噛めなくなったご主人を回復させた『希望のごはん』
この本は、介護の知恵袋でお世話になっている「わらうかど」代表の金田さちこさんから勧められて、知りました。読んで、感激。ドロドロで得体の知れないムース食を「こんなもの食べれるか」と父に拒絶された経験を持つ私は、あの時この本に出会っていればと残念です。より多くの皆様にご紹介できれば、嬉しいです。
『希望のごはん - 夫の闘病を支えたおいしい介護食ストーリー』料理研究家クリコ(保森 千枝)、日経BP社、2017年刊、定価1,300円+税、ISBN978-4-8222-5927-3
この本には、お料理好きのクリコさんのラブストーリーとご主人のために考案した介護食のレシピが盛り込まれています。
クリコさんは結婚後ご主人の応援を得て料理研究家になりますが、そのご主人が肺ガンから口腔底ガンに罹って、下あごの麻痺とものを噛む機能の障害が残ります。自宅療養の日々を、彼女は介護食でご主人の体力を回復させ、職場復帰を実現。けれど、ガンが再発し、他界。クリコさんは介護食アドバイザーの資格を取得し、ご主人のために考案した「希望のごはん」のレシピを抱えて活動なさっているそうです。
このラブストーリーの他に、「希望のごはん」のレシピと「希望のごはんハウツー」という介護食作りの基本が丁寧に解説されています。これが、とても貴重。
レシピは、主食6品、主菜10品、副菜7品、汁物5品、デザート5品。すべてのお料理がレストランで提供されるお料理のように美しく、とても美味しそうです。1ページに1品、1人分~2人分の材料と作り方、完成写真がカラーで掲載されています。作り方も見やすく、使いやすいです。
更に介護食作りの時短に繋がる強力な助っ人《野菜ピュレ》の作り方から保存方法。闘病中のご主人を狂喜乱舞させた《ふわふわシート肉》の作り方や、アレンジレシピの鶏団子バージョン・海老すり身バージョンも作り方の写真付きで解説されています。
『特に、流動食を食べているひとは低栄養になりやすい。というのも、そもそも流動食は、流動状にするために水分を加えているため、同じお茶碗一杯でも普通食よりも栄養価は低くなるからだ(だからこそ、食欲が湧く見た目が大事だとも言えるのだが)。』(56頁より引用)という強い自覚がクリコさんにあったからこそ、見た目にも美味しそうな「希望のごはん」レシピが生み出されたのでしょう。
この本の後半、200~252頁には初心者に向けて、介護食作りの基本と注意点が丁寧に解説してあります。特に、「噛む力・飲み込む力に合わせた、食べやすい食品の形状と状態」と「食品の様子(カラー写真)と調理方法」(206~207頁)の一覧表は、本当に判りやすいです!
また、220頁に載せてある「誤嚥を招きやすい食品の特徴6つ」という一覧表も便利で力強い味方です。
クリコさんは本当にご苦労なさったようで、介護食作りの実戦で役立つ細かい知恵が、この本には詰まっています。例えば、野菜をピュレ(滑らかな流動状態)にする道具には、ミキサーとハンディ・フードプロセッサーがあります。けれど、どの野菜でもピュレにできる訳ではなく、野菜の種類に応じて使い分けが必要なそうです。
人参はミキサーでOK。でもブロッコリーは、ミキサーでは空回りしやすく、先端の細かなつぼみの部分がバラバラになって刃に当たらず、ツブツブが残ってしまうそうです。ブロッコリーは、ハンディ・フードプロセッサーでつつくように刃を当てると上手く粉砕できて、ピュレになるそうです。試行錯誤を繰り返された彼女の姿が、サラリと書かれた文章から浮かび上がって見えます。
『おいしく食べることが「生きる希望」を生み、心と体を育む。』(178頁より引用)と仰るクリコさんの愛情と知恵がこの本には詰まっています。
(注意:文中の写真は、介護食になった時に食べたい料理やシーンを想像して選んだ無料写真素材です。クリコさんのとても美しくて美味しそうな介護食の写真は、「希望のごはん」あるいは下記のホームページでご覧ください。本当に美味しそうです!)
やわらかい・飲み込みやすい クリコ流ふわふわ希望ごはん http://curiko-kaigo-gohan.com/
以上