脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(nahamachiによるPixabayからの画像)

脳の血管に障害が起こる「脳卒中」には、脳の血管が詰まる脳梗塞(のうこうそく)と、脳の血管が破れる脳出血くも膜下出血があります。この脳卒中後の後遺症による頭痛は慢性化しやすく、頭痛が生じる仕組みも不明で、治療法も確立していません。京都府立医科大学の後藤雄大先生がたのチームが、漢方薬治療でその頭痛を治した実例を紹介します。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(yukuaikuaiによるPixabayからの画像)

1.脳卒中後に起きる頭痛は慢性化しやすく、治療も難しく、QOLを悪化させます

「脳卒中」は脳の血管に障害が起こる病気の総称です。「脳卒中」の代表的なものに、脳の血管が詰まる「脳梗塞(のうこうそく)と、脳の血管が破れる「脳出血脳を覆う3層の膜の隙間に出血する「くも膜下出血があります。

2017年度の脳卒中の患者さんは約112万人。脳卒中は死因の第4位で、癌(悪性新生物)と比べると死亡者数は少なく10万人強です。

けれど病気の後の経過が悪く、介護が必要になる原因の第1位が脳卒中です。そして脳卒中後に頭痛に悩まされる方が、毎年約3万人もいらっしゃいます。(*1)

脳卒中による持続性頭痛は慢性化しやすく、発症の仕組みも不明で、治療法も確立されていません。

頭痛の診療ガイドライン2021(*2)では、『(前略)(漢方薬を)3ヵ月継続服用した症例での有効率は73.2%と高値を示した。片頭痛に対する漢方治療の有効性を示す1つの報告である。』と片頭痛に対する漢方治療の症例研究を挙げています。

脳卒中の後遺症で、慢性の頭痛に苦しむあなたのご参考に、脳出血とくも膜下出血の後遺症による持続性頭痛を漢方薬で改善できた実例を以下に紹介します。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(eunsuk choiによるPixabayからの画像)

2.実例1:86歳女性Aさんの右小脳出血後の後遺症である持続性頭痛が、「釣藤散」で治った症例

主な症状頭痛

既往歴右小脳出血,高血圧,脂質異常症

現病歴:①10 年前に右側の小脳部分で出血(*3)し、定期的な画像による追跡と高血圧の管理のためにAさんは通院していました。

②脳出血を発症して以来、軽い痛みが頭にあり、頭痛発作も月に15日未満程度ありました。

③頭痛には、鎮痛薬「ロキソプロフェン」を症状が出た時に服用するだけで、定期的な服用はしていません。

④「ロキソプロフェン」は頭痛を早く鎮める効果はありましたが、頭痛発作が起きる頻度を減らす効果はありませんでした。

現在の状態:*意識ははっきりしており、さらにAさんご自身と自分の周りを認識できている状態で、明らかな神経機能の異常な徴候は無い。

*頭痛は頭部全体にあり、締め付ける感じで、持続時間は数時間。

*頻度は、月に15日未満。

*首のうしろの部分から肩にかけて、体の筋肉が持続して収縮し、筋肉が張っている状態だったが、強く押しても痛みを感じることはなかった。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(DUKE NGによるPixabayからの画像)

MRI検査所見:MRI画像では頭蓋内に明らかな新しい病変は認められない。10年前の右小脳出血の瘢痕を認めるのみ。

MRA検査(*4)所見:電磁波を当て、脳の血管だけを立体画像として描き出した画像でも、明らかな動脈瘤や異常血管は認めなかった。

臨床経過:①外傷がない、過去の頭蓋内出血による持続性頭痛(PHIH) と診断され、「釣藤散(ちょうとうさん)」(*5)の服用を開始。

②「釣藤散」の服用開始後、頭痛は徐々に軽減。

12 週後には完全に頭痛が治った。

その後も内服を継続し、「釣藤散」の服用から1年後も頭痛の発作がない。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(Markus WinklerによるPixabayからの画像)

3.実例2:65歳女性Bさんのくも膜下出血後の後遺症、持続性頭痛が「釣藤散」で治った症例

主な症状頭痛

既往歴くも膜下出血

現病歴:①17 ヵ月前に前交通動脈にあった瘤が破裂(*6)して、くも膜下出血(*7)を発症。この「前交通動脈」とは、左右の大脳の間を並行して流れている大脳動脈を結ぶ血管で、この血管の周囲は脳動脈瘤がとてもできやすい場所。この血管のふくらみから出血しました。

カテーテルを通してプラチナ製の柔らかく細いコイルを 脳動脈瘤の中に流し込んで脳動脈瘤の中をコイルで満たし、血液の流れ込む隙間をなくすことで、破裂を防ぐ「コイル塞栓術」(*8)をBさんは受けました

手術による合併症が発生。脳梗塞の60~70%を占める、脳の中で一番太い動脈、中大脳動脈の左側の血管がふさがり、脳細胞が酸素欠乏と栄養不足で死んでしまう、脳梗塞(*9)となっていました。

人の言葉を話したり理解する言語半球は左にあるため、左の中大脳動脈が詰まると言葉を話せなくなったり、聴いても理解できなくなる「失語症」を発症します。Bさんは通院し、「失語症」のリハビリテーションを行っていました。

④くも膜下出血を発症して以来Bさんには、軽い後頭部の痛みがありました。

⑤頭痛に対しては鎮痛薬「ロキソプロフェン」を痛みに応じて服用するだけで、定期的に内服はしていません。「ロキソプロフェン」は頭痛を早く鎮めるには有効でしたが、頭痛発作が起きる頻度を減らすことはできませんでした。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(FuRealによるPixabayからの画像)

現在の状態:*意識が覚醒しており、さらにBさんご自身と自分の周りを認識できている状態で、失語症以外の神経機能の異常な徴候は無い。

頭痛は後頭部にあり、心臓の拍動にあわせてズキンズキンとする痛みではなく圧迫感。頭痛は数日続いた。

頭痛の頻度は、月に15日未満

*首のうしろの部分から肩にかけて、体の筋肉が持続して収縮し、筋肉が張っている状態だったが、強く押しても痛みを感じることはなかった。

この頭痛のため、失語症のリハビリテーションが難航していた

画像検査所見:他の病院での画像追跡では、新たな頭蓋内の病変は発見されなかった。

臨床経過:①外傷がない、過去の頭蓋内出血による持続性頭痛(PHIH) と診断され、「釣藤散(ちょうとうさん)」(*5)の服用を開始。

「釣藤散」の服用開始後4 週間で、頭痛が軽減。

8 週後には頭痛が治った。頭痛発作が起きなくなったので、「釣藤散」の内服を終了。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(Sophie JanottaによるPixabayからの画像)

4.実例3:67歳男性Cさんの脳出血による後遺症の激しい頭痛が「釣藤散」で治った症例

主な症状頭痛

既往歴脳出血

現病歴:①17 ヵ月前に、大脳の側面にある側頭葉の左側部分、言語中枢がある左側頭葉(*10)から出血

②出血を止める薬や、厳格な血圧管理によって、出血を完全に止めた後、脳のむくみを引かせる点滴を受け、脳組織への圧迫を減らす治療を受けました。

③その後Cさんは、定期的な脳の画像追跡のため通院しています。

④脳出血を発症して以来Cさんは、中等度の頭痛があり、解熱鎮痛剤「アセトアミノフェン」(*11)を定期的に内服しています。

⑤以前に「ロキソプロフェン」(*12)の内服で胃が痛くなり、「ロキソプロフェン」から「アセトアミノフェン」に変更した経緯があります。

しかし「ロキソプロフェン」も「アセトアミノフェン」も頭痛を早く鎮める効果や頭痛発作の回数を減らす効果は、ありませんでした。

現在の状態:*意識が覚醒しており、さらにCさんご自身と自分の周りを認識できている状態で、明らかな神経機能の異常な徴候は無い。

頭痛は両側の前頭側頭部にあり、中ぐらいの痛みで、締め付ける感じ。頭痛は数日続いた。

頻度は、月に15日以上頭痛発作が起こった。

*首のうしろの部分から肩にかけて、体の筋肉が持続して収縮し、筋肉が張っている状態だった。そして、両側の側頭筋、耳の上部のエリアからこめかみ、下あごの骨まで付いてくる左右の筋肉に痛みを感じた。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(Markus WinklerによるPixabayからの画像)

画像検査所見:画像追跡では、新たな頭蓋内の病変は発見されなかった。

臨床経過:①3 ヵ月以上、連日「アセトアミノフェン」を内服していたため、薬の使用過多による頭痛の可能性が疑われた。けれど、「アセトアミノフェン」の内服を中止しても頭痛は改善しなかった。

②外傷がない、過去の頭蓋内出血による持続性頭痛(PHIH) と診断され、「釣藤散(ちょうとうさん)」(*5)の服用を開始。

「釣藤散」の服用開始後12 週間で、頭痛発作の頻度が減少。鎮痛薬の定期的な内服が不要になった。

「釣藤散」の服用開始から12 週間後で、内服を終了。その後は頭痛発作もなく1 年間が経過している。

国際頭痛学会による国際頭痛分類(*13)によると、脳卒中による急性頭痛はおよそ3ヵ月以内に自然治癒するそうです。けれど3ヵ月を超えて続く場合は、持続性頭痛と診断されます。脳卒中患者さんの10~23%の方が、この持続性頭痛に苦しんでいらっしゃいます。

脳卒中後の疼痛は、左側の手足のこわばりと左半身に耐え難いような気持ち悪い痛みが残り、「人類最悪の痛み」と言われるそうですが、持続性頭痛も患者さんのQOLを損ないます。

もしもあなたやあなたの大切な方が脳卒中後の持続性頭痛に苦しんでいらっしゃるなら、どうか漢方薬治療を試してください。1日も早い治癒を祈ります。

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!

脳出血とくも膜下出血の後遺症である、慢性的な頭痛が漢方薬で治った3人の実例を紹介します!(Vlad VasnetsovによるPixabayからの画像)

謝辞:後藤 雄大先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬が高齢者の健康長寿によりいっそう役立ち、持続性頭痛で苦しむ患者さんとご家族のみなさまがより良い時間を過ごせますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。

☆症例報告「脳卒中後の持続性頭痛に対して釣藤散が有効であった3例」後藤 雄大, 岡本 貴成, 山本 紘之, 山中 巧, 南都 昌孝, 岩本 芳浩, 児玉 万実, 橋本 直哉、脳神経外科と漢方 2019年5巻1号58-62頁 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/5/1/5_12/_article/-char/ja/

☆ 日本脳神経漢方医学会  日本脳神経漢方医学会は脳神経領域における漢方療法に関する研究を通じて、漢方医学の普及と研鑚を図ることを目的としています。「脳神経外科と漢方」は、日本脳神経漢方医学会 が発行。https://nougekampo.org/

補注

*1:「日本における脳卒中の死亡者数・死亡率は?」健康コラム スマート脳ドック https://smartdock.jp/contents/symptoms/sy031/page/2/

*2:「頭痛の診療ガイドライン2021」監修:日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf

*3:「小脳出血 小脳出血は、小脳という場所に起こる出血です。脳出血の約1割を占めます。出血の大きさにより症状の程度は異なります。一般的に後頭部痛、嘔気、嘔吐、めまい、歩行障害を引き起こします。発症直後に意識障害を起こすことは少ないですが、水頭症などにより意識障害を伴うこともあります。他の出血とは異なり、麻痺を認めることは少ないです。診断は頭部CTやMRIなどの画像診断で行います。」医療情報検索 日本大学病院 https://www.nihon-u.ac.jp/hospital/search/379

*4「MRA検査とは?」健康コラム スマート脳ドック https://smartdock.jp/contents/inspection/is009/

*5:「ツムラ漢方釣藤散エキス顆粒  効能・効果:体力中等度で、慢性に経過する頭痛、めまい、肩こりなどがあるものの次の諸症:慢性頭痛、神経症、高血圧の傾向のあるもの」https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/032/index.html

*6:「脳血管の解剖 – 動脈系:左右の前大脳動脈が内頚動脈から枝分かれして正中部に寄ってきて、近接するところで、左右の前大脳動脈を結ぶ前交通動脈という血管があるのですが、この血管周囲は脳動脈瘤がとてもできやすい場所の一つです。前大脳動脈は、主に前頭葉の内側面(中央部分)の血流に関与します。」はしぐち脳神経クリニック https://hashiguchi-cl.com/page/column/%E8%84%B3%E8%A1%80%E7%AE%A1%E3%81%AE%E8%A7%A3%E5%89%96%E3%80%80-%E3%80%80%E5%8B%95%E8%84%88%E7%B3%BB/

*7:「くも膜下出血(破裂脳動脈瘤):くも膜下出血は脳動脈瘤と言われる血管のふくらみがある日突然破裂することによって起こります。原因としてはこの脳動脈瘤破裂が殆ど(80から90パーセント)です。頻度は1年で人口10万人あたり約20人(日本)、好発年令は50から60才台、女性が2倍多く、危険因子として高血圧・喫煙・最近の多量の飲酒、家族性などが言われています。」地方独立行政法人秋田県立病院機構 秋田県立循環器・脳脊髄センター https://www.akita-noken.jp/general/sick/brain-nerve/page-2062/

*8:「血管内治療(コイル塞栓術)とは:血管内治療(コイル塞栓術)は、すでに海外では2000年代から、国内でも2010年代から増えています。手首の血管や大腿動脈という足の付け根の太い動脈から脳動脈瘤の中まで、1本のマイクロカテーテルという太さ1㎜以下の細い管を通します。そのカテーテルを通してプラチナ製の柔らかく細いコイルを 脳動脈瘤の中に流し込んでいきます。脳動脈瘤の中をコイルで満たしてしまい 、血液の流れ込む隙間をなくすことで、破裂を防ぐ方法です。クリッピング術と違い、頭の皮膚を切開する必要がありません。そのため、身体への負担が少なく、高齢の患者さんでも受けやすい治療法です。」くも膜下出血を未然に防ぐ、未破裂脳動脈瘤治療 社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院  https://sk-kumamoto.jp/theme/miharetsu/treatment/coiling/

*9:「脳梗塞 中大脳動脈の梗塞」医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院 https://www.sankikai.or.jp/tsurumaki/disease/brain/nokosoku.html

*10:「側頭葉 :大脳の横の部分です。目の後ろ、こめかみから耳の後ろぐらいまでの範囲です。優位半球(通常左)の側頭葉上部には言葉を理解する部分があります。劣位半球の側頭葉には言語に関する部分はないようです。」脳の解剖と働き 医療法人 稲村脳神経外科クリニック https://www.inamura-clinic.com/knowledge/knowledge_anatomy.html#temporal

*11:「アセトアミノフェンとは?」大正製薬 製品情報サイト https://brand.taisho.co.jp/contents/naron/551/

*12:「痛みや熱を抑えるロキソプロフェンってどんな成分?」大正製薬 製品情報サイト https://brand.taisho.co.jp/contents/naron/355/

*13:「Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS) The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition」   National Library of Medicine  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29368949/

☆この症例報告の先生方の所属(2019年時点)

後藤雄大先生:京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経機能再生外科学

岡本貴成先生:京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経機能再生外科学

山本紘之先生:京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経機能再生外科学

山中 巧先生:京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経機能再生外科学

南都昌孝先生:京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経機能再生外科学

岩本芳浩先生:京都山城総合医療センター脳神経外科

児玉万実先生:御所南リハビリテーションクリニック

橋本直哉先生:京都府立医科大学大学院医学研究科脳神経機能再生外科学

以上

Follow me!