超簡単な認知症ガイダンス!認知症の平均余命と主な症状をざっくりと紹介します。(後編)
認知症が病気と分かっていてもストレスで、つい怒っていました。すでに病気が進み理解できない父に説教する私でした。それでも父は、にっこりと笑ってくれました。きっと私のキツイ言葉や八つ当たりも忘れてくれたと思えます。5月10日の前編と17日の中編に続き、超簡単な認知症ガイダンスの後編をお届けします。
5.認知症の主な4種類の特徴と症状
認知症の代表的な4種類は「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」(*7)です。
①「アルツハイマー型認知症」:認知症の中で約60%と最も多く、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で発病する認知症です。症状はもの忘れで発症することが多く、ゆっくりと進行します。多くの方が亡くなるまでの約10年、認知症の症状が進み続けます。
「アルツハイマー型認知症」の主な症状:
◎記憶障害ー新しいこと、直前に聞いたことや見たことを覚えられない
◎見当識障害ー時間や場所・季節など、基本的な状況を認識する力が失われる
◎判断力障害ー状況に対する判断力が衰え、状況に対応する力も失われる
②「血管性認知症」:脳梗塞や脳出血などによって脳の機能が失われることで発症する認知症です。認知症の約20%を占め、男性が多く発症します。障害された脳の部位によって症状が異なり、障害を受けていない部分は機能が保たれるので「まだら認知症」が特徴です。
症状はゆっくり進行することもあれば、階段を転げ落ちるように急速に進む場合もあります。また、「血管性認知症」に「アルツハイマー型認知症」が合併する症状も多くみられます。
「血管性認知症」の主な症状:
◎記憶障害や「言葉が出ない」「意味不明な言葉を話す」などの「話す」障害、「話しかけられた内容が理解できない」といった「聞く」障害、「文字が読めない・書けない」「文字は読めても内容は理解できない」などの「読む・書く」障害
◎意欲の低下、「気分が落ち込んで何にもする気になれない」や「憂鬱な気分」、またはささいな事で怒り出すなどの性格の変化
③「レビー小体型認知症」:「レビー小体」という特殊なたんぱく質が脳や脳幹に溜まることで、脳細胞が死滅して発症する認知症です。認知症の約10%を占めます。
「レビー小体型認知症」の主な症状:
◎現実には見えないものが見える幻視や認知機能の変動が激しく現れます。認知機能が良好な時もあるため「病気」と思われないことがあります。また、初期では認知機能の低下が目立たない場合もあります。
◎手足が震えたり歩幅が小刻みになって転びやすくなる症状(パーキンソン症状)も「レビー小体型認知症」の特徴です。
◎男性は、女性の約2倍も発症しやすく、他の認知症と比べて進行が早いのが特徴です。
④「前頭側頭型認知症」:特定の神経細胞に異常が起きることで発症する認知症で、脳の「前頭葉」や「側頭葉前方」が委縮することが特徴です。難病指定を受けていて、認知症の約1~5%を占めています。
「前頭側頭型認知症」の主な症状:
◎「人格・社会性・言語」をつかさどる「前頭葉」にダメージを受けた場合は、万引きや痴漢など反社会的行為に走りやすくなります。
◎「記憶・聴覚・言語」をつかさどる「側頭葉」にダメージを受けた場合では、同じ道を歩き続ける、同じ言葉を言い続けるなど同じ行動を繰り返す症状や、言葉の使用や理解ができなくなります。
◎これらの症状がゆっくりと進み、発症後平均6~8年で寝たきりの状態となります。
6.認知症は、ある意味で幸せになれる病気
認知症になると最近のことが覚えられず、病気が進めば夫や妻や子どもを忘れ、自分のこともわからなくなります。介護している側から見れば、楽しいことも家族も忘れてしまうなんて、なんて寂しい病気なのかしらと感じます。
けれど30年以上高齢者医療に携わっている和田秀樹先生は、ご著書『80代から認知症はフツー』の中でこう書かれています。
『認知症は、嫌なことをだんだん感じなくなる、ある意味で天からギフトをもらうような病気でもあります。(中略)
若い世代の人はごぞんじないかもしれませんが、かってテレビの人気者になった100歳の双子がいました。「きんさん」と「ぎんさん」です。(中略)
満面の笑みで2人がそれぞれ「100歳」「100歳」というと、みているほうもほっこりした気持ちになったものでした。
おそらく、あのくったくのない笑顔は認知症からくるものだったと思われます。(中略)
認知症という病気には、あのようなニコニコの笑顔をふりまいて周りの人を明るくするところがあります。私は、多くの認知症の患者さんに、そんな他人を幸せにする笑顔を見てきました。認知症になっても、人は人を幸せにできるのです。(後略)』(*17)
私が介護をしていた時は、元気だった父と認知症が進んでしまった父の姿を比べては、喪失感に襲われました。でも確かにアルツハイマー型認知症だった父は、邪気のない笑顔で看護師さんたちから可愛がっていただき、自分の父ながら透明感が美しかったです。
私が認知症を分かっていなかったので後悔ばかりの介護でしたが、他界してから10年経てば父が無邪気に笑っていた記憶が癒しになります。
「認知症は天からのギフト」この言葉を認知症の介護がこれから始まろうとしている方へ、そして介護の真っ最中のみなさまへ贈ります。
謝辞:和田秀樹先生をはじめ、認知症の臨床・研究・介護に従事なさっていらっしゃる全ての皆様に感謝するとともに、認知症の患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
★厚生労働省「認知症介護情報ネットワーク」https://www.dcnet.gr.jp/
★公益社団法人「認知症の人と家族の会」https://www.alzheimer.or.jp/
補注
*1:「認知症の有病率」認知症と共に生きる高齢者の人口 東京都健康長寿医療センター研究所 https://www.tmghig.jp/research/topics/201703-3382/
*2:「生活習慣病と認知症」日本内科学会雑誌第108巻第4号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/4/108_701/_pdf
*3:「難聴と認知症の関連について」東京逓信病院 https://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/shinryo/jibi/hearingaid.html
*4:「歯周病と歯周病菌は認知症を悪化する?」国立長寿医療研究センター https://www.ncgg.go.jp/ri/labo/19.html
*6:「若年性認知症とは」三重大学大学院医学系研究科認知症医療学講座 https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000738957.pdf
*7:「認知症の種類とそれぞれの原因・症状を解説」太陽生命 https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/colum/ninchi/003.html#:~:text=%E3%81%AA%E3%81%8A%E3%80%81%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%81%AB%E3%81%AF,%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%8C%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E7%9A%84%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
*8:「軽度認知障害について」厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/kibou_00007.html
*9:『ぼけの壁』和田秀樹著、2023年1月発行、幻冬舎新書677、幻冬舎、定価900円+税、ISBN978-4-344-98679-4
*10:「見当識障害:時間に関する見当識が薄らぐと、長時間待つとか、予定に合わせて準備することができなくなります。何回も念を押しておいた外出の時刻に準備ができなかったりします。
もう少し進むと、時間感覚だけでなく日付や季節、年次におよび、何回も今日は何日かと質問する、季節感のない服を着る、自分の年がわからないなどが起こります。
さらに進行すると迷子になったり、遠くに歩いて行こうとします。初めは方向感覚が薄らいでも、周囲の景色をヒントに道を間違えないで歩くことができますが、暗くてヒントがなくなったり、ヒントを理解できなくなると迷子になります。」介護保険施設等運営指導マニュアル(案)https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/8994_206382_misc.pdf
*11:「行動・心理症状(BPSD):行動・心理症状は、周囲の不適切なケアや身体の不調や不快、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れる症状です。例えば、「怒りっぽくなる」「妄想がある」「意欲がなくなり元気がない」「一人でウロウロと歩き回る」「興奮したり、暴言や暴力が見られる」などの症状のことを言います。」中核症状と行動・心理症状(BPSD)〜知っておきたい認知症のこと〜 社会医療法人甲友会 https://www.nk-hospital.or.jp/friends/191206/
*12:「認知症の中核症状」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/chukaku.html
*13:「認知症の周辺症状(BPSD)の出現時期」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/shuhen.html
*14:「記銘力障害:記憶障害の一種で、新たに知覚し、体験した情報を記憶の中に取り入れ留めておくことができなくなる障害をさします。一般に脳障害の症状として現れますが、ストレス反応でも起こることがあります。」こころの耳 厚生労働省 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1538/
*15:「前頭側頭型認知症を知っていますか? 顕著な人格変化の原因であることも」なかまぁる 認知症とともにあるウェブメディア https://nakamaaru.asahi.com/article/14984981
*16:「失外套症候群(しつがいとうしょうこうぐん)とは:大脳皮質の機能障害によって、大脳皮質機能が不可逆的に失われた状態。眼は動かすが、無動で無言。睡眠と覚醒の調節は保たれている。」看護ライフ ナースプラス https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/dictionary/sagyo/shi/20230301-2159301/
*17:『80代から認知症はフツー ~ボケを明るく生きる~』和田秀樹著、第5章認知症といっしょに生きる 190~192頁、2022年10月発行、株式会社興陽館、定価1,000円+税、ISBN978-4-87723-297-9
以上