認知症の妄想・不安・興奮などが「重度認知症デイケア」なら「認知症リハビリ」で改善できます!(第2回)
12月13日の第1回では、妄想・不安・興奮・易怒性などBPSD(*1)が激しい患者さんのリハビリや医療的ケアとそのご家族のサポートに特化した「重度認知症デイケア」(*3)をご紹介しました。全国の「重度認知症デイケア」を対象に行ったアンケートでは、約5割の患者さんでが改善した項目の中でBPSDがもっとも改善したと答えています。
この第2回では、「重度認知症デイケア」で行われている「認知症リハビリ」をざっくり説明します。
1.「認知症リハビリ」ってなに?
「認知症リハビリ」の定義は、まだ定まっていません。
2006年、介護老人保健施設で、軽度の認知症の方を対象とした「認知症短期集中リハビリテーション」(*4)が始まりました。2009年からは、中等度・重度の認知症の方にも対象範囲を拡大して、「認知症短期集中リハビリテーション」を行うようになります。
これは、2007年に実施した検証研究の結果、『「認知症短期集中リハビリテーションは極めて有効であり、臨床的認知症重症度の進行予防、心の健康維持(意欲、活動性)を通じて、ADL(*6)の改善が認められる。さらに、周辺症状の改善によって在宅系居所への復帰効果が期待される」という画期的な成績を得た。』(*5)となったからです。
さらに2013年に発表された論文によれば、「脳活性化リハビリ」を介護老人保健施設に入所中の122人に週 3 回,1 回 20 分以上の個別リハビリとして3か月間おこなったところ、認知機能や意欲の向上、BPSD や抑うつの低減に有効な症例が数多く上がったそうです。(*7)
けれど認知症のBPSD(行動・心理症状)は、
- 患者さんと介護者・ケア担当との人間関係
- 住み慣れた家か、施設か、子どもの家に同居しているか、など暮らしている環境
- 加齢による体の変化(視力の低下、聴力の低下、筋力の衰え、虫歯や歯槽膿漏の悪化など)
- 慢性的な関節痛や抑うつな気分など
いろいろな条件が絡み合って現れます。このように複雑で個人差の大きいBPSDなので、これを認知症リハビリで改善・維持できたことを証明するエビデンスがまだ確立していません。
医学的にはまだ断言はできないけれど認知症に有効な「認知症リハビリ」を、旭 俊臣先生の「認知症リハビリテーションの実際」(*8)から紹介します。
2.認知症の病期とその時期に適したリハビリテーション
①認知症初期~中期:
神経心理療法の「回想法」と、現実見当識訓練(RO)を中心とするグループワーク。気持ちに寄り添うリハビリにより、心理状態が安定し、BPSDの改善にもつながります。
②認知症後期:
歩行障害を予防する運動機能リハビリと認知症リハビリの併用。転倒して骨折から入院⇒認知症症状の悪化⇒運動機能の低下⇒認知機能の低下という悪循環を防ぎます。
③認知症終末期:
嚥下機能リハビリを重点的に行う。終末期にはほとんど寝たきりになり、食物を飲み込む機能の低下から誤嚥性肺炎を起こしやすくなるので、リハビリで防ぎます。
終末期には表情も乏しくなり、言葉も話さなくなります。けれど旭 俊臣先生の病院では話さなくなった重度の認知症患者さんに「認知症リハビリ」をおこない、表情・視線の改善ができた症例もあります。(*9)
3.「認知症リハビリ」の種類
認知症リハビリは、大別すると①~④の4種類になります。旭 俊臣先生の『認知症plus院内デイケア』(*2)から紹介します。
①神経心理療法
- 現実見当識訓練(リアリティ・オリエンテーション(RO)):
リアリティ・オリエンテーションとは、「今日の日付」や「今の季節」といった時間や今いる場所等が判らないなどの見当識障害(けんとうしきしょうがい)を解消するための訓練。
- 回想法:回想法とは、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品などを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法です。
- 音楽療法:
音楽療法は、不安や痛みの軽減、精神的な安定、自発性・活動性の促進、身体の運動性の向上、表情や感情の表出、コミュニケーションの支援、脳の活性化、リラクゼーションなどの効果を上げるために行う。
- その他:絵画・園芸・ペット・レクリエーション・アロマテラピー・囲碁・将棋など。
②理学療法
理学療法とは、病気やけがなどで体に障害のある人や、障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力の回復や維持、および障害の悪化の予防を目的に、運動・体操や温熱、電気などの物理的手段などを用いて治療をおこなう療法。
③作業療法
作業療法では医学的知識に基づき、認知症のある患者さんの環境やその方の学歴や職歴、人生体験なども含めた条件や歴史を生活全体として捉え、ひとりひとりの生活がしやすくなるよう環境調整や身の回りの工夫、周囲の方の関わりへの助言などを行います。
④言語療法
言語療法とは、言語聴覚士が行う治療方法です。言語力の向上から嚥下訓練まで、多岐にわたる練習や指導・助言を行います。
上記が、旭 俊臣先生が紹介なさっている「認知症リハビリ」です。
順天堂大学の新井 平伊先生方は、現在進行中のアルツハイマー型認知症に対するドネペジル塩酸塩(商品名:アリセプト)の長期大規模観察研究(J-GOLD試験)の中間結果を2015年に発表なさっています(*10)。この研究によれば、認知機能は、アリセプト投与開始時点と比較して、以下のように変化します。
- 6ヵ月時点では、認知機能は改善。
- 18ヵ月時点では、認知機能はアリセプト投与開始時点の状態に戻った。
- 24ヵ月時点では、認知機能は投与開始時点よりも低下していた。
つまり薬物治療では、半年間は認知機能が改善しても、やがて治療開始の状態に戻り、その後は悪化してしまいます。だからこそ、「脳活性化リハビリ」を介護老人保健施設に入所中の122人に週 3 回,1 回 20 分以上の個別リハビリとして3か月間おこなって、認知機能や意欲の向上、BPSD や抑うつの低減に有効な症例が数多く上がった(*7)成果は貴重です。
「認知症リハビリ」は、定義もエビデンスも確立していない発展途上にあります。それでも、薬+「認知症リハビリ」は効果があります。
施設から追い出されそうとか、家族が疲れ果てていらっしゃるなら、精神科の先生かケアマネジャーに「重度認知症デイケア」への通所について相談なさってみてください。12月27日の後編では、「認知症リハビリ」の具体例を紹介します。
謝辞:尾嵜遠見先生・ 前田潔先生と旭 俊臣先生、新井 平伊先生をはじめとして、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療・介護従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
補注
*1:「認知症の BPSD」日本老年医学会雑誌 48巻 3 号(2011:5)https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_48_3_195.pdf
*2:「認知症plus院内デイケアー生活機能の維持・回復を目指す」旭 俊臣・坂本昌子・賀曽利 裕 編集、2019年9月発行、日本看護協会出版会、定価2,300円+税、ISBN978-4-8180-2210-2、https://www.jnapc.co.jp/products/detail/3713
*3:「「重度認知症患者デイケア」について」受託事業「認知症重症化予防(三次予防)に関する調査研究事業」日本精神科病院協会ホームページ https://www.nisseikyo.or.jp/news/topic/detail.php?@DB_ID@=563
*4:「認知症短期集中リハビリテーション」公益社団法人 全国老人保健施設協会 https://www.roken.or.jp/about_roken/ninch
*5:「画期的な研究成果がまとまる 認知症短期集中リハビリテーションはきわめて有効」雑誌「老健」2008年10月号 https://www.roken.or.jp/wp/wp-content/uploads/2012/07/roken.pdf
*6:「ADL:日常生活動作(ADL)とは日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のことです。」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenkou-undou/jiritu.html
*7:論文「老健における認知症短期集中リハビリテーション :脳活性化リハビリテーション 5 原則に基づく介入効果」共同著者:関根 麻子、永塩 杏奈、高橋久美子、加藤 實、高玉 真光、山口 晴保、Dementia Japan Vol. 27 No. 3 September 2013、https://dementia-japan.org/wp-content/uploads/2023/11/27-3-360-366.pdf
*8:「認知症リハビリテーションの実際」7~15頁、『認知症plus院内デイケア』編集:旭 俊臣・坂本昌子・賀曽利 裕、2019年発行、日本看護協会出版会、定価2,300円+税、ISBN:978-4-8180-2210-2 https://www.jnapc.co.jp/products/detail/3713
*9:「認知症ケアにおけるリハビリテーションの重要性」2~6頁、『認知症plus院内デイケア』編集:旭 俊臣・坂本昌子・賀曽利 裕、2019年発行、日本看護協会出版会、定価2,300円+税、ISBN:978-4-8180-2210-2 https://www.jnapc.co.jp/products/detail/3713
*10:「ドネペジルの効果が持続する期間は?:国内長期大規模研究」CareNet https://www.carenet.com/news/general/carenet/40424
以上