認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(MariyaによるPixabayからの画像)

先日、介護をなさっている40~50代の息子さんが認知症のお母様に逆上し、怒鳴り散らすYouTubeを見ました。こちらの思い通りに動かない母親へのストレスで激怒する気持ちは分かります。けれど認知症の方は、言葉や理屈は理解できなくても悪意や憎しみを敏感に感じ取ります。お母様が精神的に追い詰められ、息子に虐められると思い込めば、行動・心理症状がいっそう悪化します。

ストレスの多い介護の助けになるようにアルツハイマー病の3タイプを、髙橋 三津雄先生の漢方臨床レポートから、それぞれの特徴と対応方法をご紹介します。

1. アルツハイマー型認知症を症状から3タイプに分類

アルツハイマー型認知症の症状は、認知症による中核症状行動・心理症状(BPSD)に分けられます。

脳の神経細胞が、ふつうの老化よりも速く減少してしまうため起きる症状が中核症状です。「もの忘れ」や「時間や日付がわからない」など認知機能などに関係する症状は、脳の神経細胞が急激に減ってしまったことが原因です。

反対に、脳の神経細胞の減少とともに現れる認知機能障害等以外の行動と心理の症状が、行動・心理症状(BPSD)です。「存在していないものが見え」たり、「ソワソワと落ち着かな」かったり、その方の性格や今まで生きてきた環境や習慣などを反映した行動が現れます。

中核症状」や「行動・心理症状(BPSD)」の出かたには個人差が大きいものの、「ものわすれ」「生活障害」「行動・心理症状(BPSD)」の症状が現れる強弱には類型があります。

お堀端クリニック(神奈川県)の髙橋 三津雄先生は、多くの認知症患者さんを治療なさったご経験から「ものわすれ」「生活障害」「行動・心理症状(BPSD)」の症状に着目して、アルツハイマーを3タイプに分類なさっています。

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(165106によるPixabayからの画像)

形骸型:中核症状の「記銘力障害(*1)」と「見当識障害(*2)」が強く現れます。

激烈反応型:行動・心理症状(BPSD)が強く現れます。

滅裂型:中核症状の「言語機能障害(失語)(*3)」「失行・失認(*4)」「実行機能障害(*5)」「前頭葉機能障害(*6)」などが強く現れます。

では、それぞれのタイプの特徴と対応方法を紹介します。

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(Christel SAGNIEZによるPixabayからの画像)

2.アルツハイマーの形骸型は、徐々に精神・身体活動が低下します

≪形骸型の特徴≫

つい先ほどの出来事や情報を忘れる(記銘力)障害と今の日時や今いる場所が分からない(見当識)障害が症状の根底にあります。

徐々に、精神・身体活動が低下します。

周囲の意見や助言・忠告などに素直に従う反応を示します。

自発性や意欲・積極性が低下して、時には何もしないでブラブラするようになります。

優しくて気のいい老人、好々爺タイプです。

*大脳皮質の下にあり、神経細胞があつまっている大脳白質(*7)に血液が十分に供給されない虚血(*8)症状は軽度です。

≪形骸型の対応方法≫

*リハビリや散歩などで身体機能の低下を予防なさってください。

*意欲や自発性を高められるような日常生活の活動を取り入れてください。

*デイサービスやデイケアを積極的に利用なさってください。

*活動と休息の生活リズムが身につくように工夫なさってください。

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(SilviaによるPixabayからの画像)

3.アルツハイマーの激烈反応型は、周囲の訂正や説得に激烈に反発し、強い不安・焦燥・否定・反抗が現れます

≪激烈反応型の特徴≫

*心身が落ち着いていれば、形骸型と同じです。

*周囲の忠告・訂正・説得には、激烈に反応します。

*予測不能な事態におちいると、強い不安・焦燥・否定・反抗・混乱が現れます。

*妄想的な反応をする理由は、冷静に観察すれば理解できます。

*孤立感あるいは、将来や経済状況への過剰な不安を抱きがちです。

*大脳皮質の下にあり、神経細胞があつまっている大脳白質(*7)に血液が十分に供給されない虚血(*8)症状はかなり重症です。

≪激烈反応型の対応方法≫

*介護をなさる方は、このアルツハイマーの激烈反応型という病気の特徴を理解なさってください。

*介護に際して「心がけて欲しい8ポイント」を目立つところに貼ってください。

*デイサービスやデイケアを患者さんと介護なさる方のために活用なさってください。

この激烈反応型では行動・心理症状(BPSD)が強く現れますが、漢方薬「抑肝散」や「抑肝散加陳皮半夏」が効きます。髙橋 三津雄先生が激烈反応型の患者さん18人に「抑肝散加陳皮半夏」を処方したところ、10人に良く効き、4人にはやや効果があり、効果がないのは4人でした。

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(Ray Shrewsberry •によるPixabayからの画像)

4.アルツハイマーの滅裂型は、比較的に若年で発症し、急速に症状が進行します。

≪滅裂型の特徴≫

早期から失語・失行・失認など病巣のある大脳皮質の部位の機能ができなくなる症状が目立ちます。

比較的に若年で発症し、症状が急速に進行します。

奇異な動作が日常生活で現れたり、日ごろから使っていた道具や器械が使えなくなったり、着替えができなくなったり、髪型を整えたり・歯を磨くことができなくなったりします。

話が通じなくなり、意味不明な言葉を言うようになります。

どちらかと言えば、好きなこと以外に対する集中力がなく、ほとんど関心や興味を示さない傾向があります。

*大脳皮質の下にあり、神経細胞があつまっている大脳白質(*7)に血液が十分に供給されない虚血(*8)症状はありません。

≪滅裂型の対応方法≫

*患者さんが訴える自覚症状と、家族が観察して発見できる病的変化を正確に把握するように心がけてください。

*症状に応じて、適度の薬による鎮静も必要です。

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(shell_ghostcageによるPixabayからの画像)

5.介護に携わる方に「心がけて欲しい8ポイント」

行動・心理症状(BPSD)は、「糖尿病などの持病の悪化」と「環境の激しい変化」と「介護する家族や施設スタッフとの人間関係の悪化」が引き金となって、悪化します。

介護は毎日の繰り返しなので、同じことを何千回も聞かれたり、お金を盗んだと言われ続けるストレスは想像を絶します。けれどストレスに負けて怒鳴りつけたり、逆上すれば倍返し。より激烈な行動・心理症状(BPSD)となってあなたに戻ってきます。

安らぎの場を修羅場にしないために、髙橋 三津雄先生が提唱する「心がけて欲しい8ポイント」をお届けします。

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(shell_ghostcageによるPixabayからの画像)

①介護の日課を決めて、運動は毎日の日課としましょう。

②日常生活のすべてをしてあげるのではなく、残っている機能を最大限に活かして、ご本人の役割や仕事もつくりましょう。

③ご本人のプライドを傷つけないように気を付けてください。

④対決は避けましょう。

⑤指示は、簡単明瞭に出しましょう。

⑥家庭内の段差や危険物の保管方法に注意して、整理整頓しておきましょう。

⑦やっかいな事態が生じても、病気を責めたり、ご本人を責めることは止めましょう。

⑧ユーモアを忘れずに、柔軟な心で過ごしましょう。

在宅介護はまるで修行です。認知症という病気や症状を理解できれば、無駄にあなたが傷ついたり、何度言ってもわからないと激怒しなくて済むのではないでしょうか。トンチンカンや失敗は笑い飛ばして、少しでも明るく楽しい時間をあなたとご両親が一緒に過ごせるよう祈っています。

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!

認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させないために、プライドを傷つけない・責めない・ユーモアを忘れずに!(dae jeung kimによるPixabayからの画像)

謝辞:髙橋 三津雄先生をはじめ、ご協力なさった患者さんや医療従事者の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方医学と西洋医学の連携がさらに広まり、シニアの患者さんとご家族がより良い時間を過ごせますよう、すべての医療従事者の皆さまの益々のご活躍・ご発展を祈念します。

漢方臨床レポート「抑肝散加陳皮半夏が有効な認知症の臨床型」髙橋 三津雄、phil漢方、No.53  20-21頁、2015年 https://www.philkampo.com/pdf/phil53/phil53-08.pdf

☆漢方のお医者さん探し ―漢方・漢方薬に詳しい医療機関(病院・医院・医師)を8,968件から検索できます。― https://www.gokinjo.co.jp/kampo/

☆-内科・神経内科-お堀端クリニック クリニック院長 髙橋 三津雄

〒250-0011神奈川県小田原市栄町1-14-48ジャンボーナックビル2F http://www.ohoribata-clinic.jp/index.html 

補注

*1: 「記銘力障害:記憶障害の一種で、新たに知覚し、体験した情報を記憶の中に取り入れ留めておくことができなくなる障害をさします。一般に脳障害の症状として現れますが、ストレス反応でも起こることがあります。」働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳(厚生労働省)https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1538/ 

*2: 「見当識障害:見当識障害とは「今がいつか(時間)」「ここがどこか(場所)」がわからなくなる状態です。環境が変わった時(引っ越しや入院、子供との同居)にとりわけ強く現れるようです。アルツハイマー型認知症の方は「もの忘れ」に続いて、「見当識障害」も起こしやすいといわれています。

健康な方でも昼寝をして目覚めたときなど、今が昼か夜か、また、どこで寝ていたのかとっさに判断がつかなかったことがあると思います。アルツハイマー型認知症の方は記憶が障害されていますから、混乱や不安はいっそう大きなものになります。」見当識障害とは?その症状と対応法 相談e-65  https://soudan-e65.com/care/measures/case004/

*3: 「言語機能障害(失語):言葉の理解・表出が難しくなります。音として聞こえていても、ことば、話として理解できない、自分が思っていることを言葉として表現する、相手に伝わるように話すことが難しくなります。」認知症の中核症状 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/chukaku.html

*4: 「失行・失認:失行は、「お茶を入れる」、「服を着る」、「スプーンを使ってご飯を食べる」など日常的に行っていた動作や物の操作が運動機能の障害がないにもかかわらず行えなくなります。

失認は、自分の身体の状態や自分と物との位置関係、目の前にあるものが何かを認識することが難しくなることです。半側空間失認では、自分の身体の半分(左側または右側)の空間が認識できず、「ご飯を半側だけ残す」、「片方の腕の袖を通し忘れる」などがみられます。」認知症の中核症状 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/chukaku.html 

*5: 「実行機能障害:実行機能障害とは、物事を行う時に計画を立て、順序立てて効率良く行うことが難しくなります。

食事の支度をする時には、冷蔵庫にあるものを確認してメニューを考え、足りないものを買い出しに行き、冷蔵庫にあるものと合わせて、予定していたメニューをつくることを一連の流れとして行います。買おうとしていたものがスーパーで売っていなくても、他のもので代用するなど、予想外のことが起こっても他の手段を考えて適切な対処ができます。料理をする時は先に炊飯器のスイッチを押しておき、その間におかずを作るなど、効率を考えて同時に進めていくことができますが、実行機能障害では、「○○と△△でみそ汁を作る」、「炊飯器のスイッチを押す」ことはできても、必要な情報を統合して遂行することが難しくなります。」認知症の中核症状 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/chukaku.html 

*6: 「前頭葉機能障害:一般に、前頭葉が損傷を受けると、問題を解決する能力や、計画を立てたり行動を起こしたりする能力が失われます。例えば、道路を横断したり、複雑な問いに答えること(遂行機能と呼ばれることもあります)ができなくなります。」部位別にみた脳の機能障害 MSDマニュアル https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/09-%E8%84%B3%E3%80%81%E8%84%8A%E9%AB%84%E3%80%81%E6%9C%AB%E6%A2%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%84%B3%E3%81%AE%E6%A9%9F%E8%83%BD%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E9%83%A8%E4%BD%8D%E5%88%A5%E3%81%AB%E3%81%BF%E3%81%9F%E8%84%B3%E3%81%AE%E6%A9%9F%E8%83%BD%E9%9A%9C%E5%AE%B3 

*7: 「大脳白質:脳表面にある大脳皮質の下に位置する部分。神経線維が集積している。」用語集 難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/glossary/%E5%A4%A7%E8%84%B3%E7%99%BD%E8%B3%AA#:~:text=%E8%84%B3%E8%A1%A8%E9%9D%A2%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E5%A4%A7%E8%84%B3,%E3%81%8C%E9%9B%86%E7%A9%8D%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

*8: 「虚血:血管が血液を送っている組織や細胞に血液が十分に供給されない状態。酸素不足とほぼ同じ。」用語集 難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/glossary/%E8%99%9A%E8%A1%80

以上

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