感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!(12019によるPixabayからの画像)

51歳女性、Bさんは7年前から三叉神経痛で苦しんでいました。内服薬が効かなくなり、手術のために転院。このBさんを沖縄県立中部病院脳神経外科の矢野昭正先生が漢方薬で治療なさった治療経過(*1)をご紹介します。

1.感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛とは?

顔の皮膚と、口の中の粘膜、歯と歯茎の感覚を司る神経が「三叉神経(さんさしんけい)」です。この神経が、びりっと弾かれるような瞬間的な激痛をおこす病気が三叉神経痛です。痛みが激しくなると食事がとれなくなったりすることもあり、耐えがたい痛みで日常生活に支障をきたします。(*2)

治療方法は、第一に薬物療法。内服薬で効果がない場合や副作用で内服が続けられない場合に、神経ブロック療法・ガンマナイフ(*3)・微小血管減圧術(*4)などが検討されます。

三叉神経痛は、顔の感覚を脳に伝える三叉神経が、血管による圧迫を受けていることが原因です。ですから圧迫している血管をMRIの画像診断で特定し、何回も神経や神経の周辺に局所麻酔薬を注射して痛みが伝わる経路をブロックしたり、脳を対象とする特殊な放射線ガンマ線を照射したり、耳の後ろに穴を開け、圧迫血管を神経の根本から外したりします。

ところが矢野昭正先生のチームは、手術予定で入院なさった三叉神経痛の患者さんを、漢方薬で治し、経過良好に至っています。この治療の様子を先生方の症例報告(*1)からご紹介します。

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!(Ri ButovによるPixabayからの画像)

2.51歳女性、Bさんの西洋医学的所見と漢方医学的所見

主な症状:食事や歯磨き、話したりすると右の上くちびるから右頬全体に広がる痛み。

既往歴・家族歴:特記事項なし。

現病歴:

①7 年前から右側の三叉神経で、下まぶたから頬・上くちびる・上の歯茎までの範囲が激しく痛み、他の病院の麻酔科に通院。

②薬物治療を受けていたが痛みが強まり、薬による眠気・ふらつきの副作用が生じ、手術目的で当科へ転院。

西洋医学的所見身長161 cm、体重41.6 kg、BMI(肥満指数) 16.05(*5)、 血圧119 ⁄ 86 mmHg、 脈拍75/分(*6)。

漢方医学的所見:痩せ型で冷えの自覚あり。

初診時の症状:右の上くちびるに触れた時やご飯を噛んだ時に痛み、首筋の右側が攣った感じになると唾液が飲み込めない。三叉神経痛を緩和する「カルバマゼピン」(*7)の内服量が1日に600 mg。

画像所見:術前MRI  画像では右側の上小脳動脈が、三叉神経に接触して見える

臨床経過:

①初診から13週間後、「カルバマゼピン」(*7)の内服量が増量限度を超え1日900 mgに増えた時点で、神経血管減圧術を計画。

②初診から18週間後、手術入院当日には痛みが少し落ち着き、「カルバマゼピン」内服量は1日600〜750 mgに減っていた。

③一旦、手術を取りやめ,漢方治療の検討を始めた。

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!(Rolf van de WalによるPixabayからの画像)

3.神経血管減圧術を中止し、カルバマゼピンと漢方薬の併用治療を開始

臨床経過:

①初診から24 週間後、鼻翼の右側と上くちびるの痛みは一瞬ではあるが残っていて、「カルバマゼピン」内服量は1日400 mg。ここから漢方薬「桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)」(*8)を併用し始めた。

②漢方薬開始から5 週間後(初診から29週間後)痛みは減ったが,「カルバマゼピン」が1日800 mgに増加。Bさんが、カルバマゼピンを減らすとイライラする、頭痛がする、孫にあたって怒ってしまうと訴える。

③そこで、「桂枝加朮附湯」に「抑肝散(よくかんさん)」(*9)を加えた

④漢方薬2種を併用から8週間後(初診から37週間後)Bさんは孫にあたらなくなり、痛みはほぼ消えていた。痛みへの恐怖から「カルバマゼピン」を1日200 mgだけ内服することはある。が、漢方薬の2種併用で痛みは元の2割〜3割に減って落ち着いた

⑤漢方薬2種を併用から28週間後(初診から57週間後)痛みがぶりかえし、痛みで孫の様子が癇に障り、余計にイライラする。発狂しそうとBさんが訴えられた。

⑥そこで、抑肝散」を増量し、「桂枝加朮附湯」を一時的に「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」(*10)に変更

抑肝散」と「麻黄附子細辛湯」に変更した3週間後(初診から60週間後)Bさんが肺炎を発症。抗生剤治療のため、漢方薬治療は休止。

⑧初診から66週間後、肺炎が完治全身状態がよくなると三叉神経痛も消え、漢方薬治療も不要な状態が続いている。

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!(BigBearCabinsによるPixabayからの画像)

4.三叉神経が血管で圧迫されていても、漢方薬で痛みが治ります!

この症例報告を読んだとき、本当に驚きました。

なぜなら三叉神経痛は、三叉神経が血管で圧迫されるから生じる激痛です。Bさんの場合も、術前MRIの 画像で上小脳動脈が、三叉神経に接触している様子が確認されています。動脈と神経がぶつかった状態が変わらないのに、「桂枝加朮附湯」と「抑肝散」を服用してからたったの2カ月で、7年前から治療しても治らなかった痛みがほぼ治っているからです!

症例報告の考察によると、「桂枝加朮附湯」には7種類の生薬が含まれており、これらの生薬の総合的な働きによって、痛みを鎮める作用や痙攣を抑える作用などが効いていると考えられるそうです。

顔も洗えない、ご飯も飲み込めない激痛が漢方薬で治ったら、どんなに嬉しいでしょうか?

ただ矢野昭正先生は、考察で以下のように記していらっしゃいます。『三叉神経痛に対する漢方治療は一般脳神経外科医の間ではまだ普及していないと感じている。専門家による三叉神経痛の漢方治療は有効性について数多くの症例報告があるが,まとまった報告はわずかである。』

この症例報告は2019年に発表されたものですが、今も三叉神経痛に対する漢方治療を行う脳神経外科医は少なそうです。

それでも、諦めないでください。もしもあなたやご家族が三叉神経痛で苦しんでいらっしゃるなら、漢方治療を行える脳神経外科医を探してください。

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!

感電したような激痛に苦しむ三叉神経痛を、手術ではなく漢方薬で治し、経過良好となった実例を紹介!(12019によるPixabayからの画像)

謝辞:矢野昭正先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の方々等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬が高齢者の健康長寿によりいっそう役立ち、痛みに苦しんでいる患者さんとご家族のみなさまがより良い時間を過ごせますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。

補注

*1: 「症例報告:漢方薬を用いて経過が良好となった三叉神経痛の1例矢野 昭正, 石川 泰成, 仲宗根 進、「脳神経外科と漢方」5 巻 (2019) 1 号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/5/1/5_07/_article/-char/ja/

*2: 「三叉神経痛 KOMPAS慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト」https://kompas.hosp.keio.ac.jp/about.html

*3: 「ガンマナイフ 脳の病気と治療」東京大学脳神経外科 https://www.h.u-tokyo.ac.jp/neurosurg/rinsho/GK.htm

*4:「治療法(微小血管減圧術)  顔面けいれん・三叉神経痛の治療」東京大学脳神経外科 https://www.h.u-tokyo.ac.jp/neurosurg/rinsho/bisho.htm

*5: 「BMI 日本肥満学会の定めた基準では18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」で、肥満はその度合いによってさらに「肥満1」から「肥満4」に分類されます。」e-ヘルスネット 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-002.html

*6: 「脈拍の年齢別の正常値について|正常値だけ覚えておくのでは不十分?」情報かる・ける 医療・介護系のお仕事に特化した求人サイト https://karu-keru.com/info/knowhow/pulse/pulse-normal-value-age-by-age

*7: 「医療用医薬品 : カルバマゼピン カルバマゼピンとして通常、成人には最初1日量200〜400mgからはじめ、通常1日600mgまでを分割経口投与するが、症状により1日800mgまで増量することができる。」医薬品情報 https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00065686

*8: 「ツムラ漢方桂枝加朮附湯エキス顆粒 体力虚弱で、汗が出、手足が冷えてこわばり、ときに尿量が少ないものの次の諸症:関節痛、神経痛」ツムラ https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/015/index.html

*9:「ツムラ漢方抑肝散エキス顆粒 体力中等度をめやすとして、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症」ツムラ https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/054/index.html

*10: 「ツムラ漢方麻黄附子細辛湯エキス顆粒 体力虚弱で、手足に冷えがあり、ときに悪寒があるものの次の諸症:感冒、アレルギー性鼻炎、気管支炎、気管支ぜんそく、神経痛」ツムラ https://www.tsumurakampo.jp/product/127/

☆ 日本脳神経漢方医学会  日本脳神経漢方医学会は脳神経領域における漢方療法に関する研究を通じて、漢方医学の普及と研鑚を図ることを目的としています。「脳神経外科と漢方」は、日本脳神経漢方医学会 が発行。https://nougekampo.org/

☆この症例報告の先生方の所属(2019年時点)

◎矢野昭正先生:沖縄県立中部病院脳神経外科

◎石川泰成先生:沖縄県立中部病院脳神経外科

◎仲宗根進先生:沖縄県立中部病院脳神経外科

以上

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