認知症の悪化で免疫力が低下し、誤嚥性肺炎で入院したが、漢方薬で元気になった実例を紹介!
Qさんは認知症が進んで無気力に陥り、食欲も失い、低栄養から寝たきりとなり、免疫力の低下から誤嚥性肺炎を起こして入院。漢方薬+西洋医学的治療で活気も食欲も取り戻し、みごとに快復できた実例を紹介します。
1.実例:86歳女性、Qさん
主な症状:食べられない、気力がない等の陰性BPSD
既往歴:食欲不振、高血圧、認知症。
現病歴:
①高血圧で近所のかかりつけ医に通う。
②5 年前から短期記憶障害と遂行機能障害がゆっくりと進行したため、アルツハイマー型認知症治療薬「ガランタミン」などを服用していた。
③6ヵ月前から家に引きこもるようになり、食欲も低下。
④2ヵ月前から極端に食べられなくなり、寝たきり状態になった。
⑤3週間前から食べ物などを飲み込めなくなり、痰の量が増えた。(*1)
⑥2日前から発熱し、呼吸がうまくできなくなった為、かかりつけ医の紹介で入院。
家族歴:特記なし
西洋医学的所見:身長153 cm、体重35 kg。
胸部CT検査: 右肺の下の部分に気管支肺炎を示す陰影が映っていた。
頭部MRI 検査:全体的に脳の萎縮がある。
その他特記所見なし。
2.Qさんの漢方医学的所見
*無気力で、声は聞き取りにくい。
*皮膚は乾燥し、全身が衰弱した状態。
*脈は弦で細。
【弦脈(げんみゃく)】というのは弓の弦が張ったような縦方向に緊張感のある脈で、ストレスや「気滞」という気の流れがとどこおっている人によく現れます。(*2)
*舌は薄白苔あり。
漢方医学では、舌苔は病気の重症度と寒熱の判断に用いています。さらに舌全体として舌の湿潤度を見て、身体の乾燥度合を推測します。
*腹力は2/5。腹診した際の腹壁の緊張度が、5段階の下から2番目でやや軟弱です。
*臍上悸あり。おへその左上部で、腹部大動脈の強い拍動や痛みがあることを指します。
【臍上悸】とは、精神的な一種の興奮状態の存在を思わせ、同時にある種の衰弱を伴った状態を示すものと考えられます。
*証は陰、虚、裏、寒、極度の気虚、血虚。
【陰証】とは、新陳代謝が衰えて身体の熱を作り出す力が低下している状態で、患者さんは寒がります。高齢者など体力が低下した人が病気になると、多くの場合は「陰」となります。(*3)
【虚証】とは、体力が不足しており,抵抗力や病原に対する反応が低下している状態です。(*3)
「虚証」の方は、体力や元気があまりなく汗が出ています。やせていて色白、声がか細く、胃腸が弱く、すぐに疲れやすい、いわゆる虚弱体質です。
【裏証】とは、病気に対する反応が起きている体の部位を指し、消化管や腹部内臓など身体深部に病気があることを示しています。(*3)
【寒証】とは、病気の状態を表現する考え方で、冷えや火照りといった自覚症状や、触って冷たく感じる、あるいは熱く感じるといった医師の診察から判断されます。温めると具合がよくなるものが寒証です。(*3)
【気虚(ききょ)】とは「気」が不足している状態です。エネルギーが足りていないので、疲れや倦怠感があり、体が冷えやすいです。また、胃腸も弱く、食欲不振や胃もたれ、軟便・下痢をしやすくなります。体力も無く免疫機能も低下し、風邪を引きやすくなります。(*4)
【血虚(けっきょ)】とは、栄養素である「血」が不足している状態です。循環が悪くなることで、全身に栄養が行き渡らないため、貧血の傾向やめまい、しびれやけいれんなどの症状も現れやすいです。また肌がカサカサしたり、抜け毛や白髪が増える傾向があります。(*5)
*少陽病(しょうようびょう)。
【少陽病】とは急性の病気が、急性から慢性炎症となり、症状が体の表面と内部の中間にある時期を指します。(*6)
3.Qさんの漢方薬+西洋医学的治療による臨床経過
臨床経過:
①ペニシリン系の抗生剤と抗菌薬の点滴で、肺炎治療が優先的に行われた。
②肺炎が治った時からすぐに、「補中益気湯」(*7)の服用を開始。
③数日後、Qさんの活気と食欲が回復。
④1 週間後には全粥食をほぼ全部食べられるようになった。
⑤体も動かせるようになり、免疫力が良好な状態に戻りつつある。
⑥約3週間後に自宅へ退院。
⑦退院から1年後も肺炎などの再発がなく、現在も元気に通院している。
この症例報告の考察で、玉野 雅裕先生は以下のように書かれています。
『陰性BPSD が進行し、意欲、食欲が低下し、低栄養化、免疫力低下、咀嚼・嚥下能力の弱体化のため誤嚥性肺炎で入院する患者が激増している。懸命な治療を施し、やっとの思いで退院できるまで回復してもすぐ同じ疾患を繰り返して、再入院するケースが後を絶たない。』
介護に携わる方々だけでなく、医療現場でも陰性BPSDが引き起こす誤嚥性肺炎や感染症を繰り返す事態に困っています。このような場合の1つの解決方法が「補中益気湯」(*7)の服用です。
もしもあなたも認知症による無気力や食欲不振、低栄養による免疫力の低下など陰性BPSDに困っていらっしゃるなら、漢方薬も最新の西洋薬も処方できる医療機関を探してみませんか?
謝辞:玉野雅裕先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬がシニアの健康長寿によりいっそう役立ち、患者さんとご家族のみなさまがより良い時間を過ごせますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。
☆症例報告「認知症診療におけるQOL,生命予後改善を見据えた漢方治療の有効性」、玉野 雅裕 / 加藤 士郎 / 岡村 麻子 / 星野 朝文 /高橋 晶 、脳神経外科と漢方 2017年3巻57-62頁、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/3/1/3_11/_article/-char/ja/
☆漢方のお医者さん探し ―漢方・漢方薬に詳しい医療機関(病院・医院・医師)を8,968件から検索できます。― https://www.gokinjo.co.jp/kampo/
☆ 日本脳神経漢方医学会 日本脳神経漢方医学会は脳神経領域における漢方療法に関する研究を通じて、漢方医学の普及と研鑚を図ることを目的としています。「脳神経外科と漢方」は、日本脳神経漢方医学会 が発行。https://nougekampo.org/
補注
*1: 「喀痰(かくたん)の原因 気道はいつでも濡れた状態にしておくために分泌液が出ています。気道が乾くとウイルスなどに感染しやすくなるからです。(ですから空気が乾燥する冬に風邪をひきやすいのです。)この分泌物はウイルスや細菌、異物などが気道に入ると量が増え、病原体をくるんで外に押し出しやすくしています。気道の表面は肺からのどへ向かって常に細かく運動しており、分泌液にくるまれた病原体がその運動によってのど、そして口から外へ排出されます。これが痰です。」健康長寿ネット 老年症候群 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/kakutan-gaisou.html
*2: 「脈状 東洋医学の診察法~脈状」翁鍼灸治療院 https://www.ou-hari.com/tyuigaku15.html
*3:「漢方的視点とは」プライマリ・ケア漢方のすすめ 佐藤寿一 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.aichi.med.or.jp/webcms/wp-content/uploads/2023/12/70_2_p111_Graphs-Sato.pdf
*4: 「気虚タイプ」クラシエの漢方 https://kamposhop.kracie.co.jp/contents/diagnosis/types/c/
*5: 「血虚タイプ」クラシエの漢方 https://kamposhop.kracie.co.jp/contents/diagnosis/types/a/
*6:「少陽病(しょうようびょう)…病気の停滞」漢方の基礎知識 飯塚病院漢方診療科 https://aih-net.com/kanpo/user/knowledge/rokkei.html
*7: 「ツムラ漢方補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒」ツムラ https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/045/index.html
☆この症例報告の先生方の所属(2016年時点)
◎玉野雅裕先生:協和中央病院東洋医学センター〔〒309-1195 茨城県筑西市門井1676 番地1 〕、筑波大学附属病院
◎加藤士郎先生:野木病院、協和中央病院東洋医学センター、筑波大学附属病院
◎岡村麻子先生:つくばセントラル病院、協和中央病院東洋医学センター
◎星野朝文先生:霞ヶ浦医療センター耳鼻咽喉科、筑波大学附属病院
◎高橋晶先生:筑波大学医学医療系災害・地域精神医学
以上