認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進行し、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(WeblingoyaによるPixabayからの画像)

60歳から糖尿病と高血圧を患っていたDさんが、80歳頃から認知症を発症し、急速に悪化して不眠・不安感・食欲不振・徘徊などに苦しめられていました。そのDさんが、漢方薬治療で劇的に良くなった例をご紹介します。

1.82歳女性、Dさんが漢方薬治療に至った状況

主な症状:眠れない、不安感がつよい、焦燥感が強い、徘徊してしまう、食べられない。

既往歴:①60 歳から2型糖尿病と高血圧で、近所のかかりつけ医で治療を受けていた。

②Dさん77歳から、協和中央病院内科に通院。

家族歴:特記なし。

生活歴:喫煙なし、飲酒なし。

現病歴:①Dさんが80歳頃から「短期記憶障害」(*1)と「見当識障害」(*2)と「遂行機能障害」(*3)がじょじょに進行

81歳頃からDさんは眠れず、漠然とした不安感やイライラが酷かったので、近所の精神科を受診。

③精神科で抗不安薬と抗認知症薬を処方されたが、効果がなかった

Dさんが82歳の6月頃から徘徊が始まり、食べられず、衰弱が始まる。

同じ年の9月、あまりに衰弱したため協和中央病院の漢方外来で入院。

入院時に服用していた薬:アルツハイマー型認知症治療剤のガランタミン、高血圧症治療薬のアムロジピン、血糖降下薬のシタグリプチン。

西洋医学的所見:身長147 cm、体重40 kg、血圧138 ⁄ 60 mmHg、脈拍70 回/分で整脈。

胸腹部理学的所見と神経学的所見:異常なし。

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(Ulicol ChenによるPixabayからの画像)

尿検査:蛋白(+)、潜血(–)、糖(2+)。

尿検査では、尿蛋白、尿潜血、尿糖がわかります。それぞれ蛋白質、赤血球、糖分を検出しますが、これらは体に必要なので、健康であれば尿に出ません。

尿蛋白は、腎臓から漏れます。糖尿病性腎症などさまざまな腎臓病が疑われます。

尿糖は、血糖値がある一定以上になると、腎臓から糖分が溢れてしまうために検出されます。(*4)

血液生化学:専門的なので省略。

胸部レントゲン写真と心電図:異常なし。

頭部MRI両側の側頭葉の内側面で大きく脳が萎縮

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(Penelope883によるPixabayからの画像)

2.漢方医学的な診断と症状が示す意味

漢方医学的所見

顔色が青白く、手足の冷えがあるので、病気の性状は「寒」と表現されます。

皮膚はひどく乾燥していて、「血」が不足した状態で「血虚(けっきょ)」と判断されます。

脈は沈んだ脈で弱く、病気がからだの深くにあると考えられます。(*5)

舌の苔が薄く白い苔は、疾病の始まりを意味します。(*6)

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(Zhu BingによるPixabayからの画像)

*腹診した際の腹壁の緊張度合いは、一番弱くお腹を縦に走る筋肉の緊張具合は中等度で、精神的緊張を示すと考えられます。(*7)

右側の肋骨に沿った腹壁の緊張度が軽くあり、これは肝炎などの炎症性疾患に由来する変化と、うつ病などの精神のある種の病的な変調に由来する変化とが含まれるとされています。(*8)

*Dさんのみぞおちに指をそろえて軽く上方に向けて圧迫した時に感じられる抵抗感は軽度。この所見は現代医学的な上部消化管病変や胸腔内病変と深く関連しています。おそらく心不全などとも関連すると推測されます。(*9)

お臍の左上に指をあてて、腹部大動脈の拍動に触れると、軽くあたる。これは、 精神の病的な緊張を示すと考えられます。(*10)

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(二 毛によるPixabayからの画像)

3.漢方医学的診断に沿って行われた治療とDさんの経過

臨床経過:①認知症の中核症状に加えて、高度の陽性BPSD( 気逆)、および陰性 BPSD( 気虚、気うつ)を伴い、高度の皮膚乾燥,肌荒れ(血虚)が認められた

②そこで、服用していたアルツハイマー型認知症治療剤ガランタミンは継続し、「加味帰脾湯(かみきひとう)」(*11)を追加して服用。

服薬1 週間目頃よりDさんの表情が穏やかになり、ぐっすりと眠れるようになった。

服薬1ヵ月後には、徘徊も減少した。

⑤さらに、話が通じるようになり、衣服の着替えがスムーズにできるようになるなど「見当識障害」(*2)や「遂行機能障害」(*3)などの中核症状にも多少改善がみられた。

服薬2 ヵ月後、Dさんの食欲は回復し、体重は増加し、貧血も改善した。

⑦退院後も、週3 回の通所リハビリテーションと短期入所を時々利用できるようになり、同居家族の負担が著しく軽減した。

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(shell_ghostcageによるPixabayからの画像)

4.Dさんの重症な中核症状や不眠、不安、徘徊、意欲低下などを「加味帰脾湯」が改善させた要因

①「加味帰脾湯」に含まれる人参等のエネルギー不足を補う補気作用によりDさんの意欲を回復させたこと。

②大棗、生姜などの脾の機能を高め、胃腸などの消化器の働きを高める補脾胃作用により、Dさんの食欲を安定化させ、栄養状態を回復させたこと。

③竜眼肉や当帰の血をおぎなう補血作用により、Dさんの貧血や血に溶けたタンパク質・ミネラル・ビタミン・ホルモンなどを回復させたこと。

④酸棗仁や竜眼などの精神安定化作用と、柴胡や山梔子の炎症を含む身体的な熱感や精神的な焦躁感などの亢進症状などを緩和する清熱作用によりDさんの陽性のBPSD を安定化させた。

これらの4作用により不安、不眠、焦燥が解消し、栄養状態も回復して、身体活動性を取り戻すことができたと考えられます。

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(HeungSoonによるPixabayからの画像)

また、玉野雅裕先生は考察で以下のように書いていらっしゃいます。

『服用中のアルツハイマー型認知症治療剤ガランタミンの分解抑制作用と相俟って、中核症状に対する抗認知症効果が増強した可能性が考えられる。結果、家族とのコミュニケ―ションが可能となり、精神安定化に寄与した可能性もある。』

暴言、暴力、多動、過食から精神不安、不眠、虚弱まで認知症の振れ幅の大きなBPSDに、家族は本当に苦しみます。もしもあなたも苦しんでいらっしゃるなら、介護ストレスが爆発しないうちに、漢方薬治療を試してはいかがでしょうか?

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!

認知症が進み、不安感が募り、眠れず食べられず徘徊していた82歳女性が「加味帰脾湯」でとても良くなった実例を紹介!(hong tangによるPixabayからの画像)

謝辞:玉野雅裕先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬が高齢者の健康長寿によりいっそう役立ち、認知症患者さんとご家族のみなさまがより良い時間を過ごせますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。

☆症例報告「不眠、不安が顕著な認知症に加味帰脾湯が有効であった1例」玉野雅裕、加藤士郎、岡村麻子、星野朝文、高橋晶、「脳神経外科と漢方」 2018年4巻1号28-33頁 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/4/1/4_06/_article/-char/ja/

☆ 日本脳神経漢方医学会  日本脳神経漢方医学会は脳神経領域における漢方療法に関する研究を通じて、漢方医学の普及と研鑚を図ることを目的としています。「脳神経外科と漢方」は、日本脳神経漢方医学会 が発行。https://nougekampo.org/

漢方のお医者さん探し ー漢方・漢方薬に詳しい医療機関(病院・医院・医師)を8,968件から検索できます。ーhttps://www.gokinjo.co.jp/kampo/

補注

*1: 「記憶障害とは:記憶障害とは、自分の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害のことを言い、認知症の中核症状のひとつです。」認知症ねっと https://info.ninchisho.net/symptom/s20

*2: 「見当識障害とは:認知症の中核症状の1つで、時間や季節がわからなくなる、今いる場所がわからなくなる、人がわからなくなるといった障害です。」認知症ねっと https://info.ninchisho.net/symptom/s30

*3: 「遂行機能障害:計画を立てて、実際の行動を行う能力のことです。具体的に示すと物事の順序が立てられず、優先順位が分からない、予期せぬトラブルに対応が出来ない、手順を言われても理解が困難などで前頭葉の機能と言われています。遂行機能障害は、認知症のタイプによって現れ方が異なります。」桑名眼科脳神経クリニック https://kuwana-sc.com/brain/1372/

*4「尿検査」東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 腎臓内科 https://www.twmu.ac.jp/NEP/nyoukensa.html

*5:「脈診:脈の強弱やその数などを判断するのは現代医学も同様ですが、漢方では脈の性状をさらに細かく判断して診断に利用します。」日本臨床漢方医会 https://kampo-ikai.jp/towa/examine2/

*6: 「舌苔の性状と薬方」舌診入門⑥ 三谷 和男 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mitani-fc.com/library/583e2b6ae3c791bc668dcfdc/58c0ef98d31c4a3139a1c490.pdf

*7: 「腹診所見:1. 腹力」あきば伝統医学クリニック http://www.akibah.or.jp/publics/index/34/#block84-83

*8: 「腹診所見:3. 胸脇苦満」あきば伝統医学クリニック http://www.akibah.or.jp/publics/index/34/#block84-83

*9: 「腹診所見:2. 心下痞鞕」あきば伝統医学クリニック http://www.akibah.or.jp/publics/index/34/#block84-80

*10: 「腹診所見:6. 臍上悸・臍下悸」あきば伝統医学クリニック http://www.akibah.or.jp/publics/index/34/#block84-80

*11:「加味帰脾湯(カミキヒトウ):「帰脾湯」に「柴胡(さいこ)」と「山梔子(さんしし)」を加えた処方で、虚弱体質で心身が疲れ、血色が悪い人の、貧血、不眠症、精神不安などの改善に用いられる。寝汗、微熱、熱感などがある場合に向くとされる。」製品情報 ツムラ https://www.tsumura.co.jp/kampo/list/detail/137.html

☆この症例報告の先生方の所属(2018年時点)

玉野雅裕先生:協和中央病院東洋医学センター〔〒309-1195 茨城県筑西市門井1676 番地1 〕、筑波大学附属病院

加藤士郎先生:野木病院、協和中央病院東洋医学センター、筑波大学附属病院

岡村麻子先生:つくばセントラル病院、協和中央病院東洋医学センター、

星野朝文先生:霞ヶ浦医療センター耳鼻咽喉科、筑波大学附属病院

高橋晶先生:筑波大学医学医療系災害・地域精神医学

以上

Follow me!