シニアは、脳や神経の機能低下で体温調節が難しく脱水を自覚できないので、水を飲んでいても注意が必要!
暑くなってまいりました。テレビや公的機関が一斉に、熱中症予防や水分補給を呼びかけています。それでもシニアの方々は特に注意が必要です。特にシニアが脱水症状になり易い理由や脱水症状が引き起こす影響、そして脱水症状を予防する方法を紹介します。
1.シニアの脱水症状とは?
脱水とは、体内の水分と塩分(ナトリウムやカリウムなどの電解質)が減少した状態です。脱水症になると体温を下げられなくなり、体温上昇で様々な機能障害を引き起こす熱中症となります。つまり、脱水症は熱中症の入り口です。
脱水症には3種類あり、症状も原因も異なります。
水欠乏性(高張性)脱水症:のどの渇き、口の中の乾燥
混合性(等張性)脱水症:のどの渇きは弱い、口の中の乾燥、食欲不振、おう吐、めまい、倦怠感
食塩欠乏性(低張性)脱水症:食欲不振、おう吐、めまい、倦怠感、頭痛
シニアの脱水症状には、混合性(等張性)脱水症が多いと言われています。けれど特に食塩欠乏性(低張性)脱水症は、「のどの渇き」や「口の中の乾燥」がないので、本人も家族も脱水症を見落としがちです。
気づいたときには脱水症がかなり進行していたり、意識レベルが低下し、基礎疾患の悪化から体調急変で生命の危険を招きかねません。
2.シニアの脱水症を見分けるチェック方法
A.口の中や舌を見せてもらう⇒乾いていたら脱水症を疑う
脱水症になると口の中の唾液が減少します。口の中や舌の表面、唇まで乾燥します。
B.手の甲の皮膚をつまんでみる⇒皮膚がつままれた形から3秒以上戻らなかったら脱水症を疑う
皮膚には水分がたくさん含まれていて弾力性がありますが、脱水症にかかると水分が減り、肌の弾力も著しく失われます。
C.脇の下を確認する⇒脇の下が乾いていたら脱水症を疑う
ふつう脇の下は汗による湿り気があります。脱水症になると汗が出なくなり、脇の下が乾燥します。
上記の他に以下の3点の症状があれば、医療機関へ至急相談なさってください。
- 原因不明の体温上昇
- 7日以内に体重の4%を超える体重減少
- シニアで、食事以外の水分摂取をしていないことに加えて、疲労感・倦怠感がある
3.なぜシニアは脱水状態になりやすいのか?
体は、必要な水分を体液(血液・リンパ液・唾液・消化液・尿など)として蓄えています。乳児は体重の70%、成人男子は体重の60%、シニアは体重の50~55%が水分です。シニアの割合が少ない理由は、加齢により体の実質細胞数が減少するので、水分含有量も減るからです。
シニアが脱水状態になりやすい理由
- 体液の貯蔵庫である筋肉量が減少し、体が水分を貯えにくくなっているから、脱水症になりやすい
- 喉の渇きを感じる「口渇(こうかつ)中枢」の機能が低下するため、水分不足を理解できず、水分等の補給が不十分になりやすい
- 加齢により腎臓の機能が低下し、老廃物を排泄するために、より多くの水分(尿)が必要となる。そのため、体の水分が失われやすい
- 基礎代謝量が減少するにつれ、体内で栄養素がエネルギーになるときに生成される「代謝水」も減っているので、体の水分が失われやすい
- 加齢により身体機能や食欲が衰え、食事の量が減るので摂取する水分量や塩分量が不足しがちになり、脱水症状をおこしやすくなる
- 誤嚥や失禁を恐れて水分摂取を控えてしまい、脱水症状をおこしやすくなる
- 糖尿病や利尿剤の効き過ぎで水分排泄過多になっている場合や下痢による脱水症状などは、ご本人の申告が無いと気づきにくい
4.脱水症状の影響とは
体から水分が失われると、その割合に応じて以下のような影響が現れます。
水分量1%の損失:のどの渇き
水分量2%の損失:めまい、吐き気、食欲減退
水分量10~12%の損失:筋肉のけいれん、失神
水分量20%の損失:生命の危機
さらに脱水が恐いのは、血液が濃くなってかたまりやすくなることです。血液のかたまり(血栓)が脳の血管に詰まれば脳梗塞、心臓の血管に詰まれば心筋梗塞を発症します。
また、脱水が進行すると「せん妄」が起こります。
せん妄とは、突然、時間、場所などの認識力や思考力、注意力の低下が生じ、妄想や幻覚に支配されるようになる状態です。突然わけのわからないことを叫んだり、うろうろ動きまわったり、いるはずのない人や物が見えたり(幻覚)、聞こえるはずのない音が聞こえたり(幻聴)します。
年齢が高くなるほど「せん妄」発症率は高くなり、特に脳卒中、認知症、パーキンソン病などの神経や脳に異常をきたす病気の既往があるシニアは、風邪や便秘、脱水、睡眠不足など普段と異なる状況が刺激となって突然発症することがあります。
「せん妄」が起こると、さらに脱水症状が悪化するとともに、「せん妄」も重症化します。脱水症状と「せん妄」のスパイラルで命を失うこともあります。
5.水分補給では脱水症状は改善できない
水分と塩分(電解質)が大量に失われ脱水状態になっているときに、電解質がほとんど入っていない水、お茶、ソフトドリンクや電解質濃度の低いスポーツドリンクを飲むと、体液が薄くなってしまいます。
体液が薄くなると体は体液濃度を一定に保とうとするため、余分な水分を排出しようと排尿がうながされます。せっかく摂取した水分と一緒に電解質も排泄されてしまうため、脱水状態は改善されません。
軽度~中等度の脱水(熱中症を含む)が起こったときに、すぐに役立つのが経口補水液(けいこうほすいえき)です。塩分(電解質)と糖分をバランスよく配合した経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)を飲ませれば、失われた水分や電解質をすみやかに補給するとことができます。
シニアの水分摂取不足や発熱、過度の発汗、おう吐、下痢による脱水状態の改善に適し、一般にも認知されています。
6.経口補水液の作り方と水分の多い食品の紹介
1日に必要な水分量の目安は体重1kgあたり約40mlといわれています。体重が60kgの場合は、約2.5ℓの水分が必要ということになります。食べ物から約1ℓの水分が摂取できますが、それ以外に約1~1.5ℓの水分補給が必要になります。その日の体調や運動量などによって、普段より多めに水分補給が必要なこともあるため注意が必要です。
経口補水液の作り方
材料:水(湯冷まし) 1ℓ
砂糖(上白糖) 40g(大さじ4と1/2杯)
塩 3g(小さじ1/2杯)
レモン果汁 お好みで
STEP1. 砂糖40gと塩3gを湯冷まし1ℓによく溶かす。
STEP2. かき混ぜて飲みやすい温度にする。
STEP3. 果汁、レモンやグレープフルーツを絞って加えると飲みやすくなり、カリウムの補給にもなります。
最後に、水分を多く含む食品も紹介します。水分摂取量に飲み物だけではなく、食品に含まれる水分量も合計して考えれば、もっと手軽に水分量を増やせます。献立にスープや豚汁を加えたり、おやつにゼリーはいかがでしょうか?
水分を多く含む食品(100gあたりに含まれる水分量:単位g)
コーヒーゼリー 87.8g
牛乳寒天 85.2
カスタードプリン 74.1
レタス(生) 95.9
きゅうり(生) 95.4
いちご 90.0
すいか 89.6
温州みかん 87.4
(日本食品標準成分表2015年版(七訂)より)
もう10年ほど前に鬼籍に入られた恩師に、激しい勢いで叱責された経験があります。それは独り暮らしで足が不自由な恩師が熱中症に罹りはしないかと心配で「水分を充分に摂ってください」と私がメールしたことが原因でした。「水を飲め」なんて子ども扱いを許せなかったようです。頭脳明晰で理路整然と話すあの先生が激高し激怒する様子を、この季節になると思い出します。
心配から声かけしたのに激怒されるなんて理不尽は、自宅介護ではよくある風景。暑くなると体力も消耗して、やり切れないですよね。介護をなさっているあなたの体調はいかがですか?
☆「防ごう!守ろう!高齢者の脱水」監修 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック院長 髙瀬義昌 企画・協力 日本看護協会・日本訪問看護振興財団・全国訪問看護事業協会 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/dehydration.pdf
☆「気づきにくいお年寄りの脱水症」 大塚製薬工場 経口補水液OS-1 https://www.os-1.jp/dehydration/elder/
☆「脱水症」健康長寿ネット 公益財団法人長寿科学振興財団 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/dassui.html
☆「経口補水液の作り方」川崎幸クリニック chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://saiwaihp.jp/kenkoujyukuch/contents/contents/ors.pdf
☆「高齢期の正しい水分補給」キューピーやさしい献立 https://www.kewpie.co.jp/udfood/cooking-tips/hydration/
以上