食物繊維を多く摂る人は、要介護認知症を発症する確率が3/4に低下することが判明!
筑波大学が、国内の3地域の住民約3700人を最大21年間にわたって追跡調査しました。その結果、中年期に食物繊維を多く摂ることで高齢期の要介護認知症の発症リスクが低下する可能性を、世界で初めて発見!この論文を分かりやすく紹介します。
1.この調査研究を行った背景
認知症は、たんぱく質の一種アミロイドβ(ベータ)が脳の神経を破壊することで起きるとみられています。そして近年の研究で、認知症が進行する前に対策を進めれば予防できることが分かってきています。
また、認知機能と食物繊維の関係が注目されています。食物繊維は、穀類・いも類・野菜・果物などに多く含まれる栄養成分で、小腸の消化酵素の影響を受けずに大腸まで届きます。そのため、食物繊維は大腸内の細菌叢に影響を与えると考えられています。
腸内細菌は、消化管の病気だけではなく、認知機能にも関与している可能性が実験などで示されています。これは中枢神経系が消化管と双方向に通信しているという考え方で、腸内微生物叢が脳の可塑性*と認知機能に影響を与える可能性があることを示しています
しかし、多くの人々の食物繊維の摂取量とその後の要介護認知症の発症リスクの関連を調べた研究はありません。そこで、筑波大学医学医療系ヘルスサービス開発研究センターの山岸良匡(やまぎし・かずまさ)教授らの研究グループが、4千人近くの対象者を長期にわたり追跡観察しました。
(脳の可塑性*:「脳の可塑性」とは脳の神経細胞群が新たなネットワークを築き、生まれ変わることです(マクロ的可塑性)。繰り返し練習することで一過性ではなく持続的なネットワークが構築されることです。学習や記憶、麻痺の改善(運動学習)など。また、個々の神経細胞の損傷あるいはシナプス結合が回復することです。(ミクロ的可塑性、シナプスの可塑性))
2.調査方法
対象:1985~1999年に栄養調査に参加した秋田・茨城・大阪の地域住民で、40~64歳の3,739人
調査方法:1999~2020年までの最大21年間追跡し、その間に発症し介護保険で要介護となった認知症を登録。また、脳卒中の病歴の有無も記録。
分析方法:前日の食事内容を聞き取り、水溶性及び不溶性食物繊維と食物繊維を多く含む食品群のいも類・野菜類・果物類の摂取量を計算し、各人の食物繊維摂取量に応じて対象者を4グループに分類。
測定項目:喫煙の状態、アルコール量、たばこの本数、降圧薬・コレステロールを下げる薬・糖尿病の薬等の服薬状況、脳卒中の病歴、血清グルコース値、総コレステロール値等
3.調査研究の結果、判明した事実
☆食物繊維の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて認知症の発症リスクが0.74倍に低下した。(脳卒中の病歴のない人に限定)
☆水溶性食物繊維の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて認知症の発症リスクが0.61倍に低下した。(脳卒中の病歴のない人に限定)
☆野菜類・果物類の摂取量と認知症の発症リスクに関係は発見できないが、いも類の摂取量と認知症の発症リスクには同様の関係が見られる。(脳卒中の病歴のない人に限定)
☆総食物繊維摂取量が少なければ少ないほど、収縮期血圧と拡張期血圧が高くなる。
☆男性の総食物繊維摂取量は、女性に比べて少ない。
☆繊維を含むジャガイモ、野菜、果物およびナトリウムを含むすべての食品を多く摂る人は、総繊維摂取量も多い。
4.判明した事実と今後の展開
認知症の発症リスクを特に下げる水溶性食物繊維は、腸内で水を抱え込み、粘着性のゲル状成分となって胃腸内をゆっくり移動する栄養成分です。糖質の吸収を穏やかにし、血糖値の急激な上昇を抑えてくれる働きがあるだけでなく、胆汁酸やコレステロールを吸着し体外に排泄します。
大腸内で水溶性食物繊維が発酵・分解されると、ビフィズス菌などが増えて腸内環境がよくなり、整腸効果もあり、脂質異常症や糖尿病の予防も期待されています。
ちなみに、水溶性食物繊維を多く含む食品は、昆布、わかめ、こんにゃくいも(※)、果物、里いも、大麦、オーツ麦などです。
※市販の板こんにゃくに含まれる食物繊維は、水溶性食物繊維(グルコマンナン)が製造過程で添加される水酸化カルシウムによって不溶性食物繊維に変化しています。
この論文のプレスリリースにはこう書かれています。
『脳卒中の既往を伴わない認知症の多くはアルツハイマー型認知症と考えられ、食物繊維の摂取が腸内細菌の構成に影響を与え、神経炎症を改善したり、他の認知症危険因子を低減することにより、認知症発症リスクを低下させる可能性が考えられています。
認知症の成因にはまだ不明なことが多く、一つのコホート研究の結果だけで因果関係を断定することはできませんが、本研究結果は、認知症予防につながる知見の一つと言えます。』
この研究の進展を祈りつつ、今日から食物繊維をいっぱい摂りましょう!食物繊維を多く摂れば、大腸内の細菌叢が良好になり、腸内微生物叢が脳の神経細胞群に働きかけて新たなネットワークを築き、生まれ変わらせてくれる可能性があります!多少シナプスが死滅したって、新たなネットワークを築いてもらえれば差し引きゼロです。食物繊維を摂りましょう!
謝辞:筑波大学医学医療系ヘルスサービス開発研究センターの山岸良匡教授らの研究グループの皆様、ご協力なさったボランティア等全ての皆様に感謝するとともに、この研究の進展・発展を祈念します。
☆食物繊維多く摂ると要介護認知症の発症リスクが低下―多くの人を対象にした調査研究で明らかに:筑波大学 https://www.tsukuba-sci.com/?p=10189
☆Dietary fiber intake and risk of incident disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1028415X.2022.2027592
☆筑波大学 ニュースリリース chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20220210140000.pdf
☆筑波大学 https://www.tsukuba.ac.jp/
☆大塚製薬 栄養素カレッジ「食物繊維」https://www.otsuka.co.jp/college/nutrients/fiber.html
☆ドクターコラム #29「脳の可塑性(かそせい)とは ー 脳局在のコペルニクス的転回」https://ynrh.jp/dr_column/2021/copernicus.php
以上