何も食べていないのに、口の中に苦味を感じる70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じるようになった70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じる70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)(Mabel Amber, who will one dayによるPixabayからの画像)

シニアに多い味覚異常で苦味に悩まされていたMさんが、西洋薬+漢方薬で完治した実例を前編・後編の2回に分けて紹介します。今回は前編です。

1.70代女性、Mさんの場合

主な症状:口の中に広がる苦み

既往歴:不眠症

常用薬:睡眠薬の「エスタゾラム」と睡眠導入剤の「ブロチゾラム」

家族歴:特記事項なし

生活歴:夫と二人暮らし。生活環境での変化やストレスなし

現病歴:①約1か月前、安静にしていた時に突然、舌の右側のふちの辺りに苦味を感じた。

②この時から、入れ歯を入れていても外していても苦味を感じるようになった。

③午前中は苦味を感じないが、午後2~3時頃から苦味を感じる。

④その後も症状が改善しないので、かかりつけ歯科医の紹介で北海道大学病院 高齢者歯科を受診。

西洋医学的所見:身長155 cm 体重 66 kg BMI 27.5(軽度肥満)、消化器にも嗅覚にも問題はなかった。

口腔内所見

*舌に赤い変色や、粘膜の浅い削れ、粘膜の深いえぐれなどの症状はない。

*舌に触っても痛みを感じる箇所もなかった。

*口の中、頬の内側の粘膜に噛み跡がついている。

*舌の上面の真ん中に軽度の舌苔が付着していて、口の中がやや乾燥している状態。

*現在使用している総入れ歯のかみ合わせは良好。

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じるようになった70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じる70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)(Manfred RichterによるPixabayからの画像)

カンジダ培養検査おもにカンジダ・アルビカンスという真菌(かび)に感染すると、口の粘膜の痛みや味覚障害が出ます。検査結果では、感染はなし

全口腔法による味覚検査いろいろな濃度の甘味、塩味、酸味、苦味の味つき液体を口に含ませておこなう検査。検査結果は正常範囲だった。

Cornell Medical Index(CMI)検査コーネルメディカルインデックスは精神的・身体的健康状態を測定するための質問紙検査。この検査でも正常範囲内で特記事項もなかった

血中の亜鉛値:61μg/dl。正常範囲は80~130μg/dlなので、低い。(亜鉛は人間に必須のミネラルで、体内の酵素の活性に不可欠。不足すると味覚異常、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、下痢、男性性機能障害、免疫低下、骨粗鬆症などの多様な症状を引き起こします。)

血中の銅値:104μg/dl。正常範囲は71~132μg/dlなので、正常値貧血、胆道疾患、 感染症などに罹ると血中の銅の数値が高くなる。

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じるようになった70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じる70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)(CelineによるPixabayからの画像)

2.漢方医学的なMさんについての所見と診断

漢方医学的所見:

*全身的症状として、脚のむくみ。

*舌診では、やや舌が口の幅に広がり、大きくぼってりと厚い傾向あり。

*また、舌の裏側の静脈が膨れ上がっていたが、舌に歯形が圧迫されてついた痕はなかった。

*腹診では、心下痞鞕(みぞおちの部分の圧痛や抵抗)や胸脇苦満(あばら骨の一番下の縁に指を入れた際の圧痛)は両方ともなかった。

臨床診断:味覚障害(自発性異常味覚)

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じるようになった70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じる70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)(Ralphs_FotosによるPixabayからの画像)

この後に行われたMさんの治療内容と経過、そして患者さん1人1人に合わせてカスタマイズする漢方薬の治療については、3月29日アップの後編をご覧ください。

ネットで、「味覚異常で漢方薬を処方されたが治らない」との投稿も見ます。残念なことですが、漢方薬が役に立たないのではなく、処方された漢方薬が患者さんの体質(証)と違っていたり、味覚異常の原因が間違っているのではないでしょうか?

もしもあなたが、あるいはあなたのご両親が味覚障害や味覚異常で困っていらっしゃるなら、味覚機能検査をしっかり行えて、漢方薬も処方できる医療機関を探してはいかがでしょうか?

謝辞:現在は北斗病院 歯科口腔外科の武田 雅彩先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬がシニアの健康長寿によりいっそう役立ち、患者さんとご家族のみなさまがより良い時間を過ごせますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じるようになった70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)

何も食べていないのに、口の中に苦味を感じる70代女性の味覚異常が、漢方薬で治った実例を紹介!(前編)(피어나네によるPixabayからの画像)

症例報告「漢方治療により味覚異常の他にさまざまな効能が得られた1例」、武田 雅彩/ 三浦 和仁/ 新井 絵理/ 松下 貴恵/ 山崎 裕/、北海道歯学雑誌 2020年4月、40巻2号122-126頁、https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/77616

☆漢方のお医者さん探し ―漢方・漢方薬に詳しい医療機関(病院・医院・医師)を8,968件から検索できます。― https://www.gokinjo.co.jp/kampo/

☆北海道大学大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室  (主任:山崎 裕 教授)〒060-8586 札幌市北区北13条西7丁目  https://www.den.hokudai.ac.jp/koreisha/index.html

補注

*1: 「水滞(すいたい):水分代謝が悪く、水の排出が停滞している状態のことです。漢方からみると「水滞」の方の特徴は、血虚(血が足りない)でカラダに栄養がまわらず、本来血で満たせるところに水が入って溜め込み、冷え込むタイプの人です。そういう人はやや受け身で心配性と言われています。」クラシエの漢方 https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/body/?p=2048#:~:text=%E3%80%8C%E6%B0%B4%E6%BB%9E%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E8%AA%AD%E3%82%93,%E5%86%B7%E3%81%88%E8%BE%BC%E3%82%80%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97%E3%81%AE%E4%BA%BA%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

*2: 「五苓散(ごれいさん):「水滞」を改善する代表的な処方で、口の渇きや尿量の減少やめまいなどのある方のむくみ、頭痛、下痢などに使用されます。」ツムラ https://www.tsumura.co.jp/kampo/list/detail/017.html

☆この症例報告の先生方の所属(2022年時点)

武田 雅彩先生:北海道大学 大学院歯学研究院口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室 大学院生 

三浦 和仁先生:北海道大学 大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室 医員

新井 絵理先生:北海道大学 大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室 医員

松下 貴恵先生:北海道大学 大学院歯学研究院 口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室  助教授

山崎 裕先生:北海道大学 大学院歯学研究院口腔健康科学分野 高齢者歯科学教室 教授 

以上

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