認知症の不安と薬の付き合い方:副作用が出やすい高齢者の体と認知症専門医の探し方(後編)
📚 シリーズで読む:認知症の「不安」と同じ質問のくり返し
介護中のご家族に向けた、全3回の連載です。
▶ 【前編】何度も同じ質問を繰り返すのは、認知症の「不安」のサインかも?
https://kizuna-iyashi.com/2024/07/12/homemade-279/
▶ 【中編】薬に頼りすぎない不安のやわらげ方と家族の休み方
https://kizuna-iyashi.com/2024/07/19/homemade-280/
▶ 【後編】高齢者と薬の付き合い方・認知症専門医の探し方
https://kizuna-iyashi.com/2024/07/26/homemade-281/
1.なぜシニアの体は「薬の副作用」が出やすいのか
中編では、薬を使わない「不安」への対応や治療方法をお伝えしました。
後編では、
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シニアの体の特徴と薬の関係
-
「不安」を和らげる薬物療法の種類
-
認知症専門医の探し方
についてお話しします。
まずは、高齢になると薬の副作用が出やすくなる理由 から整理しておきましょう。
1-1.体の水分が減り、薬の濃度が上がりやすい
人間の体の中には「体液(血液や細胞のまわりの水分など)」がたくさん含まれています。(*1)
-
子ども:体重の約70%
-
成人:体重の約60%
-
高齢者:体重の約50%
と言われており、年齢とともに体の水分量は減っていきます。(*2)
同じ量の薬を飲んでも、
💧 体の水分が少ない → 薬が「濃く」効きやすい
という状態になり、副作用が出やすくなるのです。
1-2.筋肉が減り、脂肪が増えると、薬が「脂肪にたまりやすい」
年を重ねると、見た目の体重があまり変わらなくても、
-
筋肉量:40歳以降、少しずつ減少
-
脂肪量:20〜70歳にかけて増加しやすい
とされています。(*3)
特に、お腹まわりの内臓脂肪は、女性で増えやすい傾向 があります。
脂肪は油と相性がよく、
脂溶性(油に溶けやすい)タイプの薬が脂肪にたまりやすい のが特徴です。
1-3.抗精神病薬などが脂肪にたまるとどうなる?
「抗精神病薬」と呼ばれる薬の中には、脂溶性のものがあります。(*4)
これが脂肪にたまりやすいと、
-
じっとしているのに手足が震える
-
歩きにくくなる
といった パーキンソン症状 や、(*5)
-
日中もぼーっとする
-
いつもウトウトしている
といった 過鎮静(薬が効きすぎた状態) が出やすくなります。(*6)
「落ち着いてくれればいい」と思って増やした薬で、
かえって動けなくなってしまうこともある、ということです。
1-4.脱水や肝臓・腎臓の機能低下も大きなポイント
高齢になると、
-
のどの渇きを感じにくくなる
-
水分を控える生活になりがち
などの理由で、脱水を起こしやすくなります。(*2)
脱水が進むと、
体の水分が減る → 脂肪にたまっていた薬が一気に血液中へ → 血中濃度が急上昇 → 副作用が強く出る
という危険な状態になることもあります。
さらに、
-
薬を分解する「肝臓」の働き
-
いらない成分を外に出す「腎臓」の働き
も、加齢とともに弱くなります。(*3)
その結果、
薬をやめても、体の中に薬の成分が長く残りやすい
ということが起こります。
1-5.自己判断で「薬を増やす」のはとても危険
こうした理由から、特にシニアの場合は、
-
「眠れないから、眠剤を2錠にしてみよう」
-
「効くように、もう1錠足して飲ませよう」
といった 自己判断での増量は非常に危険 です。
💊 「効かないように見える」のは、
そもそも薬の種類や量、タイミングが合っていない可能性もあります。
「最近、ちょっと様子がおかしいな」と感じたら、
必ず主治医に相談して調整をお願いする ことが大切です。
2.「不安」を和らげる薬物療法の種類
認知症の「不安」に対して用いられる薬物療法には、主に次の5つのグループがあります。(*7)
-
アルツハイマー型認知症の治療薬
-
抗不安薬
-
漢方薬
-
抗うつ薬
-
非定型抗精神病薬
これらはすべて 医師の処方が必要な薬 であり、市販薬ではありません。
名前や作用は難しく感じるかもしれませんが、
ここで大切なのは、
「不安」に効く薬にもいろいろな種類があり、
症状や体の状態に合わせて選ぶ必要がある
ということです。
2-1.薬が必要かどうかの考え方
-
不安のせいで生活が立ち行かない
-
徘徊・妄想・幻覚などのBPSDが強い
-
本人も家族も限界に近い
といった場合には、
薬物療法が大きな助けになることがあります。
「薬は絶対にダメ」と決めつける必要もなければ、
「薬さえ飲めば全部解決」と考える必要もありません。
🌱 「薬を使わない工夫」+「必要に応じた薬物療法」
このバランスを、認知症に詳しい医師と一緒に考えていくことが大切です。
3.「認知症専門医」とは?どう探す?
「かかりつけ医の先生は優しいけれど、認知症のことになると心もとない」
そう感じている方も、多いのではないでしょうか。
そんなときに頼りになるのが 認知症専門医 です。
3-1.専門医ってどんな医師?
「専門医」とは、ある診療科で
標準的で適切な診断・治療を提供できることが認められた医師 のことで、
おおむね5年ごとに更新があります。(*8)
更新のたびに、
-
新しい知識を学び続けているか
-
診療経験を積んでいるか
などがチェックされ、日本全体の医療の質を保つ仕組みになっています。
3-2.認知症専門医の定義
認知症専門医については、
-
日本老年精神医学会
-
日本認知症学会
などが認定を行っており、
「認知症の診断・治療を専門として、一定年数以上の経験を持つ医師」
といった基準が定められています。(*9)
「どこに相談したらいいか分からない…」という時は、
こうした 学会認定の専門医を探してみる のがおすすめです。
3-3.認知症専門医の探し方
① 各都道府県の相談窓口に聞く
-
高齢者総合相談センター
-
地域包括支援センター
-
保健所
など、自治体の窓口は 地域の医療資源を把握 しています。
ホームページに名前が出ていなくても、
「認知症を専門にしている医師・医療機関」を教えてくれることがあります。
② 日本認知症学会の「専門医・施設一覧」を利用する
日本認知症学会のホームページでは、
「専門医・施設一覧」から都道府県ごとに専門医を検索できます。(*10)
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通いやすい地域
-
受診しやすい病院の規模
などを考えながら、候補をいくつかピックアップしてみてください。
③ 日本老年精神医学会の「専門医検索」を利用する
日本老年精神医学会のサイトでは、
「高齢者の心と病と認知症に関する専門医検索」が用意されています。(*9)
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所在地
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氏名
-
所属
などの条件で、認知症や高齢者の精神医療に詳しい医師を探すことができます。
4.「こだわりは永遠には続かない」― 介護者へのメッセージ
認知症の介護を続けていると、
-
何度も同じ質問をされる
-
お金や物について責められる
-
「帰る」「家に帰る」と言って歩き回る
といった場面が続き、
「このままでは私がつぶれてしまう」と感じることもあると思います。
ですが、認知症ケアの実例集の中には、こんな言葉があります。
「お年寄りのこだわりは、長く続かない。」
お金や食べ物など 生存本能に直結するもの を除けば、
多くのこだわりは 半年〜1年ほどで変化することが多い と言われています。
認知症は、診断されてからの平均余命がおよそ10年と言われています。
10年という時間は長いようでいて、振り返ってみればあっという間かもしれません。
その限られた時間を、
少しでも「安心」と「笑顔」が増える時間にしていくために――
-
不安の正体を知ること
-
薬を使わない工夫を試すこと
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必要なときには薬や専門医の力を借りること
そのどれもが、大切な選択肢です。
あなたが、認知症のご家族と一緒に、
今より少しでも楽に、少しでも穏やかに暮らせますように。
補注(後編)
*1 体液について
「体液」学研書院
http://www.gakkenshoin.co.jp/book/ISBN978-4-7624-2663-6/112-113.pdf
*2 高齢者の水分量と脱水
味の素株式会社「高齢者の水分管理について」
https://www.ajinomoto.co.jp/nutricare/useful/suibun/
*3 体組成の加齢変化
「高齢者における栄養の特性と課題、フレイルと栄養の関係」
名古屋大学大学院医学系研究科 葛谷雅文
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000209720.pdf
*4 抗精神病薬について
MSDマニュアル家庭版「抗精神病薬」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%96%A2%E9%80%A3%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E7%BE%A4/%E6%8A%97%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E7%97%85%E8%96%AC
*5 パーキンソン症状について
東京メモリークリニック蒲田「パーキンソン症状」
https://memory-clinic.jp/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3%E7%97%87%E7%8A%B6
*6 過鎮静について
医学書院「内科医のためのせん妄との付き合い方」
https://www.igaku-shoin.co.jp/misc/medicina/senmou4608/
*7 不安とその対応(薬物療法を含む)https://mp.medicalonline.jp/products/article_list.php?magazine_code=ao1clphd&year=2020&volume=49&number=12
水上勝義「不安とその対応」(特集 BPSDとその対応)
臨床精神医学 第49巻第12号,2020年,1937–1941頁.
*8 専門医制度について
一般社団法人 日本専門医機構「専門医とは」
https://jmsb.or.jp/ippan/
*9 認知症専門医について・専門医検索
日本認知症学会「専門医・施設一覧」
https://dementia-japan.org/doctors/
日本老年精神医学会「高齢者の心と病と認知症に関する専門医検索」
http://184.73.219.23/rounen/A_sennmonni/r-A.htm
以上



