夜中に電気もつけず、テレビをつけっぱなしで歩きまわる認知症の異常行動など、漢方薬で良くなった6人の実例を紹介!(後編)
愛知県の知多厚生病院に入院または通院していた患者さんで、西洋医学的治療で改善しない場合に漢方薬治療を併用して効果があるかを、丹村敏則先生が調査なさいました。前回(4/19)に続き、2人の実例と西洋医学的治療と漢方薬治療を併用して改善した割合をご紹介します。
5.76歳男性、Qさんの場合
主な症状:激しい便秘
現病歴:①急性腎盂腎炎(*6)で入院。
②抗菌薬で腎盂腎炎を治療後、Qさんの持病の便秘がいっそう酷くなりました。
③便秘薬の酸化マグネシウム錠(*7)を服用しましたが、効果なし。
④腸に働きかけるビサコジル座薬(*8)の使用で排便できるようになりましたが、排便時の肛門の痛みを訴えられました。
既往歴:脊髄小脳変性症(*9)で神経内科に通院中。
漢方医学的所見:お腹が張っていて、お腹を縦に真ん中に走る腹直筋が緊張していました。
臨床経過:①平成◎年9月上旬から「桂枝加芍薬大黄湯」(*10)の服用を始めました。
②服用2日目からスムーズな排便があり、肛門の痛みからも解放されてQさんからとても感謝されました。
6.79歳男性、Rさんの場合
主な症状:誤嚥性肺炎(*11)を何回も繰り返す
現病歴:①過去に何度も誤嚥性肺炎を繰り返し、平成□年5月下旬にも誤嚥性肺炎で入院し、治療後に退院したばかり。
②同年7月中旬、救急外来で受診し入院。胸部レントゲンとCT検査で5月と同じ右側の肺の下の部分の背中側に肺炎を示す画像が写っていました。
★炎症を示すCRP(*12):10.6mg/dl(基準値0.3.mg/dl以下)
★酸素飽和度SpO2 (*13):88%( 90%を下回ることが持続する場合には呼吸不全と考えられる)
既往歴:慢性閉塞性肺疾患(COPD)(*14)を長年患っていて、胃ろう(*15)カテーテルで栄養を取りながら在宅療養中。
漢方医学的所見:疲れやすく、体力がない気虚と貧血状態の血虚があり、息切れを伴っていました。
臨床経過:①入院日より5月入院時と同じ抗菌薬の治療と同時に、「人参養栄湯」(*16)の服用も始めました。
②9日後、レントゲン検査で肺炎が消えたことを確認し、Rさんの自覚症状も改善したので抗菌薬治療を終了。
③CRPも0.3mg/dlに下がり、退院。
④その後、誤嚥性肺炎の再発はありません。
7.西洋医学的治療+漢方薬治療で良くなる、認知症のBPSD・睡眠障害・歩行障害・便秘症・誤嚥性肺炎
丹村敏則先生は、西洋医学的治療だけでは効果がなかった患者さん60人を対象に、漢方薬治療を併用してその効果を調べていらっしゃいます。
①認知症の行動・心理症状(BPSD)を治療した場合:対象10人
とても効果があった人:6人
効果があった人: 4人
②抑うつ症状を治療した場合:対象10人
効果があった人: 9人
効果がなかった人:1人
③睡眠障害を治療した場合:対象10人
効果があった人: 9人
効果がなかった人:1人
④歩行障害を治療した場合:対象10人
とても効果があった人: 2人
効果があった人: 8人
⑤便秘症を治療した場合:対象10人
とても効果があった人:1人
効果があった人: 7人
効果がなかった人: 2人
⑥誤嚥性肺炎を治療した場合:対象10人
とても効果があった人: 2人
効果があった人: 7人
効果がなかった人: 1人
このような実績となり、全体としては西洋医学的治療に漢方薬治療を併用した治療結果は以下の通りです。
とても効果があった 18.3%
効果があった 73.3%
効果がなかった 8.3%
症状が悪化した 0%
どうしても繰り返してしまう誤嚥性肺炎が漢方薬との併用治療で完治できたら、どんなに嬉しいでしょうか。シニアにありがちな便秘や不眠も漢方薬なら、治りそうです。丹村先生のこの調査結果は、藁にもすがりたい気持ちに差し込む希望の光です。
もしもあなたやあなたの大切な方が認知症の行動・心理症状(BPSD)や抑うつ症状、睡眠障害、歩行障害、便秘、誤嚥性肺炎で困っていらっしゃるなら、西洋医学的治療と漢方薬治療を併用できる病院を探してみませんか?
謝辞:丹村敏則先生をはじめ知多厚生病院の先生方、ご協力なさった患者さんや医療従事者の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、東西医学連携がさらに広まり、シニアの患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。
★夜中に電気もつけず、テレビをつけっぱなしで歩きまわる認知症の異常行動など、漢方薬で良くなった6人の実例を紹介!(前編) https://kizuna-iyashi.com/2024/04/19/homemade-267/
目次
1.83歳女性、Mさんの場合 主な症状:夜中になると電気もつけずにテレビをつけっぱなしにして、部屋中を歩きまわる。
2.73歳女性、Nさんの場合 主な症状:憂うつ症状、意欲の低下
3.85歳女性、Oさんの場合 主な症状:眠れない
4.70歳男性、Pさんの場合 主な症状:歩けない
☆研究報告「高齢社会に向けて東西医学の連携が高齢者ケアに果たす有効性の検討」丹村敏則、日本農村医学会雑誌、63巻4号624-633頁、2014年 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm/63/4/63_624/_article/-char/ja/
☆漢方のお医者さん探し ―漢方・漢方薬に詳しい医療機関(病院・医院・医師)を8,968件から検索できます。― https://www.gokinjo.co.jp/kampo/
☆JA愛知厚生連 知多厚生病院 〒470-2404 愛知県知多郡美浜町大字河和字西谷81-6 https://chita.jaaikosei.or.jp/
☆一般社団法人 日本農村医学会 http://www.jarm.jp/index.htm
補注
*6:「急性腎盂腎炎(きゅうせいじんうじんえん):腎盂腎炎とは、腎臓に細菌が感染する病気です。腎臓でつくられた尿は、腎盂(腎臓内の尿のたまるところ)、尿管を経て膀胱に溜められ、尿道から排出されます。この尿の通り道である尿路は本来菌がいませんが、細菌が侵入し感染した場合を尿路感染症といいます。細菌が感染した部位によって下部尿路感染症と上部尿路感染症に大きく分けられます。上部尿路感染症は、腎盂や腎臓に起こる感染症で、多くは腎盂腎炎と診断されます。腎盂内で細菌が繁殖し腎臓にまで炎症が及んだものを腎盂腎炎といいます。」徳洲会グループ 腎臓の病気 https://www.tokushukai.or.jp/treatment/internal/nephrology/jinujien.php
*7:「酸化マグネシウム錠: 胃内で制酸作用により胃酸を中和するとともに、腸内では水分の再吸収に抑制的に働き、腸管内容物が膨張し、腸管に機械的な刺激を与え排便を容易にします。通常、胃・十二指腸潰瘍、胃炎、上部消化管機能異常における制酸と症状の改善、便秘症の治療、尿路蓚酸カルシウム結石の予防に用いられます。」くすりのしおり https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=42102
*8:「ビサコジル座薬: 結腸・直腸に作用して蠕動運動を促進し、排便反射を刺激し、結腸内での水分吸収を抑制し、内容積を増大し、排便を促します。通常、便秘症の治療や、消化管検査時または手術前後における腸管内容物の排除に用いられます。」くすりのしおり https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=46913
*9:「脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう): 小脳は、運動がスムーズに出来る様に調節する働きを持つ脳の一部です。脊髄小脳変性症では主に小脳の神経細胞が徐々に減少することにより、運動がスムーズにできなくなる運動失調とよばれる症状が現れます。小脳だけでなく、脊髄にも異常がみられることがあるために脊髄小脳変性症と呼ばれます。」国立精神・神経医療研究センターNCNP病院 脊髄小脳変性症とは https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease14.html
*10:「桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう): 体力中等度以下で、腹部膨満感、腹痛があり、便秘するものの次の諸症:便秘、しぶり腹(しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののこと)」ツムラ https://www.tsumura.co.jp/brand/products/kampo/134.html
*11:「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん):本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥)、そのために生じた肺炎。老化や脳血管障害の後遺症などによって、飲み込む機能(嚥下機能)や咳をする力が弱くなると、口腔内の細菌、食べかす、逆流した胃液などが誤って気管に入りやすくなります。その結果、発症するのが誤嚥性肺炎です。
なかでも寝ている間に少量の唾液や胃液などが気管に迷入して起こる不顕性の誤嚥は、本人も自覚がないため、繰り返し発症することが多いのです。体力の弱っている高齢者では命にかかわるケースも少なくない病気です。誤嚥そのものは完治することが難しいため、口腔ケアによって細菌や食べかすを減らし、口腔の清潔を保つことが安全かつ効果的な予防法です。」e-ヘルスネット 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html
*12:「CRP:炎症や組織細胞の破壊が起こると血清中に増加するタンパク質のことです。炎症が起こったときに、24時間以内に急増し、2〜3日後には減少するので、炎症の早期診断に役立ちます。この検査で病気を特定することはできませんが、病気の進行度や重症度、経過などを知るうえでは大切な指標となります。」東京大学 保健・健康推進本部保健センター https://www.hc.u-tokyo.ac.jp/checkupresult/explanation/crp/
*13:「酸素飽和度SpO2:パルスオキシメータで皮膚を通して光の吸収値で測定したのが酸素飽和度SpO2 です。SpO2 が90%未満は呼吸不全の状態です。長期に継続すると、心臓や脳といった重要な臓器に充分な酸素が供給されず、障害を起こすことがあります。」よくわかるパルスオキシメーター 日本呼吸器学会 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jrs.or.jp/file/pulse-oximeter_general20211004.pdf
*14:「慢性閉塞性肺疾患(COPD): 慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)(COPD)とは、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病といえます。」一般社団法人日本呼吸器学会 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
*15:「胃ろう: PEG(ペグ)とは、内視鏡を使って「おなかに小さな口」を造る手術のことです。造られたおなかの口を「胃瘻(胃ろう)」と言い、取り付けられた器具を「胃ろうカテーテル」と言います。(カテーテル=管、チューブ) 口から食事のとれない方や、食べてもむせ込んで肺炎などを起こしやすい方に、直接胃に栄養を入れる栄養投与の方法です。
胃ろうは、欧米で多く用いられている長期栄養管理法で、鼻からのチューブなどに比べ、患者さんの苦痛や介護者の負担が少なく、喉などにチューブがないため、お口から食べるリハビリや言語訓練が行いやすいというメリットがあります。」NPO法人PDN 胃ろう(PEG)とは https://www.peg.or.jp/eiyou/peg/about.html#:~:text=%E3%81%8A%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%AB%E5%B0%8F%E3%81%95%E3%81%AA%E5%8F%A3%E2%80%95%E8%83%83%E3%82%8D%E3%81%86%EF%BC%88PEG%EF%BC%89&text=%E5%8F%A3%E3%81%8B%E3%82%89%E9%A3%9F%E4%BA%8B%E3%81%AE%E3%81%A8%E3%82%8C,%E6%A0%84%E9%A4%8A%E6%8A%95%E4%B8%8E%E3%81%AE%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
☆この研究報告の先生の所属(2024年時点)
◎丹村敏則先生:JA愛知厚生連 知多厚生病院 健康管理支援センター長
以上