介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?

介護をされる高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?

介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(MelanieによるPixabayからの画像)

11月25日「高齢さんがオレオレ詐欺に騙されるのは・・・」ブログに続く第3弾、「介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?」をお届けします。高齢者研究45年の専門家、大阪大学名誉教授の佐藤眞一(さとう・しんいち)先生のあなたのまわりの「高齢さん」の本からお届けです。

『あなたのまわりの「高齢さん」の本』によれば、『人は生涯発達する』そうです。老人・シニア・お年寄り等の従来の捉え方と違うので、佐藤先生は『高齢さん』と呼びます。ここではそのまま引用します。

1.介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(P159~167より一部を引用)

死に向かう人生の後期には、ほとんどの方が生涯の1割の時間を他人の世話になって生きます人生が80年であれば、8年前後、100年であれば10年前後の時間です。

この8~10年の間、歳を追うごとに高齢さんは食事や入浴や排泄などに他人の世話が必要となります。介護をする家族にも、そして忘れがちですが介護を受ける高齢さんにもストレスが溜まります。

介護をされる高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?

介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(HansによるPixabayからの画像)

a. 介護をする家族側の心理

高齢さんの家族は、食事や入浴や排泄などの介護が毎日続き、介護にかかる時間がだんだん増えていき、身体的疲労が毎日蓄積され続けます。

しかし、さらに大変なのが精神的疲労です。特に認知症の高齢さんは、夜中に歩き回ったり、「家に帰りたい」と言い続け、荷物をまとめて出ていこうとします。

いつ何が起きるのか訳が分からず、いつまで介護が続くかも分からない状況が、介護を担う家族に重いストレスとなってのしかかります。四六時中目が離せない状況などから介護を担う家族が仕事や趣味を止めてしまうと、24時間ずっと介護のことしか考えられず、気が抜けない緊張状態を強いられます。

介護の重圧がのしかかればかかるほど、介護する家族の精神的余裕は押し潰されます。精神的余裕がなければ、介護される高齢さんの気持ちや立場を考えられなくなります。疲弊しきった家族は無意識のうちに高齢さんを邪険に扱うようになり、最悪の場合には、ネグレクトや虐待、無理心中に陥りかねません。

対策は、介護負担を軽減することです。福祉サービスや施設介護など介護する側の負担を減らすあらゆる方法を検討しましょう。介護する家族に楽しみや生きがいが残っていれば、精神的余裕を保つことができます。介護される高齢さんの気持ちや立場を考える余裕も生まれます。ぼろ雑巾のような精神状況を脱すれば、介護される高齢さんの笑顔や心地よさそうな様子に、疲れや苛立ちが癒される一瞬も訪れます。

介護の泥沼に首まで浸からない状況を維持できれば、介護をする家族も介護をされる高齢さんも愛情や感謝を抱き続けながら8~10年の最期の時を一緒に生きることができるでしょう。

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介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(Karsten PaulickによるPixabayからの画像)

b. 介護を受ける高齢さんの心理

若い頃よりもコミュニケーション能力が低下した高齢さんは、「気分が落ち着かない」とか「背中がかゆい」などの自分の気持ちや要望を分かりやすく伝えることができません。話が通じないストレスが溜まり、高齢さんが介護をする家族に八つ当たりすることが多々あります。

またコミュニケーション能力が低下していない高齢さんは、複雑な感情を抱えています。介護を受けなければ生活できない自分を、受け入れられるかどうか?仕方ないと介護を受ける状況を諦め受け入れたとしても、「シモの世話」を受ける羞恥心や世話をしてくれる家族への申し訳なさ。特に認知能力が低下していない場合は、介護を受ける高齢さんも苦しんでいます。

認知症の高齢さんの場合には、自分の思いや気持ちが上手く伝えられない苛立ちが高じて、攻撃的になる方もいます。視力に問題がなく周囲の状況がよく見えるのに、会話能力だけが低下している高齢さんの場合に、攻撃的になる傾向が高いそうです。

また妄想の症状が出たり、「家に帰りたい」と歩き回って迷子になってしまう高齢さんの多くは、慣れない環境で暮らす不安や、身体能力や認知能力の低下から生じる苛立ちを抱えています。高齢さん本人は原因も分からず、不安や苛立ちを伝えられず、説明できないから誰にも理解されず、高齢さんも介護する家族と同じように苦しんでいます。

八つ当たりも攻撃的な行動も、高齢さんが苦しみ、もがいている結果です。高齢さんは自分の苛立ちが、コミュニケーション能力が低下した結果だと因果関係を理解できません。コミュニケーションがとれず、自分を理解してもらえず、苦しんだ果てに「家族が自分を理解しない」と逆恨みしてしまい八つ当たりや攻撃的になってしまうのです。

それらの症状を緩和するには、落ち着いた環境でじっくりと高齢さんの話を聞いて、高齢さんの気持ちを落ち着かせることが大切です。また、認知症などで対応が難しいと感じた場合には専門家に任せましょう。

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介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(Marco RoosinkによるPixabayからの画像)

≪介護関連のアドバイス≫(P163~167より一部を引用)

何もすることがない空虚な時間にはいろいろな記憶が浮かび上がるので、高齢さんは妄想的になりやすいです。認知症の高齢さん向けグループホームで会話ロボットを使った実験を行いました。職員が夕食準備で忙しい時間帯に、会話ロボットで認知症の高齢さんとおしゃべりをしてもらったところ、帰宅願望が現れず、ふつうに夕食を摂れるようになったそうです。つまり、空虚な時間を減らすと帰宅願望も減るそうです。

高齢者虐待には、「身体的虐待(外部との接触遮断も含む)」「心理的虐待(脅しや無視、いやがらせなど)」「性的虐待」「ネグレクト(介護放棄)」「経済的虐待(本人の合意なしに財産や金銭を使用すること)」の5つがあります。『虐待する理由は、介護の協力者がいない、介護の知識が不十分、介護の負担が大きい、介護が苦痛、などが挙げられます。』当事者に自覚がない場合もあるので、専門職の介入も考えましょう。

*精神分析学者のW.R.D.フェアバーンによると、人間は全面的に依存する「未熟な依存」から、自立できるところは自立し、依存すべきところは依存する「成熟した依存」へと成長する存在だそうです。『きちんとした社会性を獲得できた大人は、自立できるところは自立したうえで、他者に上手く依存することができるようになります。』歳をとれば自分1人ではできないことが増えます。そうした状況に置かれた時、どのように人に頼るかが重要になってきます。

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介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(Albrecht FietzによるPixabayからの画像)

2.閉じこもりがちな高齢さんが認知症になりやすい理由とは?(P125~133より一部を引用)

独り暮らしの高齢さんや閉じこもりがちな高齢さんが増えています。認知症の直接的原因ではありませんが、認知症を発症した人のデータから『閉じこもりがちだった人の発症率が高い』と判明しています。考えられるリスクは2つです。

a. 偏食・喫煙・運動不足が生む疾病リスク

独り暮らしや閉じこもりの高齢さんの生活習慣が乱れがちなことは否めません。インスタント食品やコンビニ弁当で食事を済ませる高齢さんは、塩分・脂質・糖質の摂りすぎを招きやすくなっています

世代的にタバコを吸う高齢さんもまだまだ多く、話し相手も居なければタバコも増えるでしょう。外出が面倒になれば運動不足も加速し、動脈硬化のリスクが高まるばかりです。

認知症の症状が現れても、独り暮らしや閉じこもりがちな高齢さんでは、他人に気づいてもらえるチャンスも少なく、知らない間に症状が進行してしまいます。

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介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(Angie OliverによるPixabayからの画像)

b. 孤独からアルコール依存に陥るリスク

独り暮らしや閉じこもりには、アルコール依存症のリスクがあります。1人暮らしの寂しさや孤食の侘しさを紛らわせるために酒量が増える人はどの世代にもいます。けれど仕事に就いていない高齢さんならば、1日中飲めます。昼夜を問わず飲むようになれば、アルコール依存症まっしぐらです。

アルコール依存症になれば、食事量が減り、栄養が偏ります。ビタミンB1が欠乏すると、アルコールとの相互作用でウェルニッケ・コルサコフ症候群と呼ばれる認知症に似た症状を呈することがあります。』この症状が長期間放置されれば、回復は困難です。

他者とのかかわりの少ない高齢さんには、これだけのリスクがあります。

≪閉じこもりと認知症関連のアドバイス≫(P129~133より一部を引用)

*高齢さんは外出する機会も少なく、年齢が上がるほど気が合う仲間も減ってきます。毎日1人では料理も面倒となり、インスタント食品やコンビニ弁当の毎日から動脈硬化などの生活習慣病を発症しやすくなります。

孤食はアルコール依存のリスクが高いです。独り暮らしや閉じこもりがちな高齢さんは、人に会ったり屋外で活動することがないので、飲酒の誘惑から逃れにくくなります。また、昼間から飲んでしまえば人に会わなくなり、外出もできなくなる悪循環に陥ります。高齢さんは若者と違って体内の水分割合が低く、アルコール血中濃度が高まりやすい傾向も要注意です。

介護をされる高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?

介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?(Jill WellingtonによるPixabayからの画像)

仮性認知症は、高齢さんのうつ病に見られる典型的な症状の1つです。注意力、集中力、判断力、記憶力などが低下するため認知症と判断されることが多いですが、実際はうつ病が原因です。高齢さんのうつ病はライフイベントの影響で発症することが多く、治療は抗不安薬などの服用が中心となります。

脳血管性認知症は、加齢や脳卒中や動脈硬化など脳の血管障害によって引き起こされる認知症です。主な症状は、記憶障害、歩行障害、排尿障害、抑うつ、発語困難、理解力の低下、感情のコントロール力の低下などがあらわれます。一度生じた脳細胞の障害が完全に元に戻ることはないので、介護をする家族はその点を十分に理解して脳血管性認知症の高齢さんに接することが重要です。

前頭側頭型認知症は、発症率は低いですが、脳の前頭葉や側頭葉などの特定の神経細胞が萎縮することで発症することがあります。主な症状は、発語や言葉の理解困難、もの忘れ、問題行動で、服装の乱れや暴力的な言動、万引きを繰り返すなどの形であらわれます。

この前頭側頭型認知症は、難病指定を受けており、根本治療も見つかっていません。疑われる症状があれば、専門の医療機関で診察を受けてください。

以上

☆『あなたのまわりの「高齢さん」の本 ― 高齢者の心理がわかる112のキーワード』佐藤眞一(さとう・しんいち)著、2022年10月発行、主婦と生活社、定価1400円+税、ISBN978-4-391-15728-4 https://www.shufu.co.jp/bookmook/detail/978-4-391-15728-4/

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介護を受ける高齢さんの心理と介護をする家族の心理とは?( JulitaによるPixabayからの画像)

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