歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(後編)

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(後編)(Daniel AlbanyによるPixabayからの画像)

世紀の大発見!なんと、歯周炎の原因はプラーク(歯垢・細菌)ではなかった!!歯のまわりの歯茎や骨が溶けてしまう歯周炎は、プラークを取り除いただけでは治らないそうです。「歯界展望 2020年5月号」に掲載された『特別寄稿 歯周炎のプレシジョン・メディシンに向けて』(*1)の後編をお届けします。(以下、*は最下段の参考を参照)

前編では、歯周炎の出血によって体の治癒反応が働き、歯の根のまわりに上皮バリアが築かれて歯が脱落してしまう仕組みと、この上皮バリアを築いたり骨を溶かすよう命令する悪玉因子HGF(肝細胞増殖因子HGF)(*2)を発見したところまで紹介しました。(前編:http://kizuna-iyashi.com/2020/12/04/homemade-84/)

3.歯の結合組織を壊す、悪玉細胞を発見

そしてがん細胞の検査方法で、大島教授は歯を支える歯茎や骨を壊す悪玉細胞を発見なさいます。それが、PAF(歯周炎関連線維芽細胞)です。つまり、歯周炎に罹ると現れる悪玉因子HGFは悪玉細胞PAFによって生み出され、歯肉や歯槽骨(結合組織)を壊していた可能性があります。CMでお馴染みの歯周病菌は、贋物でした。

歯肉や歯槽骨を壊す悪玉が分かったので、上皮バリアを築いたり骨を溶かすよう命令する悪玉因子HGFが、働かないようにする治療薬探しが始まりました。その結果、安全性の高い中和抗体(抗体医薬品)(*3)に辿り着き、その有効性が認められました

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!(後編)

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(後編)(MammiyaによるPixabayからの画像)

4.歯周炎を自然発症したカニクイザルの歯肉で検証

この論文を読んでいて笑ってしまったのですが、つくば市の霊長類医科学研究センターには、世界的に貴重なカニクイザル、”歯周炎を自然発症したカニクイザル”が飼育されているのだそうです。いるんですね、そんな猿が。

この歯周炎を患っているカニクイザルの歯肉から細胞を培養したところ、あの悪玉細胞PAFを採取できたそうです。そこで、カニクイザルの歯周炎患部に少量の中和抗体を1回注射した結果、3ヵ月間その効果が持続して、しかもプラーク(歯垢)除去なしで炎症が改善されたそうです!(猿は歯磨きしないですものね)

この中和抗体は、猿の抗体ではなかったので、カニクイザルには1回しか投与できなかったそうです。でも、人間に投与する場合には完全ヒト抗体の使用で、1~3ヵ月に1回の定期的な接種で、炎症が改善され、歯の脱落を防げると予想されています。

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(後編)(Juli ReichelによるPixabayからの画像)

5.インプラントの周囲が炎症を起こすと、ガンのラスボスもどきが現れる

ご両親は歯科インプラントをなさっていますか?歯周炎の既往があり、インプラントで周囲が炎症を起こすと大変です歯周炎に効果のある中和抗体が効かず、歯周炎とは別のもっと強力に歯肉や歯槽骨を溶かす細胞集団が棲んでいるんだそうです。首より上にできる癌で良く出現する遺伝子などだそうで、まるでラスボスのよう。

この培養したラスボス集団に白血病治療薬(*4)を添加したところ、効果が認められました。

この結果から、大島教授はインプラント周囲の炎症において、分子標的治療(*5)、ある細胞内の特定の分子を狙い撃ちする薬(分子標的薬)(*5)を使って、がん等を抑える新しい治療が適しているかもしれないと結んでいらっしゃいます。

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!(後編)

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(後編)(Jenny FriedrichsによるPixabayからの画像)

最後に

今、歯周炎を患い歯がぐらぐらしているあなたへ、ごめんなさい。20年も進展のなかった歯周炎の原因は解明できましたが、治療薬は現在作っている最中だそうです。毎日のケアに手軽に使えるサプリメントも考えていると伺いました。

この研究は大きなプロジェクト(奥羽大、日大、東大、医科歯科大、Uppsala大学、Charité、理研の共同研究)で、ふくしま医療福祉機器開発事業費補助金が給付され一気に研究が進展し、原因解明が出来ました。が、その後は研究費の申請が全く採択されず、ゆっくりと進まざるを得ないそうです。

科学研究費を分配する日本学術振興会、厚労省や経産省が医療で一本化したAMED、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のみなさん、どうか歯周炎の薬を作ってください!

苦境にあっても研究者の皆様は、研究開発を細々と続けていらっしゃるそうです。私たちのためにも、そして報われない研究者の皆様のためにも、歯周炎の画期的な治療薬が、1日も早く完成するよう熱望します。

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(後編)(Lena SvenssonによるPixabayからの画像)

謝辞:奥羽大学薬学部生化学分野・大島光宏教授、共同研究に関わったすべての研究者のみならず、患者さんを含むボランティアの方々、ご協力なさった全ての皆様と、特にこの原稿の校正にご協力くださった日本大学歯学部生化学講座・山口洋子様に感謝するとともに、この研究と歯周治療の向上・発展を祈念します。

《参考》

*1:歯界展望 https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/tenbo/

   なお、『特別寄稿 歯周炎のプレシジョン・メディシンに向けて~歯周炎病因論のパラダイムシフト~ 奥羽大学薬学部生化学分野教授 大島光宏』はネット公開されていません。

論文をお読みになりたい方には、浅海直二郎商店から別刷りを郵送いたします。このホームページのお問い合わせから、「別刷り希望の旨、お名前、アドレス、送付先住所」を明記の上、お申し込みください。「歯界展望 2020年5月号」に掲載された論文の別刷りを郵送いたします。

*2:悪玉因子(HGF)は肝細胞増殖因子HGFといい、歯周炎やがん細胞の浸潤においては悪さをしますが、一方肝臓の再生も担う重要な因子です。この稿では歯周炎が悪化する仕組みを分かりやすく理解していただくために、悪役になっています。

*3:中和抗体ーウイルスや細菌などに感染をした場合、またはワクチンなどを接種した場合に抗体が体内で生み出される。その中でウイルスや細菌の病原性を抑える作用のある抗体を中和抗体という。

抗体医薬品ー私たちは、体内に無い異物を排除する抗体というたんぱく質をつくり出して病気を防いでいる。この仕組みを利用して、病気の原因となっている物質に対する抗体をつくり、体内に入れ、病気の予防や治療をおこなう薬。http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q49.html

*4:「bFGF rescues imatinib/STI571-induced apoptosis of sis-NIH3T3 fibroblasts」https://www.researchgate.net/publication/24250464_bFGF_rescues_imatinibSTI571-induced_apoptosis_of_sis-NIH3T3_fibroblasts

*5:分子標的治療ーある特定の分子を標的として、その機能を制御することにより治療する療法。正常な体と病気の体の違いあるいは癌細胞と正常細胞の違いをゲノムレベル・分子レベルで解明し、がんの増殖や転移に必要な分子を特異的に抑えたり、関節リウマチなどの炎症性疾患で炎症に関わる分子を特異的に抑えたりすることで治療する。分子標的治療は創薬や治療法設計の段階から分子レベルの標的を定めている点で異なる。また、この分子標的治療に使用する医薬品を分子標的治療薬と呼ぶ。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E5%AD%90%E6%A8%99%E7%9A%84%E6%B2%BB%E7%99%82

分子標的薬ー体内の特定の分子を狙い撃ちし、その機能を抑(おさ)えることによってより安全に、より有効に病気を治療する目的で開発された薬。http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q48.html

以上

歯周炎はプラークだけじゃ治らない!(前編)

歯周炎は歯磨きだけじゃ治らない!(後編)(drwrenchddsによるPixabayからの画像)

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