漢方薬治療:糖尿病と認知症の悪循環を解説し、認知症の過食で急激に悪化した糖尿病を改善させた実例を紹介します!(前編)

漢方薬治療:糖尿病と認知症の悪循環を解説し、認知症の過食で急激に悪化した糖尿病を改善させた実例を紹介します!(前編)

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今回(前編)は、糖尿病が認知症を引き寄せてしまう原因とお互いに絡み合って糖尿病が悪化する悪循環を解説します。10月6日アップの後編では、玉野雅裕先生がたの研究チームが2016年の「漢方医学」に発表された症例報告(*1)から認知症による劇的な過食で悪化させた糖尿病を漢方薬で改善できた症例を紹介します。

1.糖尿病を患うと、アルツハイマー型認知症の発症率が1.5倍に増加します

糖尿病は年齢を重ねるごとに罹りやすくなる病気です。2019年の厚生労働省の調査結果(*2)によれば、【糖尿病が強く疑われる人】は約1,000万人と推測され、男性19.7%、女性10.8%が糖尿病に罹っている可能性があります。また、【糖尿病の可能性を否定できない人】もさらに約1,000万人いると推測されています。ご両親の体調はいかがですか?

玉野雅裕先生の症例報告(*1)によると、戦中・戦後に低栄養状態で生まれた70代以上のシニアの皆さまは、特に膵臓のインスリン分泌能力が弱いそうです。そのため、70代以上の糖尿病が激増しています

この高齢になるにつれて罹りやすい糖尿病は、認知症を引き寄せます。糖尿病に罹ると、アルツハイマー型認知症の発症率は約1.5倍に増加し、脳血管性認知症は約2.5倍に増加します。(*3)

漢方薬治療:糖尿病と認知症の悪循環を解説し、認知症の過食で急激に悪化した糖尿病を改善させた実例を紹介します!(前編)

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◎糖尿病が認知症を引き寄せてしまう鍵の1番目は「インスリン分解酵素

糖尿病を発症すると、血液中の糖分=血糖値を下げるために健康な方よりも多くのインスリンが必要です。インスリンは、血糖値を下げることが出来る唯一のホルモンだからです。高血糖状態になるとインスリンの分泌が促進され、分泌されたインスリンはインスリン分解酵素によって分解されます。

ところが、インスリン分解酵素アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβを分解する役割も担っていますアミロイドβはアミノ酸が集まった蛋白質で、神経細胞の周りに「しみ」のように溜まり、アルツハイマー型認知症を発症させる原因の1つとなります。

糖尿病を患うとインスリンの働きが弱まり、体内の高血糖状態がインスリン分泌をより激しく促し、効き目が弱いインスリンが大量に必要となるので、その分解のためにインスリン分解酵素も大量に消費されてしまいます。

またインスリン分泌機能も高齢化と一緒に低下するので、いっそう拍車がかかります。その結果、アミロイドβが分解されずより多く蓄積してしまいます。(*3)

玉野雅裕先生は症例報告(*1)の考察で以下のように述べていらっしゃいます。

糖尿病では、脳へのインスリン移送が低下し、アミロイドβの脳内蓄積を抑制するインスリン作用が減弱するためアルツハイマー型認知症の発症・進行が促進されると考えられている。』(P.45より)

漢方薬治療:糖尿病と認知症の悪循環を解説し、認知症の過食で急激に悪化した糖尿病を改善させた実例を紹介します!(前編)

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◎糖尿病が認知症を引き寄せてしまう鍵の2番目は「脳内の血流の悪化

糖尿病による高血糖状態が続くと、血管の動脈硬化が起こり、脳内の血管が詰まりやすい状態になります。動脈硬化が進み、脳内の血流が悪くなり、脳細胞に酸素や栄養が届きにくくなり、認知機能が妨げられます。

動脈硬化や脳梗塞などに加え、膵臓が慢性的に高血糖状態にさらされるとインスリンの生成や分泌機能が低下し、体の代謝にかかわる病気が進行し、さらに高インスリン血症、インスリン抵抗性、インスリンシグナル伝達障害等がアルツハイマー型認知症を促進すると考えられています。(*4)

低血糖もシニアの場合には認知症の危険因子

軽症の低血糖症状では、発汗・動悸・手の震えなどの自律神経症状と、めまい・ふらふら感・脱力感などの糖欠乏症状が現れます。ご高齢の場合や進行した糖尿病患者さんでは自律神経症状が出にくいため、低血糖が重症化しやすくなります。入院するような重症の低血糖症状に1回陥った人は、認知症発症リスクが1.24倍、2回で1.80倍、3回で1.94倍に跳ね上がります(*5)

漢方薬治療:糖尿病と認知症の悪循環を解説し、認知症の過食で急激に悪化した糖尿病を改善させた実例を紹介します!(前編)

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2.認知症は、糖尿病を悪化させます

糖尿病は、血糖値を厳格にコントロールできれば、健康な方と同じような生活が送れます。けれど、認知症のために以下のような問題が発生します。

薬の飲み忘れ:糖尿病の薬を飲み忘れたり、インスリン注射をし忘れる。

過食認知症の陽性BPSDの1つに「過食」があります。ご飯を食べたことを忘れて食べ続けたり、食欲が亢進して冷蔵庫の中や家じゅうの食品を全て食べ尽くすまで止まらなくなったりします。また、自分でお菓子やアイスクリームを大量に買って来て、一度に食べつくします。

食事量の減少認知症の陰性BPSDに「意欲低下」や「食欲低下」があります。外出が減り、横になっていることが多くなり、口数も減り、食事も食べなくなります。血糖値は下がりますが、低血糖のリスクが高まります。(*6)

糖尿病が悪化すれば腎不全から透析になったり、視力低下失明、血流の悪化は全身に及ぶので栄養や酸素の届きにくい末端の足から腐ってしまい下肢の切断、血管の詰まりから心筋梗塞脳梗塞を引き起こしかねません。(後編につづく)

漢方薬治療:糖尿病と認知症の悪循環を解説し、認知症の過食で急激に悪化した糖尿病を改善させた実例を紹介します!(前編)

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注)

*1: Case Report「過食行動により悪化した認知症合併糖尿病に対する抑肝散の臨床的有効性の検討」【漢方医学】2016年Vol.40 No.1 43-46頁、玉野雅裕、加藤士郎、岡村麻子、小曾根早知子、星野朝史、高橋晶 (国立国会図書館所蔵

*2:「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf

*3: 「糖尿病と認知症の関係」より『年を重ねると誰しも、もの忘れをしやすくなったり、自分の身の回りのことができなくなったりします(認知障害)。特に糖尿病のある高齢者の場合は、高血糖の状態が長く続くことで認知機能が低下しやすくなり、もともと軽度の認知障害がある方はさらに進んで認知症を発症しやすいといわれています

具体的には、糖尿病の方はそうでない方と比べると、アルツハイマー型認知症に約1.5倍なりやすく、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいと報告されています。また、糖尿病治療の副作用で重症な低血糖が起きると、認知症を引き起こすリスクが高くなると言われています。』国立国際医療研究センター糖尿病情報センター https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/070/060/01.html

*4:「糖尿病がアルツハイマー型認知症のリスクとなる理由」医療法人 啓眞会 くにちか内科クリニック https://kunichika-naika.com/information/hitori201706

*5: 「低血糖と血糖変動」医療法人 啓眞会 くにちか内科クリニック https://kunichika-naika.com/information/hitori201706

*6: 「認知症と糖尿病」天沼きたがわ内科 https://amanuma-naika.jp/column/%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87%E3%81%A8%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85

*7: 「記憶障害:覚えられない、覚えていられない、思いだせない」日本神経心理学会 http://www.neuropsychology.gr.jp/invit/s_kiokusyogai.html

*8: 「遂行機能障害:計画を立てたり、計画通りに行動したりすることができない」日本神経心理学会 http://www.neuropsychology.gr.jp/invit/s_suikokino.html

*9: 「腎臓の病気:腎盂腎炎(じんうじんえん)」徳洲会グループ https://www.tokushukai.or.jp/treatment/internal/nephrology/jinujien.php

☆この症例報告の先生方の病院(2016年時点)

玉野雅裕先生:協和中央病院東洋医学センター〔茨城県筑西市〕及び筑波大学附属病院〔茨城県つくば市〕

加藤士郎先生:野木病院〔栃木県下都賀郡〕、協和中央病院東洋医学センター〔茨城県筑西市〕、筑波大学附属病院〔茨城県つくば市〕

岡村麻子先生:協和中央病院東洋医学センター〔茨城県筑西市〕、つくばセントラル病院〔茨城県牛久市〕

小曽根早知子先生:筑波大学総合診療科〔茨城県つくば市〕

星野朝史先生:筑波大学附属病院〔茨城県つくば市〕、霞ヶ浦医療センター耳鼻咽喉科〔茨城県土浦市〕

高橋晶先生:筑波大学医学医療系災害精神支援学〔茨城県つくば市〕

☆「日本脳神経外科漢方医学会」https://nougekampo.org/

以上

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