シニアが気づきにくい「高齢者うつ」と認知症の違い・自殺リスクを解説します【後編】
======📘 シリーズ「高齢者うつ」まとめ ====== ▶ 前編:シニアが気づきにくい「高齢者うつ」の症状と原因 https://kizuna-iyashi.com/2024/11/29/homemade-299/ ▶ 後編:高齢者うつと認知症の違い・自殺リスク・介護うつ https://kizuna-iyashi.com/2024/12/06/homemade-300/ =============================
シニア世代では、
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認知症とうつ病がいっしょに起こる
-
うつ病が認知症の“前触れ”として現れる
ことが少なくありません。(*2)
さらに、
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脳出血・脳梗塞などの脳の病気
-
アルコール依存症
-
ステロイド剤・降圧剤など薬の副作用
からうつ病を発症するケースも、シニアに多くみられます。
ここからは、「高齢者うつ」の特徴・認知症との違い・注意点を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
1.「高齢者うつ」の特徴
「年をとれば誰でも元気がなくなる」と言われることがありますが、
加齢による変化と、病気としての「高齢者うつ」はまったく別物です。
ただしシニアの場合、典型的なうつ病の症状がそろって出る方は全体の1/3〜1/4ほどと言われ、
-
一部の症状だけが強く出る
-
逆に、うつ病らしい気分の落ち込みが目立たない
ことが多く、見逃されやすいのが特徴です。(*6)
● 高齢者うつのよくある特徴
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悲しい・つらい気持ちをあまり訴えない
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代わりに、
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意欲が出ない
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集中できない
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考える速度が落ちる
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動作がのろのろになる
といった「スピードの低下」が目立つ
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会話が減り、考え込んで黙り込むことが増える
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健康状態が悪く、認知機能の低下・意欲低下も一緒にみられる
こうした場合、「年のせい」「ボケのせい」と片付けず、「高齢者うつ」の可能性を疑うことが大切です。
● ささいな心身の不調にこだわる
高齢者うつでは、次のような訴えが増えることがあります。
-
体のちょっとした違和感を「大きな病気では?」と心配し続ける
-
「これから重い病気になるに違いない」と不安で頭がいっぱいになる
検査では大きな異常が見つからないのに、不安や心配が強くて生活がつらいという場合も、「高齢者うつ」のサインかもしれません。
● 「物忘れ」の訴えが重要なサインになる
-
「もの覚えが悪くなった」
-
「物忘れが増えた」
とご本人が強く訴える場合、これは高齢者うつを示す大切なサインと考えられています。
特に、65〜75歳くらいの“比較的若いシニア”で目立ちやすいと言われます。
認知症外来を受診する人の5人に1人は、実はうつ病性障害だという報告もあります。
● 「軽く見えるうつ」が意外と重いことも
-
軽症に見えるうつ
→ 身体的な不調と関係していることが多い -
意欲や集中力、認知機能の低下が目立つ
シニアの「高齢者うつ」では、一見すると軽そうでも、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れによって、
典型的なうつ病と同じくらい生活機能が落ちていることがあります。
そのため、
「この程度なら様子を見ましょう」
と軽く考えているうちに、中等症のうつ病に進んでしまうことも少なくありません。
シニアの場合、「症状が軽く見えても、決して楽観しない」ことが大切です。
● 脳や身体の病気・生活習慣との関係
シニアのうつ病では、次のような背景がよくみられます。
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脳出血・脳梗塞など脳の病気
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アルコール依存症
-
ステロイド剤・降圧剤などの薬の副作用
また、
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脳の血管の病変に関連する「血管性うつ病」
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喫煙・肥満・高血圧・糖尿病などの生活習慣病
も「高齢者うつ」のリスクを高めます。
特に、
-
うつ病があると糖尿病の発症リスクが約1.6倍
-
糖尿病があると、うつ病の発症リスクが約1.15倍
と、お互いに悪影響を与え合うことがわかっています。
● 不安やパニック、双極性障害との関係
-
不安感・恐怖心が異常に強い
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動悸・息苦しさ・震え・発汗などの症状がいっしょに出る
こうした場合、不安症状に目を奪われて、背後にあるうつ病を見落としてしまうこともあります。
また、
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若い頃からの双極性障害(躁うつ病)が、シニアになってから問題化する
-
シニアで新たに双極性障害が疑われる場合、脳の器質的な病気が隠れていることも
など、背景に別の病気が潜んでいる可能性にも注意が必要です。
● 年代と性別で違う「うつ病」の出方
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男性:50代を頂点に、山形のグラフを描くように増減する
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女性:
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40代で最初のピーク
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50代でいったん減る
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60代で再び増え、2度目のピーク
-
どの年代でも、女性の方が男性より患者数が多く、70代以上では男性の2倍以上に達します。(*7, *8)
2.「高齢者うつ」と「認知症」のちがい
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの認知症は、うつ病を合併しやすい病気です。
そのため、高齢者うつと認知症は、症状が重なり合って見分けがつきにくいことがあります。(*9)
ただし、私たち家族や介護者でも、「ここは違う」と気づけるポイントがいくつかあります。
① 症状の進み方
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認知症:
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記憶障害などがゆっくり進行
-
「いつからおかしくなったのか」がはっきりしないことが多い
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高齢者うつ:
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きっかけや環境の変化を境に、1か月前後など短期間でいろいろな症状が出る
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家族が「この頃急に変わった」と気づきやすい
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② 自分を責める気持ち
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認知症:
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「死にたい」「自分のせいだ」といった自責の念はあまり強くない
-
-
高齢者うつ:
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「自分のせいで家族に迷惑をかけている」
-
「生きていても価値がない」
など、自分を責める気持ちが強くなる
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③ 本人の「自覚」の違い
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認知症:
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認知機能が下がるにつれて、自分の状態への関心が薄れていく
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不安や抑うつは「認知症の行動・心理症状(BPSD)」の一部として出ることが多く、主症状ではない
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高齢者うつ:
-
「自分はおかしくなってきているのでは」と不安を強く感じる
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記憶力の低下を自覚し、「この先どうなるのか」と心配が止まらない
-
④ 記憶障害の出方
-
認知症:
-
何を食べたか、どこに行ったかなど、出来事そのものを忘れてしまう
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ゆっくり進行する
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高齢者うつ:
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環境の変化などをきっかけに、突然数日前のことを思い出せないなどの症状が出る
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それによって本人の不安が一気に高まる
-
⑤ 質問への答え方
-
認知症:
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見当違いな回答をすることが多く、指摘されると取りつくろおうとする態度がみられる
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-
高齢者うつ:
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質問されてもなかなか答えが出てこず、黙り込んだり「わからない」と答えてしまうことが多い
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3.「高齢者うつ」で特に注意したいこと
シニアは、
-
脳の老化
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生活習慣病などの身体的要因
-
退職・配偶者との死別などの社会的要因
-
ストレスを発散しにくくなる心理的要因
が重なり、「高齢者うつ」を発症しやすいお年頃です。
その中でも特に注意したい点が3つあります。
① 自殺リスクが高い
令和4年の自殺者総数は21,881人で、そのうち約4割が60歳以上です。(*10)
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60〜69歳:2,765人
-
70〜79歳:2,994人
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80歳以上:2,490人
さらに、令和5年のデータでは、
「健康問題」を理由とする自殺の約半数が60歳以上であり、
その中で「うつ病」が原因・動機となったケースは約3分の1以上を占めます。(*11)
シニアの自殺や自殺未遂の背景には、「うつ病」が大きく関わっている
ということを、家族として知っておく必要があります。
② 介護に携わるシニアは「介護うつ」に注意
ある調査では、
介護に関わるシニアの3人に1人が「死にたい」と考えたことがある
と言われています。
-
介護による心身の疲労
-
自分自身の加齢・病気
-
経済的不安や将来不安
などが重なり、「介護うつ」とも呼ばれる状態に陥りやすくなります。
③ 認知症との“入り組んだ関係”で見逃しやすい
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認知症の初期症状として先にうつ病が出る
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うつ病の症状として「仮性認知症(うつ病による認知症様の状態)」が起こる(*12)
-
認知症と高齢者うつを同時に発症する
さらに、
-
正常な老化と認知症の中間である「軽度認知障害(MCI)」の段階でも、「うつ症状」を併発することがある(*13)
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アルツハイマー型認知症の患者さんでは、40〜50%に抑うつ気分がみられ、10〜20%はうつ病を併発する(*13)
このように、症状が重なり合い、絡み合うため、早期発見がとても難しいのです。
その結果、早く治療を始めるチャンスを逃しやすいという大きな問題があります。
終わりに:おかしいと感じたら、一人で抱え込まないで
シニアは、中年期から老年期へ向かう「人生の過渡期」を生きています。
-
心も体も若い頃のようには動かない
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慢性疾患や経済的な不安がある
-
家族の死や人間関係の変化が重なる
こうしたなかで、うつ病になっても不思議ではない状況にあります。
もし、
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「前と様子が違う」
-
「何かがおかしい」
と、ご本人や家族が感じた時は、ガマンしたり、性格の問題だと決めつけずに、 -
心療内科・精神科
-
かかりつけ医
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地域包括支援センター
などに早めに相談してみてください。
あなたのご両親の人生の秋が、
そして、あなたご自身の晩秋の時間が、
少しでも穏やかで、実り豊かな季節になりますように。
補注
*1:「地域におけるうつ対策検討会報告書」厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課 心の健康づくり https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5.html#1
*2:「高齢者「うつ」の原因は?」国立長寿医療研究センター 精神科 安野史彦 https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/15.html
*3:「「うつ病」の4割以上は60歳以上が占める?」『認知症ではなく「うつ」だと知るための50のこと』長谷川 洋著、16~17ページ、https://www.tokuma.jp/book/b635848.html
*4:「高齢者の社会的孤立・孤独と不安・抑うつ」新村秀人 老年精神医学雑誌 第34巻 第2号 特集:高齢者の社会的孤立・孤独とメンタルヘルス 122~128頁、2023年2月
*5:「高齢者の心理的特徴」公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/rouka/sinriteki-tokuchou.html
*6:「資料8-1 高齢者のうつについて 」地域におけるうつ対策検討会 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-siryou8-1.pdf
*7:「うつ病の男女差」中高年のうつ病とその予防 医療法人健身会 https://medical-kenshinkai.com/depression#:~:text=%E7%94%B7%E6%80%A7%E3%81%AF50%E6%AD%B3%E4%BB%A3,%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
*8:グラフ「特-40図 男女別・年代別気分障害総患者数(令和2(2020)年)」内閣府男女共同参画局ホームより引用 https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/html/zuhyo/zuhyo00-40.html
*9:「第4章 認知症の予防 3.うつ予防との関わり」国立長寿医療研究センター病院 精神科部長 服部 英幸 公益財団法人長寿科学振興財団 https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/ninchisho-yobo-care/h30-4-3.html
*10:「第2節 高齢期の暮らしの動向(4)4 生活環境 (3) 60歳以上の者の自殺者数は増加」 令和5年版高齢社会白書(全体版)内閣府 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_2_4.html
*11:「令和5年中における自殺の状況」厚生労働省自殺対策推進室 警察庁生活安全局生活安全企画課 https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R06/R5jisatsunojoukyou.pdf
*12:「「仮性認知症」とは「うつ病仮性認知症」「仮性痴呆」とも呼ばれ、うつ病などが原因で「記憶力」「集中力」「判断力」の低下など、一見認知症のような症状が現れる状態のことです。 認知症に似た症状があるため間違われることが多いですが、認知症と比べ、気分の落ち込みや意欲の低下、不安感など抑うつの症状が強く見られる特徴があります。」仮性認知症とは? 老人ホーム・介護施設のスーパー・コート https://www.supercourt.jp/topics/about-pseudodementia/#:~:text=%E3%80%8C%E4%BB%AE%E6%80%A7%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF,%E8%A6%8B%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E7%89%B9%E5%BE%B4%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
*13:「認知症とうつ病の関係性は?」『認知症ではなく「うつ」だと知るための50のこと』長谷川 洋著、56~57ページ、https://www.tokuma.jp/book/b635848.html
以上









