,2020年,1937–1941頁.
*2 都道府県・指定都市社会福祉協議会のリンク集
全国社会福祉協議会(都道府県・指定都市社会福祉協議会)
https://www.shakyo.or.jp/network/kenshakyo/index.html
*3 介護うつについて
ライフル介護「介護疲れからうつ病にならないために」
https://kaigo.homes.co.jp/manual/homecare/basic/caregiverdepression/
*4 自律神経失調症について
総合南東北病院「自律神経失調症」
https://www.minamitohoku.or.jp/up/news/konnichiwa/201104/homeclinic.html
*5 音楽療法と認知症
国立病院機構 京都医療センター 脳神経内科 音楽療法案内
https://kyoto.hosp.go.jp/html/guide/medicalinfo/neurology/music.html
*6 音楽療法を行う病院・施設の一覧
音楽療法の広場(音楽之友社)
https://www.ongakunotomo.co.jp/web_content/onryo_hiroba/
*7 認知行動療法について
国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター
https://cbt.ncnp.go.jp/
以上



