イカやタコ等に多く含まれるタウリンが、老化を抑制する可能性を動物実験で発見しました!
アメリカのコロンビア大学の国際研究グループは、魚介類などに含まれるアミノ酸に似た物質「タウリン」を中年期のマウスに毎日摂取させると寿命が10~12%も延びることを発見。タウリンの老化防止効果の可能性を示すこの研究を紹介します。
1.老化の要因の1つとして、タウリンに着目
“老化”は、さまざまな要因が複雑に絡み合っており、いまだ多くのことは正確に解明されていません。現在分かっている主な原因としては、細胞機能の低下、遺伝子の変異、免疫力の低下、ホルモン分泌量の低下、活性酸素による酸化ストレスなどが考えられています。
コロンビア大学助教授Vijay Yadav博士は、骨粗鬆症の研究で骨の形成を促進するタウリンの働きを発見し、他の研究者らは、血液のタウリン濃度が免疫機能・肥満・神経系機能と関連していることを発見しました。
そこで「血液中のタウリン濃度が全身の健康と寿命に影響を与えている」という仮説をたてて、血液中のタウリン濃度を調べました。その結果、
⇒マウスもサルも人間も、加齢とともに血液中のタウリン濃度が低下。人間の60歳のタウリン濃度は、5歳児のタウリン濃度の1/3に過ぎなかった!
この結果をうけて、国際研究チームはタウリンの欠乏と老化プロセスについて、大規模なマウス実験を行いました。
2.タウリンの血中濃度が老化に関係しているかを調べる実験
生後14ヵ月(人間の年齢に換算すると45歳)の雄と雌のマウス250匹の半数に寿命が尽きるまで、毎日1回タウリンの溶液を服用させました。その結果は以下の通りです。
⇒タウリンを与えられた雄と雌のマウスは、与えられないマウスよりも長く生きた。
⇒タウリンを毎日服用したマウスの寿命は、10~12%延びた。
⇒生後28ヵ月時点で、タウリンを毎日服用したマウスの平均余命が、18~25%延びた。
さらに6か月間タウリンサプリメントを毎日投与された中年のアカゲザルでも、同様の効果を確認できました。
中年アカゲザルの実験でもタウリンは、サルの体重増加を防ぎ、空腹時血糖値と肝臓損傷を減少させ、脊椎と脚の骨密度を増加させ、免疫系の健康を改善しました。
3.タウリンの投与が健康に及ぼす影響を調べる実験
次に研究チームは、1年間タウリンを毎日服用し続けた生後28ヵ月マウス(人間の年齢に換算すると60歳)とタウリンを服用しなかったマウスのさまざまな健康指標を測定しました。その結果は、以下の通りです。
⇒1年間タウリンを服用していたマウスは、タウリンを飲まないマウスよりもほぼすべての点で健康であることを発見。
⇒タウリンを服用していたマウスは、骨・筋肉・膵臓・脳・脂肪・腸・免疫系の機能が改善され、全体的な健康寿命が延びていた。
⇒タウリンが、雌マウスや「閉経した」マウスでも加齢に伴う体重増加を抑制した。
⇒タウリンが、エネルギー消費量を増加させた。
⇒タウリンが、骨量を増加させた。
⇒タウリンが、筋持久力と筋力を改善した。
⇒タウリンが、人間のうつ病と同じようなマウスの行動と不安行動を軽減した。
⇒タウリンが、インスリン抵抗性を低下させた。
⇒タウリンが、若く見える免疫システムを促進した。
4.細胞レベルでタウリン服用がマウスに与えた影響
タウリンは、細胞レベルでも加齢とともに低下する多くの機能を改善しました。具体的には、以下の通りです。
⇒タウリンは、細胞分裂ができなくなり、本来の役割を終えても体の中になお残って有害物質を放出する古い細胞、いわゆる「ゾンビ細胞」の数を減少させた。
⇒タウリンは、正常細胞に無制限な細胞分裂を繰り返す「不死化」をもたらす酵素として知られるテロメラーゼ酵素による欠損から細胞を保護した。
⇒全身の細胞に含まれるミトコンドリアは生存と成長に必要なエネルギーの90%以上を産生している。このミトコンドリアの機能不全をタウリンが抑制した。
⇒細胞は生命の設計図ともいえるDNAを持っていて、塩基の並び方に遺伝情報が組み込まれています。放射線や食物の中の発がん物質、たばこ、環境中の化学物質、活性酸素等がDNAを傷つける原因です。頻度は一日1細胞当たり、1万から100万箇所の頻度でDNAは損傷を受けているといわれ、DNAが損傷を受けると、修復酵素が駆けつけて、こうした傷を修復します。タウリンは、このDNAの損傷を減少させ炎症を軽減させた。
5.動物実験とは別に欧州各国の60歳以上を対象に行われた実験と運動とタウリン濃度の関係を調べる実験
研究グループは、欧州各国の60歳以上の約1万2000人を対象に体内タウリン濃度と約50項目の健康指標との関係を調べました。
⇒タウリンが私たちの体のなかで合成される過程で現れるヒポタウリンやタウリン等の血中濃度が、腹部肥満、高血圧、炎症、2 型糖尿病の有病率の増加などの健康被害と関連していた。
2番目の研究では、運動とタウリン濃度の関係を実験。短距離ランナー、持久力ランナー、ナチュラルボディビルダーと座りっぱなしの男性グループに激しいサイクリングトレーニングを行ってもらい、トレーニングの前後にタウリン濃度を測定しました。
⇒激しい運動をおこなった全員のタウリン濃度が、運動後に上昇。
⇒運動を続けると血中のタウリン代謝産物の濃度が上昇し、これが運動の老化防止効果の原因の一部である可能性もある。
6.結論
Vijay Yadav博士はこう述べています。
『タウリンに健康上の利点があるかどうかは、人を対象としたランダム化臨床試験によってのみ決定されます。(中略) タウリンは私たちの体内で自然に生成され、食事から自然に摂取でき、既知の毒性作用はありません。そして運動によって増加させることができます。(中略) タウリンの量は加齢とともに減少するため、高齢になってからタウリンを若々しいレベルに戻すことは、有望なアンチエイジング戦略となる可能性があります。』
しかし、科学技術振興機構の「SciencePortal」は、この論文の紹介を以下の文章で締めくくっています。
『タウリンは1日500~2000ミリグラム程度が摂取の目安とされる。内閣府の食品安全委員会なども毒性影響は認められないと評価しており、上限値も定められていない。今回の研究からタウリンが健康維持に大切な物質であることは改めてはっきりしたが、栄養学などの多くの専門家は、一般論としてビタミンなどの栄養素の安易な過剰摂取はしない方が良いと指摘している。』
そうです、老化防止効果を確認するためには臨床試験が必要です。すぐにタウリンのサプリメント買い占めに走るのではなく、日頃の食事バランスに気を付けて、タウリンを自分の体で生成できる運動に努めましょう!
謝辞:米コロンビア大学助教授のVijay Yadav博士と国際研究グループの皆様、ご協力なさったボランティア等全ての皆様に感謝するとともに、この研究の進展・発展を祈念します。
☆「Taurine May Be a Key to Longer and Healthier Life」Columbia University Irving Medical Center https://www.cuimc.columbia.edu/news/taurine-may-be-key-longer-and-healthier-life
☆「Taurine deficiency as a driver of aging」Science https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn9257
☆「タウリンは老化防止に役立つ可能性 米コロンビア大の動物実験で判明」SciencePortal https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20230620_n01/
☆「タウリン」e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-017.html
☆「アンチエイジング」Medical Note https://medicalnote.jp/diseases/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%81%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%82%B0
☆「細胞不死化酵素「テロメラーゼ」に新しいがん化機能を発見 全く新しいタイプのがん治療法の開発を期待」国立研究開発法人国立がん研究センター https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0325/index.html
☆「ミトコンドリアの機能不全 – Mitochondrial Dysfunction」メルク ライフサイエンス リサーチ&バイオロジー https://www.merckmillipore.com/JP/ja/life-science-research/jp-academicinfo/aging/mitochondrial-dysfunction/81ub.qB.2uUAAAFWhE4NDtBE,nav
☆「第3章 放射線による健康影響3.2 人体影響の発生機構 DNA の損傷と修復」環境省 https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-03-02-02.html
以上