漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (kordula vahleによるPixabayからの画像)

今回も漢方薬治療で目覚ましい改善・回復を遂げた実例です。協和中央病院東洋医学センターの玉野雅裕先生がたの研究チームが、2019年に発表なさった認知症で81歳男性の症例報告を分かりやすく紹介します。

1.症例は、81歳の男性Aさん

現病歴:①ながらく農業を営んできたが70歳で廃業した。この時に抑うつ症状がみられ、心療内科に通院し治療した。

Aさんは物事を気にしやすい性格で、抑うつ症状を治療してからは人付き合いが激減し、家の中に居ることが多くなった。

3年位前から、短期記憶障害が少しずつ悪化

1年前頃から全般的に意欲が低下し、不穏・不眠・暴言・昼夜逆転などの症状があらわれ寝ていることが多くなった

④近所のかかりつけ医から認知症と診断され、アルツハイマー型とレビー小体型認知症治療剤「ドネペジル塩酸塩」を投与された。

⑤Aさんは昔から胃腸が弱く少食で、水分量が多く柔らかい軟便の体質だった。が、「ドネペジル塩酸塩」を服用後は、下痢症状となり、陽性のBPSDの幻覚、易怒(ささいなことで怒りやすくなること)、妄想、昼夜逆転、興奮、暴言、暴力などがさらに悪化。

⑥「ドネペジル塩酸塩」の副作用と考え、アルツハイマー型認知症治療剤「メマンチン塩酸塩」と漢方薬「抑肝散(よくかんさん)」に変更

⑦しかし、Aさんの下痢は続き、意欲の低下もさらに悪化して終日寝たきり状態となった。

⑧今年1月、風邪をきっかけに脱水症状と全身の衰弱がひどくなり、紹介入院となった。

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (NoName_13によるPixabayからの画像)

既往歴:うつ病(70~71歳、心療内科に通院)

生活歴:喫煙なし、飲酒なし。

西洋医学的所見:血圧144/60mmHg、体温35.4℃、長谷川式認知症スケール13点(*1)

胸部レントゲンと心電図:異常なし

頭部MRI画像両側の側頭葉部(*2)の内側に激しい脳萎縮あり

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (Thomas ZbindenによるPixabayからの画像)

2.Aさんに対する臨床の経過

もしも私がAさんの家族だったら、認知症の薬を変更して、さらに漢方薬も加えたのに悪化する一方で、頭部MRI画像で脳がとても縮小していると医師に宣告されたら、「もう仕方ないのかな?」と諦めそうです。ところが専門的に漢方も併用なさっている先生方の治療は奇跡を起こします。

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (Jaesung AnによるPixabayからの画像)

漢方医学的所見では、腹部の冷えが酷く、脈は軽く押さえても脈拍を感じられないほど弱く力がない状態

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体が病気に打ちのめされ、防衛反応が衰え、生命維持に必要な代謝が低下した為、身体の中心部が酷く冷えている状態と診断。

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『気(生命エネルギー)』が不足しているために元気がなく著しい冷えによって水分代謝が乱れて『水(血液以外の体液)』が溜まった「水毒」(*3)がある「少陰病(しょういんびょう)」(*4)と考えられた。そこで以下の治療をおこなった。

食欲不振と脱水症状に対して、西洋薬の点滴療法を行いアルツハイマー型認知症治療剤「メマンチン塩酸塩」と漢方薬「抑肝散」を中止代わりに、「真武湯(しんぶとう)」(*5)を朝昼夕に投与

漢方薬投与5日目頃から、Aさんが日常会話に応じるようになり、食事もよく食べるようになった。

漢方薬投与10日目頃から下痢が完治し、歩行リハビリテーションを始めた

漢方薬投与1か月後(退院時)には、長谷川式認知症スケール(*1)が13点から18点に改善したまた、イライラや昼夜逆転症状も消えた

⑤退院後の経過は良好。「真武湯(しんぶとう)」の内服を継続し、週3回の通所リハビリテーションも続けており、家族の介護負担が激減した。

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (Jörg VieliによるPixabayからの画像)

3.研究チームによる考察

☆BPSDのコントロールが認知症進行を抑制する鍵

認知症は、最初に置き忘れやしまい忘れ等の記憶障害や、リモコンが操作できない等の遂行機能障害(*6)など、認知症の主な症状で気づかれることが多い。

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その後、不穏・興奮・過食・早食いなど陽性BPSD全般的な意欲低下・食欲低下・うつ状態など陰性BPSDが現れる

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これらの陽性・陰性BPSDが介護者の負担を増大させ患者と家族のコミュニケーションを途絶えさせ、認知症が急激に進行してしまう

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BPSDをコントロールできれば、認知症進行を抑えられる!

☆BPSDの治療薬として漢方薬は副作用が少なく効果的!

陽性BPSDの治療には、「チアプリド塩酸塩」(*7)「抗精神病剤のリスペリドン」「フルジアゼパム」(*8)などが投与されている。

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副作用として、ふらつき・転倒骨折・習慣性などの問題がある。

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漢方医療では、1人1人の体質や性格などに合わせた個別化医療で身体全体を健全な状態に導き、脳の状態を持ち直させる。

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また、認知症のBPSDも体調や薬の効果によって、陽性BPSDが出たり、陰性BPSDが出る。漢方薬治療は、人に合わせてカスタマイズする個別化医療なので、症状に合わせて薬を変更し、身体全体を健全な状態に導くことができる!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (John PerrettによるPixabayからの画像)

☆Aさんの認知症が悪化した要因

①Aさんは内気、消極的で遠慮深く、非社交的な性格でストレスに弱いという認知症の危険因子を持っていた。

②Aさんはもともと体の機能が弱く、体内の必要物質や機能が不足・低下した体質で、加齢により生命力を貯えている「腎」(*9)が衰え「脾」(*10)の消化吸収機能が働かなくなった為、食欲不振や下痢が悪化した。

低栄養状態が進み、身体活動も低下。以上が相乗的に作用して寝たきり時間が長くなり、認知症が進行

☆抗認知症の西洋薬を使わずに「真武湯(しんぶとう)」だけで効果が上がった要因

◎Aさんはもともと体の機能が弱く、体内の必要物質や機能が不足・低下した体質で、体液の循環が悪く、軟便・下痢傾向にあったため、「ドネペジル塩酸塩」で下痢が悪化

◎Aさんはもともと体の機能が弱く、体内の必要物質や機能が不足・低下した体質で、体液の循環が悪く、軟便・下痢傾向にあったため、アルツハイマー型認知症治療剤「メマンチン塩酸塩」と漢方薬「抑肝散」が陰性BPSDの意欲低下を促進させてしまった。

陽性BPSDには「抑肝散」陰性BPSDには「補中益気湯」が有効なケースが多いが、Aさんは極度に体の機能が弱く、体内の必要物質や機能が不足・低下した体質で、体液の循環が悪く「水毒」(*3)がある「少陰病(しょういんびょう)」(*4)と考えられたため、「真武湯(しんぶとう)」で身体を温め、体液の循環を促した。

薬が適切だったため、体のバランスが改善し、身体の活動性が向上し、認知症の進行抑制をもたらした。(症例報告には退院時の頭部MRI画像の情報はないので、脳の萎縮状況は不明。)

◎「真武湯(しんぶとう)」の効果も大きいが、家族の積極的な介護と通所リハビリテーションの活用も良好な経過となった要因と思われる。

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (Pete LinforthによるPixabayからの画像)

脳の萎縮が戻らないとしても、食欲があり、長谷川式認知症スケールが19点前後の軽度の認知症にまで改善し、通所リハビリテーションに週3回も通える毎日なら、充分です!

たとえ脳が萎縮しても、元気に最期を過ごせるという実例です!ですから、もしも認知症のBPSDに苦しんでいらっしゃるなら、漢方にも詳しい専門医師の診察を受けて、健康保険で投薬していただける漢方薬を試してみませんか。

謝辞:協和中央病院 東洋医学センターの玉野 雅裕先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬が高齢者の健康長寿によりいっそう役立ち、認知症のご家族を介護なさっている方々の負担が少しでも軽くなるよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介!

漢方薬治療:認知症悪化による冷え・消化機能低下・意欲低下を改善させ、リハビリに積極参加するほど回復した実例を紹介! (Jaesung AnによるPixabayからの画像)

注)

*1: 「認知症の診断に使われる長谷川式認知症スケールとは」より『長谷川式認知症スケール(HDS-R)は、30点満点で構成されていて、20点以下だと認知症の疑いが高いと判定されます。認知症でない人の平均は24点前後、19点前後であれば軽度の認知症、15点前後であれば中等度、10点前後であれば高度とされています。』SOMPO笑顔倶楽部 https://www.sompo-egaoclub.com/articles/topic/852

*2: 「脳について」より『側頭葉の内側には記憶や本能・情動に関わる部分があります。記憶に関わる部分として海馬(かいば)と呼ばれる部分があり、形がタツノオトシゴに似ているのでこの名前がついています。海馬が障害されると記憶の保持が難しくなります。病気や怪我で海馬が障害されると記憶が苦手となり、何でもすぐに忘れてしまいます』医療法人稲村脳神経外科クリニック https://www.inamura-clinic.com/knowledge/knowledge_anatomy.html

*3: 「漢方de美しく」より『水はリンパ液、消化液、唾液、汗など、血液以外の体液を指します。水のトラブルには「水毒」があります。「水毒」とは、体の中に余分な水がたまった状態です。水分のとり過ぎ過剰な水分は、その人のいちばん弱いところにたまるので、関節痛や鼻炎症状を引き起こすこともあります。』漢・方・優・美 クラシエ薬品が運営する医療用医薬品ウエブサイトです。https://www.kampoyubi.jp/learn/beauty/01.html

*4: 「漢方の診断法 ― 病期による分類(六経分類)」より『少陰病とは、気虚、血虚の状態がさらに進行し、臓腑の機能も衰えた状態で、全体倦怠感や四肢の冷え、下痢、脈の微弱などがあらわれます。』漢・方・優・美 クラシエ薬品が運営する医療用医薬品ウエブサイトです。https://www.kampoyubi.jp/learn/basic/03_2_2.html

*5: 「JPS製薬株式会社」より『真武湯は体を温めて衰退した新陳代謝機能を高め、過剰な水分を排泄する作用があります。体が弱く、冷えやすい方の下痢、めまいなどを改善します。【効能・効果】体力虚弱で、冷えがあって、疲労倦怠感があり、ときに下痢、腹痛、めまいがあるものの次の諸症:下痢、急・慢性胃腸炎、胃腸虚弱、めまい、動悸、感冒、むくみ、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ』https://www.jps-pharm.com/product/kampo/item/shimbuto.html

*6: 「遂行機能障害:計画を立てたり,計画通りに行動したりすることができない」より『遂行機能は各機能領域を超えた,「超」機能領域的な機能です.すなわち,前提として,言語,行為,視覚認知,視空間認知,エピソード記憶,意味記憶,注意,意欲などといった各領域の機能が正常であることが基本です.遂行機能とは,これらのさまざまな機能を使いながら,目的のために一連の複数の過程を効率的にこなしていくことを指します.われわれは,日常生活においては手段的日常生活活動(IADL)の場面で遂行機能を多用しています.遂行機能は,買い物,料理,銀行・郵便局・役場などの手続き,対人関係の構築,就労の際などありとあらゆる場面で必要となる機能です.』日本神経心理学会 http://www.neuropsychology.gr.jp/invit/s_suikokino.html

*7: 「医療用医薬品:チアプリド」より『【効能効果】脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為、精神興奮、徘徊、せん妄の改善、特発性ジスキネジア及びパーキンソニズムに伴うジスキネジア』https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00061640

*8: 「医療用医薬品:フルジアゼパム(エリスパン)」より『【効能効果】心身症(消化器疾患、高血圧症、心臓神経症、自律神経失調症)における身体症候並びに不安・緊張・抑うつ及び焦躁、易疲労性、睡眠障害』https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00067499

*9: 「「腎」の病証と治療」より『「腎」は、成長、発育、生殖に関する働きを生涯にわたって支える重要な臓器で生命力の元になります。すなわち生命力を蓄える臓器と考えられます。』医療法人社団和漢全人会花月クリニック https://kagetsu-clinic.or.jp/kanpou/k_16.html

*10: 「五臓「脾」」より『東洋医学における内臓の一つ「脾」「ひ」と読みます。「脾」とは消化器全般を指すものです。東洋医学にも、「胃」・「小腸」・「大腸」などの考え方は存在しますが、「食べたものが尿や便になるまでの通り道」という意味合いが大きく、その通り道における栄養分(東洋医学では水穀の精微といいます)の「消化吸収」は主に「脾」が行っていると考えております。』妙蓮寺ゆう鍼灸院 https://www.harikyu-yu.com/blog/16149/

☆症例報告「認知症に伴う諸症状の改善に漢方薬が奏効した1症例」【脳神経外科と漢方】2019年5巻29-33頁、玉野雅裕、加藤士郎、岡村麻子、星野朝文、高橋晶 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/5/1/5_06/_pdf/-char/ja

☆この症例報告の先生方の病院(2019年時点)

玉野雅裕先生:協和中央病院東洋医学センター〔〒309-1195茨城県筑西市門井1676-1〕及び筑波大学附属病院

加藤士郎先生:野木病院、協和中央病院東洋医学センター、筑波大学附属病院

岡村麻子先生:つくばセントラル病院、協和中央病院東洋医学センター、東邦大学薬学部

星野朝文先生:霞ヶ浦医療センター耳鼻咽喉科、筑波大学附属病院

高橋晶先生:筑波大学医学医療系災害・地域精神医学

☆「日本脳神経外科漢方医学会」https://nougekampo.org/

以上

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