認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!

認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!

認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!(4924546によるPixabayからの画像)

認知症は、糖尿病を惹き起こし、上がってしまった血糖値が認知症をさらに悪化させます。認知症と糖尿病がお互いに悪影響を及ぼし、眠らず、落ち着きがなくなり、苛立ち、冷蔵庫内をすべて食べ尽くして家族を苦しめます。このような症状を漢方薬が劇的に改善させた実例を紹介します。

1.90歳女性、Kさん

主な症状:糖尿病、高血圧

現病歴:①外来に通っていた2年前から、「1時間前にしていたことを思い出せない」あるいは「今日の日付がわからなく」なった。またKさんの時間の感覚や季節感が薄れて、待ち合わせや予定に合わせて旅行に行くことができなくなった。

②アルツハイマー型・レビー小体型認知症治療薬「ドネペジル塩酸塩」などが処方され、服用していた。

半年前からKさんは昼夜が逆転し、眠らず、落ち着きがなくなり、そわそわし、苛立ち、冷蔵庫にあるものをすべて食べ尽くすようになった。

異常な食べ過ぎから糖尿病が悪化。食後血糖値(*1)は310mg/dlと正常値140mg/dlの2倍以上に跳ね上がり、ヘモグロビンA1c(HbA1c)も8.6%で、正常値4.6~6.2%を大きく上回った。

既往歴:特記なし

家族歴: 特記なし

西洋医学的所見:146cm、55kg

胸腹部理学的所見及び神経学的所見:異常なし

頭部MRI 検査: 両側の側頭葉の内側が委縮。

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認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!(Leszek HusによるPixabayからの画像)

2.Kさんの漢方医学的所見

*軽度肥満

神経過敏で付添いのお嬢さんを怒鳴り、手足の震えがみられた。

*脈は弦脈。

弦脈(げんみゃく)】というのは弓の弦が張ったような縦方向に緊張感のある脈で、ストレスや気滞という気の流れの停滞がある人によく現れます。(*2)

*舌候は淡白,微白苔あり

漢方医学では、舌苔は病気の重症度と寒熱の判断に用いています。さらに舌全体として舌の湿潤度を見て、身体の乾燥度合を推測します。

*腹力は2/5。腹診した際の腹壁の緊張度が、5段階の下から2番目でやや軟弱です。

*両側の腹直筋に緊張あり。腹直筋が過度に緊張した状態で、交感神経の過緊張状態と考えられています

*臍上悸あり。おへその左上部で、腹部大動脈の強い拍動や痛みがあることを指します。

臍上悸】とは、精神的な一種の興奮状態の存在を思わせ、同時にある種の衰弱を伴った状態を示すものと考えられます

*心下痞は軽度

心下痞(しんかひ)】とは、上腹部に何かが詰まった感じがして、飲食物が通過しづらく感じる「胃のつかえ感」「みぞおちのつかえ感」をいいます。心下とは上腹部、みぞおちのあたりを指し、痞とはふさがって通りにくい状態のことです。(*3)

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認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!(allegrag2によるPixabayからの画像)

3.Kさんの漢方医学的診断

診断:少陽病,裏熱虚証,肝鬱化火。

少陽病】とは急性の病気が、急性から慢性炎症となり、症状が体の表面と内部の中間にある時期を指します。(*4)

裏熱虚証】とは、病気に対する反応が起きている体の位置が「裏」で、病気の性質が「熱」で、病気の勢いが「虚」の組み合わせの「証」であることを言います。

裏証】とは、病気に対する反応が起きている体の部位を指し、消化管や腹部内臓など身体深部に病気があることを示しています。(*5)

熱証】とは、熱邪の影響を受けたり、陽気が相対的に盛んになって起こる温熱の症状です。機能の異常亢進や炎症などの性質を持ちます。発熱・ほてり・熱がり・口が乾く・顔色が赤いなどの症状です。

虚証】とは、虚証はその方の本来の生命力が弱まって体の機能が低下した状態です。虚弱な人が不健康になった状態で、体力や元気があまりなく汗が出ています。やせていて色白、声がか細く、胃腸が弱く、すぐに疲れやすい、いわゆる虚弱体質です。(*6)

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認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!(NoName_13によるPixabayからの画像)

肝鬱化火(かんうつかか)】東洋医学では、情緒は「肝」が司っていて、「怒り」も「肝」が担当しています。

「肝」が疲れると、肝の気の流れが悪くなり、「肝気鬱結(かんきうっけつ)」になります。怒りっぽくなったり、逆に涙もろくなったり。この時の症状は、頭痛や肩こり、わかりやすいのは、生理の経血に塊が混じることです。

これが悪化すると、次に「肝鬱化火(かんうつかか)」という状態になります。「肝気鬱結」より酷いイライラや頭痛、胃痛、不眠となり、喉が渇いて水を飲みたがる傾向にあります。(*7)

認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!

認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!(beauty_of_natureによるPixabayからの画像)

4.Kさんの漢方薬治療による臨床経過

臨床経過:①1日3回、「抑肝散(よくかんさん)(*8)」の服用を開始。

②同時にイライラ状態のお嬢さんとKさんの確執がBPSD悪化の一因と考え、高血圧で通院中だったお嬢さんにも「抑肝散」を服用してもらった

数日後、Kさんが熟睡できるようになった。

1 週間目頃からKさんが穏やかになり、お嬢さんとの争いもなくなり家族だんらんで正常な食事量を食べるようになった

1カ月後、Kさんの食後血糖値は172mg/dlに下がった

2カ月後、KさんのヘモグロビンA1cは6.8%に改善した

その後も血糖の変動はなく、「抑肝散」をじょじょに減量して、夕食前の1回服用のみを継続している。

現在も週3回リハビリテーションに通い、月1回は短期入所を利用して、Kさんもお嬢さんも健全な生活を送っている

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認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!(minka2507によるPixabayからの画像)

5.漢方薬治療の可能性

この症例報告の考察で、玉野 雅裕先生は以下のように書かれています。

抑肝散が①過食行動を停止させ②早食いを抑え食後高血糖を改善させたこと、③気血のバランスを安定化させ、肝火上炎を抑えて熟眠を誘導し、ストレスホルモンの分泌を是正し,インスリンの働きを改善させた可能性が考えられる。

アルツハイマー型認知症の進行で現れる、不眠、幻覚妄想、興奮暴力、不安焦燥、徘徊、うつ状態等の周辺症状(BPSD)に家族は翻弄されます。さらに糖尿病も発病して、食事をしたことを忘れてひたすら食べ続けたり、家中の食物をむさぼり食うようになれば、家族のストレスは頂点に達します。

忘れがちですが、眠れず、幻覚や妄想に悩まされ、何かに突き動かされて歩き回り、訳も分からず食べずにはいられないKさんご自身も、ご家族以上に辛くて苦しいことでしょう。

ご本人にもご家族にも医療や介護の関係者にも悪夢のような状況を解決できる方法の1つが、漢方薬治療です

もしもあなたも認知症と糖尿病による不眠、興奮、過食、早食いなどの陽性BPSDに困っていらっしゃるなら、漢方薬もリハビリテーションも処方できる医療機関を探してみませんか?

認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!

認知症が糖尿病を悪化させ、不眠・不安焦燥・過食などで娘との確執が激化したが、漢方薬で家族だんらんを取り戻せた実例を紹介!( AnjaによるPixabayからの画像)

謝辞:玉野雅裕先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬がシニアの健康長寿によりいっそう役立ち、患者さんとご家族のみなさまがより良い時間を過ごせますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。

症例報告「抑肝散による熟眠,過食行動の抑制により著明な糖尿病の改善とQOL 向上を得た認知症の5症例」、玉野 雅裕 / 加藤 士郎 / 岡村 麻子 / 小曾根早知子 、脳神経外科と漢方 2015年1巻43-47頁、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/1/1/1_09/_article/-char/ja

☆漢方のお医者さん探し ―漢方・漢方薬に詳しい医療機関(病院・医院・医師)を8,968件から検索できます。―https://www.gokinjo.co.jp/kampo/

☆ 日本脳神経漢方医学会  日本脳神経漢方医学会は脳神経領域における漢方療法に関する研究を通じて、漢方医学の普及と研鑚を図ることを目的としています。「脳神経外科と漢方」は、日本脳神経漢方医学会 が発行。https://nougekampo.org/

補注

*1: 「血糖値:血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことです。」厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-085.html#:~:text=%E8%A1%80%E7%B3%96%E5%80%A4%E3%81%AF%E3%80%81%E8%A1%80%E6%B6%B2%E4%B8%AD,100mg%2Fdl%E3%81%AE%E7%AF%84%E5%9B%B2%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

*2: 「弦脈 東洋医学の診察法~脈状」翁鍼灸治療院 https://www.ou-hari.com/tyuigaku15.html

*3:「胃のつかえ感」薬石花房 幸福薬局 https://kofukuyakkyoku.com/symptom/5344

*4: 「少陽病(しょうようびょう)…病気の停滞」漢方の基礎知識 飯塚病院漢方診療科 https://aih-net.com/kanpo/user/knowledge/rokkei.html

*5:「裏証:「裏(り)」とは、からだの深部をいい、現代医学的には、消化管、腸間膜などに相当します。病気が主として裏にあるものを「裏証(りしょう)」といいます。」漢方とは - 漢方の基礎知識 日本臨床漢方医学会 https://kampo-ikai.jp/towa/basic4/#:~:text=%E7%97%85%E6%B0%97%E3%81%8C%E4%B8%BB%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E8%A3%8F%E3%81%AB,%E3%81%97%E3%82%87%E3%81%86%EF%BC%89%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=%E6%99%82%E9%96%93%E3%81%AE%E7%B5%8C%E9%81%8E%E3%81%A8%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%AB%E6%AC%A1%E7%AC%AC%E3%81%AB,%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

*6:「あなたは虚証(きょしょう)?実証(じっしょう)?」元気通信 https://www.yomeishu.co.jp/sp/genkigenki/feature/130829/ 

 *7:「肝火上炎(かんかじょうえん)」中医美容健康サロン 妙蓮のブログ https://beauty.hotpepper.jp/kr/slnH000319650/blog/bidA015201376.html

*8: 「抑肝散(よくかんさん): 漢方では「肝(かん)」が高ぶると、怒りやイライラが現れると考えます。「抑肝散」はこの「肝」の高ぶりを抑えることから名づけられた漢方薬です。もともと子どもの夜泣き、疳(かん)の虫に使われていた薬で、現在は大人の神経症状にも使われています。

体力は中程度で、怒りっぽい、興奮しやすい、イライラするなどの症状のある人に用いられます。具体的には、神経症、不眠症、歯ぎしり、更年期障害、血の道症(女性ホルモンの変動に伴って現れる体と心の症状)、子どもの夜泣き、かんしゃく(神経過敏)などが挙げられます。」ツムラ 製品情報 https://www.tsumura.co.jp/kampo/list/detail/054.html

☆この症例報告の先生方の所属(2016年時点)

玉野雅裕先生:協和中央病院東洋医学センター〔〒309-1195 茨城県筑西市門井1676 番地1 〕

加藤士郎先生:野木病院、協和中央病院東洋医学センター、筑波大学附属病院

岡村麻子先生:つくばセントラル病院、協和中央病院東洋医学センター

小曾根早知子先生:筑波大学附属病院

以上

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